やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 「技工」という単語を調べると,「手で加工する技術.また,その技術者」とあり,一例として「歯科技工士」が挙げられている(広辞苑より).つまり「技工」とは,歯科技工士のための言葉なのである.ここで言う「手で加工する技術」を自分のものにするのは大変なことであり,技術を向上させ,支えてくれるのは「知識」にほかならない.
 私の歯科技工士としての人生を振り返ってみると,歯科技工士養成校を卒業してからの最初の5年間は,ただひたすらにがむしゃらな日々を送っていた.指の先から作り出された修復装置一本の良し悪しすらわからず,目の前に与えられた仕事を黙々とこなすことに何の疑問も抱かず,ただ夢中に歯科技工に取り組んでいた.いま思えば,そんな日々のおかげで指先に技術が染込んでいったような気がする.
 歯科技工士には“歯のようなものを作るための技術”が知識より一歩先んじて必要な側面もある.技術的経験を積み重ねるなかで,それと同時並行で知識を得ることで,指先から生み出される修復装置が変化していく.つまり,「あの時に習ったのはこのことだったのか」と思うことの繰り返しである.私自身,40年あまりもいたずらに経験を積み重ねてきたが,今でもその繰り返しであり,上述の「同時並行で得る知識」を手に入れる手段は,本書のような歯科技工臨床書の数々であった.
 幸いにもご好評をいただいた前著『TheBasics卒後5年までに身につけたいインレー・コア・クラウン技工のコツとツボ』の続編としてブリッジ編を月刊『歯科技工』誌上で執筆し,それを再編集し,加筆修正を施したのが本書である.第1章でブリッジ技工に取り組む歯科技工士が知りえておいたほうがよいと思われる基本的な考え方を述べた後,第2章では擬似歯肉製作を含む作業用模型の操作について,第3章ではブリッジ形態を構築するワックスアップの技法について,それぞれ解説した.そして,第4章では「歯科技工士によるちょっとした配慮や心掛けがいかに歯科医師のチェアサイドワークを手助けするか」という問題意識から,ラボサイドにおける鋳造後の調整作業に触れ,第5章でそれまでの作業の締めくくりとなる仕上げ工程について展開してある.各章とも,ブリッジ製作に従事する歯科技工士に必要と思われる考え方と具体的な術式を作業工程を追う形でまとめ,写真などもできる限り実際の歯科技工士の手技の進め方が伝わるように工夫したつもりである.執筆にあたってはできるだけ背伸びをせず,ありのままの解説に努めたが,著者の文章能力の限界から不十分に思われる箇所も散見されるかもしれない.そこは,本書を手にとってくださった読者諸氏の読解力と包容力に委ねたい.
 歯科技工界の将来を担う卒後5年前後の歯科技工士諸氏にとって,本書の一行であっても,毎日の臨床技工の一助になるのであればこの上ない喜びである.
 愛歯技工専門学校
 岡野 京二

推薦の序
 歯科技工というのはこれまで,どちらかといえば経験と勘によるところが大きく,製作者たる歯科技工士の技能によって修復装置の出来栄えは大きく左右されてきた.製作者の経験はもちろん極めて重要で,それは製作過程におけるちょっとしたコツに活かされ,修復装置の完成度も高くなるが,理論を伴わない経験や勘というものは再現性に乏しく,その個々の歯科技工士にしかできない,まさしく匠の世界である.歯科技工は科学的な根拠に基づいて実践され,ある程度の知識を持った歯科技工士が製作する修復装置であれば一定の再現性を有するものでなければならない.特に最近はCAD/CAMシステムの普及によって機械加工が可能となり,高品質かつ高精度な修復装置を安定的に提供できるようになってきたが,システムを操作するのは歯科技工士であり,失われた組織を修復する際の形態的,機能的,そして審美的な要件を満たすための知識が欠かせないことに変わりはない.また,いくらCAD/CAMシステムが発展しても,口腔内の複雑な形態や色調を機械加工だけで再現するのは現時点では不可能であり,最終的な調整は歯科技工士が行わなければならない.つまり,歯科技工は人と機械のコラボレーション(協同作業)なのである.
 このたび,愛歯技工専門学校の岡野京二氏が前著『TheBasics卒後5年までに身につけたいインレー・コア・クラウン技工のコツとツボ』の続編として本書を発刊されたことは,歯科医師として,また,歯科技工教育に携わるものとして誠に御同慶の至りである.氏は本書で,歯科技工士養成校での40余年の教員生活で習得した知識と技術を遺憾なく披露しており,その努力と根気に改めて敬意を表したい.本書は写真や図説を駆使し,わかりやすく,実に簡潔かつ明瞭にまとめられているうえ,常に理論的な根拠が背景にある.何よりも,教養を得るために重要である「なぜ?」の疑問から解説されていることは一読者としても共感を覚えるところで,これは氏が40余年の間,常に敬愛し師事してこられた先輩・桑田正博先生の御薫陶の賜物であると感銘している.
 私は常々,歯科医師や歯科技工士の教育においては,理論に基づいた技術をいかに学生に伝えるかが肝要であると考えている.そのためには教員自らが“臨床力”を示さなければならない.理論に基づいた技術力を示すとともに,個々の患者に対応できる臨床力を教授することが教員のミッションである.学生は教員の背中を見て育つのであるから,教員自らが実践できる技術を習得していることが重要である.そして,その技術とは理論に基づいた再現性のある製作技法であり,個人個人にしかできない技能とは異なるはずだ.岡野氏は謙虚にも,本書の読者層を「歯科技工界の将来を担う卒後5年前後の歯科技工士」に絞っておられるようだが,私は歯科技工士はもとより,歯科医師や歯科技工士の教育に従事している教員,さらには臨床技工力が落ちたと言われて久しい若い歯科医師にも,ぜひとも本書を歯科臨床のバイブルとして活用していただきたいと思っている.
 本書を執筆された岡野氏に感謝申し上げるとともに,氏の執筆を温かく見守られたであろう桑田先生に敬意を表し,推薦の一文としたい.
 全国歯科技工士教育協議会 会長
 大阪歯科大学
 末瀬一彦
 序
 推薦の序(末瀬一彦)
第1章 ブリッジ技工の基本の“き”─ブリッジ製作に臨む歯科技工士が知っておくべき考え方
 言葉としての平行 支台歯型における平行関係
 実際の支台歯型 支台歯型と修復装置
 支台歯型の高さと維持力 支台歯型の削除と歯髄腔
 対合歯とのかかわり 隣在歯とのかかわり
 向き合う軸面の角度が異なる場合の修復装置の装着脱方向
 歯間乳頭頂と接触域 臨床模型における検証
 連結の可否 ダウエルピンの植立方向と平行
第2章 ブリッジ製作に用いる作業用模型─ブリッジ技工における作業用模型の管理と擬似歯肉の製作
 模型全体の観察 正中方向からの観察
 対合歯列模型の観察 ポンティックの製作限界
 模型観察の重要性 測定杆をあてがう方向
 サベイングの実際 作業用模型の基底面の削合
 模型の弧状変形 回転防止溝の付与 模型のドレスアップ
 疑似歯肉部の再現方法 分割とトリミング
 擬似歯肉の製作工程 疑似歯肉製作後の考察
第3章 ブリッジのワックスアップ─歯冠形態をイメージしたワックスアップと,その仕上げ
 ワックスの特性 アンテリアガイダンス
 ワックスアップは“単独”で 分離材の塗布
 ソフトワックスによるコーティング ポンティック部のワックスアップ
 ワックスコーンの植立 咬合接触箇所
 ワックスの補足 隅角徴の違いと見え方の変化
 歯冠外形の形成 咬合面の凹凸のありよう
 咬合面のワックス形成 咀嚼のメカニズム
 術者の“手”としての形成器 形成器の種類と扱い方
 1歯単位の観察と吟味 3本ブリッジの観察と吟味
 カービングによる形成 歯冠側面のカービング
 小窩裂溝のカービング 歯冠部全体の仕上げ
 綿花を用いた咬合面の仕上げ 火焔法の難点!?
 火炎法による仕上げ作業 小窩裂溝のトレース
 ワックス歯頸マージンの適合作業 ポンティック基底面の削除
 ポンティック形態の決定要件 ポンティックの大きさ
 「連結」とは!? 連結作業の実際
 窓開け作業時の留意点 窓開け作業の実際
 ワックスの温度変化 「接触されている状態」
 ワックスを“塗る”作業
第4章 ブリッジの“調整”技工─チェアサイドワークの効率化に貢献する調整作業
 鋳造後の作業工程 “一般的な”鋳造体
 内面と連結精度の審査 切削道具の使い方
 歯科技工士が行う接触域の調整 咬合紙の使い方
 接触域調整の考え方 接触痕の削除
 接触域調整の仕上げ 気泡の削除
 接触域調整の完了 接触度合いを数値で検証する
 「歯科技工士の咬合調整」 メタルフォイル
 咬合調整の手順 ブリッジ咬合面の調整順序と方向
 歯科技工における「力のコントロール」 カーボランダムポイントの使い方
 歯牙形態を踏まえたポイント使い 歯冠側面部形態の仕上げ
 溝としての機能 上下顎臼歯部平衡側咬頭における溝のありよう
 咬合面形態の検証
第5章 研磨と仕上げ─ブリッジ製作の総仕上げ
 溝の研磨用綿棒 溝の中研磨
 最終研磨工程 綿棒における力のコントロール
 最終のつや出し作業 汚れやすい箇所
 歯冠色レジンの填入 オペークの塗布
 レジンの填入 レジン填入部分の最終形態の吟味
 過剰レジンの削除 ブリッジの完成

 参考文献
 著者略歴