やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊に寄せて
 このたび,『歯周病と全身の健康2025』が発刊される運びとなった.
 1990年代後半のアメリカ発の「Floss or Die」のキーワードを端緒として,「ペリオドンタルメディシン(歯周医学)」が歯周病学の分野で大きな存在を示すようになって久しい.
 歯周病が全身疾患と関係があるとする概念は,当時は大きなパラダイムシフトとしてとらえられ,1997年のアメリカのノースカロライナで開催された「Sunstar-Chapel Hill Symposium on Periodontal Diseases and Human Health」において,さまざまなエビデンスが歯周病学研究者の熱い視線のもと発表されていたことを思い出す.
 それ以来,歯周病といくつかの全身疾患との関連がさまざまなエビデンスをもって受け入れられるようになった.しかし一歩踏み込んでみると,それぞれのエビデンスレベルが異なり,臨床現場にいる立場から,それらを患者へ説明する際にどこまでが正確な情報かが不明確な側面があった.そのような背景から本書の初版が2016年に発刊され,その後の新たなる知見の集積を受けて,このたび改訂版としての発刊に至っている.
 ペリオドンタルメディシンを裏付けるエビデンスとして,疫学研究(統計調査など),臨床研究(臨床現場でのデータ),動物実験,剖検(病理解剖所見)などがあげられるが,本書では臨床質問(Clinical Question:CQ)および一般的質問(Question:Q)を設定し,CQでは推奨程度とその根拠になるエビデンスの強さを記載し,Qに関してはAnswer(A)として現状を解説し,読者がどのような視点から歯周病と全身疾患との関連をとらえるべきであるのかを見事に紐解いている.
 よって本書は日本歯周病学会会員のためのみならず,歯科医療に携わる方々,また患者をはじめこの分野に関心を示すすべての方々のために作成されたものである.
 本書が改訂版として上梓に至ったのは,ペリオドンタルメディシン委員会委員長中川種昭先生をはじめとした同委員会委員の先生方,そして医歯薬出版株式会社の執筆・編集への献身的な努力の結果である.ここに記して感謝の意を表する.
 令和7(2025)年1月6日
 特定非営利活動法人 日本歯周病学会 理事長
 沼部幸博


「歯周病と全身の健康」の改訂にあたって
 このたび,『歯周病と全身の健康』改訂版発刊のはこびとなった.初版は,2016年に刊行されているが,この時は当時の医療委員会が主導して作成されている.このたびの改訂版は,ペリオドンタルメディシン委員会が担当し,同委員会委員長の慶應義塾大学中川種昭教授の指揮のもとで作成された.
 初版において当時の医療委員会委員長は,その巻頭言で,日本歯周病学会は既に糖尿病患者に対する歯周治療ガイドラインを作成していること(初版を2008年,改訂第2版を2014年,そして改訂第3版を昨年2023年に発刊),しかるに糖尿病以外の疾患と歯周病の関連性については情報が氾濫していること,よってエビデンスの現状を公式に評価する必要性があること,体裁は一応CQ形式にしているが介入研究などが少ない疾患についてはエビデンスレベルだけ整理していると断ったうえで,今後この評価をもとに疫学研究,介入研究の方向性が議論されるべきであり,最終的に新たなエビデンスが構築され,個々の疾患が(糖尿病のような)独立したガイドラインとなることが期待されると述べている.
 このたび改めて各項目について俯瞰してみると,この8年間で動物モデルやin vitroの細胞実験など(第2部として公開)については膨大なデータが蓄積されたものの,ヒトを対象とした介入研究についてはあまり進捗がなかったことが判明した.ほとんどの疾患で弱い推奨にとどまっているのが現状といえる.このような現状から,大規模な多施設介入研究をデザインして実行に移すことは喫緊の課題といえよう.歯周病含め本指針で取り上げる疾患の多くは慢性疾患であり,介入研究の成果が明るみになるまでには膨大な時間と労力を費やす必要があろう.しかしながら,だからといって手をこまねいているわけにもいかない.本書が,その意味から新たな研究の方向性を示してくれることを期待して巻頭言としたい.ペリオドンタルメディシン委員会のミッションはまだまだ続く.
 令和7(2025)年1月6日
 特定非営利活動法人 日本歯周病学会 副理事長
 前ペリオドンタルメディシン委員会委員長
 西村英紀


「歯周病と全身の健康」の改訂にあたって
 このたび2015年に発刊された,「歯周病と全身の健康」を改訂することになった.改訂作業は,沼部理事長のもと発足したペリオドンタルメディシン委員会のメンバーを主体に行った.
 第1部では,前回の臨床質問(Clinical Question:CQ)を参考にいくつかの変更を加え,委員会委員と検討を加えた.その結果,CQには該当しないが,本冊子で取り上げるべき疑問をQuestion(Q)として設定し,Answer(A)として現状を解説した.CQに関しては,その疑問に対しての推奨程度とその根拠になるエビデンスの強さを記載した.推奨程度については,委員会の委員全員が一致することを確認した.体裁は初版と同様,大きな項目の最初に概説を述べている.そしてQないしはCQを設定した背景・目的を述べ,その解説をしている.次に,文献検索ストラテジーとして,Q,CQに対する答えを得るための文献絞り込み状況を明示したあと,関連の深い参考文献を掲載し,さらにその中から重要と考えられる文献については構造化抄録という形で,その内容の解説を加えている.
 第2部では,歯周病と関連の深い疾患が増加したため,8項目から12項目に増やし,その分野に精通する方に執筆を依頼した.
 この改訂版が読者の皆様にとって,少しでも歯周病と全身の健康について理解を深める媒体となることを切に願っている.
 2024年9月現在でのできる限り最新の研究成果を記載したが,情報は日々更新されていくため,また数年後の改訂を期待している.
 文献検索から構造化抄録の作成まで,第1部の作成に尽力してくださった委員の皆様,図表,イラストを含め第2部の執筆にご協力いただいた皆様,編集・作成にご協力いただいた医歯薬出版の皆様に心より感謝申し上げたい.
 令和7(2025)年1月6日
 特定非営利活動法人 日本歯周病学会
 ペリオドンタルメディシン委員会委員長
 中川種昭
 発刊に寄せて
 「歯周病と全身の健康」の改訂にあたって
 「歯周病と全身の健康」の改訂にあたって
 執筆者一覧
 エビデンスレベルと推奨について
 利益相反に関して
第1部 臨床研究からのエビデンス
 1 歯周病と血管障害(長澤敏行・中島貴子)
  Q 1-1 歯周病は冠動脈疾患(心筋梗塞・狭心症)に影響するか?
  Q 1-2 歯周病は虚血性脳血管疾患(脳梗塞,脳動脈・頸部主幹動脈狭窄などの血管障害)に影響するか?
  Q 1-3 歯周病になると動脈硬化性疾患のリスクマーカーは上昇するか?
  CQ 1-4 歯周治療を行うと動脈硬化性疾患のリスクマーカーは改善するか?
  Q 1-5 歯周病原細菌を含む口腔内細菌は動脈硬化のリスクを高めるか?
 2 歯周病と周産期合併症(富田幸代)
  Q 2-1 歯周病は早産・低出生体重児出産・妊娠高血圧腎症を増加させるか?
  CQ 2-2 妊婦に歯周治療を行うと早産・低出生体重児出産・妊娠高血圧腎症の発症を抑制できるか?
 3 歯周病と呼吸器疾患
  Q 3-1 口腔内細菌は肺炎や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患に関与するか?(柴崎竣一・中川種昭)
  Q 3-2 歯周病で肺炎や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患のリスクは高まるか?
  Q 3-3 高齢者では口腔内細菌が関与する誤嚥性肺炎のリスクが高まるか?(内藤 徹・梅ア陽二朗)
  CQ 3-4 口腔ケアによって誤嚥性肺炎のリスクが低下するか?
 4 歯周病と関節リウマチ(RA)(小林哲夫)
  Q 4-1 歯周病は関節リウマチ(RA)に影響するか?
  Q 4-2 Porphyromonas gingivalis感染は関節リウマチ(RA)に影響するか?
  CQ 4-3 関節リウマチ(RA)患者に歯周治療を行うとリウマチ臨床指標は改善するか?
 5 歯周病と菌血症(深谷千絵・森川 暁・中川種昭)
  Q 5-1 歯周治療や予防的処置で菌血症が発症するか?
  Q 5-2 歯周治療および予防的処置を行う際に,どのような感染対策を行うと菌血症のリスクを最小限に抑えることができるか?
  CQ 5-3 感染性心内膜炎(IE)のリスクのある患者への対策として,抗菌薬の術前投与は有効か?
 6 歯周病と腎臓病(水野智仁)
  Q 6-1 歯周病は慢性腎臓病(CKD)と関連があるか?
  CQ 6-2 歯周治療によって慢性腎臓病(CKD)は改善するか?
 7 歯周病と非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)(三辺正人・鎌田要平・山本龍生)
  Q 7-1 歯周病は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と関連があるか?
  CQ 7-2 歯周治療により非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の病態(臨床指標)は改善するか?
 8 歯周病と認知症(森川 暁・中川種昭)
  Q 8-1 歯周病はアルツハイマー病(AD)を含む認知症と関連があるか?
  Q 8-2 歯周治療によって認知症は改善するか?
第2部 細胞・分子レベルのメカニズム
 1 歯周病が糖尿病に影響を及ぼすメカニズム(西村英紀・新城尊徳)
 2 歯周病と肥満の関連性(岩下未咲)
 3 歯周炎と動脈硬化性疾患の関連メカニズム(多部田康一・高橋直紀)
 4 歯周病が周産期合併症に与える影響のメカニズム(野口和行・中村 梢)
 5 歯周病が関節リウマチ(RA)の発症,増悪との関係において想定されるメカニズム(應原一久)
 6 歯周病と慢性腎臓病(CKD)の関連―想定されるメカニズム―(水谷幸嗣・三上理沙子)
 7 歯周病が非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の病態に関与するメカニズム(倉治竜太郎)
 8 歯周炎がアルツハイマー病(AD)の増悪との関係において想定されるメカニズム(松下健二)
 9 歯周病とがん―歯周マイクロバイオームのディスバイオーシスとがんの特徴的形質―(坂上竜資・永井 淳)
 10 歯周病と骨粗鬆症(吉本哲也)
 11 歯周病と炎症性腸疾患(石原和幸)
 12 歯周病と喫煙(稲垣幸司)