やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 平成18年度に歯科医師臨床研修が必修化されてから,早いもので11年となる.私たちは,この臨床研修のスタートにあわせて,本書の前身である,臨床研修のための『必修臨床研修歯科医ハンドブック』を企画した.当初は,実際の臨床研修がどのように実施されるのか,どのような症例に対応しなければならないのかなど,不確定な要素も多かったが,現場の指導歯科医を中心とした執筆者が集まり,初版を出版することができた.不十分なところや問題点もあったと思う.しかしながら,基本的な事項は変更せず,2年毎の診療報酬改定時に必要な部分についての内容を修正してきた.幸いなことにこの『必修臨床研修歯科医ハンドブック』は多くの研修歯科医諸君に座右の書として愛用して頂けたようだ.執筆者一同,研修歯科医の研修の一助となっていることを非常にうれしく思っている.
 臨床研修は本来,歯科医師としての基礎となる最低限必要な知識・技能・態度を身につけるためのものである.しかし,時代は長寿高齢社会となり,医学の進歩も著しい.それにともない,高齢者・有病者に対する歯科治療や,予防歯学の重要性,感染予防・医療安全など歯科医学の概念も大きく変わろうとしている.そこで,今回,内容を大幅に見直し,現在の歯科ニーズに応えた歯科医師臨床研修に対応する新しい『新臨床研修歯科医ハンドブック』を編集した.臨床研修歯科医には,臨床研修修了に必要な症例への対応を,また歯科学生には,臨床実習の場で必要な症例への対応を提示し,その達成率の公開にも対応できる内容と自負している.
 今回も,九州歯科大学と福岡歯科大学で,臨床研修に携わる臨床教員を中心に執筆した.今までの臨床研修の経験を踏まえたうえで,内容をさらに充実し,わかりやすいハンドブックとなったと考える.特に,臨床研修と学生の診療参加型実習のかかわり,医療保険制度の仕組みと平成28年度診療報酬改定対応の診療録記載法,感染対策から予防・治療の臨床手技,医療事故対応,周術期口腔機能管理などを含めた有病患者への対応なども網羅しており,全国のさまざまな臨床研修プログラムに幅広く対応している.
 さらに,付録の動画サイト(PC,タブレット,スマートフォンに対応)には,テンポラリークラウンの製作法,筋圧形成,咬合採得のテクニックなどを追加収録しており,インターネットで視聴できる.
 ロボットが活躍するであろう近未来にも,人間性豊かで有能な医療人は求められ続ける.本書が,歯科医師としての第一歩を踏み出し,患者の立場に立てる質の高い歯科医師をめざす研修歯科医の,必携の書となることを祈念する.
 平成28年6月
 監修者 廣藤卓雄
 粟野秀慈
 歯科医師臨床研修システムの概要
第1章 歯科医師としての心構え
 1 臨床を行うにあたってのクリニカルポリシー
 2 歯科医師のマナー
 3 歯科医師と患者
 4 歯科医師とコデンタルスタッフ
 5 診療前の準備
 6 診療後の情報整理・評価
第2章 医療保険制度を知る
 1 医療保険制度の仕組み
 2 保険診療の流れ
 3 診療録(カルテ)の書き方
第3章 医療安全,感染対策
 1 医療安全,感染対策の基本
 2 診療器具,機材の消毒法・滅菌法
第4章 医療面接の仕方
 1 患者の悩みを聴取する
 2 患者に説明する
 3 患者に動機づけする
第5章 検査・診断・治療計画
 1 頭頸部および口唇・口腔内の診察
 2 デンタルエックス線写真撮影法
 3 パノラマエックス線写真撮影法
 4 全身用CTおよび歯科用コーンビームCT撮影法
 5 口腔内カラー写真撮影法
 6 スタディモデルによる検査・診断
 7 習癖(口呼吸,ブラキシズム)の検査・診断
 8 痛みの検査・診断
 9 う蝕の検査・診断
 10 歯髄炎の検査・診断
 11 根尖性歯周炎の検査・診断
 12 歯周組織の検査・診断
 13 顎関節症の検査・診断
 14 不正咬合の検査・診断
 15 口腔乾燥症の検査・診断
 16 成長発育期の口唇・口腔・顎顔面の検査・診断
 17 バイタルサインの測定
 18 口臭症の検査・診断
 19 治療計画の立案
第6章 局所麻酔法
 1 浸潤麻酔法
 2 伝達麻酔法,その他の麻酔法
第7章 投薬の基本知識
 1 抗菌薬,鎮痛薬の投薬法
 2 外用薬の投薬法
 3 小児への投薬法
 4 妊婦・授乳婦への投薬法
 5 有病者・高齢者への投薬法
第8章 う蝕修復処置法
 1 切削器具の使い方
 2 切削器具使用時のポジショニング
 3 初期う蝕の処置
 4 軟化象牙質の除去(う蝕検知液の使用法)
 5 覆髄(歯髄保護処置)
 6 グラスアイオノマーセメント修復
 7 コンポジットレジン修復
 8 インレー修復
第9章 歯内療法
 1 防湿法
 2 生活歯髄切断法
 3 麻酔抜髄法
 4 失活抜髄法
 5 電気的根管長測定法
 6 インレー,クラウン,ポストコアの除去法
 7 感染根管処置法
 8 歯肉息肉除去
 9 根管貼薬の選択基準
 10 根管充
第10章 歯周治療
 1 歯周治療の流れ
 2 歯口清掃指導法(プラークコントロール)
 3 Professional Tooth Cleaning(PTC)
 4 暫間固定(TFix)
 5 超音波スケーラー,エアスケーラーの使用法
 6 シャープニングの方法
 7 スケーリング・ルートプレーニングの方法
 8 歯周ポケット掻爬の方法
 9 歯周疾患に対する薬剤の応用法
 10 咬合調整,歯冠形態修正
 11 慢性歯周炎の急性発作時の対応
 12 知覚過敏に対する治療
 13 歯周外科療法
 14 インプラント周囲炎
第11章 口腔外科手術
 1 口腔内切開の基本
 2 縫合の基本
 3 抜歯
 4 切開排膿術
第12章 口腔粘膜疾患
 1 アフタ性口内炎への対応
 2 口腔カンジダ症への対応
 3 口腔癌の疑いのある症例への対応
 4 粘液嚢胞への対応
第13章 歯冠補綴
 1 メタルコアの形成,印象採得,装着
 2 レジンコアの製作法
 3 テンポラリークラウンの製作法
 4 クラウンの歯冠形成
 5 部分被覆冠の歯冠形成
 6 歯冠形成後の印象採得,咬合採得
 7 歯冠補綴物の装着
 8 クラウンの脱離への対応
 9 小臼歯部のハイブリットレジンCAD/CAM冠
第14章 欠損補綴
 1 欠損補綴の選択基準
 2 欠損補綴の流れ
第15章 ブリッジ
 1 ブリッジ設計の基本
 2 ブリッジのための歯冠形成
 3 ブリッジのための印象採得,咬合採得
 4 ブリッジの試適
 5 ブリッジの装着
第16章 部分床義歯
 1 不適合部分床義歯への対応
 2 部分床義歯の設計
 3 部分床義歯の印象採得
 4 部分床義歯の咬合採得
 5 部分床義歯の試適
 6 部分床義歯の装着
 7 部分床義歯のリライン
 8 部分床義歯の修理
第17章 全部床義歯
 1 小さすぎる外形の全部床義歯への対応
 2 義歯装着時の痛みへの対応
 3 義歯床下組織の診察
 4 旧義歯を活用して顎位を修正する方法
 5 ティッシュコンディショニングの方法
 6 全部床義歯の印象採得1(概形印象)
 7 全部床義歯の印象採得2(精密印象)
 8 全部床義歯の咬合採得
 9 ろう義歯の試適
 10 全部床義歯の装着
 11 全部床義歯のリライン
 12 全部床義歯の修理
第18章 小児の歯科治療
 1 小児患者への対応
 2 小児に対する口腔衛生指導
 3 小児に対するフッ化物応用
 4 乳歯・幼若永久歯のシーラント
 5 乳歯の修復処置
 6 乳歯の歯髄処置
 7 小児のう蝕治療における継続管理の流れ
 8 乳歯の抜歯
 9 保隙装置の装着
 10 外傷への対応
 11 小児の口腔習癖への対応
 12 矯正装置の装着
第19章 有病者の歯科治療
 1 有病患者への対応
 2 病診連携と病病連携の実際
 3 歯科訪問診療の実際
 4 周術期口腔機能管理
 5 摂食機能療法の実際
第20章 予防・管理
 1 予防・管理のしくみ
 2 う蝕の予防・管理
 3 歯周疾患の予防・管理
第21章 医療事故の予防と対策
 1 医療事故が起きたときの対応
 2 針刺し事故の予防
 3 針刺し事故による受傷および感染への対応
 4 薬物アレルギー
 5 薬剤による皮膚・粘膜の刺激
 6 誤飲事故
 7 バーによる損傷
 8 上顎洞穿孔
 9 抜歯中に根尖が破折したときの対応
 10 難抜歯のための抜歯中止時の対応
 11 皮下気腫
 12 髄床底穿孔時の対応
 13 抜歯後異常出血
 14 ドライソケット
 15 顎関節脱臼
第22章 情報検索ほか関連事項
 1 医療情報の検索
 2 Evidence-Based Dentistry(根拠に基づく歯科医療)
 3 技工指示書の書き方
 4 ブリッジの適応一覧
 5 処方せんの書き方
 6 投薬・注射・麻酔の保険請求
 7 医療情報提供書(紹介状・照会状)の書き方
 8 臨床検査値の読み方

 索引
 付録 歯科診療報酬点数早見表


 動画目次
  1 普通抜歯(粟野秀慈・曽我部浩一)
  2 FlapSurgery(粟野秀慈・久保田浩三)
  3 EMD療法・人工骨移植(粟野秀慈・久保田浩三)
  4 縫合(粟野秀慈・久保田浩三)
  5 上唇小帯切除術(粟野秀慈・久保田浩三)
  6 歯周パック(粟野秀慈・久保田浩三)
  7 テンポラリークラウン製作法(餅状レジンによる圧接法)(向坊太郎・細川隆司)
  8 筋圧形成(都築 尊)
  9 咬合採得―仮想咬合平面の決定(都築 尊)
  10 水平的顎間関係の記録(都築 尊)