やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 長く顎関節症患者の治療を行ってきたが,いつも感じることがある.それは「人は治る」という実感である.治るための要素は,患者の力,術者の力そして時間である.治すのではなく治る.
 治るためには,患者の治癒を妨げる要素を取り除くことが必要である.そのためには,患者の身体,心,神経をいかに無用な刺激から遠ざけて,患者のもつ治癒力に期待して治るのを待つかが大切である.治癒を妨げる要素を防ぐのが治療とすれば,術者のできることは正しく診断し,正しい病状解説をし,術者が行えることと患者が行わなければならないことをしっかりと伝え,その経過を詳細に観察することである.残りは患者が行えることを行って,治癒を待つ.それがセルフケアである.このように顎関節症治療の臨床では,セルフケアが主流でなければならない.そして大切だからといって患者にセルフケアを促すだけではうまくいくわけはなく,理解と工夫が必要である.
 セルフケアには,患者の「行動様式」の変化と「想い」の変化を促すことが必要である.本書はセルフケアの理論を説明した後に想いの変化を促し,行動様式の変化をも促す方法を具体的に示した.そして,その具体例を著者たちが実際の患者の状況に合わせて,どのように患者に説明し,どのように具体的に指導したかをわかりやすく示した.
 お読みいただければ,明日からは術者・患者ともに楽になります.
 2018年5月
 中沢 勝宏
第I章 顎関節症におけるセルフケア
 1 最新の顎関節症の考え方とセルフケア(島田 淳)
 2 神経生理学から考えるセルフケア─中枢性感作をどう防ぎ減少させるか─(中沢勝宏)
 3 顎関節症の病因,病態と治療・管理(島田 淳)
 4 プロフェッショナルケアとセルフケア(田口 望)
第II章 セルフケアの実際
 1 セルフケアを行うための流れ(島田 淳)
 2 よい歯科医師とは−ラポールとプラセボ−(島田 淳)
 3 診断面接と治療面接(和気裕之,澁谷智明)
 4 心理社会的背景を考慮した医療面接(渡邊友希)
 5 セルフケアを行うための評価法(島田 淳)
 6 疾患教育とインフォームド・コンセント(島田 淳)
 7 認知行動療法的対応の実際(島田 淳)
 8 セルフケアとしての運動療法(田口 望)
 9 不適切なセルフケアの影響(本田公亮)
第III章 セルフケア指導に必須の知識
 1 文献から考えるセルフケアの有用性─臨床医がEBMをどう臨床に生かすか─(深澤敏弘,澁谷智明)
 2 上下歯列接触癖(tooth contacting habit:TCH)(西山 暁)
 3 セルフケアとしての食事療法(中沢勝宏)
 4 チーム医療としてのセルフケア(中沢勝宏)
 5 歯科口腔リハビリテーション料2の活用と口腔健康管理─セルフケアマネジメント─(野直久)
 6 精神医学におけるセルフケア(宮地英雄)
第IV章 実践編
 セルフケアのアドヒアランスを高める診療のポイント(島田 淳)
 運動療法,ストレスへの対処が症状の安定に奏効した症例(羽毛田 匡)
 心身医学的な対応を行うことで,セルフケア指導がうまくいった咀嚼筋痛障害の症例(澁谷智明)
 TCH是正の再指導で症状が改善した症例(佐藤文明)
 運動療法の重要性を再度説明することで,セルフケア指導が奏効した非復位性顎関節円板障害の症例(和気裕之,澁谷智明)
 間欠的クローズド・ロックのセルフケア指導について(塚原宏泰)
 運動療法をセルフケアの軸にして治癒後の自立的管理を行った症例(深澤敏弘)
 初診時より運動療法を行うことがセルフケアの鍵を握る(田口 望)
 日常生活の過ごし方アドバイスと生活改善指導が効を奏した例(中沢勝宏)

 付録
 おわりに(田口 望)