やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

『口腔外科研修ハンドブック』発刊にあたって
 今日の口腔外科の実臨床において,その根幹となる基本的な技能や考え方は,多くの先達の先生方の弛まない努力により成し遂げられてきました.これはまさに先人の先生方の努力の賜物というべきものであり,我々は,それをさらに発展させ,正しく継承する必要があることは言うまでもありません.
 公益社団法人日本口腔外科学会では,次世代を担う若手口腔外科医の育成と口腔外科の臨床や研究のさらなるレベルアップを見据え,「若手口腔外科医交流会」や若手ドクターを対象としたシンポジウムの開催,優秀論文賞の設定,また国内研修支援制度,キャダバーサージカルトレーニング,研究推進プロジェクトの公募等,多くの事業に取り組んできました.それぞれにおいては徐々に成果を上げているものと確信しますが,その基本となる口腔外科臨床に特化した理解しやすい成書が少なかったのも事実であり,その要望に応え,このたび『口腔外科研修ハンドブック』を刊行するに至った次第です.
 本書は,従来からよく見られるような内容のものではなく,基本を押さえた上で日常臨床にすぐに役立ち,今までの成書には記載されていない,若手の先生方が特に注意を払わねばならない点や陥りやすいポイント,手技のコツや考え方,また背景に備えておかなければならない知識や情報等を紙面の許す限り記載することを念頭に作成しました.そのため,執筆者には各施設でまさに今,中堅の指導医として若手の先生方を直接指導し活躍されている先生方に参加いただき,実臨床の要点を中心に執筆いただきました.
 本書を基盤として,日々の口腔外科の実臨床を正しく理解,習得し,口腔外科を受診される患者さんに適切な治療が実施され,良質な医療が提供されるとともに若手の先生方の成長と発展に繋がることを切に願っています.
 最後に,本書の執筆,作成にご尽力いただいた「口腔外科研修ハンドブック・若手ワーキンググループ」の各位に感謝するとともに,中心となって編纂いただきました学術委員会委員長の原田浩之先生ならびに医歯薬出版編集部の皆様に御礼申し上げます.
 2022年10月
 公益社団法人日本口腔外科学会
 理事長 桐田忠昭


『口腔外科研修ハンドブック』編集にあたって
 このたび,公益社団法人日本口腔外科学会より『口腔外科研修ハンドブック』を出版することになりました.口腔外科は診療範囲が広く,発育異常,外傷,炎症,嚢胞,腫瘍,唾液腺疾患,顎関節疾患等の外科処置に加え,口腔粘膜疾患,神経性疾患等の内科的知識も含めた幅広い知識,技術ならびに経験が必要です.また,高齢化社会により,合併症をもった患者さんは増加の一途をたどり,全身疾患・管理の対応は以前に比べより幅広く深い知識が不可欠となりました.若手口腔外科医は,これらの知識を習得し,多くの臨床経験も積んでいかねばなりませんが,口腔外科臨床に特化した成書は少ないまま現在に至っております.我々が若い頃は,上級医が多くの時間をかけて懇切丁寧に指導いただきましたが,働き方改革等により上級医の指導時間にも制限が生じ,より効率的に学習できる成書が必要です.
 本書の企画にあたり学術委員会では,日常臨床に役立ち,特に成書に記載されていない実践に即役立つ情報を多く記載することにしました.そこで各学術委員に若手口腔外科医を推薦いただき,「口腔外科研修ハンドブック・若手ワーキンググループ」を結成しました.ワーキンググループ10名の先生方には,企画,目次構成のため多大な時間をかけてディスカッションいただきました.症例提示において,実際に行った「若手口腔外科医の対応」と「指導医からのアドバイス」を記載したのは斬新なアイデアと思います.また,若手口腔外科医委員会にも執筆協力いただきました.本書の趣旨は,実臨床を念頭においたものであり,そのため記述はできるだけ簡潔に「臨床に役立つように」を心がけました.本書は,口腔外科に入局した研修医が学ぶべき診察・処置の基本からカルテ記載法,手術手技,救急対応法等,卒後10年目まで役立つ内容からなっています.
 本書の発刊に快くご理解くださり,短期間での執筆にご協力いただいた多くの先生方に,心から御礼申し上げます.また,執筆依頼から発刊まで1年間と迅速に対応いただいた出版社の方々にも深謝申し上げます.
 若手口腔外科医が,診察,診断,治療方針の決定から手術,術後管理に至るまで,自信をもって診療に向き合えるべく,本書を活用していただきたいと存じます.
 2022年10月
 公益社団法人日本口腔外科学会
 学術委員会委員長 原田浩之
1章 診察
 1 問診と診察(池邉哲郎)
  1.概要
  2.問診の仕方
  3.診査
  4.診療録への記載
 2 各種検査
  1.頭頸部X線(原田浩之)
  2.CT(柿本直也)
  3.MRI(箕輪和行)
  4.US(Ultrasonography,超音波診断)(林 孝文)
  5.PET・シンチグラフィ(中村 伸)
  6.VF,VE(戸原 玄,中根綾子)
  7.微生物学検査(川邊睦記,岸本裕充)
  8.神経機能検査(飯田征二)
 3 全身・局所管理に注意すべき身体背景と基礎疾患(処置・対応含む)
  1.小児患者(藤原 誠,古郷幹彦)
  2.妊娠中・授乳中の患者(山田浩之)
  3.高齢患者(山内健介)
  4.呼吸器系疾患(鵜澤成一)
  5.循環器系疾患(中嶋 大)
  6.消化器系疾患(肝臓含む)(明石昌也)
  7.血液・造血器系疾患(大場誠悟)
  8.腎・泌尿器・生殖器系疾患(渋谷恭之)
  9.精神疾患(久保田恵理,徳倉達也)
  10.神経・運動器系疾患(星 和人,板井俊介)
  11.内分泌・代謝・栄養疾患(中山秀樹)
  12.免疫・アレルギー疾患(里村一人)
 4 カルテ記載と病状照会(米永一理)
2章 外来での処置・対応
 1 各疾患の診断の流れ
  1.顎口腔の先天異常(田中 晋)
  2.顎口腔の後天異常(小林正治)
  3.外傷(骨・軟組織)(佐藤康太郎)
  4.顎口腔の炎症(鄭 漢忠)
  5.嚢胞―嚢胞を知るには上皮を知る(横尾 聡)
  6.MRONJ(田村優志)
  7.口腔腫瘍(松宮由香)
  8.唾液腺疾患(清水梨沙)
  9.顎関節疾患(濱田良樹)
  10.血液疾患(中嶋正博)
  11.神経疾患(味覚障害を含む)(湯浅秀道)
  12.口腔粘膜疾患(清水梨沙)
  13.周術期等口腔機能管理(野口一馬,岸本裕充)
 2 手技
  1.局所麻酔(首藤敦史)
  2.生検(松宮由香)
  3.切開・止血・縫合(山川延宏,桐田忠昭)
  4.消炎処置(上顎洞炎含む)(栗田 浩)
  5.外傷(管野貴浩)
  6.顎関節上関節腔洗浄療法(濱田良樹)
3章 病棟での処置・対応
 1 周術期管理と基礎
  1.栄養管理(鈴木啓佑)
  2.輸液(鈴木啓佑)
  3.呼吸・循環動態管理(佐々木剛史,太田嘉英)
  4.輸血基準(鈴木啓佑)
  5.発熱性好中球減少症(FN)(山口高広)
  6.ヘパリンブリッジ(山口高広)
  7.ステロイドカバー(米永一理)
  8.がん薬物療法・有害事象対策(田村優志)
 2 手技
  1.静脈確保(竹部祐生亮)
  2.採血・動脈血採取(竹部祐生亮)
  3.注射(竹部祐生亮)
  4.胃管(橋詰正夫)
  5.気管挿管,輪状甲状靱帯切開,気管切開(山口高広)
  6.口腔外科治療におけるオーラルアプライアンスの活用(高岡一樹,岸本裕充)
 3 救急対応
  1.緊急時の対応(日比英晴)
  2.各種症状への救急対応(佐藤康太郎)
4章 急患・偶発症への対応
  1.外傷(骨折)(佐藤康太郎)
  2.炎症(橋詰正夫)
  3.出血(松宮由香)
  4.ショック(清水梨沙)
  5.抜歯時の偶発症(首藤敦史)
5章 付録
 1 薬剤について
  1.鎮痛薬(橋詰正夫)
  2.抗菌薬投与の考え方,抗菌薬早見表および投与量の注意点(小児,妊産婦,肝・腎疾患)(吉川恭平,岸本裕充)
  3.病棟で使用する薬剤(松野智宣)
  4.局所止血剤(田村優志)
 2 死亡診断(米永一理)
  1.死亡診断の仕方とお見送りまでの流れ
  2.死亡診断書の書き方
 3 認定医・専門医(首藤敦史)
  1.口腔外科認定医
  2.口腔外科専門医
  3.口腔外科専門医取得の先に

 索引