やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第5版の序
 本書は1997年末に発行されてから10余年を経過した.本書では臨床を対象とし,または疾病予防を目的として,特定の栄養素の増減を計りながらも食の喜びを味わえる食事を目標に,適切な食事調整の考え方や手法を解説してきた.
 一方,わが国では,この10余年間,栄養行政のあり方および食品科学の研究の進展により,保健機能食品など,疾病予防や生活習慣病をもたらす食生活の改善に寄与する食品が多数開発されてきた.
 また,今年は「日本人の食事摂取基準(2010年版)」が策定され,その考え方の方向性は,2005年版と同様,健康人を対象にしているとはいえ,疾病予防を目標として構成されていることが認められる.疾病予防の対策には個人別摂取量の決定が必要であり,年齢,体格,身体活動レベルなどから判定した摂取基準がエビデンスに基づいて示されており,より的確な個人の健康への対応が欠かせない時代を迎えた.
 これも,わが国における高齢人口や生活習慣に起因する疾病がさらに増加し,治療対策の確立が急務であることにほかならない.すなわち2006年にはメタボリックシンドローム,2007年に脂質異常症,2009年に高血圧症などのガイドラインが矢つぎ早に発表されたのは,その危険性への対応が必須の状況と考えられるからである.
 以上のような観点に立って考えると,食事摂取のあり方は,危険因子の改善にいかに的確な役割を果たしうるかが重要で,いうまでもなく本書のめざす目的とまさに一致するところである.
 そこで今回,本書の内容について,上記の現状に即して活用できるよう,食事の考え方をより調整・加筆して,第5版として発行することとした.
 とくに,実務についている栄養士や管理栄養士,また栄養・食品関連の業務に携わっている方々に,治療食や疾病予防をめざすための指針として活用していただきたいと願うものである.
 2010年3月
 筆者一同

初版の序
 今日,臨床栄養学関連の研究が進展し,人の健康と食との間に強い相関関係のあることが認められている.とくに疾病発症のメカニズムが解明されるにつれ,人の長いスパーンの食生活のありようが疾病の危険因子となりうることを,われわれは知るところとなった.
 このことは人が健康的に老いるためのQuality of Life実現のために,または疾病をもっている場合であっても,食生活のあり方が人にとっていかに重要であるかを物語っている.
 食生活は通常,食事計画,食品の選択,調理操作,食卓構成などの一連の工程を含む技術としてとらえられているが,それらは,人間の五感のすべての知覚との関わりによってはじめて好みにあったおいしい食べ物としての価値が生ずるものである.この一連の技術を科学的,文化的に追究する総合科学が広義の調理学の対象であることはすでに知られているところである.
 一方,臨床栄養の管理は,栄養成分別管理方式であろうと疾病別管理方式であろうと,栄養成分の量の増減や質の交換によって,食事計画やマニュアルがつくられている.
 本書は,栄養成分の増減について,各栄養成分別にコントロールする方法を具体的に示し,さらに減塩食,軟菜食,摂食障害時の食事についても,その基本を調理学の視点に立って編集した.また,食事計画の手順を各コントロール食別に解説し,さらに基本献立から各コントロール食への展開の方法を示すことにより,その特徴を理解しやすくするように努めた.
 食事計画は,栄養を食品に転換し,献立・調理というように一連の工程から成り立っている.本書ではこの工程のなかから各コントロール食の特徴をよく理解し,その上に立って,献立・調理を取り上げるようにしたものである.ややもすると治療食を栄養成分の増減にまかせがちになることから,この領域に重点を置くことにした.
 臨床調理は栄養・食品・調理形態や調味に制約があるので,一般の調理とは異なる特有の調理の理論があり,科学があるはずである.このことを十分に理解しなければおいしく食べることができないし,治療効果も上げることができない.食べる人の立場に立った治療食のノウハウを示したつもりである.
 このような視点に立って臨床時の食事の考え方を「臨床調理」と命名し,私どもは本書を構成することにした.
 計画から今日まで相当の月日を要したが,発刊の運びに至ってもまだ目的の入り口という感は免れない.どうか諸先輩,皆様方の率直なご指摘やご批判をお願いいたしたく,切に望むしだいである.
 おわりに,本書出版の機会を与えて下さった医歯薬出版株式会社および編集部の皆様に深甚の謝意を表したい.
 1997年12月
 筆者一同
臨床料理の基本
1 栄養管理の考え方
2 臨床調理のめざすもの
3 臨床調理の考え方
 おいしさの基本条件
 おいしさの生かし方
 食べる人の心理のとらえ方,満足感のもたせ方
 ふつうの食品や調理で補うことが困難な場合の工夫
4 臨床調理の食事プラン
 献立の立て方
臨床調理の実際
1 エネルギーコントロールのための調理
 エネルギーバランス食
  考え方
  食品の選び方
  食事計画と献立の実際
 低エネルギー食
  考え方
  食品の選び方
  調理上の注意と工夫
  食事計画と献立の実際
2 脂質コントロールのための調理
 低脂質食
  考え方
  食品の選び方
  調理上の注意と工夫
  食事計画と献立の実際
 脂質の質のコントロール食
  考え方
  食品の選び方
  調理上の注意と工夫
  食事計画と献立の実際
3 たんぱく質コントロールのための調理
 高たんぱく質食
  考え方
  食品の選び方
  調理上の注意と工夫
  食事計画と献立の実際
 低たんぱく質食
  考え方
  食品の選び方
  調理上の注意と工夫
  食事計画と献立の実際
4 食塩を減らすための調理
  考え方
  食品の選び方
  調理上の注意と工夫
5 軟菜食のための調理
  考え方
  食品の選び方
  調理上の注意と工夫
6 摂食障害時の食事の工夫
  考え方
  食品の選び方と食形態
  調理上の注意と工夫
  料理例
7 その他の栄養素と調理
 カルシウム
  カルシウムの働き
  カルシウムと疾患との関わり
  食品の選び方
  調理上の注意と工夫
  料理例
 鉄
  鉄の働き
  鉄と疾患との関わり
  食品の選び方
  調理上の注意と工夫
  料理例
 食物繊維
  食物繊維の働き
  食物繊維の機能と疾患との関わり
  食品の選び方
  調理上の注意と工夫
  料理例

 付表
  付表1 基本料理からの各コントロール食への展開
  付表2 料理の種類と配合調味例
  付表3 食品群別荷重平均成分表
  付表4 日本人の食事摂取基準(2010年版)
 参考文献
 索引