やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の序
 わが国の慢性腎臓病(CKD)患者さんは現在約1,300万人,それが進行して腎不全となり透析療法が必要となった患者さんが約30万人と,いずれも非常に多く,これらの方への適切な対策は焦眉の急といえます.CKDの食事療法は薬物療法とともに,その治療・進行阻止に重要かつ必須であることは言うまでもありません.
 本書は,管理栄養士・栄養士や看護師・保健師の方々がどのようにしてCKD患者さんに食事指導を行ったら優れた効果が得られるか,また,どのようにしたらCKD患者さん自身が食事療法を正しく理解できて,適正な治療が行われるかを具体的にわかりやすく記し,平成23年9月に世に出しました.
 発行後1年余りが経ちましたが,幸い多くの読者の方々から本書について良い評価をいただき,私どももうれしく思うとともに励まされております.
 しかし,CKDの治療指針について,平成24年6月に日本腎臓学会から『CKD診療ガイド2012』が発刊され,最新の研究成果をもとにCKDの治療内容が大きく変わりました.これは国際的なKidney Disease:Improving Global Outcome(KDIGO)の診療方針に沿ったもので,新しいエビデンスをもとに,よりよい治療を行おうとするものです.CKDの基礎であるCKDのステージ(重症度)分類が全く変わり,具体的な各治療法についてもかなり変更されております.
 このことは食事療法についても同じであり,本書をさらに最新かつ適切な内容とするために,改訂する必要が生じてきました.すなわち,『CKD診療ガイド2012』に沿って食事指導の内容を書き改め,「第2版」として世に出すことになった次第です.これによりCKDの食事療法による治療効果が,医療の進歩に沿った,より優れたものとなることを期待しております.
 本書が,管理栄養士・栄養士や看護師・保健師の方々にとって,CKDの新しくより適切な食事指導の指標として用いられ,患者さん方にとっては,より優れた新しいしかもわかりやすい食事療法の指導書として役に立つことができ,CKD患者さんの一層の病状改善と進行阻止,QOLの向上に役立つことができれば,これに過ぎる喜びはありません.
 最後に,終始熱心に編集にご協力してくださった医歯薬出版編集部の方々に,心からお礼申し上げます.
 平成24年12月20日
 飯田喜俊
 兼平奈々
 執筆者一同

初版の序
 慢性腎臓病(CKD)は,「尿たんぱくが陽性」または「腎機能が低下」が3カ月以上続く状態をいいますが,わが国ではCKDの患者さんが約1,330万人もいるといわれています.そして,CKDが次第に進行して慢性腎不全や透析に至る患者さんが年々増加しており,患者さんのQOL(生活の質)が低下し,医療経済の面からも大きな問題となっております.しかもCKD自体は心血管疾患の危険因子でもあり,経過中に心血管疾患に罹患して生命予後に影響を及ぼすので,近年大きく注目されてきております.このことはわが国だけでなく,世界的にも同様です.
 そのため,CKDは現在では全世界的に取り上げられ,その早期発見と早期治療の重要性をキャンペーンする国際的な取り組みとして,国際腎臓学会などが2006年より毎年3月の第2木曜日を『世界腎臓デー』として活動を開始しております.わが国でも,日本腎臓学会がさまざまな啓発活動を行っており,日本栄養士会においても,厚生労働省の「腎疾患重症化予防のための戦略研究」(FROM-J)の大規模介入研究に協力しています.
 CKDの治療法としては,適正な生活習慣,食事療法,薬物療法などがありますが,食事療法は欠くことができない重要な治療法であり,このことは多くのエビデンスによって示されてきました.食事療法が適正に行われるためには,まず患者さんへの適切な食事指導が重要であり,そのためにはわかりやすく具体的に記述された指導書が必要です.本書はこのニーズに応えるものとして企画しました.
 たとえば,CKDの実際的な食事指導の内容,指導法の工夫とポイント,注意点などを具体的に詳しく,わかりやすく記述しました.さらに,患者さんがスタッフの指導のもとに自分で学び,食事療法を正しく行えるように「患者さんご説明用」の項目を設けました.
 このような工夫によって,管理栄養士・栄養士の方が,必要な基礎知識から具体的な食事指導方法まで会得でき,CKD患者さんの病態の改善に役立つものと思っております.また,看護師・保健師など,関係する医療スタッフの方が食事指導の方法を学ぶ際にも役立つと思います.
 さらに,患者さんにとっては食事の正しい自己管理が大切ですが,本書はこれを行う際の最良の教師になるものと思っております.
 本書は,CKDの食事療法について,指導する側からも,患者さん側からも適正に行われるような方式にしましたので,CKDの進行阻止や病態の改善に大いに役立つものと考えております.また,そのようになることを願ってやみません.
 おわりに,本書の企画から出版に至るまで終始真摯に協力してくださった医歯薬出版編集部の方々に,心より御礼を申し上げます.
 平成23年9月10日
 飯田喜俊
 兼平奈々
 執筆者一同
総論 慢性腎臓病(CKD)の基礎知識
FROM DOCTOR 1 慢性腎臓病(CKD)とは
 ・CKDとは何か,なぜ重要か(飯田喜俊)
 ・CKDの重症度分類(飯田喜俊)
 ・CKDステージG1〜G5の病態と症状(飯田喜俊)
 ・小児CKDの病態と症状(谷澤隆邦)
 ・高齢者CKDの病態と症状(奥野仙二)
 ・おもな成人CKDの原疾患とその特徴(飯田喜俊)
 ・CKDの進行と阻止および合併症(奥野仙二)
 ・CKDの検査(飯田喜俊)
 ・成人CKDの治療(飯田喜俊 谷澤隆邦 奥野仙二)
FROM DOCTOR 2 栄養評価
 ・食事摂取量調査(奥野仙二)
 ・身体計測(奥野仙二)
 ・筋力(握力,脚力,背筋力)(奥野仙二)
 ・血液生化学的検査(奥野仙二)
 ・栄養スコア化法(奥野仙二)
 ・複数の指標を用いた総合的な判断(奥野仙二)
各論 慢性腎臓病(CKD)の食事指導
保存期
 1.慢性腎臓病(CKD)ステージG1〜G5の食事療法基準(兼平奈々 平松史江)
 2.たんぱく質コントロールの意義(奥野仙二)
 3.たんぱく質コントロールの方法(兼平奈々 平松史江)
 4.たんぱく質のアミノ酸スコア(兼平奈々 平松史江)
 5.食塩コントロールの意義(飯田喜俊)
 6.食塩コントロールの方法(兼平奈々 平松史江)
 7.調味料と食品に含まれる食塩量(兼平奈々 平松史江)
 8.エネルギーコントロールの意義(奥野仙二)
 9.エネルギーコントロールの方法(兼平奈々 平松史江)
 10.エネルギーコントロールのための食品選択と調理方法(兼平奈々 平松史江)
 11.カリウムコントロールの意義(飯田喜俊)
 12.カリウムコントロールの方法(兼平奈々 平松史江)
 13.カリウムを減らす調理法(兼平奈々 平松史江)
 14.リンコントロールの意義(奥野仙二)
 15.リンコントロールの方法(兼平奈々 平松史江)
 16.治療用特殊食品の活用(高橋恵理香)
 17.食事療法に必要なスプーン,はかり,参考書(高橋恵理香)
 18.栄養価計算の方法(高橋恵理香)
 19.外食時の工夫と注意点(高橋恵理香)
 20.慢性腎臓病ステージG3〜G5の献立作成のポイント(兼平奈々 高橋恵理香)
糖尿病性腎症
 21.糖尿病性腎症の管理の重要性(奥野仙二)
 22.糖尿病性腎症の食事療法基準(高橋恵理香 兼平奈々)
 23.糖尿病性腎症の食事療法のポイント(高橋恵理香 兼平奈々)
血液透析期
 24.血液透析の管理の重要性(飯田喜俊)
 25.血液透析の食事療法基準(高橋恵理香 兼平奈々)
 26.血液透析の食事療法のポイント(高橋恵理香 兼平奈々)
 27.水分コントロールの方法(高橋恵理香 兼平奈々)
腹膜透析期
 28.腹膜透析の管理の重要性(奥野仙二)
 29.腹膜透析の食事療法基準(高橋恵理香 兼平奈々)
 30.腹膜透析の食事療法のポイント(高橋恵理香 兼平奈々)
高齢者
 31.高齢者慢性腎臓病の管理の重要性(奥野仙二)
 32.高齢者慢性腎臓病の食事療法のポイント(東山幸恵 兼平奈々)
小児
 33.小児慢性腎臓病の管理の重要性(谷澤隆邦)
 34.小児慢性腎臓病の食事療法のポイント(東山幸恵 兼平奈々)
移植者
 35.腎移植の管理の重要性(飯田喜俊)
 36.腎移植の食事療法のポイント(東山幸恵 兼平奈々)
付表
 37.食品中のたんぱく質とエネルギー量(平松史江)
 38.調味料と食品中の食塩量(平松史江)
 39.食品中のカリウム量(平松史江)
 40.食品中のリン量(平松史江)
 41.外食の栄養成分値と利用時のワンポイント(東山幸恵 高橋恵理香)
 42.治療用特殊食品の栄養成分値と使い方のワンポイント(1)(東山幸恵 高橋恵理香)
 43.治療用特殊食品の栄養成分値と使い方のワンポイント(2)(東山幸恵 高橋恵理香)

 ・引用・参考文献
 ・索引