やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 1960年代半ばに登場したオッセオインテグレーテッドインプラントによりインプラント治療は飛躍的に発展し,現在では歯の欠損治療の一つとして確固たる地位を得ている.これには科学的根拠に裏付けられたインプラントであることが第一に挙げられる.つぎに,術式が確立され安全・安心な治療であること,優れた長期臨床成績を示し,適応範囲が広いこと,さらに当初は機能回復が主であったが審美性の回復も可能となったことが挙げられる.一方,新聞やムック本などのインプラント特集記事の影響もあって一般の認知度が高まり,患者が希望する治療となっている.反面トラブルに関する報道が続いたため,危ない治療という風潮が広まっているのも確かである.こうした状況下においては,インプラント治療を行っていない歯科医師でもインプラント治療の基礎的な知識をもっていることが必要であり,行っている歯科医師は確かな臨床的知識と技量が要求される.そのため,基礎および臨床の両方において偏りのない体系づけられた教育の重要性が指摘され,将来治療を行う/行わないにかかわらず卒前教育の必要性が叫ばれるようになってきた.
 こうした背景もあり,全国の歯科大学や大学歯学部で口腔インプラント学の講義が行われるようになった.しかし,口腔インプラント学は解剖学などの基礎系学問や歯科補綴学,口腔外科学などの臨床系の学問を含む「多領域連携型の包括学問」のため,どの時点でどの程度の教育を行っていくべきかが大きな課題となっていた.そうした中,学会や複数の大学が協同でカリキュラムを検討し作成した.
 一方,関東地区9歯科大学・歯学部ではインプラント科(センター)の責任者が各々の大学のインプラント治療や教育の現状について意見交換する場として,平成19年11月に「インプラント教育を考える会」を発足させた.協議を重ね,共通の口腔インプラント学のシラバスを作成し,これをもとにした教科書を作成した.作成に際し,一般目標(GIO)を「将来,欠損補綴の回復方法を適切に患者に提供するために,インプラント治療に関する基礎的知識,技能,態度を修得する」と定め,基礎から臨床にいたる普遍的な知識を習得できる内容とした.執筆にあたっては,各自の専門分野を中心に分担し,できるだけ簡潔に,使用する用語に関しては公益社団法人日本口腔インプラント学会編『口腔インプラント学学術用語集 第3版』に準拠するように努めた.
 本書は,学生の入門書と位置付けているが,インプラント治療を行っていない歯科医師はむろんのこと,行っている歯科医師にとっても知識の再確認になるものと確信している.
 2014年7月
 編集者一同
第1章 口腔インプラント学の基礎
 I インプラント治療の歴史(森 等,小倉 晋)
  1.歯内骨内インプラント
  2.骨膜下インプラント
  3.骨内インプラント
  4.材料の変遷
 II インプラント材料と生体反応(春日井昇平)
  1.オッセオインテグレーションの概念
  2.インプラント表面と上皮・結合組織・骨組織の反応
  3.インプラントの表面性状
 III インプラント治療に必要な局所解剖(井出吉昭,森 等)
  1.上顎骨の構造
  2.下顎骨の構造
  3.皮質骨
  4.海綿骨
  5.血管
  6.神経
 IV インプラント周囲組織と歯周組織の構造の違い(春日井昇平)
  1.インプラント周囲組織
  2.歯周組織
 V インプラントの生理学的特徴(春日井昇平)
  1.インプラントと天然歯の感覚受容の相違
第2章 口腔インプラント治療の特徴
 I インプラント治療の特徴(関根秀志)
  1.インプラントの利点と欠点
  2.従来の補綴治療との比較
  3.可撤性義歯との比較
 II 基本構造(佐藤淳一,小林真理子)
  1.インプラントの基本構造
  2.インプラントの構成要素
  3.ワンピースインプラント
  4.ツーピースインプラント
  5.1回法インプラントと2回法インプラント
  6.アバットメント
  7.インプラント体とアバットメントの連結機構
 III 成功基準および治療成績(佐藤淳一,上野大輔)
  1.インプラントの成功基準(1998年トロント会議)
  2.インプラントの成功率と残存率
  3.上部構造の残存率
 IV 適応症と禁忌症(矢島安朝)
  1.全身状態
  2.局所状態
 V リスクファクター(矢島安朝)
  1.全身的リスクファクター
  2.局所的リスクファクター
 VI 治療の手順(本間慎也,矢島安朝)
  1.診察・検査
  2.治療計画
  3.インフォームドコンセント
  4.インプラント埋入手術
  5.アバットメント連結手術
  6.上部構造の製作
  7.メインテナンス
 VII 埋入時期と治癒期間(佐藤淳一)
  1.インプラント体埋入の骨の創傷治癒
  2.初期固定
  3.荷重時期
第3章 治療計画(診察・検査・診断)
 I 診察と検査(嶋田 淳,田村暢章)
  1.医療面接
  2.全身および局所の診察
  3.術前臨床検査
  4.補綴学的検査
  5.歯周病学的検査
  6.放射線学的検査
 II 診断用ワックスアップと診断用ガイドプレート(本間慎也,矢島安朝)
  1.埋入位置
  2.埋入本数
 III 治療計画の立案(萩原芳幸)
  1.インプラントの治療計画の特徴
 IV インフォームドコンセント(森 等,小倉 晋)
第4章 治療法(外科)
 I 消毒と滅菌および手術準備(嶋田 淳)
  1.院内感染予防を踏まえたインプラント関連器材の術前準備−滅菌・消毒・洗浄−
  2.インプラント手術前の患者管理
  3.手術環境の準備
  4.術者・スタッフの準備における院内感染予防対策
 II 全身管理と麻酔法および鎮静法(笹倉裕一)
  1.全身管理
  2.麻酔法
  3.鎮静法
 III 外科術式(笹倉裕一)
  1.2回法術式
  2.1回法術式
 IV インプラント関連術式の種類とその特徴(加藤仁夫)
  1.骨造成(増生)
  2.軟組織のマネジメント
第5章 治療法(補綴)
 I インプラント上部構造の種類(萩原芳幸)
  1.上部構造の種類と補綴設計の要点
  2.可撤性上部構造(オーバーデンチャー)
  3.固定性上部構造
  4.インプラント上部構造に使用する材料
 II 印象採得(尾関雅彦)
  1.上部構造がクラウンやブリッジの場合
  2.上部構造がオーバーデンチャーの場合
 III アバットメントの選択(尾関雅彦)
  1.アバットメントとは
  2.アバットメントの選択
  3.アバットメントの分類
 IV 上部構造の製作(尾関雅彦)
  1.上部構造の製作手順
  2.咬合採得
  3.暫間補綴装置の製作と装着
  4.フレームワークの製作と試適
  5.最終上部構造の完成と装着
 V 顎顔面補綴および矯正治療へのインプラント応用(佐藤淳一)
  1.顎補綴へのインプラント応用
  2.顔面補綴へのインプラント応用
  3.矯正治療へのインプラント応用
第6章 メインテナンス
 I メインテナンスの方法(加藤仁夫)
  1.患者教育
  2.ブラッシング
  3.スケーリング
 II インプラント周囲組織の管理(加藤仁夫)
  1.リコール時の検査と評価
  2.リコール時の検査項目と対応
  3.リコールの時期と間隔
 III 維持管理,咬合評価,悪習癖の検査(尾関雅彦)
  1.上部構造の維持管理
  2.咬合評価
  3.悪習癖の検査
第7章 合併症
 I 手術に関連する合併症(笹倉裕一)
  1.全身疾患に関連するもの
  2.局所に関連するもの
 II 補綴に関する合併症(萩原芳幸)
  1.材料・補綴学的要因
  2.咬合および生体力学的要因
  3.審美的要因
 III インプラント周囲炎(嶋田 淳)
  1.インプラント周囲粘膜炎
  2.インプラント周囲炎
 IV その他の合併症(佐藤淳一)
  1.インプラント治療による骨折
  2.誤嚥・誤飲
  3.インプラント関連手術に起因する上顎洞炎
  4.インプラント周囲の骨吸収

 参考文献
 索引