やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 超高齢社会を迎え,がんの罹患率は増加しており,がんの制圧を目的にがん対策基本法が2006年に成立した.この方針はがん対策推進基本計画として具体的に進められている.その1つが2012年度に歯科診療報酬制度に新設された「周術期における口腔機能の管理等,チーム医療の推進」である.この課題は,医科歯科連携によってがん治療による合併症を予防し,有害事象を軽減化することで患者のQOL(生活の質)の維持することである.「がん治療医から歯科医療機関に口腔機能管理を依頼する」ことによって,この連携が開始される.この事業の重要なポイントは,がん治療医と歯科医師は共に互いの医業内容を理解し,コミュニケーションを深めることである.
 がん治療を実施する病院(がん診療連携拠点病院等)に歯科がある場合は連携が円滑で良好な成果が得られている一方,病院外での一般歯科医院との連携はあまり進んでいない.一般歯科医師のアンケート調査によるとがん治療医とのコミュニケーションがとりにくい理由の1つにがんについての知識不足をあげている.しかし,今までに作成されたテキスト等をみると口腔機能管理の基本手技中心のガイドブックが多い.
 そこで,a)がん治療法の理解を深め,b)種々のがん治療に応じた口腔機能管理法を学ぶための実践書の作成を計画した.そこで,がん治療に直接携わっている医師や歯科医師と,がん診療連携拠点病院等で口腔機能管理を実践している歯科医師に執筆を依頼した.

 a)がん治療の内容を正確に理解し,がん治療医とのコミュニケーションに役立つよう
  (1)各臓器がんの概要をそれぞれの標準治療を含め解説.
  (2)がんの解説についてはがん専門医がよく使用する専門用語や略語を紹介.
  (3)現在使用されている全ての薬物療法(抗がん薬,分子標的薬)を有害事象と共に表にまとめた.
 b)口腔機能管理に関しては個々のがん治療別にポイントをコンパクトにまとめた.

 がん治療法の進歩・改良によりがん患者の生存率は向上しており,治療には単にがんの制圧を目的とした根治療法のみならず,患者の不快症状を除去し,QOLも考慮することも求められている.
 「がん治療の解説」と「周術期口腔機能管理の実践方法」をコンパクトにまとめた本書は,多くの歯科医師,歯科衛生士や他職種医療者の方に活用していただけると確信している.
 2020年12月 白砂兼光
 はじめに(白砂兼光)
 執筆者一覧
I がん治療における周術期口腔機能管理の概要
 1 周術期口腔機能管理の目的とその効果(白砂兼光)
 2 がん治療における医科歯科連携のあり方(石橋美樹)
 3 がん患者に対するコミュニケーション・スキル(所 昭宏)
II おさえておきたい!がん治療のキーポイント
 1 がんの基礎知識(白砂兼光)
 2 外科治療学概論(川端良平)
  A がん手術とその合併症について
  B 低侵襲・機能温存を目指した外科治療
  C ロボット支援手術
 3 がん薬物療法概論(奥野達哉)
  A 抗がん薬
  B その他の薬物
  C 化学療法の適応と毒性評価
 4 放射線療法概論(高橋正嗣)
  A 放射線治療の基礎知識
  B 有害事象とその評価・対策
 5 臓器別がんと治療の特徴(吉岡秀郎)
  A 食道がん・胃がん
  B 肺がん
  C 肝がん・胆道がん・膵がん
  D 大腸がん
  E 乳がん
  F 腎がん・膀胱がん・前立腺がん
  G 子宮がん
  H 頭頸部がん
  I 造血器腫瘍
III 実践!がん治療に合わせた口腔機能管理
 1 周術期の口腔機能管理の基本ステップ
  A 周術期口腔機能管理の基本手技(野村公子)
  B バイオフィルムが語る残す歯・抜く歯(野杁由一郎)
  C 歯周病の新分類から考える口腔機能管理(天野敦雄)
  D 口腔カンジダ症への対応(野村公子)
 2 外科治療を受ける場合
  A 人工呼吸器関連肺炎(VAP)の対応について(柚木大和)
  B 挿管による歯の損傷を防ぐために(吉岡秀郎)
 3 化学放射線療法を受ける場合
  A がん化学療法における口腔粘膜炎対策(吉岡秀郎)
  B 造血幹細胞移植患者における口腔機能管理(杉立光史・藤岡香代子)
  C 口腔・中咽頭がんへの集学的治療時の口腔管理の実際(石橋美樹)
  D 放射線顎骨障害の病状とその対応について(吉岡秀郎)
  E MRONJへの対策・抜歯時における対応(小橋寛薫)
 4 緩和医療(終末期)における歯科医療の役割(野村公子)
 5 周術期口腔機能管理の歯科診療報酬(令和2年度)(吉岡秀郎)

 索引