序
近年の歯科医療を巡る変遷は著しい.人々の間では,心身ともに健康に,かつ豊かに生活することを期待する傾向が強くなり,その健康と豊かさの象徴でもある口腔の健康への関心が非常に高まっている.かつての対症的な歯科医療,すなわち痛みを取る,噛めるようにする,形を回復するだけの治療では,社会からの理解や支持が得られなくなってきている.そして疾患の予防,健康の維持と増進をはかる医療へ期待が移り,修復治療に対しても,より自然感に富んだ質の高い結果が求められている.
このような歯科医療の変遷や新たな展開のなか,近代臨床歯学の基礎であり,中核であるOperative Dentistry(保存修復学)の科学,技術,使用される材料と機器も長足の発展を遂げている.これらの保存修復学における科学的な進歩によって,う蝕症をはじめとする硬組織疾患の発症要因を制御することを中心とした予防的な治療,接着歯学に基づいた非侵襲的で審美的な修復治療など,新たな取り組み,アプローチを日常の臨床で実施することが可能になっている.
本書,『保存修復クリニカルガイド』は,2003年に初版『保存クリニカルガイド』として刊行された.本書のルーツである『保存修復のテクニック』は,保存修復学の基礎と臨床教育におけるマニュアルの必要性に呼応し,また各歯科大学・歯学部における保存修復学実習内容の統一をはかることを目的として1969年に先達の手により刊行された.そして長年にわたり版が重ねられ,また書名も変えてその意志が引き継がれてきた.しかしながら,『保存修復のテクニック』の刊行から30年以上の年月を経て,歯科医療の著しい変遷と保存修復学の進歩があり,時代の要請に応じた新たな技術マニュアル編纂の必要性が生じた.またコアカリキュラム,OSCEやCBTなどが歯学教育に採用されるようにもなり,これらにも具体的に対応するマニュアルも待望されるに至り,『保存クリニカルガイド』が刊行された.
しかし,この初版の発行からすでに5年以上の歳月を経て,その内容の一部に修正の必要性が目立ってきたことは否めない.初版刊行時には,マニュアルとしての性格から,刻々と進む機器,器材の発展と開発に合わせ,短期間での改訂が必要な項目がいくつかあると予測されたが,諸般の事情によって改訂時期が若干遅れてしまった.しかしながら,幸いに医歯薬出版から改訂版刊行の提案を受け,また初版で編集委員としてご尽力された寺下正道,田上順次,片山 直各教授に改訂の了承と再度編集に加わっていただけるという了解を得られた.さらに奈良陽一郎,宮崎真至各教授に新たに編集委員としてご参加いただくこともでき,各先生方の熱意と献身的ともいえるご尽力によってきわめて短時間のうちに企画と編集作業を進め,刊行に至った.また,保存修復学教育で第一線に立って活躍される先生方に,本書の改訂についての趣意および歯の硬組織疾患治療の新しい取り組みについて,深いご理解と絶大なご支持をいただき,短期間での編纂にご協力をいただくことができた.
本書は,新たな時代の「歯の硬組織疾患の治療」に関する理論に基づいた技術を,初版よりも可能なかぎりみやすく,また使いやすいマニュアルにすることを至上の目標にしてまとめられた.とくに,卒前の歯学生および臨床研修医の基礎・臨床実習や臨床研修に役立つよう配慮し,A章では,疾患の検査および診断の基本,B章ではさまざまな基本手技,C章では基本手技の応用としての症例の紹介,D章では保存修復学の理論の検索につながる資料をあげている.
新しい時代,未来に向けて学習,研修に励む歯学生および臨床研修医の諸氏におかれては,本書編纂の趣旨を理解いただき,学習,研修に本書を活用いただければ幸甚である.
2009年10月 編著者を代表して
千田 彰
第1版の序
新しい硬組織疾患治療の基礎・臨床実習ガイド,『保存クリニカルガイド』が刊行された.本書は,最新の硬組織疾患治療のあり方を詳細に紹介すると共に,最近の教育改革,たとえばモデルコアカリキュラム,CBT,OSCEなどの導入に対応するように編纂されている.また,卒前の基礎・臨床実習だけでなく,臨床研修医をはじめとする多くの臨床歯科医師にも参考となるよう配慮されている.
近代歯学の中核であり,基礎であるOperative Dentistryは,歯の実質欠損に対する修復学を中心として発展してきたが,科学の進歩,人々の保健や医療に対する概念とニーズの変遷により,その根拠を大きく変えざるを得なくなってきている.本書の企画にあたっては,その点についてかなりの時間をかけて検討した.その結果,あえて書名に「保存修復」の名称を用いることをさけた.そしてこれまでの教科書では十分に取り上げられていなかった診査,診断法をA章において全面的に取り上げ,これらをPOS(Problem Oriented System)によって解説した.この基本はB章(基本手技),C章(症例)にも活かされ,読者はつねに患者が持つ種々の問題点を幅広い見地から認識してその解決法を立案し,実行する能力を会得しやすくした.また,本書は実技ガイドであり,理論についての詳細な記述はできるだけ省いたが,実技に関して最低限必要な基本知識と資料だけはD章にまとめ,読者の便宜を図った.
一般に歯科医学,医療はArt and Scienceであるといわれるが,近年はとくにEvidenceに基づいた医療への変換が提唱されている.しかし,一方では歯科医師の技術力,実践対応能力の不足が指摘されるため臨床実習や研修の充実も図られている.歯科医師には文字どおりArtとScienceの両者の能力を向上させることが要求されているといえよう.このような事情のなかで実技教科書を企画・編集するには予想以上の時間と労力を要したが,編集委員の九州歯科大学 寺下正道教授,東京医科歯科大学大学院 田上順次教授,明海大学 片山 直教授には積極的で,的確な指摘と作業をしていただき,あらためて心からお礼を申し上げたい.また,編集の趣意を十分汲み取って貴重な時間を割いて執筆いただいた多くの先生方,そして本書発刊の機会を与えていただいた医歯薬出版株式会社に,また膨大な編集作業に黙々と従事いただいた編集部の方々に心から深く感謝する.
編著者を代表し読者の学習に本書が役立つことを願って
2003年2月
千田 彰
近年の歯科医療を巡る変遷は著しい.人々の間では,心身ともに健康に,かつ豊かに生活することを期待する傾向が強くなり,その健康と豊かさの象徴でもある口腔の健康への関心が非常に高まっている.かつての対症的な歯科医療,すなわち痛みを取る,噛めるようにする,形を回復するだけの治療では,社会からの理解や支持が得られなくなってきている.そして疾患の予防,健康の維持と増進をはかる医療へ期待が移り,修復治療に対しても,より自然感に富んだ質の高い結果が求められている.
このような歯科医療の変遷や新たな展開のなか,近代臨床歯学の基礎であり,中核であるOperative Dentistry(保存修復学)の科学,技術,使用される材料と機器も長足の発展を遂げている.これらの保存修復学における科学的な進歩によって,う蝕症をはじめとする硬組織疾患の発症要因を制御することを中心とした予防的な治療,接着歯学に基づいた非侵襲的で審美的な修復治療など,新たな取り組み,アプローチを日常の臨床で実施することが可能になっている.
本書,『保存修復クリニカルガイド』は,2003年に初版『保存クリニカルガイド』として刊行された.本書のルーツである『保存修復のテクニック』は,保存修復学の基礎と臨床教育におけるマニュアルの必要性に呼応し,また各歯科大学・歯学部における保存修復学実習内容の統一をはかることを目的として1969年に先達の手により刊行された.そして長年にわたり版が重ねられ,また書名も変えてその意志が引き継がれてきた.しかしながら,『保存修復のテクニック』の刊行から30年以上の年月を経て,歯科医療の著しい変遷と保存修復学の進歩があり,時代の要請に応じた新たな技術マニュアル編纂の必要性が生じた.またコアカリキュラム,OSCEやCBTなどが歯学教育に採用されるようにもなり,これらにも具体的に対応するマニュアルも待望されるに至り,『保存クリニカルガイド』が刊行された.
しかし,この初版の発行からすでに5年以上の歳月を経て,その内容の一部に修正の必要性が目立ってきたことは否めない.初版刊行時には,マニュアルとしての性格から,刻々と進む機器,器材の発展と開発に合わせ,短期間での改訂が必要な項目がいくつかあると予測されたが,諸般の事情によって改訂時期が若干遅れてしまった.しかしながら,幸いに医歯薬出版から改訂版刊行の提案を受け,また初版で編集委員としてご尽力された寺下正道,田上順次,片山 直各教授に改訂の了承と再度編集に加わっていただけるという了解を得られた.さらに奈良陽一郎,宮崎真至各教授に新たに編集委員としてご参加いただくこともでき,各先生方の熱意と献身的ともいえるご尽力によってきわめて短時間のうちに企画と編集作業を進め,刊行に至った.また,保存修復学教育で第一線に立って活躍される先生方に,本書の改訂についての趣意および歯の硬組織疾患治療の新しい取り組みについて,深いご理解と絶大なご支持をいただき,短期間での編纂にご協力をいただくことができた.
本書は,新たな時代の「歯の硬組織疾患の治療」に関する理論に基づいた技術を,初版よりも可能なかぎりみやすく,また使いやすいマニュアルにすることを至上の目標にしてまとめられた.とくに,卒前の歯学生および臨床研修医の基礎・臨床実習や臨床研修に役立つよう配慮し,A章では,疾患の検査および診断の基本,B章ではさまざまな基本手技,C章では基本手技の応用としての症例の紹介,D章では保存修復学の理論の検索につながる資料をあげている.
新しい時代,未来に向けて学習,研修に励む歯学生および臨床研修医の諸氏におかれては,本書編纂の趣旨を理解いただき,学習,研修に本書を活用いただければ幸甚である.
2009年10月 編著者を代表して
千田 彰
第1版の序
新しい硬組織疾患治療の基礎・臨床実習ガイド,『保存クリニカルガイド』が刊行された.本書は,最新の硬組織疾患治療のあり方を詳細に紹介すると共に,最近の教育改革,たとえばモデルコアカリキュラム,CBT,OSCEなどの導入に対応するように編纂されている.また,卒前の基礎・臨床実習だけでなく,臨床研修医をはじめとする多くの臨床歯科医師にも参考となるよう配慮されている.
近代歯学の中核であり,基礎であるOperative Dentistryは,歯の実質欠損に対する修復学を中心として発展してきたが,科学の進歩,人々の保健や医療に対する概念とニーズの変遷により,その根拠を大きく変えざるを得なくなってきている.本書の企画にあたっては,その点についてかなりの時間をかけて検討した.その結果,あえて書名に「保存修復」の名称を用いることをさけた.そしてこれまでの教科書では十分に取り上げられていなかった診査,診断法をA章において全面的に取り上げ,これらをPOS(Problem Oriented System)によって解説した.この基本はB章(基本手技),C章(症例)にも活かされ,読者はつねに患者が持つ種々の問題点を幅広い見地から認識してその解決法を立案し,実行する能力を会得しやすくした.また,本書は実技ガイドであり,理論についての詳細な記述はできるだけ省いたが,実技に関して最低限必要な基本知識と資料だけはD章にまとめ,読者の便宜を図った.
一般に歯科医学,医療はArt and Scienceであるといわれるが,近年はとくにEvidenceに基づいた医療への変換が提唱されている.しかし,一方では歯科医師の技術力,実践対応能力の不足が指摘されるため臨床実習や研修の充実も図られている.歯科医師には文字どおりArtとScienceの両者の能力を向上させることが要求されているといえよう.このような事情のなかで実技教科書を企画・編集するには予想以上の時間と労力を要したが,編集委員の九州歯科大学 寺下正道教授,東京医科歯科大学大学院 田上順次教授,明海大学 片山 直教授には積極的で,的確な指摘と作業をしていただき,あらためて心からお礼を申し上げたい.また,編集の趣意を十分汲み取って貴重な時間を割いて執筆いただいた多くの先生方,そして本書発刊の機会を与えていただいた医歯薬出版株式会社に,また膨大な編集作業に黙々と従事いただいた編集部の方々に心から深く感謝する.
編著者を代表し読者の学習に本書が役立つことを願って
2003年2月
千田 彰
A 検査,診断編
1 治療計画の立案
1.治療(問題解決)のための方法
2.基本的なプロセス(症例)
3.とくに症状や訴えがない場合
4.痛みを訴える場合
5.審美性の改善を訴える場合
2 疾患別検査情報の分析
1−う蝕
1.上顎中切歯隣接面のう蝕
2.下顎左側第二小臼歯のう蝕
3.二次う蝕
2−tooth wear(歯の損耗)
1.咬耗
2.摩耗
3.くさび状欠損
4.酸蝕
3−知覚過敏
4−歯の破折・亀裂
1.上顎左側中切歯の破折
2.上顎右側第二小臼歯の破折
5−変色・着色
1.歯の変色
2.前歯の変色
B 基本手技編
1−医療安全
1.医療安全とは
2.医療安全の確保
2−患者とのコミュニケーション(医療面接)
1.環境整備
2.コミュニケーションスキル
3.インフォームドコンセントの実際
3−切削法 Web動画参照
1.う窩の開拡
2.罹患象牙質の除去
3.既存修復物の除去
4.その他の切削法
4−麻酔法
1.保存治療で用いられる局所麻酔法
2.局所麻酔の医療安全
5−修復のための補助的手技
1.術野隔離法(フィールドコントロール) Web動画参照
2.歯肉排除法 Web動画参照
3.隔壁法 Web動画参照
4.歯間分離法
6−う蝕・う窩の取り扱い
1.非侵襲的治療
2.う窩の罹患象牙質の取り扱い Web動画参照
3.歯髄・象牙質の保護
7−歯科接着の基本
1.直接法修復の接着
2.間接法修復の接着
8−コンポジットレジン修復 Web動画参照
9−セメント修復
10−レジンインレーおよびセラミックインレー修復
1.レジンインレー修復
2.セラミックインレー修復
11−ベニア修復
12−合着
13−メタルインレー修復 Web動画参照
14−歯のホワイトニング
15−知覚過敏の処置
16−再装着
17−患者・患歯の管理
1.管理の基本
2.修復の術後経過と管理
C 症例編
1−レジン修復
1.切端破折の修復
2.正中離開の改善
3.歯頸部の修復
4.臼歯部の修復
5.補修
2−インレー修復
1.レジンインレー修復
2.セラミックインレー修復
3−失活歯の修復
1.メタルアンレー修復
2.レジンアンレー修復
3.ファイバーポスト
4−ベニア修復
1.ポーセレンラミネートベニア修復
2.レジンラミネートベニア修復
D 資料集
1−各種飲料,食品のpH
2−日本におけるう蝕の罹患状況
3−日本における修復治療の推移と寿命
4−シェードテイキングの基本
5−消毒と感染予防
6−偶発事故への対応
索引
材料・薬剤,機器一覧
問い合わせ先一覧
Web動画目次
A.メタルインレー修復の技工操作
I.蝋型採得と埋没
II.鋳造と研磨
B.う蝕および修復物の除去
C.コンポジットレジン修復
I.Class4 レジン修復
II.Class2 レジン修復
1 治療計画の立案
1.治療(問題解決)のための方法
2.基本的なプロセス(症例)
3.とくに症状や訴えがない場合
4.痛みを訴える場合
5.審美性の改善を訴える場合
2 疾患別検査情報の分析
1−う蝕
1.上顎中切歯隣接面のう蝕
2.下顎左側第二小臼歯のう蝕
3.二次う蝕
2−tooth wear(歯の損耗)
1.咬耗
2.摩耗
3.くさび状欠損
4.酸蝕
3−知覚過敏
4−歯の破折・亀裂
1.上顎左側中切歯の破折
2.上顎右側第二小臼歯の破折
5−変色・着色
1.歯の変色
2.前歯の変色
B 基本手技編
1−医療安全
1.医療安全とは
2.医療安全の確保
2−患者とのコミュニケーション(医療面接)
1.環境整備
2.コミュニケーションスキル
3.インフォームドコンセントの実際
3−切削法 Web動画参照
1.う窩の開拡
2.罹患象牙質の除去
3.既存修復物の除去
4.その他の切削法
4−麻酔法
1.保存治療で用いられる局所麻酔法
2.局所麻酔の医療安全
5−修復のための補助的手技
1.術野隔離法(フィールドコントロール) Web動画参照
2.歯肉排除法 Web動画参照
3.隔壁法 Web動画参照
4.歯間分離法
6−う蝕・う窩の取り扱い
1.非侵襲的治療
2.う窩の罹患象牙質の取り扱い Web動画参照
3.歯髄・象牙質の保護
7−歯科接着の基本
1.直接法修復の接着
2.間接法修復の接着
8−コンポジットレジン修復 Web動画参照
9−セメント修復
10−レジンインレーおよびセラミックインレー修復
1.レジンインレー修復
2.セラミックインレー修復
11−ベニア修復
12−合着
13−メタルインレー修復 Web動画参照
14−歯のホワイトニング
15−知覚過敏の処置
16−再装着
17−患者・患歯の管理
1.管理の基本
2.修復の術後経過と管理
C 症例編
1−レジン修復
1.切端破折の修復
2.正中離開の改善
3.歯頸部の修復
4.臼歯部の修復
5.補修
2−インレー修復
1.レジンインレー修復
2.セラミックインレー修復
3−失活歯の修復
1.メタルアンレー修復
2.レジンアンレー修復
3.ファイバーポスト
4−ベニア修復
1.ポーセレンラミネートベニア修復
2.レジンラミネートベニア修復
D 資料集
1−各種飲料,食品のpH
2−日本におけるう蝕の罹患状況
3−日本における修復治療の推移と寿命
4−シェードテイキングの基本
5−消毒と感染予防
6−偶発事故への対応
索引
材料・薬剤,機器一覧
問い合わせ先一覧
Web動画目次
A.メタルインレー修復の技工操作
I.蝋型採得と埋没
II.鋳造と研磨
B.う蝕および修復物の除去
C.コンポジットレジン修復
I.Class4 レジン修復
II.Class2 レジン修復














