やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

本書の発刊によせて
 本書は,2014年10月から2016年7月まで『歯界展望』で連載したものを,補筆または新たに加筆したものである.そもそも本連載は,共同執筆者の一人である吉松繁人先生に,医歯薬出版の編集者がDigital implant dentistryでの執筆を依頼したところからはじまった.筆者が吉松先生からその相談を受け,それならとわれわれの5-D Japanの有志でインプラント治療学をまとめることを試みようとしたことが,きっかけであった.
 その際,筆者の大学の後輩であり,現在は東北大学大学院歯学研究科分子・再生歯科補綴学分野に在職している山田将博先生と同じくよき友人であるUCLA小川隆広教授に,研究者からの立場としても参加してもらうことを依頼し,連載をはじめることにした.当初は12回の連載を予定していたが,いざはじまってみるとそれぞれが予想以上に多くの情報・知見・臨床を提示していただき,大幅に増え22回の連載となったことはわれわれにとっても驚きであり,喜びでもあった.そして,その連載のまとめとして本書を発刊する運びとなったことも,名誉なことである.
 本書のタイトルである「The Fabric of the Modern Implantology」は,山田将博先生の発案によるものである.“fabric”は直訳すれば織物あるいは建物の土台,骨組みなどの意味である.語源はラテン語で「木工や金属細工の職人たちの作業場」という意味の“fabrica“である.“fabrica”は,16世紀の近代解剖学の創始者といわれるアンドレアス・ヴェサリウスが著作した人類最初の科学的解剖書「De humani corporis fabrica(人体の構造)」の通称としても知られている.それ以前の人体解剖図は思い込みやイメージで描かれた模式図に近いものであったが,ヴェサリウスは古代以来の解剖学に精通しつつも,疑問を抱き,何千体にも及ぶ観察結果から,人体構造を正確に描写し,現代にも通用する科学的な解剖書を創り上げた.この医学史はわれわれ歯科医師にも多大な教訓を与える.それゆえ,志を共にする臨床家・研究者との共同作業で,臨床的観察結果と文献的知識,研究成果を丹念に織り上げてインプラント治療学の土台となるような理論を一つひとつ記していくという決意を込めて,この題名とした.本書は,現在のインプラント治療学の上顎洞のアプローチは除き,ほとんどのトピックは網羅したと自負している.もちろん今後もインプラント治療学は,過去の検証と新たな技術革新とを併せながら進歩していくことであろう.そのようなインプラント治療学が,歯科医師・患者の皆さんにさらなる福音をもたらすことを願っている.
 本書の発刊に際し,根気強く編集していただいた医歯薬出版に感謝の意を表します.また5-D Japanのファウンダー南 昌広先生・福西一浩先生・北島 一先生・石川知弘先生・5-D Japanの運営に携わるインストラクター・サポーターのすべての先生・クニシマデンタルの皆さま・応援してくださる企業の方々にも感謝の意を表します.
 執筆者代表 船登彰芳
CHAPTER 01 インプラントシステムの再考−マクロデザイン−
 (丹野 努・鈴木健造)
CHAPTER 02 理想的な初期固定を得るためには?
 (丹野 努)
CHAPTER 03 臨床医のための骨結合とインプラント表面性状の科学
 (山田将博)
CHAPTER 04 インプラント表面性状のジレンマとその克服戦略
 (山田将博)
CHAPTER 05 Ridge Preservation Techniqueの再考
 (石川 亮)
CHAPTER 06 GBRを成功へと導くための原理と術式
 (藍 浩之)
CHAPTER 07 インプラント周囲における角化歯肉の必要性をどのように考えるか?
 (石川 亮)
CHAPTER 08 上顎前歯部におけるインプラント周囲のソフトティッシュマネジメント
 (藍 浩之)
CHAPTER 09 審美インプラント治療:過去からの定石と現在の潮流1 最終補綴を考慮した最適な三次元的インプラントポジション
 (鈴木健造・中川雅裕)
CHAPTER 10 審美インプラント治療:過去からの定石と現在の潮流2 インプラント埋入タイミングの検討と周囲組織の再構築
 (中川雅裕・鈴木健造)
CHAPTER 11 CAD/CAMテクノロジーはどこまでインプラント治療に応用できるのか?
 (吉松繁人・神津 聡)
CHAPTER 12 ネジ留め上部構造の新たな可能性
 (船登彰芳)
CHAPTER 13 これだけは知っておきたい光機能化−基礎編−
 (小川隆広)
CHAPTER 14 光機能化の実際と臨床成績インプラントとチタンメッシュへの応用を中心に
 (小川隆広)
CHAPTER 15 予後から観たインプラント治療が抱える課題
 (船登彰芳)
Epilogue
 (船登彰芳・山田将博・吉松繁人)
 索引