やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに―『コーヌスクローネ』出版から36年
 コーヌスクローネに取り組んでから40年以上になります.それ以前は,パーシャルデンチャーに「緩圧」を用いた設計を止めようと独断決意をしながら,どのような支台装置を用いるか迷っていました.平行軸面のテレスコープ,Steiger & BoitelのChannel Shoulder Pin(C.S.P),BottgerのTelescopesystemなどを試みてみましたが,煩雑さと技工精度に悩まされ,また維持力が短期間に失われてしまうこともあって,多くは適用しませんでした.そんな時,たまたま角度を付けた内冠にしてテレスコープを作ってみたところ,維持力が強くて外れなくなりました.ここから,私のコーヌスクローネの臨床が始まりました.
 当初は,「義歯が外れにくい」とか「内冠が外れる」といったトラブルが頻発して悩みましたが,そのうちコツが掴めてトラブルが少なくなってからは,コーヌスクローネの良さが強く認識できるようになりました.とにかく,歯が抜けずによく長持ちすること,支台歯の歯周組織がきれいなこと,何でもよく噛めるという評価などなど……,良いことずくめなのです.
 『コーヌスクローネ』を出版したのが,36年前のことです.周りを見回しても,コーヌスクローネに取り組んでいる歯科医が少ないことに不思議な気がしていたのですが,一方で私の所属するスタディグループ救歯会で実施しているセミナー(救歯塾)では,コーヌスクローネをテーマにするといつも満席なのです.これほど興味をもつ方々は多いということに驚きました.36年前の出版当時には気づかなかったこと―《内冠の重要性》《間接法の重要性》《寝たきりを含めて高齢者にうってつけの補綴であること》《二次固定効果》などを伝えたいと思うようになりました.それが今回の書籍『検証 コーヌスクローネ』出版の動機です.
 今回は,スタディグループ救歯会のなかでも,特にコーヌスクローネに積極的に取り組んできたメンバーの協力の下での出版となります.
 掲載症例にはすべて「術後経過」をつけています.短い症例でも10年,最長35年の経過観察があります.『コーヌスクローネ』出版以前に取り組んだ症例も登場します.
 コーヌスクローネに興味をもつ若い先生方には,本書の長期経過症例でコーヌスクローネ臨床の擬似体験をしてほしいと思います.また,トラブルを経験して諦めた先生方も多いと思います.トラブルを招かないための方策や,トラブル対処法も記載しています.コーヌスクローネにもう一度取り組もうかなと思っていただきたいのです.
 コーヌスクローネは技工作業に頼るところが沢山あります.近年の歯科技工士の減少傾向には頭を悩ませているのですが,本書は歯科技工士と一緒に読める内容になっていますので,歯科技工士と一緒に補綴を検討する作業を進めてほしいと願っています.
 もう一度,コーヌスクローネが多くの患者さんに適応されるように,そして高齢化に伴って「この義歯で良かった」と患者さんと共に喜べる機会が増えることを願っております.
 2021年9月
 編集代表/黒田昌彦
 はじめに/『コーヌスクローネ』出版から36年
第1章 コーヌスクローネの魅力
  1-1 座談会/コーヌスクローネの魅力を語る
第2章 コーヌスクローネ製作の実際
 【コーヌスクローネ製作のステップ】
  2-1 コーヌスクローネ製作の全体像
  2-2 支台歯形成
  2-3 個歯トレーを使用した印象採得
  2-4 技工作業と診療室作業の連携
  2-5 作業模型
  2-6 内冠製作
  2-7 内冠試適,合着
  2-8 外冠・義歯製作のための印象採得
  2-9 咬合採得
  2-10 外冠・義歯製作
  2-11 義歯装着とメインテナンス
  2-12 術後のトラブル対処
 【コーヌスクローネの利点を検証する】
  2-13 コーヌスクローネの生存率
  2-14 コーヌスクローネの適応症
  2-15 プラークコントロールに最適なコーヌスクローネ
  2-16 インプラントとの併用
  2-17 超高齢社会に最適なコーヌスクローネ
第3章 コーヌスクローネ長期経過症例
  3-1 43年前の1歯残存症例の9年経過
  3-2 43年前に咬合挙上した症例の喪失歯のない35年経過
  3-3 「バネをかけた歯が1本ずつ抜けていくのが辛くて」という歯科医の患者の28年経過
  3-4 41年前,食べることを諦めていた若い男性の18年経過
  3-5 少数歯残存症例の37年の経過
  3-6 61歳10歯残存から1歯喪失の20年経過
  3-7 34年前の重度歯周炎患者.1歯のみ喪失の30年経過
  3-8 79歳から97歳まで,喪失歯のない18年経過症例
  3-9 61歳から83歳まで,22年間1歯も喪失のない症例
  3-10 40歳9歯残存から喪失歯のない31年経過
  3-11 左右すれ違い咬合の傾向にある症例の25年経過
  3-12 少数歯残存症例の17年の経過
  3-13 上顎に長い遊離端欠損を抱えた症例の25年経過
  3-14 咬合の再構成を行った少数歯残存症例の22年経過
  3-15 すれ違い咬合の傾向にある欠損の20年
  3-16 下顎両側性遊離端欠損症例の21年経過
  3-17 術後に認知症を発症した症例の13年経過
  3-18 重度歯周炎に罹患した下顎少数歯残存症例の12年経過
  3-19 天然歯とインプラントを支台歯に用いたコーヌスクローネ義歯の12年経過
  3-20 早期に支台歯を喪失したすれ違い咬合傾向症例へのコーヌスクローネ義歯11年の経過

 COLUMN 『コーヌスクローネ』 the Histories
  (1)支台装置の清掃性
  (2)「自分の歯が戻ってきた」
  (3)「お獅子の歯」
  (4)「緩圧」の呪縛
  (5)清掃性の根拠
  (6)咬合面全面レスト
  (7)トラブルの連続
  (8)院内技工
  (9)流行りと廃り
  (10)歯のパーセンタイル曲線