やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
 21世紀に入り,高齢社会の到来と医療の高度化,さらにはDPCによる1日包括払いの導入により急性期病院は労働集約型サービス業となり,アウトカムを出すために膨大な業務を処理しなければならなくなりました.そのため,医師,看護師中心の少数精鋭の医療では対応できず,多職種による多数精鋭のチーム医療で対応し,医師ばかりでなく多くの医療専門職が,それぞれの視点で患者を診て,判断し,介入せざるをえない時代を迎えたといえます.
 管理栄養士の仕事の場所と業務でその変化をみると,昔は厨房で「食事」というモノを売っていたのが,時代が変わり,病棟で栄養サポートすることで「早く元気になって自宅へ帰ってもらう」という付加価値を売るようになりました.このように業態が大きく変わったことで,管理栄養士の業務は厨房の食事管理から病棟の患者の栄養管理へ,食事療法から栄養療法へ変わり,もっと端的にいえば時代の変化が「厨房のまかないさん」から「病棟の医療専門職」へ,管理栄養士に大きく自己変革することを求めています.
 近森病院の栄養サポートチーム(以下,NST)の活動は,宮澤 靖管理栄養士(現・近森病院臨床栄養部部長兼栄養サポートセンター長)が近森病院にきた2003年の7月から開始されました.当時の管理栄養士は4名で,一人が2〜3病棟をかけもちして夜の10時,11時まで頑張っていましたが,十分な成果を上げることはできませんでした.そのため,2006年の夏,1病棟1管理栄養士体制にすべく管理栄養士の増員を指示しました.ちょうどその年の4月には,近森病院はDPCによる1日包括払いを導入し,10月には電子カルテもはじまり,多職種による多数精鋭のチーム医療の基盤整備を進めることができた年でもありました.
 2010年春には,NSTラウンドの内容を教育カンファレンスに切り替え,管理栄養士の質の向上に努め,2011年4月には2病棟1フロア3名の常駐体制となり,管理栄養士は22名に増えています.管理栄養士が質,量ともに充実したことにより,近森病院の栄養サポートはアウトカムの出るチーム医療となり,「病棟に管理栄養士がいないと困る時代」に入ったといえます.
 全国の管理栄養士が厨房を出て,病棟で栄養サポートの必要な患者すべてに,必要なときに,適切な栄養サポートを実践することで,病院の医療は大きく変わります.末梢輸液が減り,経口摂取や経腸栄養が増加,栄養状態の改善により免疫能も高まり感染症が減ることから,抗生剤の使用も減少してきます.人工呼吸管理の患者さん,意識のない患者さんが多い重症病棟でも,末梢輸液はないかあっても1本となり,水分,エネルギー,たんぱく質が経腸栄養で投与され,重症病棟の景色が変わってきます.それにともなって,日本の医療も管理栄養士が病棟に出て,栄養学的に患者を診て,評価し,栄養サポートすることで大きく変わることを知っていただきたいと思います.
 このような時代にあって,患者さんはもちろん医師や看護師,そのほかの医療専門職とコミュニケーションをとりながら,管理栄養士主体の栄養サポートを実践することを求められますが,そのようなときに参考になる考え方や知識を集めたのがこの「近森栄養ケアマニュアル(CHIKAMORI Clinical Nutrition Manual)」です.本書はわが国ではじめての「管理栄養士の管理栄養士による管理栄養士のための臨床栄養マニュアル」になります.当院の管理栄養士全員が執筆しており,内容を一読すると,記述がしっかりしているのに驚いています.昨年入ったばかりの若い管理栄養士であっても,病棟に常駐し,患者さんと接することで,日々患者さんから学ばせていただいていることを実感します.
 これまでこうしたマニュアルは,栄養を専門にしている医師が執筆しておりました.今回はじめて,医療専門職として,管理栄養士ならではの視点で執筆されており,今後の臨床栄養管理のあり方を変えてくれるのでは,と期待しています.
 本書が広く臨床栄養管理の場で活用されることを願っています.
 2013年5月
 近森 正幸
 社会医療法人近森会近森病院
 院長・同NST Chairman
 まえがき(近森正幸)
1.近森病院NSTのあゆみ−その軌跡とシステムの変革
 (宮澤 靖)
2.疾患別栄養ケアの実際
 1 消化器疾患
  (1)胃切除後(吉田麻優美)
  (2)外科手術後腸疾患(佐藤亮介)
  (3)炎症性腸疾患(福間睦美)
  (4)肝疾患(五十嵐久実,佐藤亮介)
  (5)膵疾患(五十嵐久実)
 2 循環器疾患
  (1)心不全(宮島 功)
  (2)心臓血管外科(真壁香菜)
  (3)急性心不全(鈴木絵梨奈)
 3 糖尿病急性合併症(上村二美)
 4 呼吸器疾患
  (1)慢性閉塞性肺疾患(COPD)(谷口梨奈,齊藤大蔵)
  (2)ARDS・ALI(西森瑞愛,宮島 功)
 5 脳神経疾患
  (1)脳梗塞(横畠 文)
  (2)クモ膜下出血(内山里美)
  (3)筋萎縮性側索硬化症(ALS)(廣田友香)
  (4)ギラン・バレー症候群(GBS)(内山里美)
 6 腎疾患
  (1)慢性腎臓病(CKD)(友原妃東美,真壁 昇)
  (2)透析(中西 花,真壁 昇)
  (3)連続携行式腹膜透析(CAPD)(中西 花,真壁 昇)
 7 摂食・嚥下障害/摂食障害
  (1)摂食・嚥下障害(鈴木香代)
  (2)摂食障害(吉田妃佐)
 8 癌(川ア麻由)
 9 整形外科疾患(小西沙苗)
 10 その他
  (1)外傷・熱傷(谷村由衣)
  (2)褥瘡(真壁 昇)
3.未来へ−失いかけているものを取り戻し,医療従事者として生き残るために
 (宮澤 靖)

 索引