はじめに
令和6年能登半島地震において,お亡くなりになられた方々に心からお悔やみを申し上げるとともに,被災された全ての方々にお見舞いを申し上げます.また,歯科医療従事者の派遣等にご尽力いただきました皆様に,心から感謝を申し上げます.
さて,「災害時における医療(以下「災害医療」という)」は,医療法第30条の4の規定に基づき,医療計画に記載する事項として,がん,脳卒中,急性心筋梗塞,糖尿病及び精神疾患の5疾患並びにへき地の医療,周産期医療,小児医療及び新興感染症等の感染拡大時における医療とともに6事業の1つとして規定され,地域の実情に応じて取り組まれています.厚生労働省においても,災害発生時を含めた各地域の実情を踏まえた歯科医療施策が実効的に進められるよう,協議・検討を行う検討委員会の設置やNDB,KDB等を活用した地域の歯科保健医療提供状況に関する分析及び分析結果に基づく歯科医療提供体制の検討等,歯科医療提供体制の構築に向けた都道府県の取組の実施に必要な財政支援を令和4年度から行っています(図1).
また,大規模災害時には,医療提供能力が長期間かつ広範囲にわたり低下することが想定され,高齢者の誤嚥性肺炎等のリスクが高まるとの指摘があることから,避難所等への歯科保健医療支援を担うJDAT(Japan Dental Alliance Team:日本災害歯科支援チーム)(図2)の養成や災害対策に係る保健医療活動を行うチームとの円滑な引き継ぎが重要な課題となっています.今回の震災では,厚生労働省と日本歯科医師会が連携し,JDATに避難所等で活動して頂きましたが,平時から,災害を念頭に置いた関係機関による連携体制をあらかじめ構築しておくことにより,被災地の歯科保健医療提供能力が回復するまでの間に切れ目のない支援を行えるよう,JDATに所属する歯科医療従事者等の養成及び当該チームの活動等に必要な研修を支援することを目的として,災害歯科保健医療チーム養成支援事業を実施しています.事業においては,災害時に歯科医療機関及び避難所等においてJDATの活動の調整を行う歯科医師やチームに所属する歯科医療従事者,都道府県の災害時歯科保健医療関係部署の担当者,その他,災害時の歯科保健医療に携わる歯科医療関係者を対象として,災害時に歯科保健医療支援を行う能力の向上を図るために実施する講義及び演習等を行っています(図3).
この度,本事業において得られた成果を取りまとめ,『災害歯科保健医療 標準テキスト 第2版』を発刊するにあたり,執筆・編集等にあたられた先生方に心より感謝申し上げます.
2024年7月
厚生労働省医政局
歯科保健課長
小嶺祐子
災害歯科保健医療チーム養成支援事業の意義
歯科医師法第一条には「歯科医師は,歯科医療及び保健指導を掌ることによつて,公衆衛生の向上及び増進に寄与し,もつて国民の健康な生活を確保するものとする.」とあります.
平時の歯科医療及び保健指導の提供が災害によってできなくなった時,私たち歯科関係者はどうやって歯科医療及び保健指導を掌り,そして住民の健康な生活を確保するのでしょうか.これは公衆衛生の課題の一つでしょう.
平成7年の阪神淡路大震災を契機に,震災後の過酷な避難生活で口腔内が不潔になり肺炎発症リスクが上がること,義歯を破損又は紛失された人が食事に不自由されること等,災害時に独特の歯科保健医療ニーズが生まれることは,歯科関係者なら既知のことになりました.
近い将来に南海トラフ地震発生の可能性が指摘されていることもあり,災害時の保健医療体制構築については複数の組織・団体が準備活動をしながら同時にネットワークを深化しています.歯科においては,令和4年に創設されたJDAT(日本災害歯科支援チーム)が令和6年能登半島地震で初めて現地支援活動を行いました.今後,私たち歯科関係者が効果的かつ効率的に支援活動を行うためには,共に活動する他の組織・団体について理解していること,役割分担が明確になったチームとして動けることの二つが前提になると考えます.また,支援活動について歯科関係者への周知不足を解決する取り組みも併せて必要だと思います.
本テキストはこれらの課題解決に資するものであり,多くの方にお目通しいただきたく思います.また,本事業については本会会員はじめ多くの歯科関係者の参画が求められるものだと思います.
2024年7月
全国行政歯科技術職連絡会
会長
堀江 博
災害時における歯科の必要性等
2011年3月11日に発生した東日本大震災や平成28年熊本地震では,主な医療ニーズがケガや熱傷ではなく長期の避難生活での健康管理となり,多くの医療チームのコーディネート・配置調整や情報共有も必要とされ,1995年の阪神・淡路大震災を踏まえて構築されてきた日本の災害医療にパラダイムシフトを起こしました.他方,歯科医師の先生方に大変なご尽力をしていただいた身元確認の重要性が再認識されました.
こうした貴重な教訓を踏まえ,我が国では,災害医療コーディネーター研修の開始,EMISの改良,災害診療記録の様式統一化とそれをデータ化したJ-SPEEDの導入等の方策が講じられてきました.日本医師会としても,JMAT体制の整備等を図るととに,災害対策基本法上の指定公共機関の指定を受け,さらには日本歯科医師会が主要メンバーである被災者健康支援連絡協議会の代表として,会長が中央防災会議の委員に就任いたしました.
また超高齢社会の進展や医療的ケア児の増加等に伴い,地域包括ケアシステムの構築が国の重要施策となりました.災害医療においても,災害時の要配慮者対策を強化し,早期の対応や健康状態の悪化防止を図っていく必要があります.これまでも重視されてきた避難所等での衛生環境については,コロナ禍により感染症が大きな脅威となりました.いずれも災害歯科保健医療の活動に大きく関わると思われます.
本年1月1日,令和6年能登半島地震が発生しました.大変残念ながら,甚大な被害をもたらす災害は,再び起こると考えざるを得ません.南海トラフ巨大地震や首都直下地震はいつ起きてもおかしくはなく,近年激甚化している豪雨・台風災害,火山噴火,人為災害との複合災害など備えをしっかりと行っておく必要があります.
そこで最も重要なカギとなるのが「連携」です.東日本大震災の最大の教訓といえます.これまでの震災の犠牲者に報いるため,関係者間で強固な連携体制を築き,被災地内外で協働していかなければなりません.
本テキストを用いた研修の受講者が,歯科の立場から災害時における連携の大切な担い手となっていただくことを祈念しております.
2024年7月
公益社団法人 日本医師会
常任理事
細川秀一
令和6年能登半島地震において,お亡くなりになられた方々に心からお悔やみを申し上げるとともに,被災された全ての方々にお見舞いを申し上げます.また,歯科医療従事者の派遣等にご尽力いただきました皆様に,心から感謝を申し上げます.
さて,「災害時における医療(以下「災害医療」という)」は,医療法第30条の4の規定に基づき,医療計画に記載する事項として,がん,脳卒中,急性心筋梗塞,糖尿病及び精神疾患の5疾患並びにへき地の医療,周産期医療,小児医療及び新興感染症等の感染拡大時における医療とともに6事業の1つとして規定され,地域の実情に応じて取り組まれています.厚生労働省においても,災害発生時を含めた各地域の実情を踏まえた歯科医療施策が実効的に進められるよう,協議・検討を行う検討委員会の設置やNDB,KDB等を活用した地域の歯科保健医療提供状況に関する分析及び分析結果に基づく歯科医療提供体制の検討等,歯科医療提供体制の構築に向けた都道府県の取組の実施に必要な財政支援を令和4年度から行っています(図1).
また,大規模災害時には,医療提供能力が長期間かつ広範囲にわたり低下することが想定され,高齢者の誤嚥性肺炎等のリスクが高まるとの指摘があることから,避難所等への歯科保健医療支援を担うJDAT(Japan Dental Alliance Team:日本災害歯科支援チーム)(図2)の養成や災害対策に係る保健医療活動を行うチームとの円滑な引き継ぎが重要な課題となっています.今回の震災では,厚生労働省と日本歯科医師会が連携し,JDATに避難所等で活動して頂きましたが,平時から,災害を念頭に置いた関係機関による連携体制をあらかじめ構築しておくことにより,被災地の歯科保健医療提供能力が回復するまでの間に切れ目のない支援を行えるよう,JDATに所属する歯科医療従事者等の養成及び当該チームの活動等に必要な研修を支援することを目的として,災害歯科保健医療チーム養成支援事業を実施しています.事業においては,災害時に歯科医療機関及び避難所等においてJDATの活動の調整を行う歯科医師やチームに所属する歯科医療従事者,都道府県の災害時歯科保健医療関係部署の担当者,その他,災害時の歯科保健医療に携わる歯科医療関係者を対象として,災害時に歯科保健医療支援を行う能力の向上を図るために実施する講義及び演習等を行っています(図3).
この度,本事業において得られた成果を取りまとめ,『災害歯科保健医療 標準テキスト 第2版』を発刊するにあたり,執筆・編集等にあたられた先生方に心より感謝申し上げます.
2024年7月
厚生労働省医政局
歯科保健課長
小嶺祐子
災害歯科保健医療チーム養成支援事業の意義
歯科医師法第一条には「歯科医師は,歯科医療及び保健指導を掌ることによつて,公衆衛生の向上及び増進に寄与し,もつて国民の健康な生活を確保するものとする.」とあります.
平時の歯科医療及び保健指導の提供が災害によってできなくなった時,私たち歯科関係者はどうやって歯科医療及び保健指導を掌り,そして住民の健康な生活を確保するのでしょうか.これは公衆衛生の課題の一つでしょう.
平成7年の阪神淡路大震災を契機に,震災後の過酷な避難生活で口腔内が不潔になり肺炎発症リスクが上がること,義歯を破損又は紛失された人が食事に不自由されること等,災害時に独特の歯科保健医療ニーズが生まれることは,歯科関係者なら既知のことになりました.
近い将来に南海トラフ地震発生の可能性が指摘されていることもあり,災害時の保健医療体制構築については複数の組織・団体が準備活動をしながら同時にネットワークを深化しています.歯科においては,令和4年に創設されたJDAT(日本災害歯科支援チーム)が令和6年能登半島地震で初めて現地支援活動を行いました.今後,私たち歯科関係者が効果的かつ効率的に支援活動を行うためには,共に活動する他の組織・団体について理解していること,役割分担が明確になったチームとして動けることの二つが前提になると考えます.また,支援活動について歯科関係者への周知不足を解決する取り組みも併せて必要だと思います.
本テキストはこれらの課題解決に資するものであり,多くの方にお目通しいただきたく思います.また,本事業については本会会員はじめ多くの歯科関係者の参画が求められるものだと思います.
2024年7月
全国行政歯科技術職連絡会
会長
堀江 博
災害時における歯科の必要性等
2011年3月11日に発生した東日本大震災や平成28年熊本地震では,主な医療ニーズがケガや熱傷ではなく長期の避難生活での健康管理となり,多くの医療チームのコーディネート・配置調整や情報共有も必要とされ,1995年の阪神・淡路大震災を踏まえて構築されてきた日本の災害医療にパラダイムシフトを起こしました.他方,歯科医師の先生方に大変なご尽力をしていただいた身元確認の重要性が再認識されました.
こうした貴重な教訓を踏まえ,我が国では,災害医療コーディネーター研修の開始,EMISの改良,災害診療記録の様式統一化とそれをデータ化したJ-SPEEDの導入等の方策が講じられてきました.日本医師会としても,JMAT体制の整備等を図るととに,災害対策基本法上の指定公共機関の指定を受け,さらには日本歯科医師会が主要メンバーである被災者健康支援連絡協議会の代表として,会長が中央防災会議の委員に就任いたしました.
また超高齢社会の進展や医療的ケア児の増加等に伴い,地域包括ケアシステムの構築が国の重要施策となりました.災害医療においても,災害時の要配慮者対策を強化し,早期の対応や健康状態の悪化防止を図っていく必要があります.これまでも重視されてきた避難所等での衛生環境については,コロナ禍により感染症が大きな脅威となりました.いずれも災害歯科保健医療の活動に大きく関わると思われます.
本年1月1日,令和6年能登半島地震が発生しました.大変残念ながら,甚大な被害をもたらす災害は,再び起こると考えざるを得ません.南海トラフ巨大地震や首都直下地震はいつ起きてもおかしくはなく,近年激甚化している豪雨・台風災害,火山噴火,人為災害との複合災害など備えをしっかりと行っておく必要があります.
そこで最も重要なカギとなるのが「連携」です.東日本大震災の最大の教訓といえます.これまでの震災の犠牲者に報いるため,関係者間で強固な連携体制を築き,被災地内外で協働していかなければなりません.
本テキストを用いた研修の受講者が,歯科の立場から災害時における連携の大切な担い手となっていただくことを祈念しております.
2024年7月
公益社団法人 日本医師会
常任理事
細川秀一
はじめに
第1章 災害歯科保健医療
1 災害歯科保健医療概論
2 災害歯科支援チームの実現に向けて〜関係機関・団体における連携の重要性〜
3 保健医療支援におけるロジスティクス担当者の役割
4 災害時における歯科医師会の対応
5 災害時の歯科保健医療活動〜目的,評価,体制〜
第2章 国における災害対応
1 大規模災害時における政府の初動対応について
2 災害時における保健医療の対応
3 厚生労働省における災害医療体制
4 防衛省・自衛隊における災害派遣活動
5 警察における大規模災害時等の多数遺体取扱について〜歯科所見による身元特定の有効性〜
6 海上保安庁における歯牙鑑定
第3章 活動における連携・共有
1 災害時の歯科保健医療活動〜歯科支援における役割分担,多職種での連携〜
2 日本医師会の災害対応
3 サイコロジカル・ファーストエイド〜心理的応急処置:PFA〜
4 歯科における身元確認体制
5 歯科医師のための災害復興法学のすすめ
参考資料
JDAT 目的・趣旨
日本災害歯科保健医療連絡協議会規則
都道府県災害歯科保健医療連絡協議会規則案(ひな形2種類)
施設・避難所等 歯科口腔保健 ラピッドアセスメント票(集団・迅速)
歯科保健医療支援アクションカード
災害歯科保健医療Q&A
略語/用語集
第1章 災害歯科保健医療
1 災害歯科保健医療概論
2 災害歯科支援チームの実現に向けて〜関係機関・団体における連携の重要性〜
3 保健医療支援におけるロジスティクス担当者の役割
4 災害時における歯科医師会の対応
5 災害時の歯科保健医療活動〜目的,評価,体制〜
第2章 国における災害対応
1 大規模災害時における政府の初動対応について
2 災害時における保健医療の対応
3 厚生労働省における災害医療体制
4 防衛省・自衛隊における災害派遣活動
5 警察における大規模災害時等の多数遺体取扱について〜歯科所見による身元特定の有効性〜
6 海上保安庁における歯牙鑑定
第3章 活動における連携・共有
1 災害時の歯科保健医療活動〜歯科支援における役割分担,多職種での連携〜
2 日本医師会の災害対応
3 サイコロジカル・ファーストエイド〜心理的応急処置:PFA〜
4 歯科における身元確認体制
5 歯科医師のための災害復興法学のすすめ
参考資料
JDAT 目的・趣旨
日本災害歯科保健医療連絡協議会規則
都道府県災害歯科保健医療連絡協議会規則案(ひな形2種類)
施設・避難所等 歯科口腔保健 ラピッドアセスメント票(集団・迅速)
歯科保健医療支援アクションカード
災害歯科保健医療Q&A
略語/用語集














