やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

Prologue
 世界保健機関(WHO)によると,齲蝕は全世界で,乳歯に関しては5億1,400万名の小児が,永久歯に関しては20億名が発症していると報告している.また,2019年の世界の疾病負担研究(Global Burden of Disease)によると,永久歯の未処置齲蝕は最も一般的な健康の問題であるとしている.
 わが国においては,平成28年(2016年)歯科疾患実態調査によれば,4歳以上8歳未満で乳歯に齲蝕をもつ者の割合が40%前後であり,5歳以上15歳未満においては,12歳および13歳以外の各年齢において40〜70%程度の者が乳歯または永久歯に齲蝕を有していた.さらに,25歳以上85歳未満では,永久歯に処置歯または齲蝕をもつ者の割合は80%以上と高く,特に35歳以上55歳未満では100%に近かった.このように,齲蝕はすべてのライフステージ(乳幼児から高齢者まで)において,多くの人にとって深刻な疾患である.
 いわゆる齲蝕処置(外科的処置)は,日々行われる診療内容である.しかし近年,齲蝕の罹患状況の変化により,外科的処置を伴う重篤な齲蝕が減少し, 齲蝕の処置においては表層下脱灰(初期齲蝕)を含む齲蝕予防,そしてその管理(メインテナンス)の比重が増えている.
 健康の定義にもよるが,誰しも健康でありたいと願う.歯科医療従事者も患者に対して,症状が出て受診するのではなく,定期検診を受けるように促す.すると,その検診を請け負うわれわれの側では,齲蝕の発症要因を理解しておくことが非常に大切になる.齲蝕は多因子原因,部位特異的疾患であり,脱灰と再石灰化を繰り返す動的過程(Dynamic process)である.そのため,発症要因の特定は複雑である.
 本書を通してお伝えしたいことは大きく2つある.1つは,齲蝕罹患傾向の判定・齲蝕の管理(カリエスリスクアセスメント・マネジメント)がなぜ必要であり,重要であるのかについて,もう1つは,齲蝕処置は外科的・切削処置がすべてではないことを理解していただきたいということである.
 先述したが,齲蝕はすべてのライフステージ(乳幼児から高齢者まで)において,多くの人にとって深刻な疾患である.そこで本書では,患者のライフステージを成人,乳幼児・小児,妊娠患者,高齢者の4つに分類し,それぞれのステージの特徴を踏まえて,学術的エビデンスを中心に,できるだけ臨床に活用できるようにまとめたつもりである.また,齲蝕の外科的処置において直面する問題として,軟化象牙質をどこまで除去するのか,またなぜ,歯髄を残すメリットがあるのかという点についても考察する項を設けた.
 本書に記した情報が,日々の貴院の臨床に役立つことを切に願う.
 2023年6月吉日 安藤昌俊
 Prologue
Chapter 1 成人患者の齲蝕予防と管理
Chapter 2 乳幼児・小児患者の齲蝕予防と管理
Chapter 3 妊娠患者の齲蝕予防と管理
Chapter 4 高齢患者の齲蝕予防と管理
Chapter 5;Appendix 軟化象牙質・齲蝕象牙質除去に関する文献的考察
 Epilogue