やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
 『近森栄養ケアマニュアル』は,2013年5月に第1版が発行され,今年で発行より6年以上が経ち現在の臨床栄養の実際に合わない部分も出てきたため,このたび改訂版を出版することとなりました.
 この6年間で栄養サポートは大きく変わり,たとえ病棟に常駐しなくても管理栄養士が時間をつくり病棟へ出て直接患者を診て栄養学的に判断し,介入する病院が増えてきました.
 近森病院でもこの6年間で,医師,看護師,管理栄養士,リハビリテーションスタッフ,薬剤師が一同に会し,カンファレンスですり合わせをして時間をかけて情報共有する非効率な栄養サポートチーム(NST)加算を算定するよりも,管理栄養士を病棟に常駐させ,必要な患者すべてにリアルタイムに適切な栄養サポートを行い,電子カルテに載せるか,一言,二言の情報交換で効率的に情報共有するアウトカムの出る栄養サポートに大きく変わっています.管理栄養士が病棟に常駐し,患者を診て栄養評価を行い,栄養サポートのプランをつくり,介入することで“暗黙知”が蓄積され専門性が高まることで,効率的で質の高い栄養サポートを実践できるようになってきました.
 高齢社会を迎え入院患者の半数に栄養サポートが必要となる現在,数少ない栄養の専門医が主体となるよりも,全国の管理栄養士が栄養のプロの視点で患者を診て,管理栄養士主体で行うほうがはるかに患者にとってよい栄養サポートができると信じています.この『新 近森栄養ケアマニュアル』は,まさに“管理栄養士の管理栄養士による管理栄養士のための実践的な栄養サポートのバイブル”と言えますし,現在,近森会グループの病棟や外来で生き生きと働いているすべての管理栄養士の知恵が詰め込まれています.この本が,全国の管理栄養士が病棟に出て患者を診る手助けになればと願っています.
 2020年3月
 近森正幸
 社会医療法人近森会 理事長
 近森病院 院長・同NST Chairman


初版のまえがき
 21世紀に入り,高齢社会の到来と医療の高度化,さらにはDPCによる1日包括払いの導入により急性期病院は労働集約型サービス業となり,アウトカムを出すために膨大な業務を処理しなければならなくなりました.そのため,医師,看護師中心の少数精鋭の医療では対応できず,多職種による多数精鋭のチーム医療で対応し,医師ばかりでなく多くの医療専門職が,それぞれの視点で患者を診て,判断し,介入せざるをえない時代を迎えたといえます.
 管理栄養士の仕事の場所と業務でその変化をみると,昔は厨房で「食事」というモノを売っていたのが,時代が変わり,病棟で栄養サポートすることで「早く元気になって自宅へ帰ってもらう」という付加価値を売るようになりました.このように業態が大きく変わったことで,管理栄養士の業務は厨房の食事管理から病棟の患者の栄養管理へ,食事療法から栄養療法へ変わり,もっと端的にいえば時代の変化が「厨房のまかないさん」から「病棟の医療専門職」へ,管理栄養士に大きく自己変革することを求めています.
 近森病院の栄養サポートチーム(以下,NST)の活動は,宮澤 靖管理栄養士(現・近森病院臨床栄養部部長兼栄養サポートセンター長)が近森病院にきた2003年の7月から開始されました.当時の管理栄養士は4名で,一人が2〜3病棟をかけもちして夜の10時,11時まで頑張っていましたが,十分な成果を上げることはできませんでした.そのため,2006年の夏,1病棟1管理栄養士体制にすべく管理栄養士の増員を指示しました.ちょうどその年の4月には,近森病院はDPCによる1日包括払いを導入し,10月には電子カルテもはじまり,多職種による多数精鋭のチーム医療の基盤整備を進めることができた年でもありました.
 2010年春には,NSTラウンドの内容を教育カンファレンスに切り替え,管理栄養士の質の向上に努め,2011年4月には2病棟1フロア3名の常駐体制となり,管理栄養士は22名に増えています.管理栄養士が質,量ともに充実したことにより,近森病院の栄養サポートはアウトカムの出るチーム医療となり,「病棟に管理栄養士がいないと困る時代」に入ったといえます.
 全国の管理栄養士が厨房を出て,病棟で栄養サポートの必要な患者すべてに,必要なときに,適切な栄養サポートを実践することで,病院の医療は大きく変わります.末梢輸液が減り,経口摂取や経腸栄養が増加,栄養状態の改善により免疫能も高まり感染症が減ることから,抗生剤の使用も減少してきます.人工呼吸管理の患者さん,意識のない患者さんが多い重症病棟でも,末梢輸液はないかあっても1本となり,水分,エネルギー,たんぱく質が経腸栄養で投与され,重症病棟の景色が変わってきます.それにともなって,日本の医療も管理栄養士が病棟に出て,栄養学的に患者を診て,評価し,栄養サポートすることで大きく変わることを知っていただきたいと思います.
 このような時代にあって,患者さんはもちろん医師や看護師,そのほかの医療専門職とコミュニケーションをとりながら,管理栄養士主体の栄養サポートを実践することを求められますが,そのようなときに参考になる考え方や知識を集めたのがこの「近森栄養ケアマニュアル(CHIKAMORI Clinical Nutrition Manual)」です.本書はわが国ではじめての「管理栄養士の管理栄養士による管理栄養士のための臨床栄養マニュアル」になります.当院の管理栄養士全員が執筆しており,内容を一読すると,記述がしっかりしているのに驚いています.昨年入ったばかりの若い管理栄養士であっても,病棟に常駐し,患者さんと接することで,日々患者さんから学ばせていただいていることを実感します.
 これまでこうしたマニュアルは,栄養を専門にしている医師が執筆しておりました.今回はじめて,医療専門職として,管理栄養士ならではの視点で執筆されており,今後の臨床栄養管理のあり方を変えてくれるのでは,と期待しています.
 本書が広く臨床栄養管理の場で活用されることを願っています.
 2013年5月
 近森正幸
 社会医療法人近森会近森病院
 院長・同NST Chairman
 まえがき(近森正幸)
 初版のまえがき(近森正幸)
 本書の構成と利用方法
第1章 栄養ケアの基本
 1 栄養管理の流れ
  1 栄養スクリーニング(氏原久実)
    Q1 近森病院では,誰がいつ栄養スクリーニングを行っていますか?
    Q2 近森病院での栄養スクリーニング項目を教えてください.
    Q3 栄養スクリーニングでNST対象とされた患者への,その後の対応の流れを教えてください.
  2 栄養アセスメント(尾坂郁恵)
    Q4 近森病院で使用している栄養アセスメントツールを教えてください.
    Q5 自宅や施設での生活については,どんなことを聞き取っていますか?
    Q6 身長や体重が計測できない場合は,どうしていますか?
  3 栄養プランニング(川ア麻由)
    Q7 やせ・肥満患者の必要エネルギー量はどのように算出していますか?
    Q8 栄養プラン立案までの流れや,どのように多職種へ知らせているか教えてください.
    Q9 目標の再設定は,どのタイミングでどんな職種と話し合って決めていますか?
  4 モニタリング・評価(池内美保子)
    Q10 病態の評価のために,どのような指標をモニタリングしていますか?
    Q11 体重減少を認めた場合,どのように対応していますか?
    Q12 モニタリング項目は,それぞれどのように栄養プランに反映していますか?
 2 栄養投与経路
  1 経腸栄養(宮島 功)
    Q13 経腸栄養剤の投与量を増量する際のポイントはなんですか?
    Q14 経腸栄養の患者の下痢には,どのように対応していますか?
    Q15 経腸栄養ポンプは,どのような患者に使用していますか?
  2 静脈栄養(福間睦美)
    Q16 末梢静脈栄養のエネルギー投与量を増やすために,どのような工夫をしていますか?
    Q17 中心静脈栄養が推奨される場合,施行の注意点を教えてください.
    Q18 中心静脈栄養時のモニタリング項目を教えてください.
  3 栄養投与法の併用の考え方(宮島 功)
    Q19 経腸栄養を行っている患者の経口摂取への移行の進め方とポイントを教えてください.
    Q20 経腸栄養と静脈栄養を併用する際のポイントを教えてください.
    Q21 食事摂取量が少ない患者に静脈栄養を併用するかどうかの判断と併用方法のポイントを教えてください.
第2章 疾患・病態に応じた栄養ケア
 1 外科系疾患の栄養管理
  (1)消化器外科疾患
   1 胃切除(田部大樹)
    Q22 胃切除術後の食事開始のタイミングは,どのように決定していますか?
    Q23 胃切除術後食の内容を教えてください.
    Q24 胃切除術後の退院時栄養指導で,いつまで少量頻回食が必要と説明していますか?
   2 膵頭十二指腸切除(PD)(田部大樹)
    Q25 PD後の経腸栄養は,どのタイミングでどんな栄養剤を使用していますか?
    Q26 PD後の経口摂取は,いつ頃から開始しますか?
    Q27 PD後,退院時の栄養指導のポイントを教えてください.
   3 大腸切除(内山里美)
    Q28 大腸切除後の食事開始時期と食事内容を教えてください.
    Q29 大腸切除後,退院時の栄養指導のポイントを教えてください.
  (2)脳血管疾患
   1 脳卒中(脳出血,脳梗塞)(川野結子)
    Q30 脳卒中患者で,早期に栄養投与経路を決定するために必要な評価項目を教えてください.
    Q31 脳卒中患者の必要栄養量・水分量を教えてください.
    Q32 脳卒中患者に経腸栄養を行う際のポイントや注意点を教えてください.
    Q33 脳卒中患者で経口摂取を開始するための,近森病院でのチームアプローチについて教えてください.
   2 脳卒中(くも膜下出血)(川野結子)
    Q34 SAHの脳血管攣縮期における栄養サポートについて教えてください.
    Q35 SAH発症後の食事の工夫,栄養指導のポイントを教えてください.
  (3)心臓血管外科疾患
   1 開心術 2 開腹術(太田由莉恵)
    Q36 心臓血管外科疾患の手術前後における管理栄養士の役割を教えてください.
    Q37 心臓血管外科手術直後の食事内容を教えてください.
    Q38 心臓血管外科手術後,退院時の栄養指導のポイントを教えてください.
  (4)整形外科疾患
   1 大腿骨頸部骨折,大腿骨転子部骨折 2 脊髄損傷(溝渕智美)
    Q39 整形外科疾患特有の低栄養のリスクと,それにどのように対応しているかを教えてください.
    Q40 整形外科の手術部位の違いによる食事対応の工夫を教えてください.
  (5)褥瘡・皮膚潰瘍疾患
   1 褥瘡 2 皮膚潰瘍(宮川麻優美)
    Q41 褥瘡患者には,どのように特殊栄養素を使用していますか?
    Q42 皮膚潰瘍のある糖尿病患者に対して栄養補助食品を使用する場合,どのようなものがよいですか?
    Q43 褥瘡・皮膚潰瘍のある腎機能障害の患者に対する栄養サポートはどのようにしていますか?
 2 内科系疾患の栄養管理
  (1)消化器内科疾患
   1 炎症性腸疾患(谷口梨奈)
    Q44 炎症性腸疾患患者の入院中の食事内容を教えてください.
    Q45 炎症性腸疾患の退院後の食事を説明する際のポイントを教えてください.
   2 肝疾患(肝硬変)(内山里美)
    Q46 肝硬変患者に対してLESを行う場合の工夫を教えてください.
    Q47 肝硬変患者に対して,どのようなBCAA含有の栄養補助食品を使用していますか?
   3 膵疾患(膵炎)(鈴木絵梨奈)
    Q48 重症急性膵炎の患者に対する早期経腸栄養のポイントを教えてください.
    Q49 重症急性膵炎患者の治療で,栄養士が知っておくべきモニタリング項目を教えてください.
   4 胆道系疾患(岩本麻衣)
    Q50 ERCP施行患者の食事開始時期と食事内容について教えてください.
    Q51 胆道系疾患の治療法による栄養サポートの違いやポイントを教えてください.
    Q52 胆石症の栄養指導について教えてください.
  (2)心不全(岩本麻衣)
    Q53 終末期の心不全患者に対する栄養管理はどうしていますか?
    Q54 心不全患者の食思不振に対するアセスメントのポイントと,食事の工夫を教えてください.
    Q55 再入院を繰り返す心不全患者への介入のポイントについて教えてください.
    Q56 心不全患者の栄養指導のポイントについて教えてください.
  (3)神経筋疾患(ALS)(池内美保子)
    Q57 ALS患者の体重減少を防ぐためのポイントを教えてください.
    Q58 ALS患者の必要エネルギー量の算出方法を教えてください.
    Q59 ALS患者に対するチームアプローチと管理栄養士の役割を教えてください.
    Q60 発語が困難な患者とのコミュニケーションはどうしていますか?
  (4)糖尿病(鈴木絵梨奈)
    Q61 糖尿病患者に対して経腸栄養を行う際の工夫を教えてください.
    Q62 糖尿病患者が経腸栄養開始後に高血糖を呈した場合は,どのように対応していますか?
  (5)呼吸器疾患
   1 肺炎(福間睦美)
    Q63 当院では肺炎の患者は絶食(食止め)が基本ですが,近森病院ではどのように対応していますか?
    Q64 誤嚥性肺炎患者に対する,食事を開始するためのチームアプローチを教えてください.
    Q65 肺炎患者が食事を開始した後のモニタリングのポイントを教えてください.
   2 慢性閉塞性肺疾患(COPD)(福井紗千加)
    Q66 COPD患者に対して,どのような食事の工夫や調整を行っていますか?
    Q67 COPD患者の食事摂取量が,呼吸苦のために減少している場合の工夫を教えてください.
  (6)腎疾患
   1 慢性腎障害(明神遼子)
    Q68 高齢のCKD患者に対して,たんぱく質制限を行っていますか?
    Q69 透析患者に経腸栄養を行う際の工夫を教えてください.
   2 急性腎障害(片瀬理美)
    Q70 急性腎障害の原因による栄養サポートの違いを教えてください.
    Q71 急性腎障害では,食事中のたんぱく質は制限していますか?
    Q72 急性腎障害患者の食事からのカリウムやリン摂取について留意点を教えてください.
  (7)摂食障害(松村瑞愛)
    Q73 摂食障害患者への,栄養士による介入内容を教えてください.
    Q74 摂食障害の介入における,患者の年齢層によるポイントを教えてください.
    Q75 退院後の摂食障害患者に,管理栄養士はどのようにかかわっていますか?
 3 重症患者の栄養管理
  (1)熱傷(宮川麻優美)
    Q76 熱傷の初期治療の際,管理栄養士はどのように介入していますか?
    Q77 熱傷患者へ使用している特殊栄養素の種類と投与タイミングを教えてください.
  (2)ARDS太田由莉恵
    Q78 ARDS患者での水分設定や,必要な水分出納の評価方法を教えてください.
    Q79 ARDS患者に対して,どのような栄養剤を使用していますか?
 4 食欲不振患者の栄養管理
  (1)がん患者の食欲不振(谷口梨奈)
    Q80 がん患者の食欲不振に対して,どのような介入を行っていますか?
    Q81 食欲不振のあるがん患者で経口摂取だけでは十分なエネルギー量の確保が困難な場合,どのように対応していますか?
  (2)高齢患者の食欲不振(谷本真紀)
    Q82 高齢の食欲不振患者には,どのような対応をしていますか?
    Q83 低栄養の高齢患者に対するチームアプローチを教えてください.
 5 摂食嚥下障害患者の栄養管理(川村七瀬)
    Q84 嚥下食の種類および提供する食形態の決定方法を教えてください.
    Q85 摂食嚥下障害患者が経口摂取開始となった際,管理栄養士がみるべき評価項目を教えてください.
    Q86 摂食嚥下障害患者に対するチームアプローチを教えてください.
 6 リハビリテーションと栄養管理
  (1)廃用症候群(川村七瀬)
    Q87 廃用症候群のリハビリテーション患者に対する必要エネルギー量の算出方法を教えてください.
    Q88 廃用症候群のリハビリテーション患者に使用している栄養補助食品には,どのようなものがありますか?
  (2)脳卒中(斎藤由佳)
    Q89 肥満の脳卒中後リハビリテーション患者に対する,必要エネルギー量の算出方法を教えてください.
    Q90 脳卒中後リハビリテーション患者にCKDや糖尿病がある場合,エネルギーやたんぱく質の付加はどのように考えていますか?
    Q91 脳卒中後リハビリテーション患者に対する,リハビリテーションスタッフとのチームアプローチを教えてください.
  (3)整形外科疾患(吉田妃佐)
    Q92 回復期の整形外科患者に付加すべき栄養素を教えてください.
    Q93 回復期の整形外科患者で管理栄養士が留意すべきポイントについて教えてください.
第3章 マネジメント
 1 栄養部門の貢献とチーム医療(和田早織)
    Q94 栄養部門が経営面で貢献するためには,どのような取り組みを行うのがよいでしょうか?
    Q95 医師との連絡手段は,どのようにしていますか?
    Q96 他職種との連携の際の相談内容を教えてください.
    Q97 近森病院のNSTの特徴を教えてください.
 2 教育(和田早織)
    Q98 新人教育はどのように行っているか教えてください.
    Q99 新人管理栄養士は,どれくらいで病棟を担当しますか? 独り立ちの目安はなんですか?
    Q100 担当病棟はどのように決めていますか?
    Q101 近森病院に研修や見学に行きたいです.研修制度にはどのようなものがありますか?
 3 給食委託業者との連携(上村二美)
    Q102 給食委託業者との日々の連絡は,どのように行っていますか?
    Q103 食事の個人対応は,どこまで行っていますか?
    Q104 給食委託業者とのミーティングは,どのように行っていますか?
    Q105 栄養補助食品の採用ポイントはなんでしょうか? 栄養補助食品を含む食材費は,病院と委託業者のどちらが負担しているのでしょうか?

 近森病院NSTのあゆみ――その軌跡とシステムの変革(宮澤 靖)
 未来へ――医療従事者として失いかけているものを取り戻し,生き残るために(宮澤 靖)

 巻末資料
 さくいん