序
かつての歯科治療は,卓越した技術や豊富な経験に裏打ちされた“職人技”によって成り立っていました.近年では,根拠に基づく医療(Evidence Based Medicine:EBM)の概念が広く浸透し,歯科臨床においても,エビデンスに基づいた判断が求められる時代へと移り変わりつつあります.私が歯学部生だった頃にもEBMに関する講義がありましたし,歯科医師となって所属した医局やスタディグループでは論文抄読が行われていました.また,私より若い世代の先生たちをみてみると,翻訳ツールやAIのサポートもあり,エビデンスに対するハードルが低くなっているように感じます.かつては,留学経験のある先生や研究者のものであったエビデンスが,今やすべての歯科医師にとって不可欠な指針となりつつあるのです.
「巨人の肩の上に立つ(Standing on the shoulders of giants)」という言葉があります.これは,論文検索ツールであるGoogle Scholarの画面下部に記されているフレーズであり,「私が遠くを見渡せたのは,巨人の肩の上に立っていたからだ」というアイザック・ニュートンの言葉に由来します.すなわち,私たちが享受している知見は,先人たちによる膨大な研究と試行錯誤の積み重ねの結果なのです.私たちはエビデンスを学ぶことによって,より高い位置から歯科医師のキャリアをスタートすることができ,より遠くへと到達できる可能性があります.
ただし,エビデンスは唯一無二の正解を示すものではありません.多様な患者と向き合う日常臨床においては,エビデンスはあくまでも判断材料の1つであり,患者の希望,診療環境,そして術者の経験などを総合的に考慮したうえで,最適な治療法を導く必要があります.同じエビデンスに基づいたとしても,歯科医師によって臨床判断が異なることもあるのです.
本書は,歯科臨床におけるエビデンスの活用について,実践的な視点から考えることを目的として執筆しました.多くの歯科医師がエビデンスに触れる機会が増えた今だからこそ,「論文のデータを盲信する」のではなく,「エビデンスをいかに日常臨床に活かすか」が問われています.
本書が,エビデンスに踊らされることなく,エビデンスを活用しながら,臨床に真摯に向き合う皆様の一助となれば幸いです.
2025年7月
星 嵩
かつての歯科治療は,卓越した技術や豊富な経験に裏打ちされた“職人技”によって成り立っていました.近年では,根拠に基づく医療(Evidence Based Medicine:EBM)の概念が広く浸透し,歯科臨床においても,エビデンスに基づいた判断が求められる時代へと移り変わりつつあります.私が歯学部生だった頃にもEBMに関する講義がありましたし,歯科医師となって所属した医局やスタディグループでは論文抄読が行われていました.また,私より若い世代の先生たちをみてみると,翻訳ツールやAIのサポートもあり,エビデンスに対するハードルが低くなっているように感じます.かつては,留学経験のある先生や研究者のものであったエビデンスが,今やすべての歯科医師にとって不可欠な指針となりつつあるのです.
「巨人の肩の上に立つ(Standing on the shoulders of giants)」という言葉があります.これは,論文検索ツールであるGoogle Scholarの画面下部に記されているフレーズであり,「私が遠くを見渡せたのは,巨人の肩の上に立っていたからだ」というアイザック・ニュートンの言葉に由来します.すなわち,私たちが享受している知見は,先人たちによる膨大な研究と試行錯誤の積み重ねの結果なのです.私たちはエビデンスを学ぶことによって,より高い位置から歯科医師のキャリアをスタートすることができ,より遠くへと到達できる可能性があります.
ただし,エビデンスは唯一無二の正解を示すものではありません.多様な患者と向き合う日常臨床においては,エビデンスはあくまでも判断材料の1つであり,患者の希望,診療環境,そして術者の経験などを総合的に考慮したうえで,最適な治療法を導く必要があります.同じエビデンスに基づいたとしても,歯科医師によって臨床判断が異なることもあるのです.
本書は,歯科臨床におけるエビデンスの活用について,実践的な視点から考えることを目的として執筆しました.多くの歯科医師がエビデンスに触れる機会が増えた今だからこそ,「論文のデータを盲信する」のではなく,「エビデンスをいかに日常臨床に活かすか」が問われています.
本書が,エビデンスに踊らされることなく,エビデンスを活用しながら,臨床に真摯に向き合う皆様の一助となれば幸いです.
2025年7月
星 嵩
序
はじめに
1 歯周病の原因はなんだろう?
1 歯周病が進行しやすい人と進行しにくい人
2 歯を磨く人と磨かない人の歯周病の進行
3 Porphyromonas gingivalisはクラスの不良
4 歯周病の原因は?
5 歯周炎の2大リスクファクター タバコと糖尿病
6 歯周病と遺伝の関係
2 歯周病の検査を理解しよう
1 歯周ポケットのリスクと目標値
2 BOPで予測できること
3 適切なプロービング圧
4 プローブの目盛りの読み方
5 プロービングは痛い
6 プロービングのエラー
7 X線写真でわかること
8 歯周治療におけるCTの有効性
3 歯周病の診断をしてみよう
1 CALってなんだろう
2 健康・歯肉炎・歯周炎の診断
3 歯周炎のステージ
4 歯周炎による喪失歯の数え方
5 歯周炎の範囲
6 歯周炎のグレード
7 診断が難しいグレーゾーンの症例
4 歯の未来を予測する予後判定
1 McGuireの予後判定
2 Kwok & Catonの予後判定
3 Salehの予後判定 PRS:periodontal risk score
4 ステージ・グレードによる歯の喪失リスク
5 Hopelessは抜歯?
5 一番大切なプラークコントロール
1 プラークコントロールの重要性
2 プラークコントロールの目標
3 1日に何回歯を磨けばいいのか?
4 プラークコントロールに心理学は有効か?
5 動機づけ面接(motivational interviewing)
6 プラークコントロールに染め出しは有効か?
7 歯ブラシの選び方
8 磨き方,電動歯ブラシ,歯間清掃器具の選択
9 FDIの歯磨きのコンセンサス
6 いろいろな非外科治療
1 非外科治療に関する用語の定義
2 SRPの効果
3 SRPで歯石は取り切れるのか?
4 歯石は探知できるのか
5 ルートプレーニングは必要か?
6 最新の非外科治療:MINST
7 ハンドスケーラーと超音波スケーラー
8 SRP後の合併症
7 薬で歯周病は治るのか
1 抗菌療法の世界の潮流
2 抗菌療法の適正使用
3 抗菌薬の選び方
4 魔法の薬アジスロマイシン
5 洗口剤と歯磨剤
8 歯周病と力の関係
1 歯周病の新分類〜外傷性咬合力と咬合性外傷〜
2 咬合性外傷と歯周炎
3 動揺度の分類
4 歯周治療における咬合調整の必要性
5 咬合調整と連結固定のタイミング
6 動揺歯の原因と治療
9 フラップ手術のエビデンスとテクニック
1 フラップ手術の適応症
2 フラップ手術の有効性
3 血が通う切開デザイン
4 歯周組織のマクロとミクロの血流
5 剥離は焦らず,優しく,丁寧に
6 肉芽組織の掻爬
7 一針入魂の縫合
10 歯周組織再生療法で考えること
1 歯周組織再生療法の適応症と限界
2 再生しやすい症例の選択
3 骨移植材の違い
4 組織再生誘導法:GTR法
5 エムドゲインとリグロス
6 エムドゲインと骨移植材
7 リグロスと骨移植材
8 再生マテリアルの必要性
9 コンビネーション療法
11 複雑な根分岐部病変の治療
1 根分岐部病変の診断
2 根分岐部病変がある歯の予後
3 根分岐部病変の治療法〜EFPのガイドライン〜
4 根分岐部病変の歯周組織再生療法で考慮すること
5 根分岐部病変に使用する再生マテリアル
6 根分岐部病変はどれくらい再生が期待できるのか
7 切除療法は時代遅れなのか?
12 メインテナンスの理想と現実
1 いろいろなメインテナンス
2 歯周治療のゴールの理想と現実
3 先に抜歯か後に抜歯か
4 メインテナンスの間隔
5 メインテナンスをしないとどうなる?
6 メインテナンス中に重症化する人たち
Column
1 エビデンスレベル
2 アメリカ歯周病学会とヨーロッパ歯周病連盟
3 システマティックレビューとガイドライン
4 論文を読むときに役立つツール
5 海賊版論文 Sci-Hub
6 歯周病学のジャーナル
7 歯科におけるEBM
8 忖度とバイアス
9 ペリオ界のキラキラネーム
あとがき
索引
はじめに
1 歯周病の原因はなんだろう?
1 歯周病が進行しやすい人と進行しにくい人
2 歯を磨く人と磨かない人の歯周病の進行
3 Porphyromonas gingivalisはクラスの不良
4 歯周病の原因は?
5 歯周炎の2大リスクファクター タバコと糖尿病
6 歯周病と遺伝の関係
2 歯周病の検査を理解しよう
1 歯周ポケットのリスクと目標値
2 BOPで予測できること
3 適切なプロービング圧
4 プローブの目盛りの読み方
5 プロービングは痛い
6 プロービングのエラー
7 X線写真でわかること
8 歯周治療におけるCTの有効性
3 歯周病の診断をしてみよう
1 CALってなんだろう
2 健康・歯肉炎・歯周炎の診断
3 歯周炎のステージ
4 歯周炎による喪失歯の数え方
5 歯周炎の範囲
6 歯周炎のグレード
7 診断が難しいグレーゾーンの症例
4 歯の未来を予測する予後判定
1 McGuireの予後判定
2 Kwok & Catonの予後判定
3 Salehの予後判定 PRS:periodontal risk score
4 ステージ・グレードによる歯の喪失リスク
5 Hopelessは抜歯?
5 一番大切なプラークコントロール
1 プラークコントロールの重要性
2 プラークコントロールの目標
3 1日に何回歯を磨けばいいのか?
4 プラークコントロールに心理学は有効か?
5 動機づけ面接(motivational interviewing)
6 プラークコントロールに染め出しは有効か?
7 歯ブラシの選び方
8 磨き方,電動歯ブラシ,歯間清掃器具の選択
9 FDIの歯磨きのコンセンサス
6 いろいろな非外科治療
1 非外科治療に関する用語の定義
2 SRPの効果
3 SRPで歯石は取り切れるのか?
4 歯石は探知できるのか
5 ルートプレーニングは必要か?
6 最新の非外科治療:MINST
7 ハンドスケーラーと超音波スケーラー
8 SRP後の合併症
7 薬で歯周病は治るのか
1 抗菌療法の世界の潮流
2 抗菌療法の適正使用
3 抗菌薬の選び方
4 魔法の薬アジスロマイシン
5 洗口剤と歯磨剤
8 歯周病と力の関係
1 歯周病の新分類〜外傷性咬合力と咬合性外傷〜
2 咬合性外傷と歯周炎
3 動揺度の分類
4 歯周治療における咬合調整の必要性
5 咬合調整と連結固定のタイミング
6 動揺歯の原因と治療
9 フラップ手術のエビデンスとテクニック
1 フラップ手術の適応症
2 フラップ手術の有効性
3 血が通う切開デザイン
4 歯周組織のマクロとミクロの血流
5 剥離は焦らず,優しく,丁寧に
6 肉芽組織の掻爬
7 一針入魂の縫合
10 歯周組織再生療法で考えること
1 歯周組織再生療法の適応症と限界
2 再生しやすい症例の選択
3 骨移植材の違い
4 組織再生誘導法:GTR法
5 エムドゲインとリグロス
6 エムドゲインと骨移植材
7 リグロスと骨移植材
8 再生マテリアルの必要性
9 コンビネーション療法
11 複雑な根分岐部病変の治療
1 根分岐部病変の診断
2 根分岐部病変がある歯の予後
3 根分岐部病変の治療法〜EFPのガイドライン〜
4 根分岐部病変の歯周組織再生療法で考慮すること
5 根分岐部病変に使用する再生マテリアル
6 根分岐部病変はどれくらい再生が期待できるのか
7 切除療法は時代遅れなのか?
12 メインテナンスの理想と現実
1 いろいろなメインテナンス
2 歯周治療のゴールの理想と現実
3 先に抜歯か後に抜歯か
4 メインテナンスの間隔
5 メインテナンスをしないとどうなる?
6 メインテナンス中に重症化する人たち
Column
1 エビデンスレベル
2 アメリカ歯周病学会とヨーロッパ歯周病連盟
3 システマティックレビューとガイドライン
4 論文を読むときに役立つツール
5 海賊版論文 Sci-Hub
6 歯周病学のジャーナル
7 歯科におけるEBM
8 忖度とバイアス
9 ペリオ界のキラキラネーム
あとがき
索引














