序
最近,放射線防護に関する国際的な議論が進み,2007年には国際放射線防護委員会(ICRP)の新勧告が,長い間の協議をもとに主委員会で正式に採択,公表された.以前の1990年勧告から実に17年ぶりの新勧告である.2005年には,米国科学アカデミーが,電離放射線の生物学的影響に関する報告書(BEIRVII報告)をすでに公表している.また,低線量放射線影響の生物学的機構に関する遺伝子レベルの研究も著しく進歩し,遺伝子損傷に対する細胞応答の複雑かつ精密な機構が次第に明らかにされている.一方,放射線検査技術の進歩は大学附属病院のみならず,一般歯科医療にも影響を及ぼし,特に一般歯科診療所レベルでのデジタルX線診断システムの普及,照射野限定の歯科用コーンビームCTの導入と普及により,歯科X線検査も変貌を遂げようとしている.以前刊行した『第2版歯科診療における放射線の管理と防護』は,日本歯科放射線学会放射線防護委員会が検討を重ねて1994年に刊行し,その後,ICRP1990年勧告の放射線障害防止法への取り入れによる法改正にともない,新しい放射線防護関連法体系に合致するよう,2002年に改訂された.しかし,最近の放射線防護を取り巻く背景の急激な変化によって,その内容はもはや新しい時代にそぐわないものになってきた.そのため,今回その項目を改め,また,内容を一新し,新版とした.
この新版では,(1)ICRP2007年新勧告の放射線防護の考え方を解説すること,(2)わが国の法体系は以前の1990年勧告に準拠しているため,その内容と実用的な対応を解説すること,(3)新しい画像診断技術の普及に伴う放射線被曝状況の変化と対応方法を解説すること,(4)低線量放射線影響の機構についての最新の知見について理解を深め,患者への説明に役立てること,などに留意した.品質保証に関しては,本書の姉妹書として『歯科診療におけるX線診断の品質保証プログラム』(2006年,医歯薬出版発行)を参照していただきたい.
本書の目的は,放射線の利用が有害であるという警鐘を鳴らすことではない.放射線の適切な利用は患者にとって大きな便益があるので,歯科医療における放射線の有用性を損なうことなく,不必要な放射線被曝によって起こる可能性のある有害な影響から人びとを防護することが重要であることを強調したい.本書によって,新しい時代に即した考え方による放射線の管理と防護が適切に行われ,放射線診療の有効性が一層向上することを執筆者一同願っている.
2009年4月
佐々木武仁 島野達也
最近,放射線防護に関する国際的な議論が進み,2007年には国際放射線防護委員会(ICRP)の新勧告が,長い間の協議をもとに主委員会で正式に採択,公表された.以前の1990年勧告から実に17年ぶりの新勧告である.2005年には,米国科学アカデミーが,電離放射線の生物学的影響に関する報告書(BEIRVII報告)をすでに公表している.また,低線量放射線影響の生物学的機構に関する遺伝子レベルの研究も著しく進歩し,遺伝子損傷に対する細胞応答の複雑かつ精密な機構が次第に明らかにされている.一方,放射線検査技術の進歩は大学附属病院のみならず,一般歯科医療にも影響を及ぼし,特に一般歯科診療所レベルでのデジタルX線診断システムの普及,照射野限定の歯科用コーンビームCTの導入と普及により,歯科X線検査も変貌を遂げようとしている.以前刊行した『第2版歯科診療における放射線の管理と防護』は,日本歯科放射線学会放射線防護委員会が検討を重ねて1994年に刊行し,その後,ICRP1990年勧告の放射線障害防止法への取り入れによる法改正にともない,新しい放射線防護関連法体系に合致するよう,2002年に改訂された.しかし,最近の放射線防護を取り巻く背景の急激な変化によって,その内容はもはや新しい時代にそぐわないものになってきた.そのため,今回その項目を改め,また,内容を一新し,新版とした.
この新版では,(1)ICRP2007年新勧告の放射線防護の考え方を解説すること,(2)わが国の法体系は以前の1990年勧告に準拠しているため,その内容と実用的な対応を解説すること,(3)新しい画像診断技術の普及に伴う放射線被曝状況の変化と対応方法を解説すること,(4)低線量放射線影響の機構についての最新の知見について理解を深め,患者への説明に役立てること,などに留意した.品質保証に関しては,本書の姉妹書として『歯科診療におけるX線診断の品質保証プログラム』(2006年,医歯薬出版発行)を参照していただきたい.
本書の目的は,放射線の利用が有害であるという警鐘を鳴らすことではない.放射線の適切な利用は患者にとって大きな便益があるので,歯科医療における放射線の有用性を損なうことなく,不必要な放射線被曝によって起こる可能性のある有害な影響から人びとを防護することが重要であることを強調したい.本書によって,新しい時代に即した考え方による放射線の管理と防護が適切に行われ,放射線診療の有効性が一層向上することを執筆者一同願っている.
2009年4月
佐々木武仁 島野達也
第1章 放射線防護体系の確立
1.放射線防護の概念と防護基準(佐々木武仁)
1)放射線防護の幕開け
2)国際放射線防護委員会(ICRP)の活動
3)国際連合原子放射線科学委員会(UNSCEAR)および関連する国際委員会
4)諸外国の放射線影響,放射線防護関係機関
5)わが国の放射線防護基準
2.放射線防護における線量概念(加藤二久,佐々木武仁)
1)物理学的線量
2)放射線防護におけるリスクを考慮した線量
3)実用線量(放射線管理に用いる線量)
4)集団線量
5)法規上の線量
6)放射能
3.放射線防護の概念(佐々木武仁)
1)放射線防護の目的
2)リスク評価
3)放射線防護の体系
4.医療における放射線防護(佐々木武仁)
1)医療被曝
2)医療被曝の正当化
3)医療被曝の最適化
4)医療被曝における実効線量
5)妊娠中の患者の被曝
6)生物医学的研究でのボランティア
第2章 放射線の影響(佐々木武仁)
1.放射線影響
1)放射線影響の分類
2)放射線影響を左右する因子
3)確定的影響
4)確率的影響
5)胚・胎児への影響
6)非がん影響
2.低線量放射線影響の疫学
1)放射線疫学の特徴
2)放射線疫学の研究方法
3)原爆被爆生存者の疫学
4)医療被曝の疫学
5)職業被曝の疫学
6)環境被曝の疫学
3.放射線発がんの生物学的機構
1)発がん過程
2)放射線誘発突然変異と放射線発がん
3)放射線誘発DNA損傷と修復
4)細胞応答機構
5)放射線発がん機構の概観
4.X線診断における放射線被曝の影響と対応
第3章 放射線被曝状況
1.放射線被曝状況の概要(佐藤健児)
1)被曝の分類区分と被曝線量評価
2)医療における被曝状況
2.歯科X線検査における患者の被曝
1)口内法X線撮影における患者の被曝(藤田 實)
2)パノラマX線撮影および頭部X線規格撮影における患者の被曝(小林 馨)
3)歯科用コーンビームCT(CBCT)撮影における患者の被曝(誉田栄一)
3.歯科診療における診療従事者の被曝(加藤二久,佐々木武仁)
1)歯科X線撮影における診療従事者の被曝
2)歯科診療従事者の被曝の実態
第4章 歯科診療における放射線管理と防護の実際
1.患者の放射線防護(岡野友宏)
1)歯科X線検査の適応
2)歯科診療における患者の放射線防護対策
3)歯学教育における歯科放射線学と専門性
2.歯科診療従事者の放射線防護(加藤二久,佐々木武仁)
1)診療従事者の放射線防護の現状と問題点
2)職員の放射線防護対策
3)X線撮影室の設計例
第5章 歯科放射線防護関連法規への対応(島野達也)
1.歯科診療における放射線利用の法的規制
2.法的規制に対する具体的対処方法
1)施設の管理
2)X線撮影装置
3)患者・公衆の被曝
4)放射線診療に従事する者の放射線管理
5)放射線管理に関する記録とその保存
6)緊急の場合の措置
3.医療監視
1)医療監視の目的と性格
2)医療監視の流れ
3)医療監視の項目
4.教育訓練
第6章 放射線防護Q&A(島野達也,佐々木武仁)
1.患者との対話
1)患者との対話のあり方
2)回答における注意事項
2.Q&Aの具体例
1)X線検査の目的,必要性と有用性
2)撮影法,撮影手技
3)被曝線量
4)放射線影響
5)妊娠中の被曝影響
6)X線検査に関する不満
7)職員の防護
8)放射線管理
放射線防護関連用語解説(佐々木武仁)
放射線防護関係学会・協会・企業一覧(佐々木武仁)
索引
1.放射線防護の概念と防護基準(佐々木武仁)
1)放射線防護の幕開け
2)国際放射線防護委員会(ICRP)の活動
3)国際連合原子放射線科学委員会(UNSCEAR)および関連する国際委員会
4)諸外国の放射線影響,放射線防護関係機関
5)わが国の放射線防護基準
2.放射線防護における線量概念(加藤二久,佐々木武仁)
1)物理学的線量
2)放射線防護におけるリスクを考慮した線量
3)実用線量(放射線管理に用いる線量)
4)集団線量
5)法規上の線量
6)放射能
3.放射線防護の概念(佐々木武仁)
1)放射線防護の目的
2)リスク評価
3)放射線防護の体系
4.医療における放射線防護(佐々木武仁)
1)医療被曝
2)医療被曝の正当化
3)医療被曝の最適化
4)医療被曝における実効線量
5)妊娠中の患者の被曝
6)生物医学的研究でのボランティア
第2章 放射線の影響(佐々木武仁)
1.放射線影響
1)放射線影響の分類
2)放射線影響を左右する因子
3)確定的影響
4)確率的影響
5)胚・胎児への影響
6)非がん影響
2.低線量放射線影響の疫学
1)放射線疫学の特徴
2)放射線疫学の研究方法
3)原爆被爆生存者の疫学
4)医療被曝の疫学
5)職業被曝の疫学
6)環境被曝の疫学
3.放射線発がんの生物学的機構
1)発がん過程
2)放射線誘発突然変異と放射線発がん
3)放射線誘発DNA損傷と修復
4)細胞応答機構
5)放射線発がん機構の概観
4.X線診断における放射線被曝の影響と対応
第3章 放射線被曝状況
1.放射線被曝状況の概要(佐藤健児)
1)被曝の分類区分と被曝線量評価
2)医療における被曝状況
2.歯科X線検査における患者の被曝
1)口内法X線撮影における患者の被曝(藤田 實)
2)パノラマX線撮影および頭部X線規格撮影における患者の被曝(小林 馨)
3)歯科用コーンビームCT(CBCT)撮影における患者の被曝(誉田栄一)
3.歯科診療における診療従事者の被曝(加藤二久,佐々木武仁)
1)歯科X線撮影における診療従事者の被曝
2)歯科診療従事者の被曝の実態
第4章 歯科診療における放射線管理と防護の実際
1.患者の放射線防護(岡野友宏)
1)歯科X線検査の適応
2)歯科診療における患者の放射線防護対策
3)歯学教育における歯科放射線学と専門性
2.歯科診療従事者の放射線防護(加藤二久,佐々木武仁)
1)診療従事者の放射線防護の現状と問題点
2)職員の放射線防護対策
3)X線撮影室の設計例
第5章 歯科放射線防護関連法規への対応(島野達也)
1.歯科診療における放射線利用の法的規制
2.法的規制に対する具体的対処方法
1)施設の管理
2)X線撮影装置
3)患者・公衆の被曝
4)放射線診療に従事する者の放射線管理
5)放射線管理に関する記録とその保存
6)緊急の場合の措置
3.医療監視
1)医療監視の目的と性格
2)医療監視の流れ
3)医療監視の項目
4.教育訓練
第6章 放射線防護Q&A(島野達也,佐々木武仁)
1.患者との対話
1)患者との対話のあり方
2)回答における注意事項
2.Q&Aの具体例
1)X線検査の目的,必要性と有用性
2)撮影法,撮影手技
3)被曝線量
4)放射線影響
5)妊娠中の被曝影響
6)X線検査に関する不満
7)職員の防護
8)放射線管理
放射線防護関連用語解説(佐々木武仁)
放射線防護関係学会・協会・企業一覧(佐々木武仁)
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