やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 日本におけるエンドの臨床的技術レベルは,先進国の中ではいまだに高いとは言えないであろう.形を作って詰めるといった,いわゆる作業としか考えていない歯科医師もいるのではないだろうか.ほとんどすべての歯科医師は保険診療の恩恵を受けているが,ことエンドについては,その恩恵はかなり少ない.この厳しい環境において,“患者のためによりよい治療を”と考えることはかなり難しいかもしれない.しかし,このような時代こそ,ぜひ考え直してほしい.「歯科医院の冬の時代」と言われて数年が経つが,さして貧困状態の歯科医院の噂をあまり耳にすることもない.つまり,マスコミが取りあげるほど劣悪な環境ではないはずである.もちろん,40年以上も前から比べるとかなり歯科医院の数は増えているが,それなりに上手く共存共栄しているように見受けられる.この状態がどれほど続くのかわからないが,これ以下にはならないと筆者は考えている.だからこそ先行投資で何か患者のプラスになるように考えてほしい.
 “エンドは感染症を取り扱っているのだ”という認識を高め,滅菌や無菌的処置への投資や作業効率を考えた根管治療システムへの投資を見据えてほしい.これらはやがて自分自身の臨床に必ずプラスとして反映されるはずである.年間に買い物や外食をしないという人は,われわれの業界ではおそらくいないであろう.ほんの少し欲を我慢し,ほんの少し何かに投資することにより,歯科医療に対する考え方も変わるのではないだろうか.そのような思いをもちながら本書を熟読していただけると,幸甚である.そして,いつの日か日本のエンドが世界をリードすることを願っている.
 2016年10月
 牛窪 敏博
 Introduction 日本ではなぜ再治療が多いのか?
  イニシャルトリートメントの重要性
CHAPTER I 抜髄前になすべきこと
 1 その歯は本当に抜髄処置が必要なのか?
  歯髄・根尖部周囲組織の診査・診断
 2 根管治療を行う前になすべきことは?
  事前説明,ラバーダム防湿,術野の消毒,隔壁作製
  COLUMN 保険診療でも活きる根管治療の時間のかけ方
 3 覆髄はどのような場合に,どのように行うのか?
  抜髄か,覆髄か
CHAPTER II 根管からの細菌除去
 1 根管形態はイメージできているか?
  エンドの臨床に必須な根管解剖
 2 感染根管にしないための根管形成法とは?
  抜髄根管の根管形成法
 3 根管形成中の偶発症の予防と対応はできているか?
  偶発症でパニックに陥らないための術
 4 根管洗浄は何をどのタイミングで用いるべきか?
  根管内の起炎因子の排除に必須な根管洗浄
 5 その根管貼薬は科学的根拠に基づいているのか?
  根尖部周囲組織の治癒促進を目的とした根管貼薬
 6 根管治療中の仮封は適切に行えているか?
  臨床的な操作性と封鎖性を考えた仮封
 CHAPTER II 根管からの細菌除去のまとめ
CHAPTER III 根管系の封鎖
 1 根管充填をどのように考えるべきか?
  根管充填の戦略
 2 根管充填をどのように実践していくのか?
  根管充填の実際
 3 根管充填後の最適な修復処置とは?
  根管治療の予後に影響する修復処置
Initial Treatmentの疑問に答える
  COLUMN NiTiロータリーファイルのコストと破折

 索引