やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第3版 改訂の序
 「医療・福祉分野」における“栄養管理”では,それぞれの病態別に必要とされる栄養管理(栄養治療:栄養療法・食事療法)が実践できることが重要で,栄養治療の専門職として必要な知識やスキルを身につけることが大切である.ここでは,生理・生化学,栄養学等の基礎的能力はもとより,社会の変化に伴い多様化する要求や各分野の進歩に対応できる新たな知識と技術の開発に貢献できる能力,さらには,保健・医療・福祉システムのなかで他の専門職の人々と協調しつつ,自らの役割と責任を担う心構えをもつことが要求されている.
 “臨床栄養学“の教育目標では“傷病者の病態や栄養状態の特徴に基づいて,適切な栄養管理を行うために,栄養ケアプランの作成,実施,評価に関する総合的なマネジメントの考え方を理解し,具体的な栄養状態の評価・判定,栄養補給,栄養教育,食品と医薬品の相互作用について修得する.特に各種計測による評価・判定方法やベッドサイドの栄養相談などについては実習を活用して学ぶ.又,医療・介護制度やチーム医療における役割について理解する.さらにライフステージ別,各種疾患別に身体状況(口腔状態を含む)や栄養状態に応じた具体的な栄養管理方法について修得する”とされており,本書の内容もこれに沿って構成を試みたものである.
 本書(1998年初版)は,21世紀に臨床の場で活躍する管理栄養士が身に付つけるべき知識やスキルを学習するための実習書として刊行され,発行より10年を経た.この間,医療法や介護保険法の改正にはじまり,特定健康診査・特定保健指導制度発足,各疾患の治療指針・ガイドラインなどの改訂があり,初版発行から何度か改訂を行ってきた.どの時代にあっても“臨床栄養管理”では新しい知識やスキルを学習する必要がある.
 日本人の食事摂取基準(2010年版)も公表され,さらに,管理栄養士養成課程におけるモデルコアカリキュラムが提案され,管理栄養士の資質・スキルなど社会のニーズは変化してきており,それらに沿った新しい実習書を発行する必要があるとの思いに至り,今回全面的に改訂し,『新しい臨床栄養管理 第3版』として発行することとなった.
 21世紀を担う臨床で活躍する管理栄養士のみでなく,広く教育教材として使用されることを願いつつ,読者からのご批判,ご教示を頂きながら,さらに修正を重ね,より使いやすい教材にしたいと願っている.
 2010年2月 編者一同
 
 
■追記
 日本人の食事摂取基準(2015年版)のほか、最新の診療ガイドラインの情報を反映させた.
 2015年2月
 編者一同

第2版の序
 近年,「健康日本21」や「新しい食生活指針」にみられるように,国民の健康問題は重要な課題となっており,生活習慣病の改善,とりわけ食生活の改善が必須であることは周知のことである.そこでさまざまなライフステージにある人の健康の保持・増進と,疾病予防や治療のための専門的知識や技術を教授し,実践能力を養う教育では,今後もめまぐるしい社会状況の変化に対応していかなければならない.
 今日,社会需要が増すと予想される寝たきり老人などの臨床栄養管理の領域でも,在宅患者のQOLなど“個”を対象とした,深くかつ広い知識と,さらには医療スタッフとの連携能力が要求されている.したがって,医学に携わる人々には,今までにも増して最新の医療技術に精通するのみならず,常に,人間と社会に対する深い洞察力,広い総合的視野をもつことが求められてきている.
 このような時代の流れにおいて,21世紀に向けた栄養士・管理栄養士教育が必要なことはいうまでもなく,臨床栄養学の基礎知識から専門的技術までを,教育伝授する実習書として第1版を上梓してはや4年を経た.その間,第6次栄養所要量の改定を受けて病院での一般治療食の基準も改定され,糖尿病や高血圧の診断基準,BMIの数値なども変更され,本書の見直しが必要となった.
 本書の意図とするところは,臨床栄養に携わる専門職の価値観について,十分理解してもらい,学生の自己学習能力や実践力,応用力を高めることにある.対象者の栄養状態や臨床成績を理解し,十分な個々の栄養評価と臨床栄養指導が展開できる見識を養うような教育の一助に資することができればと願っている.
 本書がより多くの人々に使用されることを願いつつ,読者からのご批判,ご教示をいただきながら,今後もさらによいものにできればこれ以上の喜びはない.
 2000年12月吉日
 編者一同

第1版の序
 栄養学・医学領域における臨床栄養学は,第一に予防医学,第二に分子医学,第三に治療医学の3つの分野から取り組まれている.予防医学の立場からは,疾病構造において,死因の上位を占めている慢性疾患(生活習慣病など)の外部環境負荷要因として食生活が捉えられ,その改善が有効な手段と考えられている.分子医学からは遺伝的素因が疾病に深く関わっていることが解明されてきている.たとえば肥満症,インスリン非依存型糖尿病をはじめ,高血圧症,高コレステロール血症の食塩やコレステロールに対する感受性は,個体差の重要性を知らしめている.“集団“から“個”への取り組みの必要性が期待されている.治療医学の立場からは,それぞれ病態別に栄養管理がなされる栄養治療(栄養療法・食事療法)が注目されている.
 患者を取り巻くコメディカルスタッフによるチーム医療が治療効果に大きく影響を及ぼすことが実証されつつあるが,栄養補給法の飛躍的な進歩,合併症を有する高齢者への治療,患者のQOL(Quality of Life)の向上など,病態における“個”を取り巻く問題は多岐にわたっているといえる.
 臨床栄養学はヒトの栄養治療において,その働きかけから結果の評価まで複雑かつ多彩である.栄養状態を的確に評価・判定し,心身の状態に見合った効果的な栄養補給を行い,さらに栄養・食事教育を行って患者自身がよりよい栄養状態を維持していくための能力を養うことが大切である.すなわち,人体の栄養管理と栄養学の知識を習得させることが,これからの臨床栄養学における実践力といえよう.
 栄養管理のための素材や技法は日進月歩の医学のダイナミックな動きの中で,様々な疾病に対する新知見が要求されている.医療の場では,医師の専門分野はさらに細分化される傾向にある.栄養士・管理栄養士は栄養治療を実践する専門家として,各科領域における“個”を対象とした深くかつ幅広い知識と,さらには医療スタッフとの連携能力が今後ますます要求されることになる.
 本書は,21世紀に臨床の場で活躍する栄養士・管理栄養士らが,ニュートリションサポートチームの一員として参画するために備えておきたい専門知識や技術,さらには保健・医療・福祉の連携の中で,ケアマネージメントに参画するために必要な知識や技術の基本を教授し,栄養士・管理栄養士としての責任を担う一助とするための教材として編集されたものである.
 それゆえ,本書の構成は臨床栄養学の基礎として,人体構造では組成と物質代謝を,食品成分では人体に対する栄養学的役割を中心に,今日的問題である栄養評価および栄養補給法などを記載し,特別治療食においては栄養成分別管理として,主としてコントロールの必要性がある栄養素で分類を試みたが,いずれの栄養素も相互に関わりがあることは周知のとおりである.栄養食事指導では,入院・外来・ベッドサイドにおける指導の事例を,臨床栄養管理の実際では,患者治療のオペレーションシステムを入院から在宅医療まで含めて概観している.
 なお,本書の臨床的記述については,川崎医科大学の医師の先生方に校閲していただき,さらに多くのご指導とご助言を賜った.本書の出版にあたり心よりお礼申しあげるしだいである.
 栄養士・管理栄養士養成施設校で,臨床栄養学実習の教材として使用されることを願いつつ,読者のご批判,ご教示をいただきながら修正を重ね,より使いやすいテキストにしたいと願っている.
 1997年12月吉日
 編者一同
I 実習・演習の進めかた
 1 供食実習・栄養相談演習の目的
 2 供食実習の進めかた
 3 栄養相談・栄養教育演習の進めかた
II 人体構成とホメオスタシス
 1 細胞
 2 固体・元素・物質
  1-水
  2-有機化合物
  3-無機化合物
 3 体内代謝
  1-エネルギー代謝
  2-異化と同化
  3-水と無機質の代謝
 4 消化と吸収
 5 バイタルサインとホメオスタシス
III 人体への栄養補給法
 1 食品の栄養素と機能
  1-食品の栄養素
  2-食品の機能
  3-食品の機能性成分
   1)オリゴ糖 2)キチン類 3)ペプチド類
  4-特定保健用食品と特別用途食品
  5-味覚成分
  6-栄養・食物と薬の相互作用
 2 栄養補給
  1-食事療法(経口栄養法)
   1)一般治療食 2)特別治療食(栄養成分別管理)
  2-経腸栄養法(経管・瘻管栄養法)
   1)自然食品流動食(普通流動食,ミキサー食,濃厚流動食) 2)半消化態栄養剤 3)消化態栄養剤・成分栄養剤
  3-経静脈栄養法
   1)中心静脈栄養法(完全静脈栄養法,TPN:total parenteral nutrition) 2)末梢静脈栄養法(PPN:peripheral parenteral nutrition) 3)静脈栄養製剤(輸液)
IV 臨床栄養管理の実際
 1 医療施設・介護福祉施設と栄養管理システム
  1-医療施設
   1)病院の役割 2)病院部門の組織
  2-介護福祉施設
   1)介護福祉施設の役割 2)介護福祉施設のサービスの種類と定義
  3-栄養管理システム
   1)病院における栄養管理システム 2)介護福祉施設における栄養管理システム
  4-栄養ケア・マネジメント
   1)栄養ケア
  5-クリニカルパスと栄養管理計画
   1)クリニカルパス 2)クリニカルパスの4つの基本概念 3)クリニカルパス導入前にしておくこと
  6-危機管理体制
   1)リスクマネジメント
 2 栄養アセスメントと栄養量の算出
  1-栄養スクリーニングとアセスメント
  2-栄養パラメーター
   1)問診・観察 2)栄養・食事摂取調査 3)身体計測 4)血液・尿検査
  3-栄養アセスメントの方法
  4-必要栄養量の算出
   1)エネルギー必要量の算出 2)たんぱく質必要量の算出 3)脂質必要量 4)炭水化物 5)ビタミン,ミネラル
 3 チーム医療
  1-チーム医療の意義と役割
  2-チーム医療の実際
   1)緩和ケア 2)褥瘡チーム 3)摂食・嚥下リハビリテーションチーム 4)地域連携
  3-NST(nutrition support team,栄養サポートチーム)
  4-クリティカルケア(重症病態とICU)
   1)クリティカルケア(重症病態) 2)集中治療室(ICU:intensive care unit)
 4 栄養記録
  1-POS
   1)P:problem 2)O:oriented 3)S:system
  2-問題志向型診療録(POMR)
  3-POMRの監査
  4-POSの展開
   1)主観的情報(S:subjective) 2)客観的情報(O:objective) 3)アセスメント(評価)(A:assessment) 4)プラン(P:plan)
  5-SOAPの記載
  6-電子カルテ
V ベッドサイドでの栄養管理と栄養食事相談
 1 栄養障害
  1-低栄養(褥瘡を有する)
 2 代謝疾患
  1-肥満症
  2-メタボリックシンドローム
  3-糖尿病
  4-脂質異常症
  5-高尿酸血症
 3 消化器疾患
  1-クローン病・潰瘍性大腸炎
  2-過敏性腸症候群(下痢・便秘)
  3-胃・十二指腸潰瘍
  4-胆石症・胆嚢炎
  5-膵炎
  6-肝炎
  7-肝硬変
  8-脂肪肝
 4 循環器疾患
  1-高血圧症
  2-心疾患
  3-動脈硬化症
 5 腎疾患
  1-急性腎炎・急性腎不全
  2-慢性腎臓病
  3-糖尿病性腎症
  4-透析
  5-ネフローゼ症候群
 6 内分泌疾患
  1-甲状腺機能亢進症
 7 感覚器・神経疾患
  1-脳梗塞
 8 血液疾患
  1-貧血
 9 筋骨格疾患
  1-骨粗鬆症
 10 癌
  1-胃癌
 参考 術後食の具体例
 11 術前・術後
  1-短腸症候群
 12 クリティカルケア
  1-外傷・熱傷
 13 摂食機能障害
  1-嚥下障害
 14 乳幼児・小児疾患
  1-先天性代謝異常症
  2-食物アレルギー
  3-小児腎疾患
 15 妊産婦の疾患
  1-妊娠高血圧症候群
  2-妊娠糖尿病
VI 外来患者(個人)への栄養管理と栄養食事相談
 1 保存期慢性腎不全外来患者への相談
 2 慢性肝炎・肝硬変代償期外来患者への相談
 3 糖尿病外来患者への相談
 4 透析外来患者への相談
 5 在宅高齢者への相談
VII 外来患者(集団)への栄養管理と栄養食事相談
 1 妊婦への集団栄養指導
 2 糖尿病患者への集団栄養指導
 3 高血圧患者への集団栄養指導
 4 脂質異常症患者への集団栄養指導
VIII QOLの向上
 1 ターミナルケアとホスピス
  1-ターミナルケア(terminal care)とは
  2-緩和ケアにおけるチームアプローチ
  3-ターミナル期の食に関する援助
  4-栄養ケア・食援助
  5-食援助の実際
   1)食環境の整備 2)食事形態や提供方法(回数,時間,食器など)の調整 3)食事選択の多様性 4)食事に伴う苦痛軽減の対応法
  6-食欲低下および食に関する苦痛改善のための薬物療法
  7-管理栄養士に課せられる課題
 2 在宅医療・介護における在宅訪問栄養食事指導
  1-在宅医療とは
  2-在宅訪問栄養食事指導とは
  3-在宅訪問栄養食事指導の実際
  4-在宅訪問栄養食事指導の留意点
 3 障害者への取り組み
  1-知的障害者
  2-精神(情緒)障害者
  3-身体障害者

 文献
 資料
  1.国民医療費と対国民所得比の年次推移
  2.性・部位別にみた悪性新生物の年齢調整死亡率,心疾患の死亡率,脳血管疾患の粗死亡率・年齢調整死亡率の国際比較(人口10万対)
  3.医療保険制度〔診療報酬〕
  4.入院時食事療養制度
  5.日本人の新身体計測基準値 JARD 2001
  6.ブレーデンスケール
  7.腎臓病治療用特殊食品栄養成分
  8.CKD診療ガイド―治療のまとめ
  9.MDRD簡易式ノモグラム
  10.登録特殊ミルクリスト
  11.改訂日本食品アミノ酸組成表に基づく食品群別平均たんぱく質Phe含有量,含有率,1単位当たり算出表
  12.食物アレルギーと代替食品
  13.特定保健用食品
  14.経腸栄養剤一覧
  15.略語一覧