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はじめに:なぜ今ラバーダム防湿なのか
 近年,歯科における治療技術は急速かつ劇的に変化しています.しかし治療時間の短縮,手技の簡略化ばかりが注目され,それを進歩と誤解してはいないでしょうか.良好な予後を期待するのであれば,原則に忠実な治療を行うことが大切であり,基本処置を省いて新しい方法に頼ることは本末転倒であります.
 根管治療に関して言うと,無菌処置を徹底することが大原則であり,クリーンな術野を確保するためにはラバーダム防湿法が必須です.このことはラバーダム防湿法が考案されてから約150年が経過する現在においても何ら変わることはなく,いまだにこれを超える防湿方法がないグローバルスタンダードな手技なのです.
 しかしながら,わが国における根管治療の現状は,ラバーダム防湿の使用頻度が低いにもかかわらず,新しい治療器具,材料ばかり欧米を追従したアンバランスな状態であり,これでは,再治療が後を絶たない「根管治療の後進国」と言わざるをえません.さらに追い討ちをかけるように,平成20年4月の歯科保険診療報酬改定において,雀の涙ほどであったラバーダム防湿の点数さえも削除という状況です.面倒なうえに点数もない処置をだれが真剣に行うでしょうか.
 まさに歯科医の良心だけがラバーダム防湿法を存続させるという危機的状態が予想されるなか,本書は2007年7月号から6回にわたり歯界展望に連載した“見直そう!ラバーダム防湿法”を基に,簡単で確実なラバーダム防湿法を解説したものです.この本を手にされたひとりでも多くの歯科医師,歯科衛生士が,ラバーダムの意義を理解し,ラバーダム防湿をルーティンに行えるようになることを願ってやみません.
 2008年3月
 井澤常泰
 はじめに:なぜ今ラバーダム防湿なのか
第1章 ラバーダム防湿法の意義
 はじめに
 ラバーダムは使用されているか?
 ラバーダム防湿は治療の結果に影響するか?
 ラバーダム防湿を行うことは難しいか?
 ラバーダム装着は患者に嫌がられるか?
第2章 ラバーダム防湿法に必要な器材
 ラバーダムシート
  1)材質,色
  2)大きさ,厚さ
  3)香り
 ラバーダムパンチ
 クランプ
 クランプフォーセップス
 ラバーダムフレーム
第3章 根管治療におけるラバーダム防湿法
 ラバーダムのかけ方の基本
 ラバーダム防湿時のトラブル解決
  1)リーケージが起こる
  2)クランプが外れやすい
  3)クランプをかけると患者が痛がる
  4)残存歯質が少なくクランプがかからない
 クランプがかからない症例への対応
  1)歯周外科処置あるいは矯正による挺出
  2)隣在歯を利用する
  3)隔壁を作る……
  4)レジン隔壁の作り方
第4章 修復治療におけるラバーダム防湿法
 修復治療におけるラバーダムの意義
  1)防湿
  2)歯肉粘膜の圧排
  3)視認性の向上
  4)患者の快適性
  5)医院の好評価
 下顎臼歯部修復のラバーダム防湿法の実際
  1)使用器具
  2)ラバーダムシートへのパンチ
  3)ラバーダムの装着
  4)ラバーダムの撤去
  5)齲蝕による隣接面歯冠崩壊が大きく,ラバーダムシートが切れてしまう場合
  6)ブリッジ等により歯
  7)下顎最後方歯遠心面に発生した齲蝕
 前歯部修復のラバーダムの実際

 主な使用器材
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