やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序にかえて
 このたび,日本歯科医療管理学会から本書を出版することになったが,その背景には三つの必要性があった.第一は,本学会で会員の6割を占める開業歯科医師の声である.歯科診療所の歯科医師,あるいは都道府県歯科医師会の医療管理部門の歯科医師から,「医療管理は範囲が広いので,どういう課題をどのように系統立てて研究あるいは研鑽したらよいか整理してほしい」という内容である.特に,本学会の支部で行われる学術集会で多く聞かれた声でもある.第二には,本学会で会員の3割を占める歯科大学・歯学部の学生教育に携わっている教育者の声である.「歯科医学教授要綱」や「歯学教育モデルコアカリキュラム」では,歯科医療管理は社会系歯科学領域として社会歯科学のなかで扱われている.また,国家試験でも医療管理に関する出題が増えている傾向があることや,特に卒前教育,卒直後研修等において,各大学共通の教育資料を求める声がある.第三には,会員の歯科医師を対象とした,日本歯科医療管理学会の認定医制度発足にあたっての必要性である.この認定医制度は,第五次医療法改定内容を含めた歯科医療に求められる社会的要請に応えるために歯科保健医療福祉(介護)の質を確保し,安全・安心・信頼される歯科医療を提供できる歯科医療機関のあるべき姿を探求しようとしている.さらに,それを推進できる歯科医師を育成して国民に適切な歯科医療を提供することを使命としている.認定医申請に当たり,本書を活用し研さんする必要がある.
 このような三つの背景から,歯科医療管理にかかわる教本が生まれた.
 本書では,歯科大学・歯学部の高学年,卒直後の臨床研修医,開業前後の歯科医師を主な対象とし,歯科医療管理に関する基本的な情報を伝えたいと考えている.内容はIII編から構成されている.I編は,社会の中での歯科医療,本書のタイトルを歯科医療管理学としなかたった理由等に触れ,序説とした.II編は,歯科医療管理の2本柱の一つである診療管理に関する内容である.歯科医療に必要な法的な内容,特に歯科医療にかかわりが強い歯科医師法,医療法はいうまでもなく,個人情報,本書のサブテーマになっている医療の質と安全の確保等が含まれている.III編は,歯科医療管理の2本柱の片方としての経営管理である.医療制度の仕組み,歯科医療の需要と供給,歯科診療所の開設,歯科医療経営,地域社会で求められる医療連携,かかりつけ歯科医と専門医,最後に歯科医師の将来展望にまで触れている.
 本書は,多くの歯科大学・歯学部の教育関係者ならびに開業歯科医師,法律の専門家の先生方のご協力を得て編集したものである.改めて各執筆者に敬意を表したい.本書が生きた教本として,教育と臨床にお役に立つことを願いつつ,今後は読者のご叱声を踏まえて,「歯科医療管理」からさらに「歯科医療管理学」としてより体系立てられた書への展開を目標としたいと考えている.
 最後に,本書の出版に労を費やしていただいた医歯薬出版株式会社に改めて感謝申し上げたい.
 平成 23年10月
 日本歯科医療管理学会 会長 津 茂樹
I編 序説
1 章 歯科医療と歯科医療管理
 (1)歯科医療管理とは
 (2)「歯科医療管理」と「歯科医療管理学」
 (3)歯科医療と社会
 (4)本書の目的と構成

II編 診療管理
1 章 歯科医療
 (1)歯科医療と患者の権利
 (2)歯科医療と倫理
  1)倫理,道徳,法の違い
  2)医療と倫理
 (3)歯科医療とコンプライアンス
  1)コンプライアンスとは
  2)社会の変化とコンプライアンス
  3)医療機関とコンプライアンス
  4)コンプライアンスの範囲
  5)医療機関のコンプライアンスを促進させるための活動
 (4)DOS と POS
  1)DOS,POS とは
  2)POS の必要性と問題点
  3)POS の基本的構造
  4)症例
2 章 歯科医療の法的性格
 (1)歯科医療の法的意義
  1)歯科医師の社会的役割
  2)WHO 憲章の前文
  3)日本国憲法第 25 条
  4)歯科医師法第 1 条
 (2)歯科医療と歯科医師法
  1)歯科医師法の沿革
  2)歯科医師の任務
  3)歯科医師の資格
  4)歯科医師免許手続き
  5)歯科医師国家試験
  6)臨床研修
  7)歯科医業
  8)歯科医師の義務
 (3)歯科医療と医療法
  1)医療法の沿革
  2)医療法の目的
  3)医療法の理念
  4)国および医療関係者の責務
  5)医療法による医療機関の定義
  6)医療機関の開設と管理
  7)医療機関の指導監督
  8)医業等に関する広告制限
  9)診療科名
  10)医療法人
  11)都道府県医療審議会
  12)安全・安心,良質の医療体制
 (4)歯科医療と刑法,民法
  1)歯科医療と刑法
  2)歯科医療と民法
 (5)歯科医療と健康保険関連法
  1)健康保険法
  2)国民健康保険法
  3)高齢者の医療の確保に関する法律
  4)その他
3 章 医療情報管理
 (1)医療情報とは
  1)医療情報の定義
  2)医療情報の特徴
  3)医療情報の標準化
  4)医療情報の一次利用と二次利用
  5)医療情報の共有
 (2)診療情報・医療情報の保存・提供
  1)診療情報・医療情報の記録の目的
  2)診療録ほか医療記録記載の義務
  3)診断書,診療録書類作成の代行
  4)電子的な医療情報の運用
  5)診療情報の提供
 (3)診療録
  1)診療録とは
  2)実際の診療録
  3)記載に当たっての注意点
  4)診療にかかわる諸文書
  5)これからの医療記録
 (4)医療と個人情報保護法
  1)個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)
  2)歯科診療所における個人情報の保護
 (5)診療情報開示の具体的な流れ
4 章 歯科医療における安全管理
 (1)医療法における医療安全
  1)第 5 次医療法改正
  2)義務化された項目
  3)安全管理分野ごとの対策
 (2)医療機関における医療安全対策
  1)医療事故とは
  2)ヒヤリ・ハット事例の収集と評価分析
  3)医療事故報告
  4)医療事故を防ぐために
 (3)感染予防管理
  1)感染対策マニュアルと院内感染対策委員会
  2)スタンダードプリコーション
  3)歯科における感染対策管理
  4)職員(従業員)教育と管理
  5)医療廃棄物
  6)感染対策と経済的負担
 (4)院内医薬品・歯科材料の管理
  1)医薬品安全管理責任者による管理
  2)麻酔偶発症および全身状態悪化への事前対応
  3)海外から購入する医薬品に関して
 (5)医療機器の管理
  1)医療機器保守管理責任者による管理
  2)特定化学物質障害予防規則―ホルマリン殺菌機の扱い
 (6)災害時の対応
  1)災害への事前対応
  2)災害時の対応
5 章 医療監視と診療所管理
 (1)医療従事者の法的業務範囲
  1)歯科衛生士の業務範囲
  2)歯科技工士の業務範囲
  3)その他の従事者
 (2)放射線装置の管理
  1)放射線装置の医療法上の分類
  2)X 線装置
  3)放射線測定器
  4)放射線の防御
  5)放射線の照射
  6)照射録の記載
 (3)医療廃棄物の処理・管理
  1)廃棄物の処理体制
  2)処理業者と委託契約書の確認
  3)マニフェスト(廃棄物管理票)
 (4)院内の掲示
  1)掲示が必要な事項
  2)掲示を推奨する事項
 (5)保健所の立入検査
  1)保健所職員による立入検査
6 章 歯科医療事故への対応
 (1)医療危機管理
  1)現代医療の宿命―安全を脅かす状況
  2)歯科医師に求められる管理能力
 (2)医療過誤の民事・刑事責任
  1)民事責任
  2)刑事責任
 (3)医療過誤の行政責任
 (4)医療過誤の防止
  1)医療過誤の範囲
  2)医療事故から学ぶべきこと
  3)具体的な医療過誤防止策
7 章 医事紛争と処理
 (1)医事紛争の原因と防止
  1)医事紛争とは
  2)医事紛争の原因
  3)医事紛争の流れ
  4)医事紛争の防止(予防)
 (2)医事紛争の解決
  1)医事紛争の解決とは
  2)医事紛争解決の視点
  3)誠意ある説明,対応の重要性
  4)示談
  5)判決に至る場合
  6)裁判以外の医事紛争解決のための仕組み,手続

III編 経営管理
1 章 医療制度
 (1)日本の医療制度のあゆみ
  1)近代医療体制のはじまり
  2)国家体制と医療制度
  3)民主主義下の医療制度再整備
  4)量から質への医療施策の変換
  5)医療施設の機能分化と患者の視点に立った医療提供
 (2)日本の医療制度の特徴
  1)自由開業制度
  2)社会保障制度下での医療保険
  3)包括医療の視点に欠ける医療
 (3)国民皆保険制度の特徴と歴史
 (4)医療保険制度の仕組みと種類
  1)医療保険の種類
  2)保険給付の種類
  3)医療保険制度における診療報酬
 (5)介護保険制度
  1)高齢社会の到来
  2)介護保険制度の仕組み
  3)要介護(要支援)認定と介護サービスの利用
  4)心身の状態と要支援度・要介護度
  5)介護サービス・関連サービスの種類
  6)介護保険財源と介護報酬
  7)介護保険を支える人と事業者
  8)歯科診療とのかかわり
  9)歯科診療所と介護関連サービス
 (6)セカンドオピニオン
  1)セカンドオピニオンとは
  2)セカンドオピニオンの利点
  3)セカンドオピニオンの進め方
  4)セカンドオピニオンの前に
 (7)生活保護による医療扶助
  1)生活保護制度
  2)申請保護の原則
  3)医療券等
  4)給付要否意見書
  5)病状調査
2 章 歯科医療の需要と供給
 (1)歯科医療の需要と供給における問題点
  1)歯科医療における需給の特異性
  2)歯科医療需要予測の問題点
  3)歯科医療供給予測の問題点
  4)歯科医療の需要と供給予測
 (2)歯科疾患の現状と社会的背景,疫学的特徴
  1)齲 7 の状況
  2)歯周疾患の状況
  3)歯の喪失の状況
 (3)歯科診療所の患者数,歯科医療費の推移
  1)歯科患者数の推移
  2)傷病別歯科推計患者数
  3)患者数と歯科医師数
  4)歯科医療費の推移
 (4)歯科受診行動・口腔保健行動
  1)日本人の歯科受診行動
  2)あるべき口腔保健と社会的決定要因
 (5)歯科医師数および分布
  1)歯科医師数および分布の特徴
  2)歯科医師数の社会的問題点
 (6)就業歯科衛生士・就業歯科技工士数
  1)就業歯科衛生士,就業歯科技工および歯科技工所数の推移
  2)歯科衛生士の問題点
  3)歯科技工士の問題点
 (7)歯科医療機関数
  1)歯科医療機関数の推移
  2)歯科医療機関の特徴と問題点
 (8)歯科技工の動向
  1)歯科技工所の現状
  2)海外歯科技工の状況とその問題点および今後の展望
3 章 歯科診療所の開設
 (1)歯科診療所の開設プロセス
  1)歯科診療所の開設に関する基本的プロセスと特徴
  2)開設における諸届けおよび申請
 (2)歯科診療所開設時の検査
  1)開設にかかわる保健所の立入検査(確認検査)
  2)消防署等の立入検査
 (3)歯科診療所の従業員
  1)歯科診療所の従業員(スタッフ)
  2)募集・採用
  3)労働保険(労働者災害補償保険,雇用保険)
  4)労働契約
  5)就業規則
 (4)歯科診療所の設備
  1)歯科診療所の開設時の設備の特徴と管理
  2)医療安全にかかわる管理
 (5)建設と建物管理
  1)歯科診療所の建設
  2)法的手続き,法的具備条件
4 章 歯科医療経営
 (1)歯科医療経営の基本事項
  1)経営とは何か
  2)組織運営のための条件(組織とは)
  3)組織運営の効率化
  4)経営管理とは
 (2)PDCA サイクル
 (3)経営上の問題解決の視点
 (4)経営基本管理
 (5)歯科医療経営とマーケティング
  1)歯科医療経営を取り巻く環境について
  2)マーケティングの必要性
  3)マーケティングとは
  4)マーケティングコンセプトの変遷
  5)恋愛型マーケティングの実践
  6)マーケティング活動のプロセス
  7)患者のニーズとウォンツを理解する
 (6)医療の質と患者満足度
  1)医療の質
  2)患者満足度
  3)患者満足度の調査方法
  4)患者満足度調査の目的
 (7)歯科医療経営におけるパフォーマンス
  1)歯科診療所組織のパフォーマンス
  2)歯科診療所のパフォーマンスの特徴
  3)組織的歯科診療所モデルとパフォーマンス
  4)ディーラー(第三者)の視点からのパフォーマンスの検討
 (8)マンパワーの管理
  1)人的資源管理の考え方
  2)人を動かすための基礎知識
  3)人事管理(人財管理)
 (9)院長のリーダーシップ
  1)院長の仕事の特徴
  2)管理者としての行動
  3)プロフェッショナルとプロフェッション
  4)リーダーシップ
 (10)会計と税務
  1)チェックシステムの必要性
  2)院長(管理者)に必要な財務諸表
  3)税務の基礎知識
 (11)経営分析と改善
  1)経営分析
  2)経営改善
5 章 かかりつけ歯科医と専門医
 (1)かかりつけ歯科医機能
  1)かかりつけ歯科医機能の背景
  2)8020 運動
  3)地域住民に求められるかかりつけ歯科医機能
 (2)かかりつけ歯科医の機能と経営
  1)かかりつけ歯科医と専門医
  2)かかりつけ歯科医の経営
6 章 医療連携
 (1)地域完結型医療の背景
  1)5 人に 1 人が高齢者という社会
  2)高齢社会が招くもの
  3)医療や介護を受ける受益高齢者の要望
 (2)チーム医療
  1)病院完結型医療から地域完結型医療へ
  2)医療変革のキーワードはチーム医療
  3)歯科診療所におけるチーム医療
  4)訪問歯科診療でのチーム医療
  5)チーム編成における専門職
7 章 歯科診療所の継承と将来展望
 (1)歯科診療所の継承
  1)親子の継承
  2)第三者に継承する場合の注意点
 (2)歯科医師の仕事に対する将来展望

 参考資料