やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 全部床義歯学は完成された学問といわれるものの,それに関する書物はいまなお多く出されている.これは,全部床義歯の臨床が難しいことの表れと思うが,全部床義歯学の教育が整理され,効果ある形で行われていない(行われなくなった?)ことも起因しているかもしれない.
 その一方で,全部床義歯を取り巻く状況は,無歯顎患者の「唯一の補綴治療」から,インプラントと並列される治療の「一オプション」になっており,大きく様変わりしている.さらに,全部床義歯を考えるうえで重要な材料や薬剤の開発なども目ざましいものがある.その反面,要介護,口腔乾燥症,全身疾患を有する高齢者の増加とともに,歯を残す治療による無歯顎症例の難症例化がいわれている.このような状況のなか,全部床義歯学は補綴歯科学の基礎をなすもので,いままで蓄積された知見や技術を次世代に引き継がなければならないと同時に,新たな知見や考え方で補強もしなければならない.
 本書は,2005年に『補綴臨床』で連載された六つの論文を加筆修正し,ちょっと変わった全部床義歯による無歯顎補綴治療の入門書にまとめ上げたものである.いままでのように印象から義歯完成までを時系列に全部床義歯学を語るのではなく,生物学と理工学両面の視点をもって,機能面,形態面のさまざまな角度から全部床義歯を解剖してもらい,いままでと違った切り口で無歯顎患者に対する全部床義歯治療の考え方,問題点,成功の鍵を解説したものである.ただ,用語の不統一や内容の重複などはあるが,全部床義歯を語る著者の思いを尊重したのでお許し願いたい.
 本書が研修医や歯科補綴学を志す方々のための一助となれば幸いであるし,伝統的な全部床義歯学と次世代の無歯顎補綴治療学の分岐的な書になれば,より光栄である.
 2006年6月
 著者代表 市川哲雄
Part1
 1章 無歯顎患者の補綴治療を始める前に理解しておくこと
 2章 床下粘膜を理解する
 3章 咬合を理解する
  1)咬合位
  2)デンチャースペース
  3)咬合様式
  4)排列位置
 4章 審美性を理解する
 5章 機能を理解する
  1)咀嚼機能
  2)発音機能
  3)嚥下機能
  4)唾液機能
 6章 器械・材料を理解する
  1)トレーと印象材
  2)人工歯
  3)アクリリックレジンと重合法
  4)粘膜調整材と軟質裏装材
  5)口腔衛生のための薬剤
 7章 オーバーデンチャーを理解する
Part2
 1章 印象採得
 2章 咬合採得
 3章 Q義歯試適
 4章 装着と調整
 5章 義歯装着後のトラブルへの対処
・索引