やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 医療安全が叫ばれる昨今,歯科医療で最も忘れられがちなのは,知識である.ややもすると歯科技術そして審美に走りがちな歯科医療であるが,本質は医療であり,根拠をもった診断,治療,そして予後経過観察をすることが直接,医療安全にも繋がるものと信じている.
 本来,病態像を理解しない臨床はありえない.逆に臨床を知らない病態を解いても意味がない.
 「料理は素材の勝負」という人もいるが,実際は素材を知り尽くした料理人の腕といえる.素材に熱をかける前に味をつけるか,熱をかけている途中に味をつけるか,または熱をかけ終わった後に味をつけるかによって,その味は雲泥の差となる.正常像は当然知っているかのような錯覚をもてば,当然,病態を正しく理解することはできない.臨床における問診と診察は,いかなる病変を知るにも重要である.しかし,素材の構造・特徴を知らずして診断は語れないのである.
 本書は,体育会の先輩・後輩という関係にある口腔外科臨床専門医と口腔病理専門医が,基礎の裏づけのある臨床を実現させたものである.まず,素材を知るため各臓器組織の正常について解説した.次に病変をチャート式で診断を進めていく方法をとり,解説は,上段に臨床,下段にシェーマを入れながら病態病理について解説した.また,日常,歯科臨床で遭遇する頻度の高い病変については,なるべく多くの症例を示し,めったにみることのない病変も関連病変として可能な限り記載した.
 口腔外科専門の先生方のみならず,一般の歯科医師の先生,臨床研修医,歯科学生,そして歯科に関与する多くの方々にもお読みいただき,口腔病変の理解を深めていただければ幸いに思う.
 2011年3月
 野伸夫・井上 孝
 序
 本書の主眼
ACT 1 口腔病変
 発生
 口腔
 口腔粘膜
 歯
 歯周組織
 唾液腺
 骨組織
 Column 1 融合歯と融合指,そして癒着歯と癒着・融合バナナ
ACT 2 黒色病変
 チャート
 問題症例1・2・3
 問題症例1 外来性色素沈着症
 問題症例2 メラニン色素沈着症
 問題症例3 色素性母斑
 黒色病変を理解するために
 Column 2 癌検診と病理診断
ACT 3 白色病変
 チャート
 問題症例4・5・6
 問題症例4 上皮内癌
 問題症例5 口腔カンジダ症
 問題症例6 口腔扁平苔癬
 上皮分化(角化)異常を示すその他の白色病変と関連病変
 白色病変を理解するために
 Column 3 口蓋皺襞と神経受容体,そして総義歯
ACT 4 水疱形成性病変
 チャート
 問題症例7・8
 問題症例7 ヘルペス
 問題症例8 尋常性天疱瘡
 先天性(遺伝性)の水疱形成性病変
 薬疹
 Column 4 泡と疱,そしてヤマイダレ
ACT 5 隆起(腫瘤)性病変
 チャート
 問題症例9・10
 問題症例11・12
 問題症例13
 問題症例9 線維腫
 歯肉肥大
 問題症例10 エプーリス
 問題症例11 多形性腺腫
 唾液腺壊死性化生
 問題症例12 神経鞘腫
 問題症例13 類表皮嚢胞
 軟組織に発生するその他の嚢胞
 隆起を示すその他の病変
ACT 6 潰瘍性病変
 チャート
 問題症例14・15
 問題症例16・17
 Column 5 天然歯付着上皮,ポケット上皮,インプラント周囲上皮
 問題症例14 急性壊死性潰瘍性歯肉炎
 問題症例15 褥瘡性潰瘍
 問題症例16 扁平上皮癌
 口腔領域への転移性癌
 問題症例17 ベーチェット病
 シェーグレン症候群
 口腔結核症
ACT 7 顎骨内病変
 チャート
 問題症例18・19
 問題症例20・21・22
 Column 6 第一大臼歯は乳歯?
 問題症例18 含歯性嚢胞
 顎骨内に発生するその他の嚢胞
 歯原性腫瘍の種類
 問題症例19 歯原性腫瘍(エナメル上皮腫)
 問題症例20 歯原性粘液腫/粘液線維腫
 Column 7 コウクウとコウコウ
 顎骨の血管系腫瘍
 問題症例21 基底細胞母斑症候群
 問題症例22 線維性(骨)異形成症
 顎骨骨髄炎
 その他の骨髄炎
 Column 8 骨硬化像
 Column 9 歯根膜とオッセオインテグレーション
ACT 8 歯科臨床検査
 あとがき
 疾患名索引