やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第4版の序文
 今日ほど,食生活について多くの関心が寄せられている時代はないのではないかと思われる.その内容は,果たして正しいものばかりでないようにも見受けられる.だからこそ,正しい知識の習得の必要性が要求されるのではなかろうか.それは,子どもの食生活についても同様であろう.
 さて,厚生労働省は,国民の健康づくりの方向として「健康日本21」を提示し,さらに母子保健に関しても「健やか親子21」を策定した.昨今は,これらの見直しの時期にもなった.また,近年,「食育」の活動にも力を入れている.これらの策定内容を検討すると,成人においても子どもにおいても,その栄養,食生活の占める比重は決して小さいものではないことがわかる.子どもの時の食生活は,子どもの時の健康にとって不可欠なことであるには違いないが,そのあとに続く成人期,高齢期の生活と健康にも重要な意味をもつことを十分に理解してほしい.さらに,子どもの食生活は,心の健康,社会生活にも重大な影響を及ぼすことに注目したい.特に,食べることに関連する精神保健面の問題が目立って多発し,加えて,児童虐待が大きな社会問題になって久しい.われわれが,子どもの食生活の問題を考えるときには,これらのこともしっかりと留意しておく必要がある.このように,子どもの食生活は,子どもをめぐる多くの問題への対応を推進するためにも非常に重要な位置付けにあることがわかる.
 本書も第4版として重版することになった.今回の改版はいうまでもなく,栄養学的,保健学的,さらに社会的観点での新しい方向性を提示することにある.その最重点は,定期的に改定されていた国民の栄養摂取量の提示法が変更されたことである.これまで使われてきた「栄養所要量」は「食事摂取基準」に変わり,ここでも,今日の健康に関わる「意識」が的確に活かされているといえるのではなかろうか.この点の詳しい内容については,当然のことながら,本書にも記述されており,しっかりと学んで頂きたい.子どもであろうと,成人であろうと,食生活は心身の健康と密接な関係があることは,改めていわなくてもよいことであるが,両刃の剣としての存在であることも認識しておかねばならないことである.今回の「食事摂取基準」という考えは,健康増進,疾病予防の概念に基づいている.このことは,小児栄養の基本であり,保健活動の原点でもある.この考えは,これまで本書での基本的概念でもあったが,これからも貫いていく所存である.
 2005年3月
 執筆者一同

追記
 第4版第6刷(増補)において,「日本人の食事摂取基準(2010年版)」と,それに伴う加筆・修正を行い,内容の充実を図った.
 2011年1月
 執筆者一同

第3版の序文
 21世紀を迎え,厚生労働省は,国民の新しい健康づくりの方針を示した「健康日本21」を提示し,健康増進法(平成14年)を制定した.さらに,21世紀の母子保健の方向性を示すものとして,「健やか親子21」を策定し,国民の総力を挙げてこれらの活動を推進している.このことは,健康にとって食生活が重要な位置付けになっていることを示している.しかし,「幼児健康度調査」(社団法人日本小児保健協会が2000年の乳幼児身体発育調査実施時に行った)の結果にも現れているように今日の小児期の食生活には,好ましくないものが多くみられる.特に,小児期の栄養素等の摂取や食生活は,将来,おとなや老人になったときの健康状態と生活行動に対して非常に大きな影響を及ぼしている.このような状況下では,子どもの現時点の健康問題だけでなく,将来の日本人の健康に多くの問題が残ることも多くの識者によって指摘されている.また,「健康日本21」の第一目標である,生活習慣病を予防し健康寿命の延長を図ろうという観点からは程遠い実態にあることも明確である.その意味からも,子どもの食生活を好ましいものに方向転換させる必要がある.近年は,子どもの心の健康づくりの必要性も強調されている.食生活は,子どもの身体の健康にとって重要な役割を果たすと同時に,子どもの心の健康にも重大な影響を及ぼす.このような視点からいえば,適切な食生活の実践は,心の健康の保持増進に大いに貢献し,「健やか親子21」の推進においても,重要な位置付けにあることを示している.
 本書の出版に際し,われわれは,今日の子どもの食生活の改善と適切な栄養素等の摂取を図ることは,子どもの周囲にいるおとなの責務であると認識してもらうことを懇願している.そのため,われわれは,常に,新しい方向性と可能性を追求し,努力しているつもりである.
 本書も版を重ねて第3版を発刊することができるようになった.この版では,二つの目的をもっている.一つは,時代の条件に応じた子どもの適切な栄養と食生活の方向性を示すこと,もう一つは,保育士養成課程の教科内容の改正に伴って,それに応じた整合性を図るものである.すなわち,小児栄養の教科目においては,講義と演習という時間設定になり,これに準じた内容にして,新たに小児栄養を学ぶ人達に提供することにした.演習の項には,献立例をも提示することによって演習の幅を広めることができるように配慮した.しかし,本書だけで,完全な小児栄養の知識が修得できるはずはなく,各自の多角的な研鑚が不可欠であることは認識しておいていただきたい.
 2003年2月吉日
 執筆者一同

序文
 人は,適切に食べることによって,健康が保持され,増進される.それは,小児期においても同様である.しかし,一口に小児期といっても,出生前から乳幼児,学齢期,さらに思春期といったように,その時期に応じ適切に食べることが期待される.とくに,小児期の特性は発育発達であり,それを基盤にして適切に食べることが必要とされる.さらに,小児期においては,小児自らの能力だけでは適切に食べることが必ずしも可能ではない.そこに「おとな」の力が必要となる.ということは,小児の食生活は,小児自身の能力に加えた「おとな」の働きによるところが大きく,小児の食生活は子育てのなかの大きな位置を占めていることを意味している.
 本書は,小児の食生活についての知識と技術を習得するために役立てて頂くわけであるが,単に,食生活の知識と技術だけが述べられるのではない.食生活の基盤となっている子育てとの関係,とくに生活全般のなかで,子どもにいかに適切に食べさせることができるかを習得できるように期待している.
 食生活は,生活習慣の形成の原点ともいえる.適切に食べることは,望ましい生活習慣の形成に大きくかかわっている.厚生省の検討会が,あえて先のような意見を述べているのは,不適切な食べ方があまりにも多いからである.それも21世紀に向けての提言としていることは,食生活に時代の条件が強く反映しているためである.今日の小児各期においてみられる事象が,小児にとって望ましい状態にあるとはいえないことを示しているともいえる.それを早い時期から予防しておくことが大切である.
 食生活は,小児の健康にとっては両刃の剣である.望ましい切れ味と望ましくない切れ方がみられるといってもよかろう.その望ましくない切れ方をしている刃の方を,できるだけ用いないで,もしどうしてもその刃の方になる危険性があるときには,そのよくない影響を少しでも減らすように心がける態度が,小児期の食生活に携わるもの,別の言い方をすれば,子育てに関与する「おとな」の義務ということになる.繰り返すようであるが,その意図で本書を活用して頂けることを希望したい.
 そして,「おとな」とは,親や家族であり,保育や教育に関与する人材・職種であり,さらに行政で小児に貢献しようとする人材・職種であることをつけ加えておきたい.
 執筆者一同
・第4版の序文
・第3版の序文
・序文

第1章 小児期の栄養と食生活の意義
 1-小児期の特徴
  1)小児の区分  2)小児の特徴
 2-小児期の栄養と食生活の意義
  1)小児期の栄養と意義  2)小児の食生活
 3-健康づくりと食生活
 4-社会と食事・食生活
第2章 発育発達の基本的理解
 1-発育発達と小児の食生活
  1)発育発達の意義  2)発育発達と食生活
 2-身体発育と栄養
  1)身体発育の概観  2)発育に影響する因子
 3-食生活にかかわる臓器とその発育発達
  1)食べることにかかわる臓器とその作用  2)食べることにかかわる摂食機能  3)排泄機能
 4-栄養状態の評価
  1)栄養状態の評価の意義  2)評価の方法  3)評価の実際  4)心の面の評価
 5-発達と“食”との基本―心の発達との関連における
  1)小児にとっての“食“  2)乳児にとっての“食”  3)幼児にとっての“食“  4)学童にとっての“食”  5)思春期の小児にとっての“食”
第3章 栄養と食事の基礎知識
 1-栄養素とその機能(栄養素,代謝)
  1)栄養の考え方  2)栄養素の種類と機能  3)消化・吸収  4)栄養素の代謝  5)エネルギー代謝
 2-食事摂取基準とその活用
  1)食事摂取基準とは  2)策定された栄養素等の種類と指標  3)食事摂取基準の用途  4)食事摂取基準策定の要点
 3-食品と栄養学的意義
  1)食品の選択  2)食品の構成
 4-献立の作成
 5-成人女性の献立例
第4章 妊娠・授乳期における栄養と食生活
 1-妊娠の成り立ちと妊娠に伴う母体の変化
 2-妊娠・授乳期における栄養の重要性
 3-妊娠期における栄養管理
  1)日常の栄養・食生活などの見直し  2)食事摂取基準と食品構成
 4-妊娠にみられる各種症状の予防と対策
  1)つわり  2)貧血  3)過剰体重増加  4)妊娠糖尿病  5)妊娠高血圧症候群
 5-授乳期における栄養・食生活
  1)授乳期の栄養・食生活の重要性  2)食事摂取基準と食品構成  3)授乳期における食生活の問題
 6-妊娠・授乳期の献立例
第5章 乳児期の栄養と食生活
 1-乳児期の栄養と食生活の特性
  1)発育発達との関連  2)食物の消化・吸収との関連  3)疾病との関連  4)摂食行動の発達との関連  5)幼児期における食生活の基礎づくりとの関連
 2-乳汁期栄養
  1)母乳栄養  2)人工栄養  3)混合栄養
 3-離乳の準備/果汁・スープの開始
 4-離乳期栄養
  1)離乳の必要性と離乳食の役割  2)離乳の進め方の指針/改定「離乳の基本」  3)離乳各期における具体的な進め方  4)離乳各期における食品の使い方  5)離乳食調理・献立  6)離乳各期における食事の目安  7)ベビーフードについて  8)離乳食の受け入れ方
 5-乳児期栄養の問題
  1)アトピー性皮膚炎と除去食  2)乳汁と離乳食のアンバランス  3)間食供与の低年齢化  4)鉄不足  5)授乳・食事時刻の乱れ  6)電解質飲料・果汁飲料の多飲  7)咀嚼能力の基礎づくり
 6-離乳期の献立例
第6章 幼児期の栄養と食生活
 1-幼児期の栄養と食生活の特性
  1)身体発育  2)消化機能と咀嚼能力  3)摂食行動  4)運動機能と精神発達
 2-幼児期の栄養
  1)食事摂取基準  2)食品構成  3)1食の組み合わせ
 3-間 食
  1)幼児期における間食  2)間食の基本  3)間食の問題
 4-幼児期における気になる食事行動
  1)遊び食べ  2)むら食い  3)偏食  4)食べるのに時間がかかる  5)小食  6)よく噛まない
 5-幼児期の食生活における問題
  1)欠食(朝食ぬき)  2)孤食
 6-幼児期の献立例
第7章 学童期・思春期の栄養と食生活
 1-学童期・思春期の特徴と食生活
  1)学童期と思春期の定義  2)身体の特徴  3)精神的特徴  4)食生活の特徴
 2-学校給食
  1)目的と意義  2)学校給食の指導と栄養教育  3)学校給食の実際  4)衛生管理
 3-学童期・思春期の食生活の問題
  1)食事のとり方  2)心と健康の関係  3)身体的問題
 4-学童期・思春期の献立例
第8章 病気のときの栄養と食生活
 1-小児期の病気と食生活
  1)病気と食生活  2)健康と食生活  3)小児期の病気の特徴  4)食事療法
 2-主な症状と食生活
  1)食欲不振  2)肥満  3)やせ  4)発熱  5)嘔吐  6)下痢  7)便秘  8)腹痛  9)口腔の異常  10)アレルギー  11)貧血
第9章 障害のある小児の食事と食生活
 1-障害児の食生活の特徴
  1)障害児の特徴  2)摂食機能の発達と食物の役割  3)摂食機能の発達と障害  4)摂食機能の障害に関与する要因
 2-障害児の食生活の実際
  1)摂食機能の発達  2)摂食機能の発達段階に応じた調理形態の基本
 3-障害児の献立例
第10章 児童福祉施設の栄養と食生活
 1-児童福祉施設の給食
 2-児童福祉施設における食事の役割
  1)栄養補給  2)食習慣のしつけ  3)栄養教育(食育)  4)情操教育
 3-児童福祉施設の給食の実際
  1)給与栄養量  2)年齢別食品構成  3)献立  4)調理,盛りつけ,検食
 4-保育所給食の実際
  1)保育所給食の利点  2)保育所給食の課題  3)入所に際しての準備  4)食事計画  5)給食の進め方
 5-保育所給食の献立例
 6-乳児院の給食
  1)調乳  2)集団離乳  3)1〜2歳児食
 7-児童福祉施設における給食の評価
第11章 栄養教育
 1-栄養教育の目的
 2-「食育基本法」の成立・施行
 3-栄養教育の基本
 4-栄養教育の実際
  1)対象の栄養・食生活に関する問題把握  2)問題の整理と教育目標の設定  3)栄養教育の計画……219  4)栄養教育の原則  5)教育媒体の活用  6)実施  7)評価  8)「食育ガイド」(厚生労働省)

・索引