やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

Prologue
 私は,診査・診断および治療計画の立案といった“診断力“とそれを患者の口腔内で具現化する“技術力”の両輪がバランスよく機能することが,歯冠修復治療を成功に導くと考えている.“技術力“に関しては,成書やハンズオン,トレーニングなどによって一定のラーニングカーブを辿ることは可能だが,こと“診断力”に関しては,成書も少なく,漠然と経験を積むだけでは向上は望めない.常に,「なぜこうなったのか?」という疑問と「こうやったらどうなるのか?」という想像力,そして「その結果,どうなったのか?」という再評価を繰り返すことが重要である.
 われわれは,患者の口腔内の現況や希望,経済的制約,時間的制約のなかで,最適な治療計画を立案するわけだが,100人の患者がいれば100通りの治療計画があるといっても過言ではなく,歯科治療はまさにオーダーメード治療である.そこで,どのような患者に対しても“常に軸のぶれない診査・診断の柱とはなにか“と自問自答を繰り返してきた.その結果導き出された答えが,“中切歯のインサイザルエッジポジション”を軸にし,診査・診断・治療計画から補綴治療までを包含した「包括的治療戦略」である.
 初診から確定的処置に至るまでの診査・診断,治療計画の立案は,その後の治療の羅針盤となる重要なステージである.ときとして,試行錯誤を重ねたり,治療計画の再考を余儀なくされたりと,一筋縄ではいかないものだが,このステージにおいて濃密な時間を費やすことは決して無駄ではなく,その後の計画遂行はスムーズかつ効率的に進行し,術者が予見可能な治療結果をもたらしてくれるだろう.
 Chapter 1においては,この包括的治療戦略の重要性について,Chapter2では,治療計画立案に必要な診査・診断のポイント,Chapter3では,審美修復治療,インプラント治療,インターディシプリナリーアプローチにおける治療戦略について,そしてChapter4では,症例を提示しながらChapter1〜3で述べた内容を再確認していきたい.
 本書が,読者諸氏の臨床の一助となれば,筆者にとってこれに勝る喜びはない.

 2010年2月
 麹町にて 土屋賢司

発刊に寄せて
 山ア長郎
 Masao Yamazaki
 原宿デンタルオフィス院長
 東京SJCD最高顧問
 SJCDインターナショナル会長
 私と土屋賢司先生との出会いは,1985年に遡る.卒後間もない若手歯科医師だったが,意欲に満ち溢れ,真摯に学ぼうとしていた姿をよく覚えている.
 それから四半世紀が過ぎた.その間,歯科界にはさまざまなトレンドが生まれ,新しい術式,器材,材料など大きく変貌を遂げた.われわれも,その変化から多大な恩恵を受けてきたわけだが,その変化のなかにあって常に「変わらないもの」―,それが「診査・診断」の重要性ではないだろうか.
 土屋先生は,一貫してその「診査・診断」と「治療計画の立案」に対してこだわりをもって臨床に携わられてきた.そしてその“こだわり”が昇華することによって生まれたのが,本書の書名でもある「包括的治療戦略」である.
 インプラント,ボンディッドレストレーション,CAD/CAM,マイクロスコープ,インターディシプリナリーアプローチ……,さまざまな手法を駆使して,患者さんにとって最善の結果を出すためにハーモニーを奏でる姿は,conductor(指揮者)を彷彿とさせる.しかし,われわれ歯科医師が指揮者と異なるのは,“指揮者自らが演奏もこなす”という点である.その点本書は,診断力を中心に,技術についても各所に記されている.実際の症例を提示しながら修復治療の根幹からわかりやすく網羅されており,歯科医師としての総合力を高めるためには最適の書と言える.臨床において全く同じケースは二つとしてなく,われわれは日々応用力を試されているわけだが,未知のケースに遭遇したときでも,本書が治療の道標になると確信している.
 そして特筆すべきは,長期経過症例の豊富さである.装着直後が美しいのは当然であり,それが患者さんの口腔内で経年的に維持されることこそが真の審美修復治療である.その点,本書は正直に経年変化を提示しており,それゆえに,信頼できる書と言えよう.
 土屋先生は,同じ志をもった私の長年の仲間であり,このたび,はじめての書籍を上梓されたことを我が事のように嬉しく思っている.そして,この書籍が,歯科医療に携わる一人でも多くの方々の手に届き,歯科医療向上の一助となることを祈念している.

 2010年2月
 Prologue
 発刊に寄せて
 目次

Opening Graph
 1本のクラウンから学ぶ包括的治療戦略の重要性
Chapter1 包括的治療戦略(CTS)の必要性
 Section1. なぜ,包括的治療戦略が必要なのか
 Section2. 包括的治療戦略(CTS)は補綴処置を単純化させる
Chapter2 包括的治療戦略(CTS)のための診査・診断,治療計画の立案
 Section1. 診査・診断のポイント
 Section2. 中切歯のインサイザルエッジポジションがすべての基準である
 Section3. 包括的治療計画の立案とその実際
 Column 時間軸を考えた治療介入の大切さ
Chapter3 包括的治療戦略(CTS)の方向性
 Section1. 審美修復治療における治療戦略
 Column 時間軸と審美観
 Section2. インプラント治療における治療戦略
 Section3. 複雑な治療における包括的治療戦略(インターディシプリナリーアプローチ)
 Column 改良型サージカルガイドの作製法
Chapter4 Case Gallery
 Case1 ラミネートベニアの応用
  Case1-1 失活歯と生活歯が混在している場合のラミネートベニア
  Case1-2 矯正治療とラミネートベニアにより歯列不正と審美性を改善した症例
 Case2 MTMの応用
  Case2-1 MTMにより歯軸を変更した後,修復物を装着した症例
  Case2-2 MTMとコンポジットレジンによる審美修復治療
 Case3 歯間乳頭のマネジメント
  Case3-1 カントゥアの調整による歯間乳頭の回復
  Case3-2 歯根のangulationを改善して歯間乳頭を回復させた症例
 Case4 インターディシプリナリーアプローチ
  Case4-1 矯正治療との連携による修復治療
  Case4-2 矯正治療後のインプラント修復
  Case4-3 矯正治療およびラミネートベニアによる審美修復治療

 Epilogue
  7Cコンセプト
 参考文献
 索引