やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

『日本歯科医学会学術用語集 第2版』の発行にあたって
 今日,医学領域のみならず「共通言語」が大流行です.その理由は情報社会でありコミュニケーションの重要性が認識されている時代だからなのでしょう.歯科医療領域においては,高齢患者の増加に伴って,医科歯科連携の必要性が叫ばれ,隣接した医学的知識が求められています.そこでまず,今回の用語集の制作段階で行ったように現状の各分科会の歯学・歯科医療用語の確認が重要です.続いて,歯科としての統一用語の選定です.選定したものを歯科からの共通言語のもととなる専門用語として提示します.それをベースにして,医科をはじめとした多職種との連携が始まります.そして隣接医学,チーム医療などで使用されるそれぞれの専門用語を多職種が共に学ぶという形で医科歯科連携を一段と大きく展開できるのです.その意味からも今回の『日本歯科医学会学術用語集 第2版』の発刊は大変意義深いことといえます.
 平成に入り日本歯科医学会が編集した用語集は,平成4年7月に発刊された『学術用語集歯学編(増訂版)』(文部省・日本歯科医学会編)と『補遺集』があります.その改訂版が平成20年11月に発刊されました.それからすでに10年が経過しました.その間に歯科分野にも高齢化の波が押し寄せ,いまや高齢者への歯科医療提供は中心的な存在になっているといっても過言ではありません.それに伴って在宅医療での用語など,新規のものが多く登場しています.
 加えて平成30年4月には口腔機能に着目した新病名のもと,新規医療技術が公的医療保険に導入されました.もちろん,再生医療も歯科分野に入ってきましたが,ここに歯科・医科の壁はありません.はじめから共通言語が使用されています.そしてデジタル分野も歯科医療の中に多くの新機能,新技術を提供しています.
 このような急激な社会情勢・疾病構造の変化,科学技術の進歩に伴い,それに対応した世界水準かつ標準化された歯科学術用語集が必要との認識のもとに,改訂版の作成について本学会の歯科学術用語委員会に諮問したのです.
 ご協力いただいた日本歯科医学会専門・認定分科会用語担当責任者と第2版用語集を完成していただいた本学会歯科学術用語委員会委員に対し,その努力に厚くお礼申し上げるとともに,関係各位が本用語集を有効にご活用いただき,社会の発展に役立つことを切に願っています.
 平成30年12月
 日本歯科医学会
 会長 住友 雅人


『日本歯科医学会学術用語集 第2版』の編集にあたって
 平成29年1月,住友雅人学会長の主導のもと『日本歯科医学会学術用語集』(平成20年11月,医歯薬出版株式会社発行.以下,初版用語集)の改訂を行うことになりました.
 初版用語集は,平成4年7月に発行された『学術用語集歯学編(増訂版)』(文部省・日本歯科医学会編)とその『補遺集』の実質改訂版として,当時の専門分科会,共用試験実施機構,厚生労働省医政局医事課試験免許室などの全面的な協力を得て,本学会歯科学術用語委員会で編纂されました(用語数約23,000語).発行から8年が経過し,本邦における社会情勢・疾病構造の変化や,分化・進化・拡大を続ける現在の歯学・歯科医療に対応した世界水準かつ標準化された歯科学術用語集が必要との指摘を内外より頂戴するなかで,用語集の改訂が必要との判断に至りました.
 本用語集では,歯学・歯科医療関係者が教育,研究,診療,医療行政などの場で,論文や教科書の執筆,診療記録の記載,行政文書の作成などを行う際に必要となる用語を選定し掲載することにしました.用語集が今後も持続的にその役割を担い続けるためには,既に世の中に普及し定着している用語との整合性を保つことも必要と考え,平成28年5月には全分科会を対象に「日本歯科医学会分科会における学術用語集等の発刊に関する調査」を行いました.その結果,41分科会より回答があり,うち15分科会が当該領域に係る用語集を発行していましたので,これらを参考にしました.
 今回の改訂にあたっての主な改訂方針は次のとおりです.
 (1)歯学教育モデル・コア・カリキュラム,共用試験,歯科医師国家試験出題基準との用語表記の統一化.
 (2)本学会分科会の叡智を結集した歯科医学の基準となること.
 (3)分科会作成用語集とともに,分科会ジャーナルの規定用語として採用されること.
 (4)隣接医学における医学用語(集)との整合.
 また,初版用語集では「省略してもよい文字」「同じ意味で使ってもよい語」「適宜置き換えてもよい文字」等を併記していましたが,本用語集では原則,1語1義とする方針といたしました.
 そして,平成29年3月,歯科学術用語委員会において以下の内容を決定し,各分科会への諮問と検証を行いました.
 (1)人名はカタカナ表記とする.カタカナの読み方は一般的に広く用いられているものとする.
 (2)微生物名は,ウイルスと原虫以外の微生物は正体の欧文表記とする.
 (3)日本語と外来語について,原則として日本語を選定用語とする.ただし,外来語のほうが広く用いられている場合は外来語を選定用語とする.
 (4)略語について,原則として略語ではなく正式名称を選定用語とする.ただし,略語のほうが正式名称より一般的に広く用いられている場合は略語を選定用語とする.その際は原則として正式名称を同義語として入れる.
 その結果,用語数は初版よりも増え,約25,000語掲載の用語集が完成いたしました.本用語集が歯学教育,学会ジャーナル等で活用され,隣接医学との関連も良好に,共通言語として普及することを切に希望します.
 最後に,ご協力いただいた各分科会の学術用語委員の方々,学会本部の方々,医歯薬出版の方々をはじめ関係各位に感謝申し上げます.
 平成30年12月
 日本歯科医学会
 歯科学術用語委員会委員長
 柴原 孝彦


『日本歯科医学会学術用語集』の発刊にあたって
 学問を深化させていく上で,言語(学術用語),概念そして論理の正確さと厳密性は必須のことであります.これは,あらゆる領域で学問が分化し,統合し,学際化している現在において,ますます重要となってきています.しかしながら,学問がますます複雑化する中での学術用語の選定と定義づけは難渋を極める作業であることもしかりです.この困難を乗り越えてこの度,『日本歯科医学会学術用語集』が歯科学術用語委員会の先生方のご尽力によって完成をみたことは,日本歯科医学会として誠に喜ばしい限りであり,編集にあたられた委員の先生方のご苦労に心より感謝申し上げます.
 我が国の歯科領域における本格的な学術用語集は,531語を収め,昭和50年6月に刊行された『学術用語集歯学編』が最初であります.その後,歯科医学の長足の進歩に応えるために,日本歯科医学会は,昭和57年9月に歯科学術用語委員会を設置して,昭和61年3月に,和英1,570語,英和1,653語を収録した『歯科学術用語集』を発刊しております.
 さらに,日本歯科医学会は歯科学術用語委員会を組織して,文部省学術審議会学術用語分科会と連携を取りつつ文部省の科学研究助成金特定研究「歯科用語標準化の調査研究」(昭和61年〜昭和63年)の助成を得て,歯科学術用語の拡充を強力に推進し,学術審議会の審議を経た後,16,016語を収めた『学術用語集歯学編(増訂版)』(文部省・日本歯科医学会編)を平成4年7月に刊行しております.
 そして平成9年より,再び『学術用語集歯学編(増訂版)』と『歯学用語補遺集』の見直し作業が開始されました.
 平成9年より11年度までの作業内容は削除用語136語,修正用語363語,追加用語729語,計1,228語を確定しております.学術用語集の用語の採択にあたっては,関連領域分野との調整が必要なことから,「医学編」との調整については,道 健一昭和大学名誉教授(医学用語専門委員会に歯学代表として出席)が担当されました.
 しかしながら,ほぼ見直し作業を終えた時点で省庁再編(平成13年1月6日)により,文部省は文部科学省と改変されました.従来は『文部省学術用語集歯学編(増訂版)』の改訂は,文部科学省学術情報課の担当であり,改訂原案は,文部省学術審議会学術用語分科会の議を経て,文部大臣に建議されるものでありましたが,省庁再編に伴い当課は,文部科学省研究振興局学術研究助成課となり,学術審議会は科学技術・学術審議会と名称が変わりました.ところが,学術用語分科会は未だに明確な形で設置されておりません.
 上記のような事情より文部科学省編とすることは,今回の改訂では困難であると判断して,『日本歯科医学会学術用語集』として発刊することになりました.
 おわりに,日本歯科医学会学術用語委員会委員長 道 健一先生をはじめ長年に渡り困難な作業を継続してくださいました委員の先生方に心より改めて感謝を申し上げます.
 平成20年10月
 日本歯科医学会
 会長 江藤 一洋


『日本歯科医学会学術用語集』の編集にあたって
 難産だった『日本歯科医学会学術用語集』がようやく世に出ることになりました.日本歯科医学会歯科学術用語委員会における編纂作業は平成9年から始まっていますので今回の発刊までに足かけ12年かかったことになります.
 その経緯を振り返ってみますと,『学術用語集 歯学編(増訂版)』(文部省・日本歯科医学会編)が平成4年7月に,その「補遺集」が平成9年に発刊されていますが,その直後から見直し作業を開始しています.最初の委員会(森本俊文委員長)では平成9年から11年度の間に,頻回に委員会を開催して,逐語的に全用語の検討を行い,削除用語136語,修正用語363語,追加用語729語,計1,228語の用語の修正を決めて,一応の結論としています.
 平成12年度に引き継いだ委員会では,その結果をもとに,改訂版を出版することになっていました.ところが,その時期の省庁再編で,担当の部署が消えてしまうなどの事情から文部科学省に「改訂版」の発行を依頼することが困難になりました.委員会で検討した結果,『学術用語集 歯学編(増訂版)』の「改訂版」ではなく,『日本歯科医学会学術用語集』を新たに発行する方向で検討するということになりました.そのときの結論は「学術用語は常に変化するものであり,一定の間隔で改訂作業が必要である.そのために日本歯科医学会には歯科学術用語委員会が常設されているのだから,単発的に「改訂版」を発刊するのではなく,継続的に用語を改訂して常に歯科医学の最先端に追随することができる体勢を整える必要がある」ということ,もう一点は「『学術用語集歯学編(増訂版)』(文部省・日本歯科医学会編)は本来,一般社会の人々を対象として編纂されたものであり,専門の歯学関係者のためには別の用語集が必要である」ということでした.
 平成16年度からの委員会では,この結論を受けて,日本歯科医学会学術用語編纂システムの開発と用語集発行に向けての作業を開始しました.まず,用語集の編纂システムとして前委員会でまとめた用語集案の電子データを口腔保健協会経由で凸版印刷から入手し,データベース化したソフトを開発しました.そのソフトを使って,各専門分科会および,当時,専門分科会に所属していなかった学会(「日本顎関節学会」,「日本歯科医学教育学会」,「口腔インプラント学会」,「日本顎顔面補綴学会」,「日本歯科心身医学会」,「日本顎咬合学会」,「法歯学」)に検討を依頼しました.その結果,平成12年度までの委員会での収集用語16,887語に対して,修正1244語,削除344語,追加3,773語となり,用語数は合計20,316語に達しました.
 こうした経過を経て平成18年3月には一応,用語の編纂を終え,斎藤 毅前学会長に報告書を提出しています.その後,江藤 一洋 学会長の新執行部が発足してから平成19年4月に医歯薬出版との出版契約が成立し,出版に向けての編集作業を前の委員会が継続して行うことになり現在に至っています.
 編集方針としては,当初は,平成12年度までの委員会で慎重審議した検討結果を尊重することとし,変更は最低限にすることとしていましたが,平成18年度までに用語数が大幅に増加したことと,上記のような趣旨とに従って,方針を変更して,なるべく脱落の少ない用語集を目指すこととし,収集した用語を全て掲載することとしました.
 この方針に従いましたので,最終校正をお願いした段階で各学会から申し出のあった変更,追加用語も全て収載する方向で検討しました.また,共用試験実施機構,厚生労働省医政局医事課試験免許室にもご校閲をお願いして,共用試験あるいは国家試験に用いる用語との統一をはかりました.さらには,『日本医学会医学用語辞典(英和)第3版』(2007),『第十五改正日本薬局方』(2006),『文部科学省 学術用語集 医学編』(2003),『文部省 学術用語集 薬学編』(2000)などとの照合を行い,関連領域用語との整合をはかりました.これらによる変更も加わりましたため,結果として,用語数がさらに増加して,最終的に約23,000語を掲載することになりました.
 ここに至っても,検討不十分な用語もありますし,この間にも進行している専門分科会内での編纂作業によって変更,追加される用語も当然あるはずなのですが,流動している用語を一定の期限を定めて集約することは不可能ですし,今後もほとんど不可能であると考えられます.従って,ひとまず,叩き台であっても,まとめた用語を公開することが必要であり,その上で,随時,修正することができる体勢を整えることが重要であると考えられます.そのため,今回の目標は完全な用語集を完成することではなく,今後,改訂を進めていくための基本となる用語を収載した第1版を発刊することとし,併せて,継続的な改訂が可能なシステムを構築することとして,一応の区切りとしました.
 具体的には,同義語,類義語については優劣を付けず,掲載されている用語はどちらの用語を使っても良いことにしました.また,和文が同じで英語が異なるもの,英語が同じで和文の異なるものはそのまま残すことにしました.これらの点については,今後の検討によって整理,統合が必要であると考えられます.
 継続的な改訂のためには,別途に,改訂作業が可能な編集ソフトを構築し,採用された用語をデータベースとして登録してCDに収め,学会本部に保存してあります.今後の委員会で活用されることを期待しています.
 最後に,ご協力いただいた各学会の学術用語委員の方々,共用試験実施機構,厚生労働省医政局医事課試験免許室の方々,学会本部の方々,さらには,凸版印刷,口腔保健協会,医歯薬出版の方々をはじめ関係各位に感謝申し上げます.
 平成20年10月
 日本歯科医学会
 学術用語委員会委員長
 道 健一