やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 「1冊だけで行動療法による減量教育ができる,そんな指導者向けマニュアルがほしい」,これが本書を作った理由です.
 2001年に発行した『ライフスタイル療法』(医歯薬出版)では,さまざまの生活習慣改善や疾病コントロールに行動療法が有用であることを,実例を用いて概略的に示しました.幸い多領域の専門家の方から受け入れていただきましたが,実際に指導や教育を行おうとすると『ライフスタイル療法』だけでは細かな問題解決まではむずかしく,より実践的な内容が必要のようでした.
 そこで『ライフスタイルを見直す減量指導』(法研,1997)を全面的に改訂することにしました.これは,報告書「生活習慣改善に効果的な行動変容教育用教材開発事業報告書(委員長 大島 明)」から生まれた指導者向けガイドブックで,現場で生じるさまざまな問題への具体的対処法を通して,行動療法による問題解決を紹介したものです.
 「肥満の行動療法」は行動医学の先駆的なテーマで,生活習慣病や食行動異常の治療の原点ということができます.そこでは,食べること,動くことにとどまらず,ストレスや憂うつへの対処,自己主張や考え方の修正など,精神保健も重視されています.これらはどのような対人サービスにも共通に役立つ内容だと思います.
 今回は『ライフスタイル療法』の実践編として,前著の基本的な考え方や編集方針はそのままに,筆者がその後,種々のプログラム開発や実際の診療から学んだことを盛り込み,新しい情報に置き換えました.最近では,「メタボリックシンドロームの診断基準」や「食事バランスガイド」に加え,「肥満症治療ガイドライン2006」も発表されました.その結果,ほとんどに手が入り,この間の変化を感じています.
 『ライフスタイル療法』で詳述した項目は省略し,手作り教材作成時に必要な資料もできるだけ多く掲載し,多忙な専門家が使いやすいように,内容を見開き2頁で構成し,要点を箇条書きにし,図表を多くしました.お手元に置き,迷ったとき,困ったときの参考書にしていただければ幸いです.
 行動療法は,現場で実践する人にこそ知っていただきたいものです.とくに,いま話題のメタボリックシンドロームでは,体重コントロールはその中心的課題になります.
 本書がより多くの方々の行動療法への理解と,実際の仕事のお役に立つことを心から願っています.
 最後に,改訂を快くご了解くださった法研,編集でご尽力いただいた医歯薬出版の編集部,助言いただいた管理栄養士の渡辺純子さん,田中みのりさんにお礼を申し上げます.
 平成18年3月 足達淑子
I. 行動療法に基づいた指導とはどのようなものか
 1. 本書の特徴と使い方は?
 2. 体重コントロールでは何をめざすのか
 3. 感情や考え方は行動とどのように関係するのか
 4. 習慣はどうしたら変えることができるか
 5. ほかの肥満治療と行動療法との関係は?
 6. 効果が上がる教育や指導の原理とは?
 7. わかりやすく情報を伝えるには?
 8. 教材,指導ツールをどう活用するか
 9. 「自己コントロール感」を高めるための留意点は?
 10. ドロップアウトを防ぐためには何が効果的か
 11. 問題点のとらえ方,理解のしかたは?
 12. 行動療法におけるカウンセリングのポイントは?(1)(2)
II. 体重コントロールに必要な生理学的な知識
 13. 肥満とは何か,肥満症はどう判定するか(1)(2)
 14. 太る,やせるのしくみをどのくらい理解しておくべきか
 15. 「太った人はこんなもの」という先入観をどう改めるか
 16. どのような人を優先的に指導するか
 17. 減量目標はどのように設定したらよいか
 18. 減量への心の準備をどのように見極めるか
 19. 準備性の程度に応じた指導目標とは?
 20. 減量後の体重維持はなぜむずかしいのか
 21. 消費エネルギーと推定エネルギー必要量はどう計算するのか
 22. 運動はどうして絶対必要なのか
 23. ダイエットの害と食行動異常との関係は?
 24. 危険なダイエットとはどういうものか
III. 指導を具体化するプログラム作成
 25. 「参加しよう」と思わせるお知らせのしかたは?
 26. 知りたいことがわかるアンケートの作り方は?
 27. スタッフの役割分担とチームワークは?
 28. 効果的なプログラムはどのように作るか
 29. グループ活動をどのようにすすめたらよいか
 30. 参加型の体験学習はどう行うか
 31. 進行にあたって守ってもらうルールは?
 32. 集団を乱す困ったクライアントをどうするか
 33. 生活習慣のセルフチェックではどんなことを聞くか
 34. 食品の選び方の原則を教えるには(1)(2)
 35. 食事についての誤解をどう解くか
 36. 続けるのがむずかしい運動を継続させるコツは?(1)(2)
 37. 効果的な面接はどのように行うか
 38. クライアントを理解するためにどんなチェックをするか
 39. 年代別の特徴と,それに応じた指導とは
 40. 実行直前の準備性の再確認はどのように行うか
 41. 条件に応じたプログラムとはどんなものか
 42. プログラムが成功したかどうかを,どう見極めるか
IV. 肥満の行動療法の実際
 43. 実行しやすい目標行動はどのように決めたらよいか
 44. 食べすぎないためにどんなくふうをすればよいか
 45. 身体活動を増やすためにはどんな方法があるか
 46. 体重はいつ,どのように測らせるのがよいか
 47. 空腹感との闘いをどうサポートするか
 48. 行動記録は,いつから,どのようにとらせるか
 49. 記録を続けるうちに感じるマンネリをどう防ぐか
 50. やる気を継続させるにはどんな励まし方があるか
 51. ストレスにうまく対処させるにはどんな指導をするか
 52. クライアントの変化のどんなところに注目するか
 53. 減量中の危機をうまく乗りきるためにどうするか
 54. 自己主張がへたなために減量がむずかしい人への援助は?
 55. じょうずな断り方をどう演習させるか
 56. 悲観的に考えるクライアントにはどんな対策があるか
V. 体重維持のための具体的方法
 57. 体重を維持するには,どんな指導が必要か(1)(2)
 58. 外食やファストフードとのつき合い方の指導は?
 59. パーティーや宴会をじょうずに乗りきらせるには?
 60. 甘いもの依存をどう克服させるか
 61. 減量に伴う「憂うつ」にどう対処するか
 62. ダイエターをサポートするネットワーク作りとは?
VI. 体重に関連した特別な状況とことがら
 63. 過食などの食行動異常をどのように見分けるか(1)(2)
 64. 禁煙に伴う体重増加にどう対処するか
 65. 糖尿病のある人に対する指導のポイントは?
 66. 高コレステロール血症の人への指導のポイントは?
 67. 高血圧の人への指導のポイントは?
 68. 妊娠中と産後の体重コントロールの指導は?
 69. 通信指導はどのように行うか

 資料1〜15
 参考文献
 索引