序
近年における科学技術の進歩は目ざましく,さまざまな新素材やそれらの精密加工技術が開発されている.歯科臨床においても,新しい機能性材料や治療用機器が次々と導入されて治療技術が進歩するとともに,安全性と予知性の高い歯科治療が行えるようになってきている.特に,最近の目ざましいデジタル技術の発達や新しいセラミックス素材の開発は,今後の歯科臨床に大きな変革をもたらすものと期待されている.
歯科理工学とは,歯科臨床で使用される材料の基本的な性質やそれらの合理的な操作・加工法ならびに材料とともに使用される機器の構造や特性を考究する学問である.歯科臨床ではさまざまな材料を加工して使用することから,歯科理工学は金属学,高分子化学,無機化学,機械工学,生体材料工学などからなる材料科学の理論と工学技術の基盤の上に築かれている.そのために,歯学部の学生にとっては材料にかかわる複雑な現象やそれらを説明する難解な概念および理論が多く,その学習を困難にしている.
本書は歯科理工学のエッセンスを初学者にもわかりやすく学習できることを目的として編集されており,書名も「基礎歯科理工学」とした.歯科理工学の成り立ちから考えて当然のことではあるが,多くの歯科理工学の教科書は材料の構造や性質などの材料科学の内容から始まっており,その章に多くのページを割いている.その結果,学生は歯科材料がどのように使用され,どのように臨床に役に立っているのか見通しがつかないままに,複雑な現象や難解な理論と格闘することになってしまい,この時点で歯科理工学に対する興味や勉学への意欲を失いがちになる傾向がみられる.そこで本書では,歯科材料各論に入る前に,歯科臨床で用いられる材料の種類やそれらの加工技術の概要を簡単に示すこととした.また,歯科材料の構造や性質に関する章である「歯科材料の科学」は,その内容や記述を「歯科材料各論」を学ぶうえで必要最小限に留めることとした.逆に,結合の生成と材料の硬化,内部応力の発生とその緩和および固体の変態と機能など多くの材料に共通する重要な現象や理論に関する章は,「材料科学の基礎」として「歯科材料各論」・「歯科技術各論」の後に配置することとした.本章で,歯科理工学の根底に脈々と流れている物質をつかさどる法則の整然たる美しさを少しでも感じていただければと思う.本章は歯科材料・技術各論を一通り読んでから学んでもよいし,各論を勉強しながらより深く理解したいときに読んでもよく,読者の好みに合わせて活用していただければ幸いである.
最後に,本書の各章を執筆していただいた多くの大学の歯科理工学教育担当者ならびに出版にご協力いただいた医歯薬出版の担当者の方々に深謝する.
2019年1月
編者一同
近年における科学技術の進歩は目ざましく,さまざまな新素材やそれらの精密加工技術が開発されている.歯科臨床においても,新しい機能性材料や治療用機器が次々と導入されて治療技術が進歩するとともに,安全性と予知性の高い歯科治療が行えるようになってきている.特に,最近の目ざましいデジタル技術の発達や新しいセラミックス素材の開発は,今後の歯科臨床に大きな変革をもたらすものと期待されている.
歯科理工学とは,歯科臨床で使用される材料の基本的な性質やそれらの合理的な操作・加工法ならびに材料とともに使用される機器の構造や特性を考究する学問である.歯科臨床ではさまざまな材料を加工して使用することから,歯科理工学は金属学,高分子化学,無機化学,機械工学,生体材料工学などからなる材料科学の理論と工学技術の基盤の上に築かれている.そのために,歯学部の学生にとっては材料にかかわる複雑な現象やそれらを説明する難解な概念および理論が多く,その学習を困難にしている.
本書は歯科理工学のエッセンスを初学者にもわかりやすく学習できることを目的として編集されており,書名も「基礎歯科理工学」とした.歯科理工学の成り立ちから考えて当然のことではあるが,多くの歯科理工学の教科書は材料の構造や性質などの材料科学の内容から始まっており,その章に多くのページを割いている.その結果,学生は歯科材料がどのように使用され,どのように臨床に役に立っているのか見通しがつかないままに,複雑な現象や難解な理論と格闘することになってしまい,この時点で歯科理工学に対する興味や勉学への意欲を失いがちになる傾向がみられる.そこで本書では,歯科材料各論に入る前に,歯科臨床で用いられる材料の種類やそれらの加工技術の概要を簡単に示すこととした.また,歯科材料の構造や性質に関する章である「歯科材料の科学」は,その内容や記述を「歯科材料各論」を学ぶうえで必要最小限に留めることとした.逆に,結合の生成と材料の硬化,内部応力の発生とその緩和および固体の変態と機能など多くの材料に共通する重要な現象や理論に関する章は,「材料科学の基礎」として「歯科材料各論」・「歯科技術各論」の後に配置することとした.本章で,歯科理工学の根底に脈々と流れている物質をつかさどる法則の整然たる美しさを少しでも感じていただければと思う.本章は歯科材料・技術各論を一通り読んでから学んでもよいし,各論を勉強しながらより深く理解したいときに読んでもよく,読者の好みに合わせて活用していただければ幸いである.
最後に,本書の各章を執筆していただいた多くの大学の歯科理工学教育担当者ならびに出版にご協力いただいた医歯薬出版の担当者の方々に深謝する.
2019年1月
編者一同
第1編 歯科理工学総論
第1章 歯科医療と歯科理工学(遠藤一彦)
1 歯科理工学の役割
2 テーラーメイド医療に対応した材料の精密加工
3 歯科理工学を学ぶ目的
4 歯科材料の特徴
第2章 歯科材料の用途別分類(服部雅之)
1 歯科生体材料
2 歯科技工関連材料
第3章 歯科技術概論(服部雅之)
1 レジンの重合
2 金属の鋳造
3 セラミックスの焼結
4 接合技術(ろう付け,溶接)
5 切削加工(CAD/CAM)
第4章 歯科材料の科学(宮坂 平)
1 口腔内環境と歯科生体材料の所要性質
2 歯科材料の分類
3 物理的性質
4 化学的性質
5 生物学的性質
第2編 歯科材料各論
第5章 歯科技工関連材料
I 印象材(早川 徹)
1 印象採得法
2 分類
3 性質
4 寒天印象材
5 アルジネート印象材
6 シリコーンゴム印象材
7 ポリエーテルゴム印象材
8 モデリングコンパウンド
9 酸化亜鉛ユージノール印象材
10 アクリル系機能印象材
II 模型材(武本真治)
1 分類
2 性質
3 石膏系模型材
4 その他の模型材
III 歯科用ワックス(武本真治)
1 分類
2 性質
3 インレーワックス
4 パラフィンワックス
5 シートワックス
6 レディキャスティングワックス
7 ユーティリティワックス
8 スティッキーワックス
IV 埋没材(大熊一夫)
1 分類
2 性質
3 石膏系埋没材
4 リン酸塩系埋没材
5 石膏系埋没材とリン酸塩系埋没材の物性比較
第6章 歯科生体材料
I 成形修復材(北川晴朗・今里 聡)
1 分類
2 性質
3 コンポジットレジン
4 グラスアイオノマーセメント
5 フィッシャーシーラント
6 歯科用アマルガム
II 歯冠修復・補綴用材料
1 歯冠修復・補綴用材料の分類(渡邊郁哉)
2 歯冠修復・補綴用金属材料
3 歯冠修復・補綴用セラミック材料(清水博史・池田 弘)
4 歯冠修復・補綴用レジン材料(清水博史・永松有紀)
III 合着材・接着材(セメント各種)(山口 哲・北川晴朗・今里 聡)
IV 歯内療法関連材料,支台築造用材料(北川晴朗・今里 聡)
1 根管充填材
2 裏層・覆髄材
3 仮封材
4 支台築造用材料
V 義歯用材料(玉置幸道)
1 分類・種類
2 床用材料
3 支台装置・連結子
4 人工歯
5 義歯裏装材
VI インプラント用材料(松本卓也)
1 はじめに
2 インプラント用材料の所要性質
3 インプラント用材料の素材
4 各論
VII 矯正用材料(M田賢一)
1 矯正治療の機構と矯正装置の分類
2 ワイヤー
3 ブラケット
第3編 歯科技術各論
第7章 レジンの加工法(玉置幸道)
I 加熱重合・常温重合
1 加熱重合
2 常温重合
II 加熱圧縮成形
III 射出成形
第8章 金属の加工法(田雄京)
I 概要
II 歯科精密鋳造
1 精密鋳造
2 基本工程
3 原型の製作
4 埋没
5 鋳型の加熱
6 鋳込み
7 鋳造精度
8 鋳造欠陥
III 金属の強化法
1 強化の種類
2 加工硬化
3 固溶硬化
4 時効硬化
第9章 セラミックスの成形法(宇尾基弘)
1 他の材料の成形法との違い
2 焼結の原理
3 歯科用陶材の成形
4 陶材焼付冠の製作
5 新しい歯科用セラミックス,ガラスセラミックスの成形
第10章 接合技術(遠藤一彦・根津尚史)
I 接合技術概論
1 歯科における接合技術の利用
2 接合の基礎
II 歯科における接合技術各論
1 接着
2 金属の接合
3 金属と陶材との接合技術
4 金属と硬質レジンとの接合技術
第11章 切削・研削・研磨(菊地聖史)
I 切削・研削の区別
II 切削・研削器具の種類と材質
1 回転切削器具
2 回転研削器具
3 その他の切削・研削器具
III 研磨材の種類
IV 各種機器
1 エアタービンハンドピース
2 マイクロモーターハンドピース
3 エアモーターハンドピース
4 レーズ
5 サンドブラスト装置(サンドブラスター)
6 バレル研磨装置
7 電解研磨装置
8 レーザー
第12章 治療用機器(伊藤修一)
1 レーザー
2 光照射器
第13章 歯科用CAD/CAMシステム(菊地聖史)
I 鋳造法とCAD/CAM法の比較
II デジタル印象(光学印象)
III CAD/CAMソフト
IV 加工機
1 切削加工機(ミリングマシン)
2 積層造形装置(3Dプリンター)
第4編 材料科学の基礎
第14章 化学結合の生成と歯科材料の硬化反応(宮坂 平)
I 化学結合の種類
1 共有結合
2 イオン結合
3 金属結合
4 配位結合
5 水素結合
6 ファンデルワールス力
II 化学結合の生成による硬化
1 高分子化合物の生成による硬化(重合)
2 酸-塩基反応
III 結晶の析出による硬化
1 溶液からの硬化
2 融解状態からの硬化
第15章 化学結合の切断と材料の状態変化(宮坂 平)
1 融解と溶解
2 ガラス転移と熱可塑性
第16章 高分子の構造と性質(宮坂 平)
1 ホモポリマーとコポリマー
2 線状ポリマー
3 非線状ポリマー
4 熱可塑性
5 熱硬化性
6 分子量および重合度
第17章 応力とひずみの関係(服部雅之)
1 弾性変形と塑性変形
2 応力-ひずみ曲線
第18章 内部応力の発生・緩和と修復物・補綴装置の適合性(遠藤一彦)
1 応力と内部応力の発生とその緩和
2 印象撤去時の印象の応力緩和と永久ひずみ発生との関係
3 レジン系材料の重合収縮に起因して発生する内部応力とその緩和
4 インレーワックスに発生する熱応力とその緩和
5 まとめ
第19章 固体の変態と機能(玉置幸道)
1 埋没材の加熱膨張
2 ニッケルチタン(Ni-Ti)合金の超弾性
3 ジルコニア(ZrO2)の変態と亀裂伝搬抑制
第20章 歯科用貴金属合金の時効硬化機構(玉置幸道)
1 析出硬化
2 規則-不規則変態
資料集(宮坂 平・遠藤一彦・玉置幸道・服部雅之・根津尚史)
索引
第1章 歯科医療と歯科理工学(遠藤一彦)
1 歯科理工学の役割
2 テーラーメイド医療に対応した材料の精密加工
3 歯科理工学を学ぶ目的
4 歯科材料の特徴
第2章 歯科材料の用途別分類(服部雅之)
1 歯科生体材料
2 歯科技工関連材料
第3章 歯科技術概論(服部雅之)
1 レジンの重合
2 金属の鋳造
3 セラミックスの焼結
4 接合技術(ろう付け,溶接)
5 切削加工(CAD/CAM)
第4章 歯科材料の科学(宮坂 平)
1 口腔内環境と歯科生体材料の所要性質
2 歯科材料の分類
3 物理的性質
4 化学的性質
5 生物学的性質
第2編 歯科材料各論
第5章 歯科技工関連材料
I 印象材(早川 徹)
1 印象採得法
2 分類
3 性質
4 寒天印象材
5 アルジネート印象材
6 シリコーンゴム印象材
7 ポリエーテルゴム印象材
8 モデリングコンパウンド
9 酸化亜鉛ユージノール印象材
10 アクリル系機能印象材
II 模型材(武本真治)
1 分類
2 性質
3 石膏系模型材
4 その他の模型材
III 歯科用ワックス(武本真治)
1 分類
2 性質
3 インレーワックス
4 パラフィンワックス
5 シートワックス
6 レディキャスティングワックス
7 ユーティリティワックス
8 スティッキーワックス
IV 埋没材(大熊一夫)
1 分類
2 性質
3 石膏系埋没材
4 リン酸塩系埋没材
5 石膏系埋没材とリン酸塩系埋没材の物性比較
第6章 歯科生体材料
I 成形修復材(北川晴朗・今里 聡)
1 分類
2 性質
3 コンポジットレジン
4 グラスアイオノマーセメント
5 フィッシャーシーラント
6 歯科用アマルガム
II 歯冠修復・補綴用材料
1 歯冠修復・補綴用材料の分類(渡邊郁哉)
2 歯冠修復・補綴用金属材料
3 歯冠修復・補綴用セラミック材料(清水博史・池田 弘)
4 歯冠修復・補綴用レジン材料(清水博史・永松有紀)
III 合着材・接着材(セメント各種)(山口 哲・北川晴朗・今里 聡)
IV 歯内療法関連材料,支台築造用材料(北川晴朗・今里 聡)
1 根管充填材
2 裏層・覆髄材
3 仮封材
4 支台築造用材料
V 義歯用材料(玉置幸道)
1 分類・種類
2 床用材料
3 支台装置・連結子
4 人工歯
5 義歯裏装材
VI インプラント用材料(松本卓也)
1 はじめに
2 インプラント用材料の所要性質
3 インプラント用材料の素材
4 各論
VII 矯正用材料(M田賢一)
1 矯正治療の機構と矯正装置の分類
2 ワイヤー
3 ブラケット
第3編 歯科技術各論
第7章 レジンの加工法(玉置幸道)
I 加熱重合・常温重合
1 加熱重合
2 常温重合
II 加熱圧縮成形
III 射出成形
第8章 金属の加工法(田雄京)
I 概要
II 歯科精密鋳造
1 精密鋳造
2 基本工程
3 原型の製作
4 埋没
5 鋳型の加熱
6 鋳込み
7 鋳造精度
8 鋳造欠陥
III 金属の強化法
1 強化の種類
2 加工硬化
3 固溶硬化
4 時効硬化
第9章 セラミックスの成形法(宇尾基弘)
1 他の材料の成形法との違い
2 焼結の原理
3 歯科用陶材の成形
4 陶材焼付冠の製作
5 新しい歯科用セラミックス,ガラスセラミックスの成形
第10章 接合技術(遠藤一彦・根津尚史)
I 接合技術概論
1 歯科における接合技術の利用
2 接合の基礎
II 歯科における接合技術各論
1 接着
2 金属の接合
3 金属と陶材との接合技術
4 金属と硬質レジンとの接合技術
第11章 切削・研削・研磨(菊地聖史)
I 切削・研削の区別
II 切削・研削器具の種類と材質
1 回転切削器具
2 回転研削器具
3 その他の切削・研削器具
III 研磨材の種類
IV 各種機器
1 エアタービンハンドピース
2 マイクロモーターハンドピース
3 エアモーターハンドピース
4 レーズ
5 サンドブラスト装置(サンドブラスター)
6 バレル研磨装置
7 電解研磨装置
8 レーザー
第12章 治療用機器(伊藤修一)
1 レーザー
2 光照射器
第13章 歯科用CAD/CAMシステム(菊地聖史)
I 鋳造法とCAD/CAM法の比較
II デジタル印象(光学印象)
III CAD/CAMソフト
IV 加工機
1 切削加工機(ミリングマシン)
2 積層造形装置(3Dプリンター)
第4編 材料科学の基礎
第14章 化学結合の生成と歯科材料の硬化反応(宮坂 平)
I 化学結合の種類
1 共有結合
2 イオン結合
3 金属結合
4 配位結合
5 水素結合
6 ファンデルワールス力
II 化学結合の生成による硬化
1 高分子化合物の生成による硬化(重合)
2 酸-塩基反応
III 結晶の析出による硬化
1 溶液からの硬化
2 融解状態からの硬化
第15章 化学結合の切断と材料の状態変化(宮坂 平)
1 融解と溶解
2 ガラス転移と熱可塑性
第16章 高分子の構造と性質(宮坂 平)
1 ホモポリマーとコポリマー
2 線状ポリマー
3 非線状ポリマー
4 熱可塑性
5 熱硬化性
6 分子量および重合度
第17章 応力とひずみの関係(服部雅之)
1 弾性変形と塑性変形
2 応力-ひずみ曲線
第18章 内部応力の発生・緩和と修復物・補綴装置の適合性(遠藤一彦)
1 応力と内部応力の発生とその緩和
2 印象撤去時の印象の応力緩和と永久ひずみ発生との関係
3 レジン系材料の重合収縮に起因して発生する内部応力とその緩和
4 インレーワックスに発生する熱応力とその緩和
5 まとめ
第19章 固体の変態と機能(玉置幸道)
1 埋没材の加熱膨張
2 ニッケルチタン(Ni-Ti)合金の超弾性
3 ジルコニア(ZrO2)の変態と亀裂伝搬抑制
第20章 歯科用貴金属合金の時効硬化機構(玉置幸道)
1 析出硬化
2 規則-不規則変態
資料集(宮坂 平・遠藤一彦・玉置幸道・服部雅之・根津尚史)
索引














