やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第4 版の序
 『歯内治療学』は,福地芳則教授,長田 保教授,砂田今男教授の編集により,1982 年に第1 版が発行され,それ以降,第3 版まで改訂が行われました.この間,28 年にわたり,歯学生の歯内治療学の教科書として,また一般臨床家の参考書として活用され,好評を得ています.本書がこのように永きにわたり,各方面で活用されてきましたのは,読みやすさに加え,最近の話題を包含した新鮮さ,臨床に即した成書であるためと考えます.愛知県歯科医師会の平成20 年度の8020 表彰者追跡調査報告によれば,8020 達成者は,未達成者よりも,明らかに自立・健康者が多いと報告されています.これは,歯の健康維持・延命化すなわち歯の保存が,全身の健康維持に重要であることを示しており,学術的にもそれが明らかにされつつあります.
 そうした歯の保存を試みるときの最後の砦が歯内治療である,ということは誰しもが思うことでしょう.そして,それを考えるときの拠り所となるのがこの『歯内治療学』です.それだけに本書の持つ意義は大変に重く,重要と考えます.
 第3 版が発行されてから4 年以上が経過し,ご執筆された先生方の多くの方が大学を退職され,新しい教授も誕生しています.そこで,新進気鋭の先生方に新たにご執筆をお願いし,時代に即した新しい『歯内治療学』に改訂したいとの提案が,医歯薬出版株式会社からありました.
 このような要請を受けて,編集委員会が設置され,第4 版発刊のための改訂作業にはいりました.前回の改訂では,かなり多くの新知見が導入されましたので,今回はその新知見のいっそうの充実を図るとともに,学生にも理解しやすく,読みやすく,さらに本書を教科書として使う先生方がより授業で使いやすいような教科書とすることが,編集委員会で確認されました.従いまして,今回はなるべく平易な表現に改めていただくなど,読者がより理解しやすい教科書をめざしました.
 本書が,歯科学生および一般臨床家にとって,最新の歯内治療の基本的な理論と技術の修得に役立ち,ひいては口腔の健康維持・増進に寄与することを願っております.なお,2011 年3 月11 日に東日本大震災が発生しました.本書編集中の出来事でした.被災されました皆様には心からお見舞い申し上げます.
 最後に,お忙しいなかご執筆いただいた全国歯科大学,歯学部の歯内治療ご担当の先生方に深甚なる謝意を表します.また,本書を発刊するに当たり,絶大なるご協力,ご支援を頂きました医歯薬出版株式会社の編集部の皆様に心中から御礼申し上げます.
 2012 年1 月
 編者一同
第1章 歯内治療学の歴史,目的ならびに意義(中村 洋)
 I 歴史的概観
  1.歯科医学の起源
  2.近代歯科医学の発展
  3.近代歯内治療の幕開けと進展
 II 定義,意義ならびに目的
  1.定義,意義
  2.目的
第2章 歯・歯周組織の構造と機能(阿南 壽・泉 利雄・諸冨孝彦)
 I 歯の硬組織の構造と発生
  1.歯の硬組織の構造
  2.歯冠の形成
  3.歯根の形成
 II 歯髄の構造と機能
  1.歯髄
  2.象牙質・歯髄複合体
 III 歯周組織の構造と機能
  1.歯肉
  2.歯根膜
  3.セメント質
  4.歯槽骨
 IV 歯根と歯髄腔の形態と変化
  1.歯根と根管の形態
  2.歯髄腔
  3.根管の変化
第3章 歯の硬組織疾患(中村 洋)
 I 歯と歯髄腔の形態異常
  1.歯の大きさの異常
  2.異常結節
  3.異常根
  4.歯髄腔の異常
 II 歯の形成不全
  1.全身的原因
  2.局所的原因
 III 歯の物理的,化学的欠損
  1.咬耗症
  2.摩耗症
  3.歯の酸蝕症
 VI 齲蝕症
  1.発生機序
  2.口腔環境の変化による齲蝕の原因
  3.好発部位
 V 歯の外傷
 VI 象牙質知覚過敏症
  1.発生機序
  2.発症部位の組織変化
  3.好発部位
  4.原因
  5.検査方法
  6.臨床的分類
  7.検査と症状
  8.他疾患との鑑別診断
  9.治療法
第4章 歯内治療における基本術式の概要
 I 診査・検査(木村裕一)
  1.問診
  2.視診
  3.触診
  4.打診
  5.歯の動揺度と歯周ポケット検査
  6.温度診
  7.歯髄電気診
  8.透照診
  9.エックス線検査
  10.麻酔診
  11.切削診
  12.インピーダンス測定検査
  13.楔応力検査(咬合診査)
  14.化学診
  15.嗅診
 II 無菌的処置法
  1.手術野の消毒
  2.ラバーダム防湿法
  3.隔壁形成法
  4.バリヤーテクニック
  5.器材の滅菌と消毒
 III 除痛法(麻酔法)(松島 潔)
 IV 齲蝕の処置法
  1.罹患歯質の識別と除去法
  2.齲窩の消毒術式と使用薬剤
 V 仮封処置
  1.意義と目的
  2.仮封材の所要性質
  3.仮封材の種類
  4.仮封法
第5章 歯髄疾患
 I 歯髄疾患の臨床的分類(赤峰昭文・吉嶺嘉人)
 II 歯髄疾患の原因
  1.細菌的原因
  2.物理的原因
  3.化学的原因
 III 歯髄疾患の病理像と臨床症状
  1.歯髄充血
  2.急性歯髄炎
  3.慢性歯髄炎
  4.その他の歯髄炎
  5.歯髄壊死および壊疽
  6.歯髄の退行性変化
  7.歯の内部吸収
 IV 歯髄疾患の特徴と経過
 V 歯髄疾患の診査・検査
  1.問診
  2.視診
  3.触診
  4.打診
  5.動揺度検査
  6.温度診
  7.歯髄電気診
  8.透照診
  9.エックス線検査
  10.麻酔診
  11.切削診
  12.インピーダンス測定検査
  13.楔応力検査(咬合診査)
  14.化学診
  15.嗅診
 VI 歯痛錯誤と関連痛
 VII 歯髄疾患の診断
  1.歯髄の生死
  2.急性症状の有無
  3.露髄の有無(歯髄の細菌感染の有無)
  4.待機的診断法
 VIII 歯髄疾患の治療方針
 IX 歯髄疾患の緊急処置
  1.患歯の同定および痛みの原因の診断
  2.痛みを止めるための応急的処置
 X 歯髄疾患の治療法(須田英明)
  1.歯髄保存療法
  2.断髄法
  3.抜髄法
第6章 根尖性歯周組織疾患
 I 根尖性歯周組織疾患の概要(五十嵐 勝)
  1.根尖歯周組織の炎症性反応
  2.感染根管
 II 根尖性歯周組織疾患の原因
  1.物理的刺激
  2.感染根管の内容物の化学的刺激
  3.細菌的刺激
  4.細菌感染の経路
 III 根尖性歯周組織疾患の臨床病理と臨床的分類
 IV 根尖性歯周組織疾患の進行と経過
 V 根尖性歯周組織疾患の診査・検査
  1.問診
  2.視診
  3.触診
  4.打診
  5.歯の動揺度と歯周ポケット検査
  6.温度診
  7.歯髄電気診
  8.透照診
  9.エックス線検査
  10.嗅診
  11.根管滲出液の細胞検査
  12.体温測定
 VI 根尖性歯周組織疾患の臨床病理と臨床症状
  1.急性根尖性歯周炎
  2.慢性根尖性歯周炎
 VII 根尖性歯周組織疾患の診断法
  1.根尖性歯周組織疾患の診断手順
  2.根尖性歯周組織疾患の原因と感染経路の診断
  3.待機的診断
  4.歯内疾患の類似病変
 VIII 根尖性歯周組織疾患の治療方針(古市保志・森 真理)
  1.感染根管治療
  2.その他の各種治療法
  3.急性根尖性歯周炎の基本的処置方針
  4.慢性根尖性歯周炎の基本的処置方針
  5.症例選択
第7章 根管処置
 I 髄室開拡(興地隆史)
  1.髄室開拡の要件
  2.髄室開拡の術式
  3.根管上部のフレアー形成
 II 根管長測定法と作業長の決定
  1.根管処置の終末点
  2.根管長測定法の意義
  3.作業長の決定
  4.根管長測定の術式
 III 根管形成
  1.根管形成の意義
  2.手用根管切削器具を用いた根管形成
  3.Ni-Tiロータリーファイルを用いた根管形成
 IV 根管の化学的清掃
  1.意義
  2.使用薬剤の種類と使用法
  3.根管洗浄の術式
 V 根管の消毒(根管貼薬)(石井信之)
  1.意義
  2.根管消毒薬の所要性質
  3.使用薬剤
  4.貼薬術式
  5.仮封
 VI 根管内容物の検査
  1.根管内細菌培養検査
  2.根管内滲出液の検査
 VII 根管治療の補助療法
  1.イオン導入法
  2.根管通過法
  3.吸引洗浄法
 VIII 再根管治療
  1.根管治療経過不良の原因
  2.再根管治療の選択基準
  3.歯冠修復物および補綴物の除去法
  4.根管充填材の除去法
  5.再根管治療時の注意事項
第8章 根管充填
 I 根管充填の目的と意義(勝海一郎)
 II 根管充填の時期
 III 根管充填材の所要性質
 IV 根管充填材の種類
  1.半固形・固形充填材
  2.根管シーラー
  3.糊剤
 V 根管充填の術式
  1.使用器具
  2.ガッタパーチャポイントによる根管充填
  3. その他のガッタパーチャ材による根管充填
  4.固形体による根管充填
  5.糊剤による根管充填法
 VI 即時根管充填法
  1.麻酔抜髄即時根管充填法(直接抜髄即時根管充填法)
  2.感染根管の1 回治療法
 VII 根管充填後の治癒経過(前田宗宏)
  1.根尖部創傷の治癒機転
  2.治癒に影響を及ぼす因子
  3.予後の判定基準と時期
第9章 根未完成歯の治療(小木曽文内)
 I アペキソゲネーシス
  1.アペキソゲネーシスの定義と目的
  2.アペキソゲネーシスの術式
 II アペキシフィケーション
  1.アペキシフィケーションの定義と目的
  2.アペキシフィケーションの術式
  3.根尖孔の閉鎖
 III アペキソゲネーシスおよびアペキシフィケーションの対象となりやすい症例
 IV アペキソゲネーシスとアペキシフィケーションの将来
  1.MTA等を用いた根尖閉鎖療法
  2.歯髄再生療法
第10章 歯根の病的吸収(吉田隆一)
 I 内部吸収
  1.原因
  2.症状と診断
  3.処置
 II 外部吸収
  1.外部吸収の種類
  2.原因
  3.症状と診断
  4.処置
第11章 外傷歯の診断と処置(林 宏行・馬場忠彦)
 I 外傷歯の分類
  1.WHOの分類
  2.Andreasenの分類
  3.分類と臨床症状
 II 外傷歯の診査・検査
  1.問診
  2.視診
  3.歯髄の電気的検査(歯髄電気診)
  4.温度診
  5.透照診
  6.エックス線検査
 III 外傷歯の治療
  1.歯の亀裂とエナメル質に限局する破折
  2.歯の破折
  3.歯の転位
第12章 外科的歯内治療(林 美加子・恵比須繁之)
 I 外科的歯内治療の適応症と種類
  1.適応症
  2.種類
 II 外科的歯内治療の術式および治癒機転と予後
  1.外科的排膿路の確保
  2.根尖掻爬法
  3.歯根尖切除法と逆根管充填法
  4.歯根切除法
  5.ヘミセクション
  6.歯根分離法
  7.歯の再植法
  8.歯の移植法
第13章 手術用顕微鏡を応用した歯内治療(中川寛一)
 I 手術用顕微鏡による検査
  1.特徴
  2.手術用顕微鏡の構造,機能,設置
 II 手術用顕微鏡による処置の特徴
  1.処置倍率
  2.照明
  3.記録
  4.アシスタントワーク
 III 診療ポジション
  1.機器の焦点調整
  2.患者の位置づけ
  3.術者の位置づけ
  4.アシスタントの位置づけ
 IV 適応例
  1.歯髄の処置
  2.根管の処置(根管系の探索・偶発症への対応)
  3.マイクロサージェリーによる歯根切除法
第14章 変色歯の漂白(寺下正道・永吉雅人)
 I 歯の変色の原因
 II 漂白処置の適応症と禁忌症
  1.無髄歯漂白の適応症・禁忌症
  2.有髄歯漂白の適応症・禁忌症
 III 漂白のメカニズム
 IV 漂白法
  1.無髄歯の漂白
  2.有髄歯の漂白
 V 漂白の予後
第15章 歯内-歯周疾患(島内英俊)
 I 歯内疾患と歯周疾患の関連性
 II 歯内-歯周疾患の分類
 III 歯内-歯周疾患の診断と治療
  1.歯内-歯周疾患の診断
  2.歯内-歯周疾患の治療
  3.とくに注意して歯内-歯周疾患との鑑別診断を行わねばならない病変
第16章 高齢者の歯内治療(松尾敬志)
 I 高齢者と成人健常者との歯内治療の違い
 II 高齢者における歯の形態的特徴
 III 象牙質・歯髄複合体の老化による変化
 IV 老化による歯周組織の変化
 V 治癒能力
  1.全身的な要因
  2.局所的な要因
 VI 高齢者の歯内-歯周疾患の特徴
 VII 高齢者の歯内治療の留意点
第17章 根管処置後の歯冠修復(北村知昭)
 I 支台築造と歯冠修復
  1.根管既処置歯に支台築造を行う際の注意点
  2.鋳造金属による支台築造
  3.鋳造金属を用いない支台築造
 II コンポジットレジン修復
 III メタルアンレー修復
 IV 全部被覆冠
第18章 歯内治療における安全対策(笠原悦男)
 I 髄室壁・根管壁の穿孔
  1.原因と予防
  2.処置
 II 残髄炎
  1.原因と予防
  2.処置
 III 異常出血
  1.原因
  2.処置
 IV 治療用器具の根管内破折
  1.原因と予防
  2.処置
 V 治療用器具の誤飲と気管内吸引
  1.原因と予防
  2.処置
 VI 皮下気腫
  1.原因と予防
  2.処置
 VII 根管処置後の根尖性歯周炎
  1.原因と予防
  2.処置
 VIII 歯性上顎洞炎
 IX 抜髄・根管処置時の全身管理
 X 根管充填材の溢出
 XI 根管治療薬剤による化学的損傷
 XII 使用器材による組織損傷

 参考文献
 索引