謝辞
以下の方々をはじめ,多くの方々に感謝の意を表します.
インクウェル・マネジメント,LLCのデイビッド・ヘール氏(David Hale Smith)は当初より代理人として私たちの活動を支えてくれました.彼の同僚であるナオミ・アイゼンバイス氏(Naomi Eisenbeiss)には細部に至るまで迅速に対応していただきました.
セント・マーティンズ・プレスの元編集者ジェニファー・ワイズ氏(Jennifer Weis)からは熱いビジョンを,編集チーム,特にセント・マーティンズ・パブリッシング・グループのアシスタントエディター,サリー・ロッツ氏(Sallie Lotz)からは丁重なご指導をいただきました.
トレイシー・ティルカ氏(Tracy Tylka,PhD)はインテュイティブ・イーティングを検証するためのアセスメントスケールを開発してくれました.
デブ・バーガード氏(Deb Burgard,PhD,FAED)からは鋭くも思いやりのあるフィードバックをいただきました.
以下の研究者の方々は洞察に基づく助言とツールを提供してくれました:
クリスティン・ネフ氏(Kristin Neff,PhD),リンド・ベーコン氏(Lindo Bacon,PhD),カール・ラヴィー氏(Carl Lavie,MD),キャサリン・クック・コトーン氏(Catherine Cook-Cottone,PhD),ジャネット・ポリヴィ氏(Janet Polivy,PhD),C.ピーター・ハーマン氏(C.Peter Herman,PhD),エレン・サッター氏(Ellen Satter,MS,RDN,MSSW),スージー・オルバック氏(Susie Ohrbach),ジェーン・ハーシマン氏(Jane Hirschmann,PhD),キャロル・マンター氏(Carol Munter),ローレル・メリン氏(Laurel Mellin,PhD),レイチェル・カルゲロ氏(Rachel Calogero,PhD),ダイアン・ニューマーク・スツィナー氏(Diane Neumark-Sztainer,PhD,MPH,RD),トレイシー・マン氏(Traci Mann,PhD),リアン・バーチ氏(Leann Birch,PhD),シンシア・プライス氏(Cynthia Price,PhD,MA,LMT).
以下のコミュニティはインテュイティブ・イーティングを支持してくれています:
Health at Every Size,インテュイティブ・イーティングの認定カウンセラーおよびファシリテーター,インテュイティブ・イーティング・オンラインコミュニティ,Instagramの#IntuitiveEatingVillageと#IntuitiveEatingOfficial, そしてEDRD Pro(Eating Disorder Registered Dietitians and Professionals)コミュニティ.
妻のアーリーン・ドレイク(Arlene Drake,PhD,LMFT)は忍耐強く,そして温かく支援と助言を与え続けてくれました(ER).
メディテーションの先生,ダニエル・ブラウン氏(Daniel P.Brown,PhD)は,深い洞察で私を導いてくれました(ET).
セラピストのエレン・レドリー氏(Ellen Ledley,LCSW)は私を理解してくれ,そしてたくさんの学びを与えてくれました(ER).
クリシー・ロレッター氏(Chrissy Roletter)は,インテュイティブ・イーティングを広めるためのマーケティングビジョンを描いてくれました(ET).
長年支えてくれている最愛の友人,カレン・フリーマン氏(Karen Freeman,MS,RDN,CSSD)には,本企画でも多大なサポートをいただきました(ER).
ライアン・シー氏(Ryan Seay,PhD)とリサ・デュ・ブリュール氏(Lisa Du Breuil,LICSW)からは適切な助言をいただきました(ET).
同僚のシャジー・シャバティアン氏(Shazi Shabatian,MS,RDN)と私が顧問を務める専門職グループのメンバーたちからは,さまざまな意見や励ましをいただきました(ER).
サマンサ・マレン氏(Samantha Mullen)からはインテュイティブ・イーティングに関するすべての企画で信頼できるサポートを,グレタ・ジャービス氏(Greta Jarvis,MS)からはソーシャルメディアに関するサポートをいただきました(ET).
私たちの家族と友人たちの惜しみない理解があったからこそ,この本を完成させる自由を得ることができました.
そして最後に,私たちの取り組みの光を次の世代へとつないでくれる優れたインテュイティブ・イーティングの専門家たちに感謝します.
序文
「この〈脳〉の統合的な機能は,かつては“純粋に論理的”な思考様式であると考えられていた推論が,実際には身体の非合理的な処理に依存していることを明らかにしている.」
─ダニエル・J・シーゲル,Mindsight,2010
『Intuitive Eating』は,1995年に初版を発行して以来,長年にわたり数十万人の方々に読み続けられてきました.多くの読者は本書を読む中で,まさに“腑に落ちる“感覚を味わい,「私のことが書かれているみたい」,「どうして私が感じていることがわかったの?」,「やっと誰かにわかってもらえた」という手紙やメールをたくさん送ってくれました.その一方で,インテュイティブ・イーティングが本当に意味しているものは何なのかと尋ねてくる人もいます.私たちはただ本能に突き動かされているだけなのでしょうか? いつ何をどのくらい食べればよいのかをただ“把握している”というだけなのでしょうか? ここでは,第4版を紹介するにあたり,インテュイティブ・イーティングとは何かについてできるだけわかりやすく疑問にお答えしたいと思います.
人間の脳の仕組みを少し知ることで,私たちがなぜ生まれながらにしてインテュイティブ・イーター(Intuitive Eater)に必要な知恵(叡智,wisdom)を持っているのかを理解することができるでしょう.さらに,自然食品から加工食品まで日々無数の選択肢にさらされ,執拗なダイエットのメッセージを浴びながらも,なぜインテュイティブ・イーティングを生活の中で実践できるのかが見えてくるはずです.
人間は本能と感情,そして思考のダイナミックな連動を体験することのできる特権を持つ生き物です.本能・感情・思考は,生命を統制するために脳を介して協働します.マインドフルネスの専門家である精神科医のダニエル・シーゲル博士は,この過程を「マインドサイト(mindsight)」と呼んでいます.これらの強力な統合を司っているのは,脳の3つの領域です.
一つ目の領域は「爬虫類脳」とも呼ばれます.理性も感情もなく,完全に本能を頼りに行動していた原始爬虫類の時代に中心的役割を果たしていた領域だからです.そこから生物が進化するとともに,「大脳辺縁系」と呼ばれる新たなレベルの脳機能が発達し,哺乳類もそれを持つようになりました.感情や社会的行動はここから生まれます.大脳辺縁系では,爬虫類脳の本能の上に感情が重ねられます.爬虫類脳から発した本能が大脳辺縁系に届き,そこで意識が広がります(Levine 1997).最後に,「理性脳(大脳新皮質)」と呼ばれる第三の鍵となる領域が進化しました.理性脳は,他の2つの脳領域から来る本能と感情を統合しています.理性脳は本能をコントロールしているわけではなく,本能や感情を認識して,それらについて考える働きをしています.理性脳は思考と言語を生み出します.
インテュイティブ・イーティングには,これらの脳の3つの領域すべてがかかわっています.乳幼児期には食べることはほとんど本能的な行為ですが,成長するにつれて思考や感情が食べることの決定にかかわるようになります.私たちがクライアントによく伝えているのは,「私たちの身体は舌や胃だけではなく,脳も含めて構成されている」ということです.しばしば聞かれる言葉として,「インテュイティブ・イーティングでは何を食べてもいいと思い,好きなものを好きなときに好きなだけ食べている」というものがあります.しかし,これはインテュイティブ・イーティングの前提を間違って解釈しています.食べ物を悪者扱いすることをやめ,味覚を満足させるものを食べることは問題ありません.無条件に食べる自由を自らに与え,身体が満足するのに必要なだけ食べるべきです.しかし,空腹感と満腹感を無視して食べると,あまり満足感が得られないばかりか,身体的な不快感を招く可能性もあります.身体が満足したことを示す合図との調和は,インテュイティブ・イーティングのプロセスの重要な要素です.
また,インテュイティブ・イーターとして,身体の一部である脳を尊重することも重要です.インテュイティブ・イーティングの原則を実践していくと,脳の中にある記憶の“ファイル”に情報が保存されていきます.お腹が空いたときは,これらのファイルを開いて何を食べるかを決定します.どの程度空腹を感じているのかを評価し,何を食べたら空腹感と味覚が満たされるのかを検討します.さまざまな食べ物の味覚や食感,温度などの一連の感覚をイメージしたり,ファイルを開いて過去の食体験を振り返ったりすることもできます.以前食べたときに良い結果に結びついたのか,例えば,腹持ちはどうだったのか,血糖値の急激な変動や消化不良はなかったか,存分に味わえたのか,また食べたいと思ったのかなどを自分自身に尋ねてみるのです.さらに,食べたいという欲求の背後に感情がかかわっている場合もあります.気分が落ち込んで食べ物で慰めようとしている,あるいは食べて退屈を紛らわせようとしているのかもしれません.このような可能性を考慮することも,何を食べるか,また本当に食べるかどうかの判断に必要な情報を与えてくれます.
インテュイティブ・イーティングを取り戻す旅の始まりには,おそらく空腹感や満腹感,満足感,思考,感情を過剰に意識することになるでしょう.脳を舌や胃に調和させていく必要があります.自分の内なるシグナルをうまく認識できるようになると,本能的で直観的な知恵が食体験においてより重要な役割を果たすようになります.つまり,インテュイティブ・イーティングとは,爬虫類的な本能や,大脳辺縁系と感情とのつながり,理性的な思考など,脳のあらゆる領域を活用することで,これら必要な情報すべてを得ることができると信頼することなのです.
初版が出版されてからすでに25年が過ぎたとは信じがたく,月日が経つのは早いものですが,この期間にたくさんの学びを得ることができました.世界中のさまざまな国から,数え切れないくらいの電話やEメール,ソーシャルメディアのメッセージ,手紙をいただきました.これらのコミュニケーションにより,私たちはこの本がなければ決して知りえなかった人々の人生に触れることができました.インテュイティブ・イーティングによって,食べ物や身体との関係性が修復され,人生が変わったというストーリーを聞いてきました.また,まだ始めたばかりで,対面や電話,オンラインで個別指導を受けたいという方々とも話をしてきました.この本を自分自身の回復のための踏み台として利用し,自力でそのプロセスを成功させた人たちからも感謝の言葉をいただいています.
インテュイティブ・イーティングに精通した栄養セラピストや,他の医療の専門家を紹介してほしいという要望も寄せられました.そのため,世界中で1,000人以上の専門家を育成し,認定カウンセラーやファシリテーターになってもらいました.その他,専門家のみならず学生や一般向けにも講演を行い,テレビに出演し,ラジオやポッドキャストのインタビューも受けてきました.新聞や雑誌,インターネットの記事でも取り上げられています.さらに,専門家の仲間たちから,大学の講義やワークショップ,セミナーの材料としてインテュイティブ・イーティングを使用したい,と許可を求められることもありました.
これらすべての経験は,私たちにとって非常に意義深いものでした.それまでオフィスや電話,オンラインで個別に行ってきた仕事を広げる機会となりました.本がなければ決して届けることができなかったであろう人たちにも,インテュイティブ・イーティングの哲学を広めることができたのです.
インテュイティブ・イーティングが,これほど多くの人々の人生に影響を与えられたことに感動を覚えています.最もよく聞かれるのは,長年ダイエットで失敗を繰り返して絶望していた人が,本書を読んで希望を持てるようになった,というものです.そして,彼らが食べることや身体の認識に対する自罰的で強迫的な思考をどうやって心から追い出したのかを聞いてきました.この心の整理により,ポジティブ思考や人生を真剣に変えようという決意の余地が生まれるのです.内なる声を尊重し,信頼するというプロセスへの取り組みが自信へとつながり,自尊心(自尊感情,self-esteem)を取り戻すことができたという報告もあります.インテュイティブ・イーティングを通して,常に心の中に存在はしていたものの,長年の自信喪失から働きを失っていた知恵を信頼することを学んだのです.生まれ持った食べることにかかわるシグナルを疑うことで,人生についての他の多くの信念までもが揺らいでしまっていたのです.
食べ物や身体に関する苦悩が解消されることで,虐待するパートナーと別れた,疎遠になっていた大事な人と復縁した,またはキャリアチェンジをしたという実例もあります.また,うまくいかないダイエットに必死で,自分の身体のことばかり気にしていたときには思いもしなかった恋愛が叶ったという人もいます.インテュイティブ・イーティングを通して,食べ物との苦痛な関係から生まれた自己不信や絶望と決別することで,人々は解放され,自分の人生を歩んでいくことができます(ただし,高体重の人は,インテュイティブ・イーターになった後でも差別に直面する可能性がなくならないことを考慮する必要があります).
本書はまた,私たち専門家の仲間の人生にも影響を与えました.学会に参加するたびに,この本を患者さんに渡すことができて感謝しているとの気持ちを栄養セラピストや心理療法士の方々が伝えてくれます.カウンセリングや授業,セミナーなどでのガイドブックとして重宝しているそうです.また私たち自身の仕事においても,患者さんにこの本を参考にしてもらうことで実践の貴重な助けとなることがわかりました.サポートが必要なときに,私たちが側にいるようだと言う人もいました.
第4版では,より多くの読者に読んでいただけるよう,また誰もが新たなツールを利用できるように,いくつかの項目を追加しています.まず,「インテュイティブ・イーターの育て方」の章では「赤ちゃん主導の離乳食(baby-led weaning:BLW)」のセクションを追加しました.そのねらいは,子どもたちが生まれながらに持っている,食べることにかかわる内なる知恵を,親が守ってあげられるように手助けをすることです.また,食体験にまつわる親子関係の亀裂を修復するためのアドバイスも提供しています.すべての子どもに生まれつき備わっているインテュイティブ・イーティングを生涯にわたり維持することができたら,なんて素晴らしいことでしょう!
次に,インテュイティブ・イーティングの効果を検証した研究に関する章を拡充しました.インテュイティブ・イーティングを考案した当初,何百もの研究から得られたエビデンスを検討し,私たちの臨床経験を踏まえて10の原則の基盤を作り上げました.このオリジナルコンセプトは,科学的根拠に基づくもの(より正確には科学的根拠から着想を得たもの)ですが,「研究によってインテュイティブ・イーティングの有効性が証明されている」ということとは少し異なりました.しかし,それも近年までは,の話です.
最初に本書を出版したときには,私たちのコンセプトがこれほど多くの研究を生み出すとは夢にも思っていませんでした.これは本当に素晴らしいことです.これまで,125以上の研究が発表され,現在進行中のものもあります.今回の改訂では,インテュイティブ・イーティングの基礎となる「内受容感覚への気づき」に関する興味深い研究を取り上げています.内受容感覚への気づきの基本的な定義は,身体の内部から生じる身体感覚を知覚する能力です.この身体感覚には,膀胱の伸展や心臓の拍動,空腹・満腹の合図などの身体の状態が含まれます.すべての感情は,それぞれ異なる手指の指紋のように,身体の中で独特の感覚として感じられます.内受容感覚への気づきを通して身体の声に耳を傾けることで,生物学的・心理的なニーズを満たすための貴重な情報を得ることができます.つまり,私たちの欲求やニーズ,感情は,今ここにある身体の感覚を直接体験することとつながっているのです.インテュイティブ・イーティングの原則は,内受容感覚への気づきを高めるか,あるいはこの大事な能力を妨げるものを取り除くように作用します.妨げになるものは通常,心の中のルールや思い込み,考え方から来るものです.
私たちはインテュイティブ・イーティングのプロセスにおける原動力として,満足感の重要性に着目してきました.食べることに満足感を求めることが,本書に記載されたすべての原則に深く影響を与えるだけでなく,それらの原則が満足感を見出すことにどのように作用するかがおわかりいただけると思います.その他にも,全般的な更新が行われています.私たちは,特に数値に言及することが読み手に与える影響について留意してきました.その数値が体重や身長であれ,食事量や推奨量であれ,数値は比較することやネガティブな感情につながってしまうからです.そのため,できる限り数値は取り除きました.さらに,私たちの文化に根付く,有害な体重に対する差別や偏見(ウェイト・スティグマ)を助長するおそれのある体重に関する記載もほとんど削除しました.この問題は広範囲に及んでいるため,ダイエット・カルチャーとウェイト・スティグマについてのセクションを追加しました.意識してダイエットをしていない人にとっても,この問題がどれほどの影響力をもつのかを理解していただけると思います.
インテュイティブ・イーティングの道のりをサポートするツールや情報(インテュイティブ・イーティングのオンラインコミュニティ,一般向けや10代の若者向けのワークブックなど)は,新たに追加した「Resources資料」のセクションを参考にしてください.
付録(Appendix)の「Step-by-Stepガイドライン」は概略を簡単に整理したものですが,新旧の読者にとって有益と考え,今回も収載しています.初めて読む方は,まずは本文を読んでからガイドラインを参考にすることをお勧めします.すでにインテュイティブ・イーティングのプロセスを把握されている方は,復習や簡便な確認用として使用してください.あるいは,原則を一つずつ読んで,それぞれのステップに集中して取り組む際のガイドとして利用してもよいでしょう(原則の順番について:特定の原則に惹かれる場合には,必ずしも前から順番に読んでいく必要はありません.インテュイティブ・イーティングを身につけるための“正しい方法”は存在しません).どのような方法であっても,このガイドラインがインテュイティブ・イーティングの実践を手助けするツールになれば幸いです.
最後に,私たちがこれまで出会い,ともに取り組んできた多くの方々に感謝の意を表したいと思います.その回復の途上で私たちがサポートをさせていただいた一人ひとりが私たちの先生です.そのおかげで私たちはこの仕事を続け,そしてこの第4版を出版することができました.ここにお礼を申し上げます.
はじめに
ダイエットに挑むたびにマイレージが貯まるとしたら,月への往復旅行を手に入れる人も少なくないかもしれません.2023年までに,世界のダイエット産業は40兆円規模を突破する見込みとなり *,この金額は今後何世代にもわたる月旅行を資金援助できるほどのものです.ここで考えてみてください.愛車を定期的にメンテナンスに出し,手間とお金をかけたうえで車が動かなかったとしても,自分を責めることはないでしょう.しかし,ダイエットの95%が失敗するという事実があるにもかかわらず,私たちはその失敗をダイエットのせいにせず,自分自身を責めてしまいがちなのです.自分自身よりも愛車を大事にしているかのようです.ダイエットの失敗率がこれほど高いのに,ダイエットのプロセス自体に問題があると思わないほうが不思議ではないでしょうか?
*:肥満外科手術,ダイエット食品や商品,フィットネス器具,ジム,ダイエットプログラムを含む産業レポートより.
そもそも「ダイエットの失敗」とは何を意味するのでしょうか? 一般的には,リバウンドのことを指しているのでしょう(研究では,約3分の2の人がダイエット前の体重よりさらに増えることがわかっています).体重の減少でダイエットの失敗を定義づけようとすると,根本的な問題から目をそらすことになります.なぜ人々はこれほど体重を減らすことにこだわるのか? なぜ痩せた体型が太った体型よりも価値があるとされるのか? なぜ体重計の数字で自分の価値を決めようとするのか? ダイエットにおける真の失敗は,一人ひとり体のサイズや体型が違うこと,ありのままの身体に価値があることを認めず,ウェイト・スティグマを助長している点にあります.本書では,自分自身や自分の身体を責めるのをやめる手助けとなる情報や,個性や自分らしさを大切にできる新しいアイデアを紹介します.
私たち(エヴェリンとエリーズ)は開業当初,お互いのことを知りませんでしたが,それぞれがカウンセリングで驚くほど似たような経験をし,その方法を見直すことになりました.このことが私たちの実践方法を大きく変え,数年後に本書を執筆するきっかけとなりました.
私たちはそれぞれ独自にカウンセリングを実施していましたが,知らず知らずのうちに“体重管理の罠”にはまらないように心に決めていました.失敗を前提としたプロセスを患者さんに勧めたくなかったのです.しかし,減量を目的としたカウンセリングを避けたくても,医師たちは次々と患者さんを紹介してきました.多くの場合,血圧やコレステロール値が高く,疾患を問わず減量が治療の鍵になると考えられていました.私たちは患者さんを助けたいという想いから,通常とは異なる方法で取り組むという決意の下,減量の課題に着手しました.「私たちの患者は必ず成功する」,「成功する5%のグループに入る」と信じていたのです.当時はまだダイエットの失敗率や危険性を検証した論文も少なく,私たちは社会全体に浸透した体重への固執に疑問を抱くまでには至っていませんでした.
私たちは患者さん一人ひとりの好き嫌いやライフスタイル,ニーズに合わせて手の込んだ食事プランを作成しました.食事プランは,糖尿病や体重管理の用途で広く認められ,使用されている交換表を基にして作っていました.当時からダイエットは効果が低いことが知られていたため,患者さんには「これはダイエットではありません」と伝えていました.鶏肉やターキー,魚,赤身肉から選択することができたので,私たち自身もダイエットとは違うと信じたかったのです.ベーグルやマフィン,トーストも食べられるし,クッキーも一つなら許していました(5個はダメ!).空腹感に襲われることのないよう,低カロリーの“フリーフード”はいくら食べてもよいという考え方でした.食べたいものは罪悪感なく食べてよいことも伝えていました.そして,できるだけプラン通りにすれば,目標達成に近づけることもしっかり伝えていました.その結果,患者さんは,私たちに良い結果を報告したいために食事プランを忠実に守ってくれました.毎週のカウンセリングで体重測定を行い(今では絶対にしないことです!),ついには減量目標は達成されました.
しかし残念なことに,カウンセリングが終わってしばらくすると,患者さんたちからまた,どうしても私たちが必要だという電話がかかってくるようになりました.どういうわけか,また体重が増えてしまったのです.皆申し訳なさそうに再びカウンセリングに戻ってきました.彼らはすでにプランを守ることができなくなっていました.誰かに見守ってもらう必要があったのかもしれません.十分な自己管理ができなかったのかもしれません.もしかしたら,ただ向いていなかっただけで,罪悪感を感じ,やる気を失ってしまったのかもしれません.
患者さんたちは,“失敗“の責任をすべて自分だけのせいだと感じていました.私たちを信頼しており,減量へと導いてくれた“優秀な栄養士”の指導が悪いはずはなく,自分が悪いという結論に至ったのです.時間が経つにつれ,この方法には何らかの大きな問題があることが明らかになってきました.私たちが患者さんのためにと思っていたことが,患者さんが自分自身に抱いていた否定的で自己卑下的な考えを悪化させていたのです.自己管理できない,うまくいかないという思いが「自分が悪い」,「間違っている」という考えにつながり,罪悪感がどんどん膨らんでいきました.
この頃,私たち2人は,カウンセリングのあり方を見直すターニングポイントを迎えていました.論理的・栄養学的に正しいとされていても,このような感情的な混乱を招くことをこのまま続けるわけにはいきませんでした.その一方で,減量という患者さんの将来の健康にとって重要な治療をおろそかにするわけにもいきませんでした(私たちはそう考えるよう教育されてきました!).
こうした問題に悩まされる中,私たちはあらゆるダイエット法(管理栄養士が認めている方法も含む)から180度転換する方向性を示す文献や科学的研究を探し始めました.“アンチダイエット・アプローチ”によって道を開き,私たちを導いてくれた先生方には,ジェーン・R・ハーシュマン(Clinical Social Worker:CSW),キャロル・H・マンター,リラ・ザフィロポウロス(CSW),スージー・オーバック(PhD),ジャネット・ポリヴィ(PhD),ピーター・ハーマン(PhD),リアン・L・バーチ(PhD)らがいます.そのアプローチは,栄養については言及せず,すべての食べ物の選択を許容する方法でした.初めは,真っ向から否定はしないものの,懐疑的に受け止めていました.栄養と健康との関連をみるよう訓練された管理栄養士として,知識の根幹が否定されるような食べ方をすぐには受け入れられませんでした.
葛藤は続きました.これまで提供していた“健康的”な食事プランは人々をダイエット・カルチャーに縛り付け,絶望感さえ与えていました.しかし,1960〜80年代に流行した心理学の本で紹介されている「デマンド・フィーディング」[訳者注:赤ちゃんが欲しがるときに授乳する方法,または食べたいときに食べる方法]も不完全なように思えました.
最終的に私たちは,インテュイティブ・イーティングという10原則のプロセスを考案することで,この問題を解決しました.医療従事者の方々への注記:この葛藤は,体重中心の医療,つまり体重を健康の判断基準として用いるという教育を受けてきた専門家にとって,誰しもが経験する一般的なものであることがわかってきました.健康には何を食べるかだけでなく,食べ物とのかかわり方やメンタルヘルス,健康の社会的決定要因など,多くの要素が関係します.体重は行動そのものを表すわけではありません.一度学んだことを新たなものに置き換えることに最初は抵抗を覚えるかもしれませんが,この過程は誰しもが経験するものであることを知っておいてください.
本書は,勢いを増すアンチダイエットの潮流と健康コミュニティとをつなぐ架け橋となりました.ダイエットをすることなく,どのように食事制限の問題を解決し,栄養バランスのとれた食事を実現すればよいのか,その方法をこの本でお伝えしていきます.
クライアントの多くは厳格な食事プランに従うダイエットに疲れ,食べることに恐れを感じています.そして,自分の身体に対する不快感を抱きながらオフィスを訪れます.インテュイティブ・イーティングは,最終的には心にも体にも健康的な無理のない新しい食べ方を提供します.それはダイエットの縛りから解放されるプロセスであり(ダイエットは結局,欠乏感や反発,そしてリバウンドによる体重増加につながるだけです),自分の身体とそのシグナルを信頼するという本来の姿に立ち返ることを意味します.インテュイティブ・イーティングは,食べ物との関係だけでなく,人生そのものを好転させます.本書で紹介するクライアントたちは,初めは体重を減らしたいという目的で私たちの下にやって来ました.身体的にも感情的にもつらくて体重を減らさない限り問題は解決しないと信じ込んでいましたが,次第に“今ここ”の中に心地よさを見つけ,感謝の気持ちを感じられるようになりました.
私たちは,体重を減らしたいと願う人々を非難することはありません.それはあらゆる場所に根付いたダイエット・カルチャーの結果だからです.ダイエット・カルチャーは,ウェルビーイングよりも体重や外見に価値を置く信念やメッセージ,行動が社会的にシステム化されたものであり,残念ながらそれは一般化し,常態化してしまっています.ダイエット・カルチャーは痩せていることを健康や美徳と結びつけ,食べ物に善悪を作り出しました.会話や広告,ソーシャルメディアで痩せることに関連した情報に触れずに過ごすことは,たった1 日であっても困難です.また,医療従事者もダイエット・カルチャーの影響を受けないわけではありません.長期的に有効かつ持続可能で,害がないことを証明する研究がないにもかかわらず,必要以上のエネルギー制限や特定の食品群全体の摂取制限を勧める人もいます.悲しいことに,医療従事者がウェイト・スティグマの主な加害者の一人であることを示す研究結果も報告されています.
問題は,体重を減らすことに焦点を置くと,インテュイティブ・イーティングの身体からのシグナルと再びつながることができなくなることです.内発的な合図ではなく,決められた食事量やマクロ栄養素などの外在的な判断基準に目が向けられてしまいます(インテュイティブ・イーティングは内在的な働きなのです).そうではなく,食事からより多くの満足感を得たり,食べることや生活をより重視したり,日々の進歩に目を向けていくと,徐々に身体とのつながりが強まり,喜びや幸福感を感じられるようになります.
先へ進む前に一つ,伝えておきたいことがあります.本書は,痩せ体型を持つ2人のシスジェンダー(心と身体の性が一致している)の白人女性によって書かれており,私たちはそれぞれに認識している多くの特権に感謝を抱いています.私たちのいずれも,本書を読んでいる方の多くが経験しているかもしれない食料不安(food insecurity)やウェイト・スティグマに直面したことはありません.
この取り組みを進めるにあたっては,インテュイティブ・イーティングと,関連する専門的な問題(トラウマ,栄養療法,摂食障害,精神疾患などを含む)の両方について訓練を受けた専門家とともに進めることが大切です.ただし,このプロセスを学ぶために必要なリソースにアクセスできない人々がいるということも事実として受け止める必要があります.また,アクセスの妨げになっている要因をすべて把握できているわけでもありません.インテュイティブ・イーティングに取り組むことは,ある意味で特権とも言えます.
私たちは,多くの人が経験している苦しみがこの世界から消えることを願っています.そして,この世界をより良いものにするために,インテュイティブ・イーティングを体型を問わず必要としているすべての人が利用できるよう,今後も活動を続けていきたいと思います.インテュイティブ・イーティングは一つのツールであり,私たちはインクルーシブ社会を目指して学び続けています.
インテュイティブ・イーティングは,思いやりのあるセルフケアのための食べ方の枠組みであり,すべての身体を敬意と尊厳をもって扱います.
私たちは,一人ひとりとその身体との関係,そしてこの本を書いている私たちと読者との間に作られる関係をとても大切に考えています.そして,より良いものにするためのフィードバックを非常に貴重なものと受け止めています.
私たちのクライアントの人生が好転したように,インテュイティブ・イーティングが読者の皆さんの人生に大きな変化をもたらすことを願います.実際,私たちがこの本を書いていることを知ったクライアントたちは,具体的な転機となった体験を読者に共有してほしいと言ってくれました:
・「たとえむちゃ食いをしてしまっても,それを素晴らしい経験に変えられる可能性があります.なぜなら,そのおかげで自分の考えや感情について多くのことを学ぶことができるからです.」
・「食事中に空腹の状態を確認するためにいったん立ち止まることは,空腹でなければ食べてはいけないという意味ではないと伝えてください.それは“自動操縦”で食べていないかの確認作業であり,食べたければ食べてもよいのです.」
・「セッションに来るとき,まるで懺悔をしに来たような気分になってしまいます.それはきっと,減量目的で通院していたとき,体重を測られた後,自分の罪を打ち明けねばならなかったからです.それは私のせいではなく,自分の中に潜むフードポリスのせいでした.」
・「今は刑務所から出られたような気分です.自由になれて,ずっと食べ物のことばかり考えなくて済むようになりました.」
・「食べ物の魔法が解けたことを残念に思うときもあります.禁じられたものほどおいしいものはないからです.かつて味わっていたスリルを求めようとしてみましたが,人生の興奮はもはや食べることからは得られないのだとわかりました.」
・「自分に許可することで選択肢が生まれます.他人から言われたことではなく,自分の望むものに基づいて選択することで,自信が湧いてくるように感じます.」
・「過食をやめてすぐは落ち込んだりイライラしたりして,食べ物で嫌な感情をごまかしていたことに気づきました.しかも,良い感情までも抑え込んでいたのです.良い感情も悪い感情も感じられるほうが,何も感じられないよりもずっといいと思います.」
・「ダイエットや食べることで人生のつらさを乗り越えてきたことに気づいたとき,対処法として食べ物に頼るのをやめるには,生活の中のストレスを減らす必要があると思いました.」
・「空腹な日もあれば満腹に感じる日もあります.たまにたくさん食べてしまっても,計画に反した罪悪感を抱かずに済むことは,本当に素敵なことです.」
・「以前制限していた食べ物を目にすると,とても爽快な気持ちになります.自由に,そこにあって,私のものであるという感覚を感じられるからです.」
・「この本を書いてくれて本当に嬉しく思います.私のやっていることが説明できるようになりました.今確かなことは,この方法でうまくいったということだけです.」
・「ダイエット思考にとらわれたままでは,人生の本当の問題と向き合うことはできません.」
・「これまでの人生で一番,自分のことを大切にしている気がします.」
注記:私たちは,ジェンダーがスペクトラムであると認識しています.そのため,本書では,本人によってジェンダーが明確にされた特定の人物を指す場合を除き,ジェンダーに中立的な言葉や代名詞を使うことでジェンダーを包括しています.
訳者まえがき
健康のために何を食べるべきか,体型をどう維持するかに注意を払う一方,食べ物を口にすることで身体がどう感じるか,心は満たされるのかという視点を見失ってはいないでしょうか? 食べ物や身体との向き合い方を見直し,これまでのこだわりを手放すことで,心も体もより健康的になれる可能性があります.
かつて日本人が自然に行っていた心と体の両方を大切にする食習慣は,まさにインテュイティブ・イーティングの実践そのものだったと言えるかもしれません.しかし,現代では,食生活を取り巻く社会環境の変化から,コンビニエンスストアやファーストフード,インスタント食品などの利用も増え,忙しさに追われて食生活が乱れがちになっています.さらに,痩せた体型が理想とされる風潮が強まる中,“美容体重“や“シンデレラ体重”といった低めの体重を目指す女性が増えており,特に10〜30代の若い世代で痩せている人の割合が高いことが問題視されています.また,人と違うことが良しとされない同調圧力の下,自分の価値を容姿に置いてダイエットに励む人も増えている現状があります.
2020年に米国から日本へ帰国した当時,多くの人が,ダイエットは健康的で正しいことだと疑うことなく信じている姿に驚きました.米国には,日本と比較して大きな体型の人が多く,そして日本と同様,健康や美容のために痩せるべきだという社会的なプレッシャーが存在します.そのため,ダイエットに取り組む人も多く,中には無理なダイエットを繰り返し,その反動で過食衝動や摂食障害まで引き起こしてしまう人もいます.そうしたダイエットのさまざまな負の側面が明らかになるにつれ,「ダイエットは健康的」というイメージは崩れ始めています.その結果,医療の場などにおいても,肥満への偏見をなくす運動や心のケアに基づくウェルネスが重視されるようになってきています.
ロサンゼルスの急性期病院で栄養指導をしていた私は,一般的な栄養指導だけでは対応が難しい患者さんに直面するたびに,十分に力になれないもどかしさを感じていました.そんな中で出会ったのが,心を尊重しながら身体の声を聞く食事法「インテュイティブ・イーティング」でした.そして,本書やセミナーを通して学びを深め,実際にダイエットや体型に悩む方々とかかわる中で,この新しいアプローチの効果を目の当たりにしてきました.
日本人の多くは,メンタルヘルスなどの心の問題を他人に相談することに対し,「周りの人からどう思われるだろう」,「恥ずかしくて人には言えない」という強い抵抗感があります.そのため,悩み事があっても他人に相談できず,カウンセリングを受ける習慣もまだまだ一般的ではありません.その結果,無理なダイエットで心身に負担をかけてしまったり,不安やストレスで食べ過ぎてしまったり,食や体型に関する悩みを一人で抱え込んでしまう人が少なくありません.
このような状況の中,現在の日本においても,インテュイティブ・イーティングの助けを必要としている人がたくさんいると感じています.無理なダイエットや食生活の乱れに悩んでいる人,また,心に深刻な問題を抱えている方だけではなく,いつも体型のことを心配しながらスナック菓子に手を伸ばしている人,不安やストレスでつい食べ過ぎてしまう人など,多くの人たちにとってインテュイティブ・イーティングは,食べることをより満足できる体験へと変えるきっかけを与えてくれるはずです.さらに,日本の医療従事者や健康をサポートする専門家,そして一般の方にもインテュイティブ・イーティングの考え方やアプローチが広がり,多くの人々に心も体もより健康になってもらいたい! そんな想いで本書を翻訳させていただきました.
岡井麻悠子
以下の方々をはじめ,多くの方々に感謝の意を表します.
インクウェル・マネジメント,LLCのデイビッド・ヘール氏(David Hale Smith)は当初より代理人として私たちの活動を支えてくれました.彼の同僚であるナオミ・アイゼンバイス氏(Naomi Eisenbeiss)には細部に至るまで迅速に対応していただきました.
セント・マーティンズ・プレスの元編集者ジェニファー・ワイズ氏(Jennifer Weis)からは熱いビジョンを,編集チーム,特にセント・マーティンズ・パブリッシング・グループのアシスタントエディター,サリー・ロッツ氏(Sallie Lotz)からは丁重なご指導をいただきました.
トレイシー・ティルカ氏(Tracy Tylka,PhD)はインテュイティブ・イーティングを検証するためのアセスメントスケールを開発してくれました.
デブ・バーガード氏(Deb Burgard,PhD,FAED)からは鋭くも思いやりのあるフィードバックをいただきました.
以下の研究者の方々は洞察に基づく助言とツールを提供してくれました:
クリスティン・ネフ氏(Kristin Neff,PhD),リンド・ベーコン氏(Lindo Bacon,PhD),カール・ラヴィー氏(Carl Lavie,MD),キャサリン・クック・コトーン氏(Catherine Cook-Cottone,PhD),ジャネット・ポリヴィ氏(Janet Polivy,PhD),C.ピーター・ハーマン氏(C.Peter Herman,PhD),エレン・サッター氏(Ellen Satter,MS,RDN,MSSW),スージー・オルバック氏(Susie Ohrbach),ジェーン・ハーシマン氏(Jane Hirschmann,PhD),キャロル・マンター氏(Carol Munter),ローレル・メリン氏(Laurel Mellin,PhD),レイチェル・カルゲロ氏(Rachel Calogero,PhD),ダイアン・ニューマーク・スツィナー氏(Diane Neumark-Sztainer,PhD,MPH,RD),トレイシー・マン氏(Traci Mann,PhD),リアン・バーチ氏(Leann Birch,PhD),シンシア・プライス氏(Cynthia Price,PhD,MA,LMT).
以下のコミュニティはインテュイティブ・イーティングを支持してくれています:
Health at Every Size,インテュイティブ・イーティングの認定カウンセラーおよびファシリテーター,インテュイティブ・イーティング・オンラインコミュニティ,Instagramの#IntuitiveEatingVillageと#IntuitiveEatingOfficial, そしてEDRD Pro(Eating Disorder Registered Dietitians and Professionals)コミュニティ.
妻のアーリーン・ドレイク(Arlene Drake,PhD,LMFT)は忍耐強く,そして温かく支援と助言を与え続けてくれました(ER).
メディテーションの先生,ダニエル・ブラウン氏(Daniel P.Brown,PhD)は,深い洞察で私を導いてくれました(ET).
セラピストのエレン・レドリー氏(Ellen Ledley,LCSW)は私を理解してくれ,そしてたくさんの学びを与えてくれました(ER).
クリシー・ロレッター氏(Chrissy Roletter)は,インテュイティブ・イーティングを広めるためのマーケティングビジョンを描いてくれました(ET).
長年支えてくれている最愛の友人,カレン・フリーマン氏(Karen Freeman,MS,RDN,CSSD)には,本企画でも多大なサポートをいただきました(ER).
ライアン・シー氏(Ryan Seay,PhD)とリサ・デュ・ブリュール氏(Lisa Du Breuil,LICSW)からは適切な助言をいただきました(ET).
同僚のシャジー・シャバティアン氏(Shazi Shabatian,MS,RDN)と私が顧問を務める専門職グループのメンバーたちからは,さまざまな意見や励ましをいただきました(ER).
サマンサ・マレン氏(Samantha Mullen)からはインテュイティブ・イーティングに関するすべての企画で信頼できるサポートを,グレタ・ジャービス氏(Greta Jarvis,MS)からはソーシャルメディアに関するサポートをいただきました(ET).
私たちの家族と友人たちの惜しみない理解があったからこそ,この本を完成させる自由を得ることができました.
そして最後に,私たちの取り組みの光を次の世代へとつないでくれる優れたインテュイティブ・イーティングの専門家たちに感謝します.
序文
「この〈脳〉の統合的な機能は,かつては“純粋に論理的”な思考様式であると考えられていた推論が,実際には身体の非合理的な処理に依存していることを明らかにしている.」
─ダニエル・J・シーゲル,Mindsight,2010
『Intuitive Eating』は,1995年に初版を発行して以来,長年にわたり数十万人の方々に読み続けられてきました.多くの読者は本書を読む中で,まさに“腑に落ちる“感覚を味わい,「私のことが書かれているみたい」,「どうして私が感じていることがわかったの?」,「やっと誰かにわかってもらえた」という手紙やメールをたくさん送ってくれました.その一方で,インテュイティブ・イーティングが本当に意味しているものは何なのかと尋ねてくる人もいます.私たちはただ本能に突き動かされているだけなのでしょうか? いつ何をどのくらい食べればよいのかをただ“把握している”というだけなのでしょうか? ここでは,第4版を紹介するにあたり,インテュイティブ・イーティングとは何かについてできるだけわかりやすく疑問にお答えしたいと思います.
人間の脳の仕組みを少し知ることで,私たちがなぜ生まれながらにしてインテュイティブ・イーター(Intuitive Eater)に必要な知恵(叡智,wisdom)を持っているのかを理解することができるでしょう.さらに,自然食品から加工食品まで日々無数の選択肢にさらされ,執拗なダイエットのメッセージを浴びながらも,なぜインテュイティブ・イーティングを生活の中で実践できるのかが見えてくるはずです.
人間は本能と感情,そして思考のダイナミックな連動を体験することのできる特権を持つ生き物です.本能・感情・思考は,生命を統制するために脳を介して協働します.マインドフルネスの専門家である精神科医のダニエル・シーゲル博士は,この過程を「マインドサイト(mindsight)」と呼んでいます.これらの強力な統合を司っているのは,脳の3つの領域です.
一つ目の領域は「爬虫類脳」とも呼ばれます.理性も感情もなく,完全に本能を頼りに行動していた原始爬虫類の時代に中心的役割を果たしていた領域だからです.そこから生物が進化するとともに,「大脳辺縁系」と呼ばれる新たなレベルの脳機能が発達し,哺乳類もそれを持つようになりました.感情や社会的行動はここから生まれます.大脳辺縁系では,爬虫類脳の本能の上に感情が重ねられます.爬虫類脳から発した本能が大脳辺縁系に届き,そこで意識が広がります(Levine 1997).最後に,「理性脳(大脳新皮質)」と呼ばれる第三の鍵となる領域が進化しました.理性脳は,他の2つの脳領域から来る本能と感情を統合しています.理性脳は本能をコントロールしているわけではなく,本能や感情を認識して,それらについて考える働きをしています.理性脳は思考と言語を生み出します.
インテュイティブ・イーティングには,これらの脳の3つの領域すべてがかかわっています.乳幼児期には食べることはほとんど本能的な行為ですが,成長するにつれて思考や感情が食べることの決定にかかわるようになります.私たちがクライアントによく伝えているのは,「私たちの身体は舌や胃だけではなく,脳も含めて構成されている」ということです.しばしば聞かれる言葉として,「インテュイティブ・イーティングでは何を食べてもいいと思い,好きなものを好きなときに好きなだけ食べている」というものがあります.しかし,これはインテュイティブ・イーティングの前提を間違って解釈しています.食べ物を悪者扱いすることをやめ,味覚を満足させるものを食べることは問題ありません.無条件に食べる自由を自らに与え,身体が満足するのに必要なだけ食べるべきです.しかし,空腹感と満腹感を無視して食べると,あまり満足感が得られないばかりか,身体的な不快感を招く可能性もあります.身体が満足したことを示す合図との調和は,インテュイティブ・イーティングのプロセスの重要な要素です.
また,インテュイティブ・イーターとして,身体の一部である脳を尊重することも重要です.インテュイティブ・イーティングの原則を実践していくと,脳の中にある記憶の“ファイル”に情報が保存されていきます.お腹が空いたときは,これらのファイルを開いて何を食べるかを決定します.どの程度空腹を感じているのかを評価し,何を食べたら空腹感と味覚が満たされるのかを検討します.さまざまな食べ物の味覚や食感,温度などの一連の感覚をイメージしたり,ファイルを開いて過去の食体験を振り返ったりすることもできます.以前食べたときに良い結果に結びついたのか,例えば,腹持ちはどうだったのか,血糖値の急激な変動や消化不良はなかったか,存分に味わえたのか,また食べたいと思ったのかなどを自分自身に尋ねてみるのです.さらに,食べたいという欲求の背後に感情がかかわっている場合もあります.気分が落ち込んで食べ物で慰めようとしている,あるいは食べて退屈を紛らわせようとしているのかもしれません.このような可能性を考慮することも,何を食べるか,また本当に食べるかどうかの判断に必要な情報を与えてくれます.
インテュイティブ・イーティングを取り戻す旅の始まりには,おそらく空腹感や満腹感,満足感,思考,感情を過剰に意識することになるでしょう.脳を舌や胃に調和させていく必要があります.自分の内なるシグナルをうまく認識できるようになると,本能的で直観的な知恵が食体験においてより重要な役割を果たすようになります.つまり,インテュイティブ・イーティングとは,爬虫類的な本能や,大脳辺縁系と感情とのつながり,理性的な思考など,脳のあらゆる領域を活用することで,これら必要な情報すべてを得ることができると信頼することなのです.
初版が出版されてからすでに25年が過ぎたとは信じがたく,月日が経つのは早いものですが,この期間にたくさんの学びを得ることができました.世界中のさまざまな国から,数え切れないくらいの電話やEメール,ソーシャルメディアのメッセージ,手紙をいただきました.これらのコミュニケーションにより,私たちはこの本がなければ決して知りえなかった人々の人生に触れることができました.インテュイティブ・イーティングによって,食べ物や身体との関係性が修復され,人生が変わったというストーリーを聞いてきました.また,まだ始めたばかりで,対面や電話,オンラインで個別指導を受けたいという方々とも話をしてきました.この本を自分自身の回復のための踏み台として利用し,自力でそのプロセスを成功させた人たちからも感謝の言葉をいただいています.
インテュイティブ・イーティングに精通した栄養セラピストや,他の医療の専門家を紹介してほしいという要望も寄せられました.そのため,世界中で1,000人以上の専門家を育成し,認定カウンセラーやファシリテーターになってもらいました.その他,専門家のみならず学生や一般向けにも講演を行い,テレビに出演し,ラジオやポッドキャストのインタビューも受けてきました.新聞や雑誌,インターネットの記事でも取り上げられています.さらに,専門家の仲間たちから,大学の講義やワークショップ,セミナーの材料としてインテュイティブ・イーティングを使用したい,と許可を求められることもありました.
これらすべての経験は,私たちにとって非常に意義深いものでした.それまでオフィスや電話,オンラインで個別に行ってきた仕事を広げる機会となりました.本がなければ決して届けることができなかったであろう人たちにも,インテュイティブ・イーティングの哲学を広めることができたのです.
インテュイティブ・イーティングが,これほど多くの人々の人生に影響を与えられたことに感動を覚えています.最もよく聞かれるのは,長年ダイエットで失敗を繰り返して絶望していた人が,本書を読んで希望を持てるようになった,というものです.そして,彼らが食べることや身体の認識に対する自罰的で強迫的な思考をどうやって心から追い出したのかを聞いてきました.この心の整理により,ポジティブ思考や人生を真剣に変えようという決意の余地が生まれるのです.内なる声を尊重し,信頼するというプロセスへの取り組みが自信へとつながり,自尊心(自尊感情,self-esteem)を取り戻すことができたという報告もあります.インテュイティブ・イーティングを通して,常に心の中に存在はしていたものの,長年の自信喪失から働きを失っていた知恵を信頼することを学んだのです.生まれ持った食べることにかかわるシグナルを疑うことで,人生についての他の多くの信念までもが揺らいでしまっていたのです.
食べ物や身体に関する苦悩が解消されることで,虐待するパートナーと別れた,疎遠になっていた大事な人と復縁した,またはキャリアチェンジをしたという実例もあります.また,うまくいかないダイエットに必死で,自分の身体のことばかり気にしていたときには思いもしなかった恋愛が叶ったという人もいます.インテュイティブ・イーティングを通して,食べ物との苦痛な関係から生まれた自己不信や絶望と決別することで,人々は解放され,自分の人生を歩んでいくことができます(ただし,高体重の人は,インテュイティブ・イーターになった後でも差別に直面する可能性がなくならないことを考慮する必要があります).
本書はまた,私たち専門家の仲間の人生にも影響を与えました.学会に参加するたびに,この本を患者さんに渡すことができて感謝しているとの気持ちを栄養セラピストや心理療法士の方々が伝えてくれます.カウンセリングや授業,セミナーなどでのガイドブックとして重宝しているそうです.また私たち自身の仕事においても,患者さんにこの本を参考にしてもらうことで実践の貴重な助けとなることがわかりました.サポートが必要なときに,私たちが側にいるようだと言う人もいました.
第4版では,より多くの読者に読んでいただけるよう,また誰もが新たなツールを利用できるように,いくつかの項目を追加しています.まず,「インテュイティブ・イーターの育て方」の章では「赤ちゃん主導の離乳食(baby-led weaning:BLW)」のセクションを追加しました.そのねらいは,子どもたちが生まれながらに持っている,食べることにかかわる内なる知恵を,親が守ってあげられるように手助けをすることです.また,食体験にまつわる親子関係の亀裂を修復するためのアドバイスも提供しています.すべての子どもに生まれつき備わっているインテュイティブ・イーティングを生涯にわたり維持することができたら,なんて素晴らしいことでしょう!
次に,インテュイティブ・イーティングの効果を検証した研究に関する章を拡充しました.インテュイティブ・イーティングを考案した当初,何百もの研究から得られたエビデンスを検討し,私たちの臨床経験を踏まえて10の原則の基盤を作り上げました.このオリジナルコンセプトは,科学的根拠に基づくもの(より正確には科学的根拠から着想を得たもの)ですが,「研究によってインテュイティブ・イーティングの有効性が証明されている」ということとは少し異なりました.しかし,それも近年までは,の話です.
最初に本書を出版したときには,私たちのコンセプトがこれほど多くの研究を生み出すとは夢にも思っていませんでした.これは本当に素晴らしいことです.これまで,125以上の研究が発表され,現在進行中のものもあります.今回の改訂では,インテュイティブ・イーティングの基礎となる「内受容感覚への気づき」に関する興味深い研究を取り上げています.内受容感覚への気づきの基本的な定義は,身体の内部から生じる身体感覚を知覚する能力です.この身体感覚には,膀胱の伸展や心臓の拍動,空腹・満腹の合図などの身体の状態が含まれます.すべての感情は,それぞれ異なる手指の指紋のように,身体の中で独特の感覚として感じられます.内受容感覚への気づきを通して身体の声に耳を傾けることで,生物学的・心理的なニーズを満たすための貴重な情報を得ることができます.つまり,私たちの欲求やニーズ,感情は,今ここにある身体の感覚を直接体験することとつながっているのです.インテュイティブ・イーティングの原則は,内受容感覚への気づきを高めるか,あるいはこの大事な能力を妨げるものを取り除くように作用します.妨げになるものは通常,心の中のルールや思い込み,考え方から来るものです.
私たちはインテュイティブ・イーティングのプロセスにおける原動力として,満足感の重要性に着目してきました.食べることに満足感を求めることが,本書に記載されたすべての原則に深く影響を与えるだけでなく,それらの原則が満足感を見出すことにどのように作用するかがおわかりいただけると思います.その他にも,全般的な更新が行われています.私たちは,特に数値に言及することが読み手に与える影響について留意してきました.その数値が体重や身長であれ,食事量や推奨量であれ,数値は比較することやネガティブな感情につながってしまうからです.そのため,できる限り数値は取り除きました.さらに,私たちの文化に根付く,有害な体重に対する差別や偏見(ウェイト・スティグマ)を助長するおそれのある体重に関する記載もほとんど削除しました.この問題は広範囲に及んでいるため,ダイエット・カルチャーとウェイト・スティグマについてのセクションを追加しました.意識してダイエットをしていない人にとっても,この問題がどれほどの影響力をもつのかを理解していただけると思います.
インテュイティブ・イーティングの道のりをサポートするツールや情報(インテュイティブ・イーティングのオンラインコミュニティ,一般向けや10代の若者向けのワークブックなど)は,新たに追加した「Resources資料」のセクションを参考にしてください.
付録(Appendix)の「Step-by-Stepガイドライン」は概略を簡単に整理したものですが,新旧の読者にとって有益と考え,今回も収載しています.初めて読む方は,まずは本文を読んでからガイドラインを参考にすることをお勧めします.すでにインテュイティブ・イーティングのプロセスを把握されている方は,復習や簡便な確認用として使用してください.あるいは,原則を一つずつ読んで,それぞれのステップに集中して取り組む際のガイドとして利用してもよいでしょう(原則の順番について:特定の原則に惹かれる場合には,必ずしも前から順番に読んでいく必要はありません.インテュイティブ・イーティングを身につけるための“正しい方法”は存在しません).どのような方法であっても,このガイドラインがインテュイティブ・イーティングの実践を手助けするツールになれば幸いです.
最後に,私たちがこれまで出会い,ともに取り組んできた多くの方々に感謝の意を表したいと思います.その回復の途上で私たちがサポートをさせていただいた一人ひとりが私たちの先生です.そのおかげで私たちはこの仕事を続け,そしてこの第4版を出版することができました.ここにお礼を申し上げます.
はじめに
ダイエットに挑むたびにマイレージが貯まるとしたら,月への往復旅行を手に入れる人も少なくないかもしれません.2023年までに,世界のダイエット産業は40兆円規模を突破する見込みとなり *,この金額は今後何世代にもわたる月旅行を資金援助できるほどのものです.ここで考えてみてください.愛車を定期的にメンテナンスに出し,手間とお金をかけたうえで車が動かなかったとしても,自分を責めることはないでしょう.しかし,ダイエットの95%が失敗するという事実があるにもかかわらず,私たちはその失敗をダイエットのせいにせず,自分自身を責めてしまいがちなのです.自分自身よりも愛車を大事にしているかのようです.ダイエットの失敗率がこれほど高いのに,ダイエットのプロセス自体に問題があると思わないほうが不思議ではないでしょうか?
*:肥満外科手術,ダイエット食品や商品,フィットネス器具,ジム,ダイエットプログラムを含む産業レポートより.
そもそも「ダイエットの失敗」とは何を意味するのでしょうか? 一般的には,リバウンドのことを指しているのでしょう(研究では,約3分の2の人がダイエット前の体重よりさらに増えることがわかっています).体重の減少でダイエットの失敗を定義づけようとすると,根本的な問題から目をそらすことになります.なぜ人々はこれほど体重を減らすことにこだわるのか? なぜ痩せた体型が太った体型よりも価値があるとされるのか? なぜ体重計の数字で自分の価値を決めようとするのか? ダイエットにおける真の失敗は,一人ひとり体のサイズや体型が違うこと,ありのままの身体に価値があることを認めず,ウェイト・スティグマを助長している点にあります.本書では,自分自身や自分の身体を責めるのをやめる手助けとなる情報や,個性や自分らしさを大切にできる新しいアイデアを紹介します.
私たち(エヴェリンとエリーズ)は開業当初,お互いのことを知りませんでしたが,それぞれがカウンセリングで驚くほど似たような経験をし,その方法を見直すことになりました.このことが私たちの実践方法を大きく変え,数年後に本書を執筆するきっかけとなりました.
私たちはそれぞれ独自にカウンセリングを実施していましたが,知らず知らずのうちに“体重管理の罠”にはまらないように心に決めていました.失敗を前提としたプロセスを患者さんに勧めたくなかったのです.しかし,減量を目的としたカウンセリングを避けたくても,医師たちは次々と患者さんを紹介してきました.多くの場合,血圧やコレステロール値が高く,疾患を問わず減量が治療の鍵になると考えられていました.私たちは患者さんを助けたいという想いから,通常とは異なる方法で取り組むという決意の下,減量の課題に着手しました.「私たちの患者は必ず成功する」,「成功する5%のグループに入る」と信じていたのです.当時はまだダイエットの失敗率や危険性を検証した論文も少なく,私たちは社会全体に浸透した体重への固執に疑問を抱くまでには至っていませんでした.
私たちは患者さん一人ひとりの好き嫌いやライフスタイル,ニーズに合わせて手の込んだ食事プランを作成しました.食事プランは,糖尿病や体重管理の用途で広く認められ,使用されている交換表を基にして作っていました.当時からダイエットは効果が低いことが知られていたため,患者さんには「これはダイエットではありません」と伝えていました.鶏肉やターキー,魚,赤身肉から選択することができたので,私たち自身もダイエットとは違うと信じたかったのです.ベーグルやマフィン,トーストも食べられるし,クッキーも一つなら許していました(5個はダメ!).空腹感に襲われることのないよう,低カロリーの“フリーフード”はいくら食べてもよいという考え方でした.食べたいものは罪悪感なく食べてよいことも伝えていました.そして,できるだけプラン通りにすれば,目標達成に近づけることもしっかり伝えていました.その結果,患者さんは,私たちに良い結果を報告したいために食事プランを忠実に守ってくれました.毎週のカウンセリングで体重測定を行い(今では絶対にしないことです!),ついには減量目標は達成されました.
しかし残念なことに,カウンセリングが終わってしばらくすると,患者さんたちからまた,どうしても私たちが必要だという電話がかかってくるようになりました.どういうわけか,また体重が増えてしまったのです.皆申し訳なさそうに再びカウンセリングに戻ってきました.彼らはすでにプランを守ることができなくなっていました.誰かに見守ってもらう必要があったのかもしれません.十分な自己管理ができなかったのかもしれません.もしかしたら,ただ向いていなかっただけで,罪悪感を感じ,やる気を失ってしまったのかもしれません.
患者さんたちは,“失敗“の責任をすべて自分だけのせいだと感じていました.私たちを信頼しており,減量へと導いてくれた“優秀な栄養士”の指導が悪いはずはなく,自分が悪いという結論に至ったのです.時間が経つにつれ,この方法には何らかの大きな問題があることが明らかになってきました.私たちが患者さんのためにと思っていたことが,患者さんが自分自身に抱いていた否定的で自己卑下的な考えを悪化させていたのです.自己管理できない,うまくいかないという思いが「自分が悪い」,「間違っている」という考えにつながり,罪悪感がどんどん膨らんでいきました.
この頃,私たち2人は,カウンセリングのあり方を見直すターニングポイントを迎えていました.論理的・栄養学的に正しいとされていても,このような感情的な混乱を招くことをこのまま続けるわけにはいきませんでした.その一方で,減量という患者さんの将来の健康にとって重要な治療をおろそかにするわけにもいきませんでした(私たちはそう考えるよう教育されてきました!).
こうした問題に悩まされる中,私たちはあらゆるダイエット法(管理栄養士が認めている方法も含む)から180度転換する方向性を示す文献や科学的研究を探し始めました.“アンチダイエット・アプローチ”によって道を開き,私たちを導いてくれた先生方には,ジェーン・R・ハーシュマン(Clinical Social Worker:CSW),キャロル・H・マンター,リラ・ザフィロポウロス(CSW),スージー・オーバック(PhD),ジャネット・ポリヴィ(PhD),ピーター・ハーマン(PhD),リアン・L・バーチ(PhD)らがいます.そのアプローチは,栄養については言及せず,すべての食べ物の選択を許容する方法でした.初めは,真っ向から否定はしないものの,懐疑的に受け止めていました.栄養と健康との関連をみるよう訓練された管理栄養士として,知識の根幹が否定されるような食べ方をすぐには受け入れられませんでした.
葛藤は続きました.これまで提供していた“健康的”な食事プランは人々をダイエット・カルチャーに縛り付け,絶望感さえ与えていました.しかし,1960〜80年代に流行した心理学の本で紹介されている「デマンド・フィーディング」[訳者注:赤ちゃんが欲しがるときに授乳する方法,または食べたいときに食べる方法]も不完全なように思えました.
最終的に私たちは,インテュイティブ・イーティングという10原則のプロセスを考案することで,この問題を解決しました.医療従事者の方々への注記:この葛藤は,体重中心の医療,つまり体重を健康の判断基準として用いるという教育を受けてきた専門家にとって,誰しもが経験する一般的なものであることがわかってきました.健康には何を食べるかだけでなく,食べ物とのかかわり方やメンタルヘルス,健康の社会的決定要因など,多くの要素が関係します.体重は行動そのものを表すわけではありません.一度学んだことを新たなものに置き換えることに最初は抵抗を覚えるかもしれませんが,この過程は誰しもが経験するものであることを知っておいてください.
本書は,勢いを増すアンチダイエットの潮流と健康コミュニティとをつなぐ架け橋となりました.ダイエットをすることなく,どのように食事制限の問題を解決し,栄養バランスのとれた食事を実現すればよいのか,その方法をこの本でお伝えしていきます.
クライアントの多くは厳格な食事プランに従うダイエットに疲れ,食べることに恐れを感じています.そして,自分の身体に対する不快感を抱きながらオフィスを訪れます.インテュイティブ・イーティングは,最終的には心にも体にも健康的な無理のない新しい食べ方を提供します.それはダイエットの縛りから解放されるプロセスであり(ダイエットは結局,欠乏感や反発,そしてリバウンドによる体重増加につながるだけです),自分の身体とそのシグナルを信頼するという本来の姿に立ち返ることを意味します.インテュイティブ・イーティングは,食べ物との関係だけでなく,人生そのものを好転させます.本書で紹介するクライアントたちは,初めは体重を減らしたいという目的で私たちの下にやって来ました.身体的にも感情的にもつらくて体重を減らさない限り問題は解決しないと信じ込んでいましたが,次第に“今ここ”の中に心地よさを見つけ,感謝の気持ちを感じられるようになりました.
私たちは,体重を減らしたいと願う人々を非難することはありません.それはあらゆる場所に根付いたダイエット・カルチャーの結果だからです.ダイエット・カルチャーは,ウェルビーイングよりも体重や外見に価値を置く信念やメッセージ,行動が社会的にシステム化されたものであり,残念ながらそれは一般化し,常態化してしまっています.ダイエット・カルチャーは痩せていることを健康や美徳と結びつけ,食べ物に善悪を作り出しました.会話や広告,ソーシャルメディアで痩せることに関連した情報に触れずに過ごすことは,たった1 日であっても困難です.また,医療従事者もダイエット・カルチャーの影響を受けないわけではありません.長期的に有効かつ持続可能で,害がないことを証明する研究がないにもかかわらず,必要以上のエネルギー制限や特定の食品群全体の摂取制限を勧める人もいます.悲しいことに,医療従事者がウェイト・スティグマの主な加害者の一人であることを示す研究結果も報告されています.
問題は,体重を減らすことに焦点を置くと,インテュイティブ・イーティングの身体からのシグナルと再びつながることができなくなることです.内発的な合図ではなく,決められた食事量やマクロ栄養素などの外在的な判断基準に目が向けられてしまいます(インテュイティブ・イーティングは内在的な働きなのです).そうではなく,食事からより多くの満足感を得たり,食べることや生活をより重視したり,日々の進歩に目を向けていくと,徐々に身体とのつながりが強まり,喜びや幸福感を感じられるようになります.
先へ進む前に一つ,伝えておきたいことがあります.本書は,痩せ体型を持つ2人のシスジェンダー(心と身体の性が一致している)の白人女性によって書かれており,私たちはそれぞれに認識している多くの特権に感謝を抱いています.私たちのいずれも,本書を読んでいる方の多くが経験しているかもしれない食料不安(food insecurity)やウェイト・スティグマに直面したことはありません.
この取り組みを進めるにあたっては,インテュイティブ・イーティングと,関連する専門的な問題(トラウマ,栄養療法,摂食障害,精神疾患などを含む)の両方について訓練を受けた専門家とともに進めることが大切です.ただし,このプロセスを学ぶために必要なリソースにアクセスできない人々がいるということも事実として受け止める必要があります.また,アクセスの妨げになっている要因をすべて把握できているわけでもありません.インテュイティブ・イーティングに取り組むことは,ある意味で特権とも言えます.
私たちは,多くの人が経験している苦しみがこの世界から消えることを願っています.そして,この世界をより良いものにするために,インテュイティブ・イーティングを体型を問わず必要としているすべての人が利用できるよう,今後も活動を続けていきたいと思います.インテュイティブ・イーティングは一つのツールであり,私たちはインクルーシブ社会を目指して学び続けています.
インテュイティブ・イーティングは,思いやりのあるセルフケアのための食べ方の枠組みであり,すべての身体を敬意と尊厳をもって扱います.
私たちは,一人ひとりとその身体との関係,そしてこの本を書いている私たちと読者との間に作られる関係をとても大切に考えています.そして,より良いものにするためのフィードバックを非常に貴重なものと受け止めています.
私たちのクライアントの人生が好転したように,インテュイティブ・イーティングが読者の皆さんの人生に大きな変化をもたらすことを願います.実際,私たちがこの本を書いていることを知ったクライアントたちは,具体的な転機となった体験を読者に共有してほしいと言ってくれました:
・「たとえむちゃ食いをしてしまっても,それを素晴らしい経験に変えられる可能性があります.なぜなら,そのおかげで自分の考えや感情について多くのことを学ぶことができるからです.」
・「食事中に空腹の状態を確認するためにいったん立ち止まることは,空腹でなければ食べてはいけないという意味ではないと伝えてください.それは“自動操縦”で食べていないかの確認作業であり,食べたければ食べてもよいのです.」
・「セッションに来るとき,まるで懺悔をしに来たような気分になってしまいます.それはきっと,減量目的で通院していたとき,体重を測られた後,自分の罪を打ち明けねばならなかったからです.それは私のせいではなく,自分の中に潜むフードポリスのせいでした.」
・「今は刑務所から出られたような気分です.自由になれて,ずっと食べ物のことばかり考えなくて済むようになりました.」
・「食べ物の魔法が解けたことを残念に思うときもあります.禁じられたものほどおいしいものはないからです.かつて味わっていたスリルを求めようとしてみましたが,人生の興奮はもはや食べることからは得られないのだとわかりました.」
・「自分に許可することで選択肢が生まれます.他人から言われたことではなく,自分の望むものに基づいて選択することで,自信が湧いてくるように感じます.」
・「過食をやめてすぐは落ち込んだりイライラしたりして,食べ物で嫌な感情をごまかしていたことに気づきました.しかも,良い感情までも抑え込んでいたのです.良い感情も悪い感情も感じられるほうが,何も感じられないよりもずっといいと思います.」
・「ダイエットや食べることで人生のつらさを乗り越えてきたことに気づいたとき,対処法として食べ物に頼るのをやめるには,生活の中のストレスを減らす必要があると思いました.」
・「空腹な日もあれば満腹に感じる日もあります.たまにたくさん食べてしまっても,計画に反した罪悪感を抱かずに済むことは,本当に素敵なことです.」
・「以前制限していた食べ物を目にすると,とても爽快な気持ちになります.自由に,そこにあって,私のものであるという感覚を感じられるからです.」
・「この本を書いてくれて本当に嬉しく思います.私のやっていることが説明できるようになりました.今確かなことは,この方法でうまくいったということだけです.」
・「ダイエット思考にとらわれたままでは,人生の本当の問題と向き合うことはできません.」
・「これまでの人生で一番,自分のことを大切にしている気がします.」
注記:私たちは,ジェンダーがスペクトラムであると認識しています.そのため,本書では,本人によってジェンダーが明確にされた特定の人物を指す場合を除き,ジェンダーに中立的な言葉や代名詞を使うことでジェンダーを包括しています.
訳者まえがき
健康のために何を食べるべきか,体型をどう維持するかに注意を払う一方,食べ物を口にすることで身体がどう感じるか,心は満たされるのかという視点を見失ってはいないでしょうか? 食べ物や身体との向き合い方を見直し,これまでのこだわりを手放すことで,心も体もより健康的になれる可能性があります.
かつて日本人が自然に行っていた心と体の両方を大切にする食習慣は,まさにインテュイティブ・イーティングの実践そのものだったと言えるかもしれません.しかし,現代では,食生活を取り巻く社会環境の変化から,コンビニエンスストアやファーストフード,インスタント食品などの利用も増え,忙しさに追われて食生活が乱れがちになっています.さらに,痩せた体型が理想とされる風潮が強まる中,“美容体重“や“シンデレラ体重”といった低めの体重を目指す女性が増えており,特に10〜30代の若い世代で痩せている人の割合が高いことが問題視されています.また,人と違うことが良しとされない同調圧力の下,自分の価値を容姿に置いてダイエットに励む人も増えている現状があります.
2020年に米国から日本へ帰国した当時,多くの人が,ダイエットは健康的で正しいことだと疑うことなく信じている姿に驚きました.米国には,日本と比較して大きな体型の人が多く,そして日本と同様,健康や美容のために痩せるべきだという社会的なプレッシャーが存在します.そのため,ダイエットに取り組む人も多く,中には無理なダイエットを繰り返し,その反動で過食衝動や摂食障害まで引き起こしてしまう人もいます.そうしたダイエットのさまざまな負の側面が明らかになるにつれ,「ダイエットは健康的」というイメージは崩れ始めています.その結果,医療の場などにおいても,肥満への偏見をなくす運動や心のケアに基づくウェルネスが重視されるようになってきています.
ロサンゼルスの急性期病院で栄養指導をしていた私は,一般的な栄養指導だけでは対応が難しい患者さんに直面するたびに,十分に力になれないもどかしさを感じていました.そんな中で出会ったのが,心を尊重しながら身体の声を聞く食事法「インテュイティブ・イーティング」でした.そして,本書やセミナーを通して学びを深め,実際にダイエットや体型に悩む方々とかかわる中で,この新しいアプローチの効果を目の当たりにしてきました.
日本人の多くは,メンタルヘルスなどの心の問題を他人に相談することに対し,「周りの人からどう思われるだろう」,「恥ずかしくて人には言えない」という強い抵抗感があります.そのため,悩み事があっても他人に相談できず,カウンセリングを受ける習慣もまだまだ一般的ではありません.その結果,無理なダイエットで心身に負担をかけてしまったり,不安やストレスで食べ過ぎてしまったり,食や体型に関する悩みを一人で抱え込んでしまう人が少なくありません.
このような状況の中,現在の日本においても,インテュイティブ・イーティングの助けを必要としている人がたくさんいると感じています.無理なダイエットや食生活の乱れに悩んでいる人,また,心に深刻な問題を抱えている方だけではなく,いつも体型のことを心配しながらスナック菓子に手を伸ばしている人,不安やストレスでつい食べ過ぎてしまう人など,多くの人たちにとってインテュイティブ・イーティングは,食べることをより満足できる体験へと変えるきっかけを与えてくれるはずです.さらに,日本の医療従事者や健康をサポートする専門家,そして一般の方にもインテュイティブ・イーティングの考え方やアプローチが広がり,多くの人々に心も体もより健康になってもらいたい! そんな想いで本書を翻訳させていただきました.
岡井麻悠子
Acknowledgements 謝辞
Foreword 序文
Introduction はじめに
Translator's Preface 訳者まえがき
Chapter 1 インテュイティブ・イーティングの科学的背景
Chapter 2 ダイエットのどん底
Chapter 3 あなたの食べ方のタイプは?
Chapter 4 インテュイティブ・イーティングの10原則オーバービュー
Chapter 5 インテュイティブ・イーターを呼び覚ます:5つのステージ
Chapter 6 原則1:ダイエット思考を手放す
Chapter 7 原則2:空腹感を尊重する
Chapter 8 原則3:食べ物と和解する
Chapter 9 原則4:フードポリスに立ち向かう
Chapter 10 原則5:満足する要素を見つける
Chapter 11 原則6:満腹感を感じる
Chapter 12 原則7:自分の感情に優しく対処する
Chapter 13 原則8:自分の身体を受け入れる
Chapter 14 原則9:身体を動かし,違いを感じる
Chapter 15 原則10:“緩やかな栄養”で健康を尊重する
Chapter 16 インテュイティブ・イーターの育て方:子どもや若者に効果的な方法
Chapter 17 摂食障害が回復するまでの究極の道のり
Epilogue おわりに
Appendix A よくある質問とその回答
Appendix B Step-by-Stepガイドライン
References 参考文献
Notes 補足情報
Resources 資料
Index 索引
Foreword 序文
Introduction はじめに
Translator's Preface 訳者まえがき
Chapter 1 インテュイティブ・イーティングの科学的背景
Chapter 2 ダイエットのどん底
Chapter 3 あなたの食べ方のタイプは?
Chapter 4 インテュイティブ・イーティングの10原則オーバービュー
Chapter 5 インテュイティブ・イーターを呼び覚ます:5つのステージ
Chapter 6 原則1:ダイエット思考を手放す
Chapter 7 原則2:空腹感を尊重する
Chapter 8 原則3:食べ物と和解する
Chapter 9 原則4:フードポリスに立ち向かう
Chapter 10 原則5:満足する要素を見つける
Chapter 11 原則6:満腹感を感じる
Chapter 12 原則7:自分の感情に優しく対処する
Chapter 13 原則8:自分の身体を受け入れる
Chapter 14 原則9:身体を動かし,違いを感じる
Chapter 15 原則10:“緩やかな栄養”で健康を尊重する
Chapter 16 インテュイティブ・イーターの育て方:子どもや若者に効果的な方法
Chapter 17 摂食障害が回復するまでの究極の道のり
Epilogue おわりに
Appendix A よくある質問とその回答
Appendix B Step-by-Stepガイドライン
References 参考文献
Notes 補足情報
Resources 資料
Index 索引














