やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 歯科技工士となり数年が経過し,歯科技工所を開設した1983年に,チタン製インプラントによる治療が日本に導入された.インプラント治療について初めて学んだ時には,欠損治療の幅が劇的に広がると感じたのを,今でも鮮明に記憶している.1994年にはスイスITIインプラント上部構造認定インストラクターの資格を取得したが,その後もデンタルインプラント業界はさらなる発展を遂げ,現在では一般的な治療の1つとして選択されるようになっている.
 高齢化の進む我が国においては,歯科医療の需要が高まっていくことが予想され,歯科技工士の存在も重要性を増すだろう.歯科技工士自身がその認識を持ち,求められる知識を身につけることが大切である.しかしながら,歯科医師の指示のもと歯科技工物を製作すること“のみ”を仕事として捉え,歯科医院の下請けであるかのように考えている歯科技工士も少なくない.歯科技工士人口の減少も,こうした意識と無関係ではないように感じる.
 そのような中,歯科技工士がデンタルチームの一員として,歯科医師や歯科衛生士と共に診査・診断から術後のメインテナンスまで携わることの重要性を認知していただくため,月刊『歯科技工』にて「インプラント治療を成功に導くために歯科技工士が果たす役割」と題した連載を行った.実際の臨床に基づいて,2020年3月号より16回にわたり,歯科技工士の真の仕事とは何かをお伝えすることを目的に執筆を続けてきた.
 実は,筆者の本名は「杉山雅一」である.だが,歯科技工は一人でできる仕事ではないとの思いから「雅和」と漢字を改め,ビジネスネームとしている.連載を始めるにあたっても,神奈川歯科大学附属横浜研修センター・横浜クリニック院長(当時)でありインプラント科教授の児玉利朗先生より,本科で一緒に携わった症例の写真などを使用しても構わないとのお言葉をいただき,様々な資料をご厚意により掲載させていただいた.連載終了後,すべての回をまとめた冊子を当インプラント科に所属していた先生方に感謝を込めて贈呈したのだが,ありがたいことに他にも多くの方から1冊にまとめたものが欲しいとのお言葉を頂戴した.そこで今回,新たな症例の追加や再構成を行い,書籍化に至った.少しでも多くの方にお読みいただき,歯科医師と歯科技工士がチーム医療を行ううえで独自の共通認識を構築していく一助になれば幸いである.
 医療においてこれで正解というものはなく,材料・システムなどは常に日進月歩でアップデートされていく.「人と技術の一体化」をモットーに「デジタルの必要性・アナログの重要性」を念頭に置き,これからも一層の努力を重ねていく所存である.
 2024年8月 杉山雅和
Chapter 1 Knowledge & Communication
 インプラント治療における歯科技工士の役割と求められる知識
 治療ゴールの計画にあたり歯科技工士が考慮すべき要件
 診断用ワックスアップによる診査・診断への関わり
 埋入手術に用いるサージカルガイドの設計・製作
 最終上部構造の製作を見据えたプロビジョナルレストレーション
Chapter 2 Design & Technique
 前歯部単冠症例
 臼歯部単冠・連結冠症例
 インプラントと天然歯補綴が混在する症例
 メタルフレームを使用したフルアーチ症例
 ジルコニアフレームを使用したフルアーチ症例
 IOSを用いたセメントリテイン症例
 IOSを用いたスクリューリテイン症例
 経過観察時のトラブルに対応する設計変更症例
 長期間使用されていた上部構造の設計変更症例