やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

Prologue
 この度は『臼歯部コンポジットレジン修復』をお手に取っていただき,誠にありがとうございます.
 本書は,日々臨床の現場で患者さんと真摯に向き合う歯科医師の皆様に,実践的で,すぐに役立つ知識と技術をわかりやすくお届けしたいという思いから企画したものです.執筆には,コンポジットレジン修復に情熱を注ぐ若手臨床家の先生方が賛同し,参加してくださいました.その結果,明日からの臨床に確実に役立つ渾身の一冊に仕上がったと自負しています.これまで臼歯部修復,とくに隣接面う蝕においては,インレーやアンレーをはじめとする間接修復が長く主流とされてきました.しかし,コンポジットレジン材料の進化と接着歯学の発展により,臼歯部でも直接修復で高い予知性と長期安定性が得られる時代が到来しています.
 私自身,長年の臨床経験を重ねる中で,インレー修復よりもコンポジットレジン修復が有効であると実感する症例が確実に増えてきました.開業して18年,これまでの修復の経過を振り返る機会も増え,コンポジットレジンの進化と適応の広がりを日々実感しています.初期う蝕であれば,ほとんどのケースでコンポジットレジン修復を選択していますし,インレーの再修復であっても直接修復を第一選択とすることが多くなりました.
 2025年現在,歯科医療の修復分野ではMI(Minimal Intervention)と接着技術の重要性がかつてないほど注目されています.「できるだけ歯を削らず,美しく,しっかり噛めるようにしてほしい.」
 これは,これからの歯科医療に対する患者さんの自然な要望であり,私たち歯科医師が誠実に応えるべき声です.MI審美といえば,これまで前歯部が注目されがちでした.しかし,臼歯部においても美しさと精密さ,最小限の侵襲を追求した修復は,現代歯科医療において大きな価値を持つと私は信じています.もちろん,MIや接着修復は「歯を削らないこと」自体が目的ではありません.適切な診断,材料選択,確実な防湿,そして精密な接着操作の積み重ねがあってはじめて,質の高い修復が成立します.
 本書では,基本から応用まで,臨床家としてどこまでコンポジットレジン修復で臼歯部を守ることができるのか,どうすればさらに予後を良くできるのかを,わかりやすく,実践的にまとめました.若手の先生方はもちろん,日々の臨床でさらなる技術向上を目指すすべての歯科医師にとって,本書が確かなヒントと支えになることを確信しています.
 臼歯部コンポジットレジン修復は,未来の歯科医療を支える重要な選択肢のひとつです.ぜひ本書を通じて,臼歯部修復の可能性を広げ,患者さんにとってより良い治療を提供する仲間となっていただければ幸いです.
 これからの臼歯部コンポジットレジン修復の未来は,皆様の手に託されました.
 本書が,皆様の臨床をさらに質の高いものにし,飛躍の一助となることを心より願っています.
 どうか本書を楽しみ,存分に活用してください.
 2025年8月 医歯薬出版にて
 天川由美子
 Prologue(天川由美子)
 目次
Chapter 1 どこまでいける? コンポジットレジン
 臼歯部コンポジットレジンの展望(天川由美子)
 臼歯部コンポジットレジン修復の適応範囲(天川由美子)
 う蝕の診査診断(竹内一貴)
 臼歯部コンポジットレジン修復の文献的考察(林 明賢)
 フロアブルコンポジットレジンの臨床的展望(林 明賢)
Chapter 2 形態をつかむ!
 臼歯の形態をつかむポイント(野亀慶訓)
Chapter 3 接着修復の基本-防湿・接着-
 ラバーダム防湿(天川由美子)
 代替防湿―ZOOについて(野亀慶訓)
 接着,形態修正,研磨(天川由美子)
 臨床に根ざしたアクセスホール封鎖戦略―ジルコニアの接着と調和を考える(林 明賢)
Chapter 4 治療介入する・しない?
 イニシャルトリートメント(天川由美子)
 長期にわたる関わりの中で切削的な介入を余儀なくされた症例(竹内一貴)
 Case 1 矯正治療前の隣接面う蝕治療(天川由美子)
 Case 2 クラックを認める隣接面う蝕治療(天川由美子)
 Case 3 初発う蝕に対し,MIを考慮した2級コンポジットレジン修復(山祐輔)
 Case 4 健全歯質を最大限に保存した既存コンポジットレジン再修復処置(山祐輔)
Chapter 5 コンポジットレジン修復のテクニック-マトリックスフリーorマトリックスワーク-
 3D printer techniqueによる2級窩洞修復(野亀慶訓)
 Kyu-Shu Techniqueによる2級コンポジットレジン修復(樋口 惣)
 2級窩洞を攻略!失敗しないマトリックスワーク(関口寛人)
Chapter 6 臨床例
 Case 1 隣接面う蝕と不適合修復物への対応(荻原太郎)
 Case 2 う蝕除去後にコンタクト部が離れた2級コンポジットレジン修復(荻原太郎)
 Case 3 上顎小臼歯の隣接面コンポジットレジン修復(飯田真也)
 Case 4 上顎大臼歯の隣接面コンポジットレジン修復(飯田真也)
 Case 5 直接法コンポジットレジン修復後に起こった破折に対し,補修修復を行った症例(林 明賢)
 Case 6 上顎右側臼歯部コンポジットレジン修復のマトリックスワーク(関口寛人)
 Case 7 下顎第一大臼歯部インレー脱離への対応(関口寛人)

 Column
  既存修復物のある歯に対する切削的介入について(竹内一貴)
  私を育ててくれたコンポジットレジン修復(天川由美子)
  機能咬頭を含む広範囲な欠損に対し,コンポジットレジン修復を行った症例(山祐輔)
  ダイレクトボンディング治療の考え方(野亀慶訓)
  出会いから生まれたKyu-Shu Techniqueの物語(樋口 惣)
  ダイレクトクラウン修復の可能性(関口寛人)
  4 47コンポジットレジン修復(荻原太郎)
  その歯質本当に保存して大丈夫?(飯田真也)

 My Recommendation
  天川由美子
  山祐輔
  野亀慶訓
  樋口 惣
  荻原太郎
  飯田真也

 索引
 著者一覧
 Epilogue(野亀慶訓)