やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 2000年8月の厚生労働省の発表では,現在糖尿病患者さんは740万人とされ.さらに糖尿病の可能性が否定できない人が880万人おり,合わせると1,620万人の人が糖尿病の可能性があると推定されています.糖尿病の重要な合併症である糖尿病性腎症は,慢性腎不全による透析導入の原因疾患として1998年より第1位であり,2004年の透析医学会の報告では,年間13,620人の糖尿病患者さんが透析治療に新規導入されています.糖尿病自体に対してはもちろん,その合併症の一つである糖尿病性腎症に対しても,各病期を通じて最新かつ正確な知識に基づくきめ細やかな治療と患者指導が必要です.
 糖尿病診療にあたっては医師の診療のみならず,看護師,栄養士,薬剤師,ソーシャルワーカーなどコメディカルスタッフによるチーム医療が非常に大事です.まず,糖尿病という病気そのものに深い理解をもち,その治療や指導の仕方を十分に習得することが大切です.さらに糖尿病性腎症については発症原因と発症防止,腎症進展防止,保存期腎不全期の対策,透析治療期の注意点などをさらに学び,正確な患者指導ができることが実践的といえます.
 本書では日常業務に即して,糖尿病と糖尿病性腎症の全体像について容易かつ確実に習得できるように企画しました.コメディカルスタッフが日常の患者教育や指導においてしばしば遭遇する,あるいは苦労している諸問題を101問の質問に厳選し,症状・所見を具体的に提示して,専門医に回答していただきました.それぞれ見開き2頁で,4つの方法で回答し説明しています.(1)質問につき,判断と対処の仕方をわかりやすく“回答“し,(2)その回答の背景になっている基礎的あるいは周辺知識を“解説”し,(3)回答と解説の“エビデンス“を示して知識が深く掘り下げられるようにし,(4)最後に,重要点のまとめと,適切な対処法などを“アドバイス”にしました.いずれの質問も,患者指導,患者教育,日常の診療に即した実際的なものであり,直ちに実践できる具体的なものとしております.
 本書は最初から通読することはもとより,疑問点に沿って,その項目のページを読み進んでいただくこともよいのではないかと考えます.看護師,栄養士,薬剤師,ソーシャルワーカー,臨床工学士に必要な知識のみならず,医療現場での医師にも十分に役立つ,最新の情報を含んでいる内容と考えます.本書の内容がコメディカルスタッフの日常臨床,患者指導,患者教育に役に立ち,患者さんの治療とQOLの向上に大きく貢献できればと願っております.
 平成17年4月
 編者
■糖尿病一般
  1.糖尿病の分類(成因)
  2.糖尿病の分類(病期)
  3.糖尿病の診断
  4.糖尿病の病態―インスリン分泌と抵抗性
  5.血糖コントロールの評価
  6.1型糖尿病,2型糖尿病以外の糖尿病
  7.糖尿病合併症一般
  8.糖尿病の治療 1)食事療法
  9.糖尿病の治療 2)運動療法の効果の医学的根拠
  10.糖尿病の治療 3)運動療法の実際
  11.糖尿病の治療 4)経口血糖降下薬 スルホニル尿素薬
  12.糖尿病の治療 5)経口血糖降下薬 ビグアナイド薬
  13.糖尿病の治療 6)経口血糖降下薬 αグルコシダーゼ阻害薬,インスリン抵抗性改善薬
  14.糖尿病の治療 7)インスリン治療 適応と方法
  15.糖尿病の治療 8)インスリン治療 インスリン製剤の種類
  16.糖尿病の治療 9)インスリン治療ペン型インスリン製剤の種類
  17.糖尿病の治療 10)インスリン治療 インスリン注射の実際と血糖自己測定
  18.シックデイ対策
  19.外科手術時の血糖コントロール
  20.献立作成上の問題点,食品交換表の活用
  21.アルコールと食事療法
  22.清涼飲料水症候群
  23.妊娠時の血糖コントロール
  24.スルホニル尿素薬の二次無効
  25.糖尿病性昏睡―ケトアシドーシス
  26.糖尿病の意識障害 1)非ケトン性高浸透圧性昏睡
  27.糖尿病の意識障害 2)低血糖性昏睡
  28.糖尿病網膜症
  29.血糖コントロールと糖尿病網膜症
  30.糖尿病性神経障害
  31.特殊な糖尿病性神経障害 1)勃起障害
  32.特殊な糖尿病性神経障害 2)膀胱機能障害
  33.糖尿病と動脈硬化症
■糖尿病性腎症
 ●腎症前期(第1期)
  34.糖尿病性腎症の病期分類
  35.糖尿病性腎症にならないために気をつけること
  36.糖尿病性腎症にならないための予防策
  37.糖尿病性腎症と高血圧の治療
  38.糖尿病性腎症の遺伝素因はあるか
  39.糖尿病性腎症はどのように発症,進展するか
  40.糖尿病性腎症の病理
 ●早期腎症期(第2期)
  41.糖尿病性腎症の早期診断
  42.腎機能検査
  43.尿中アルブミンの意義
  44.高血圧治療の原則と変換酵素阻害薬の腎保護作用
  45.カルシウム拮抗薬の位置づけ
  46.喫煙と糖尿病性腎症の発症・進展
  47.高脂血症の治療の有用性
 ●顕性腎症期(第3期)
  48.糖尿病性腎症のpoint of no returnとは何か,またそれはどこか
  49.糖尿病性腎症の症状
  50.腎機能検査値の見方
  51.顕性腎症期患者の治療の基本
  52.低蛋白食療法
  53.運動療法
  54.糖尿病性腎症によるネフローゼの治療,浮腫のコントロール
  55.糖尿病性腎症における腎炎の合併と腎生検の適応
 ●腎不全期(第4期)
  56.糖尿病患者の腎不全の進行危険因子
  57.腎不全期の糖代謝
  58.腎不全期の血糖コントロール指標
  59.腎不全期における血糖コントロール 1)経口血糖降下薬の使い方
  60.腎不全期における血糖コントロール 2)インスリン治療
  61.腎不全期における運動療法と運動制限,安静度
  62.腎不全患者の高血圧の治療
  63.糖尿病性腎症の腎性貧血の治療
  64.経口吸着薬療法の意義
  65.低蛋白食とその効果
  66.低蛋白食の具体的方法
  67.糖尿病性腎症の高K血症
  68.糖尿病性腎症・腎不全の浮腫
  69.糖尿病性腎不全患者の透析導入時の特徴
  70.ECUM治療や間欠的透析
  71.糖尿病患者の内服薬減量 1)降圧薬,高脂血症用薬
  72.糖尿病患者の内服薬減量 2)抗菌薬
  73.糖尿病性腎症患者の造影剤の使い方
  74.抗凝固薬の有効性
  75.糖尿病性腎症・腎不全の合併症
  76.腎不全患者の動脈硬化症の評価と治療
  77.糖尿病性腎症・腎不全と虚血性心疾患
  78.糖尿病性腎症と脳血管障害
  79.糖尿病性腎症での末梢血管障害と神経障害
  80.糖尿病性腎症と足壊疽およびフットケア
  81.糖尿病性腎症と栄養障害
  82.糖尿病専門医から腎臓病専門医への紹介
 ●透析期
  83.糖尿病透析患者の食事療法の特徴
  84.透析導入基準―糖尿病性腎不全の特徴
  85.糖尿病性腎症による透析導入時の問題点
  86.末期腎不全と尿毒症
  87.至適透析
  88.ブラッドアクセス
  89.糖尿病透析患者の予後に影響する因子
  90.透析導入による食事療法の変化
  91.糖尿病透析患者の体液管理
  92.糖尿病透析患者の網膜症
  93.糖尿病透析患者の脂質代謝異常
  94.血糖コントロールの重要性
  95.CAPDの血糖コントロール
  96.糖尿病透析患者の腎性骨症の特徴,PTHの測定法
  97.糖尿病透析患者の心機能障害と進行機序
  98.糖尿病透析患者の神経障害
  99.栄養障害と過栄養
  100.糖尿病透析患者の腎移植
  101.糖尿病透析患者の膵腎同時移植