第2版の序
　管理栄養士の皆さんにとって，栄養アセスメントを通して適正な栄養指導，食事療法を行うことは，きわめて重要な業務だと思います．こうした業務を円滑に実施するには，面接を通じて対象者から話を聞き，身体計測によって身体アセスメントを行うことが大切で，かつ基本となるものでしょう．ただ，これらだけで対象者の栄養状態を的確に判断するには自ずと限界があります．客観性にも問題が残ります．より正確で客観的な情報を提供してくれるのは，臨床検査です．尿検査，血液検査，心電図検査などの臨床検査によって得られる情報は，的確な栄養アセスメントならびに栄養管理などの実施に有用な指針を与えてくれます．
　とはいえ，臨床検査の結果を解釈し，栄養管理に応用するのは，けっして容易ではないでしょう．というのも，管理栄養士の教育課程，あるいは現場で，臨床検査に関わる教育が十分に行われているとはいえないからです．とりわけ，実際の症例データに基づき，臨床検査結果を自身で解釈し，判断するトレーニングを受ける機会はほとんどないのではないでしょうか?
　著者は，管理栄養士の皆さんが，目の前にいる患者さんの臨床検査データ，あるいは健診や人間ドックでの検査結果を適切に読み解き，解釈できるようになるための指針になるよう，本書の初版を2008 年に上梓させていただきました．臨床検査の概説だけでなく，実際の症例を提示して臨床検査結果の読み方，解釈の仕方を解説することにしました．こうした著者の意図にご理解いただき，多くの読者にご利用いただくことができました．その後も医学・医療の進歩を踏まえ，少しずつ修正を加え，増刷を行ってきました．
　今回は，診療ガイドラインの見直しや，臨床検査項目の追加，必要性の少なくなった臨床検査項目の削除などを中心に，全面的に見直して改訂することにいたしました．さらに，臨床検査の重要性を示す一つの根拠として，管理栄養士国家試験にも臨床検査に関連する問題が出題されています．初版でも出題問題を解説しましたが，今回の改訂では，最近の出題問題を採用することにしました．いずれもお役に立つ内容だと自負しています．
　管理栄養士になるため勉学に励む学生さん，現場で活躍される管理栄養士の皆さんが，本書を活用し，臨床検査の応用に役立つことを祈念します．そして，国民の栄養状態，さらに健康状態の向上につながるよう，心から期待いたします．
　本書の改訂にご尽力いただいた医歯薬出版編集部の方々に深謝いたします．
　平成26年　梅の花便りの届く頃
　奈良信雄

初版の序
　臨床検査は現代の医療において欠かすことのできない重要なものである．それは，患者のもつ疾病を正しく診断するのに役立つだけでなく，病態を詳細に解析したり，あるいは健康時の体内の状態を把握することもできるからである．つまり，疾患の治療はもちろんのこと，疾病を予防したり，あるいは健康を増進するうえで，臨床検査を活用することが求められている．
　管理栄養士・栄養士にとって，臨床検査値を解釈し，臨床検査の結果を栄養管理，栄養療法や食事指導へ応用することが要求されている．それは，上に述べたように，臨床検査は体内で起きているさまざまな状況を判断するのに有用であるからである．とくに種々の職種が参加して医療を実践するチーム医療が基本となっている現代の医療では，管理栄養士・栄養士が臨床検査値を正しく解釈できなければ，積極的に医療チームに参加することができないだろう．
　しかし，臨床検査値を正しく解釈し，栄養管理，栄養療法や食事指導に活かすことは容易ではないと思う．では，どうすれば臨床検査値を解釈し，読むことができるのだろうか?　答えは一つしかない．実際の症例に数多く接し，個々の患者での臨床検査値を読むトレーニングを積むことである．それ以外に王道はない．
　とは言うものの，外来患者や入院患者，あるいは健診や人間ドックの臨床検査値を読めと言われても取っつきにくいのが実際だと思う．そこで，本書では，管理栄養士・栄養士の皆さんが臨床検査値を正しく解釈でき，かつ日頃の業務に活用できるように，臨床検査とはどういうものか，実際の疾患にどう使われているか，また代表的な症例での臨床検査値はどうなっているのか，解説することとした．さらに演習問題や管理栄養士国家試験問題も載せ，トレーニングを積みやすいように工夫した．
　もともと本書は，医歯薬出版が刊行している「臨床栄養」の別冊として平成16 年に出版された「臨床検査値の読み方・考え方Case Study」が基本となっている．著者の意図が正しく伝えられたようで，多くの管理栄養士・栄養士の皆さんから好評を博した．そこで，これを全面的に見直し，その後の医学医療の発展を取りいれ，さらに演習問題を増やして新しく単行本として発行することとした．
　ぜひ本書をご活用いただき，栄養指導や栄養管理の向上に役立てていただきたい．現場でご活躍の管理栄養士・栄養士の皆さん，さらに管理栄養士・栄養士を目指して勉学に励む学生諸君にも，ご利用いただければと願う．
　本書の企画，編集には医歯薬出版編集部のご尽力を賜った．ここに深謝する．
　平成20年　紅葉の頃
　奈良信雄