やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

『日本歯科医学会学術用語集』の発刊にあたって

 学問を深化させていく上で,言語(学術用語),概念そして論理の正確さと厳密性は必須のことであります.これは,あらゆる領域で学問が分化し,統合し,学際化している現在において,ますます重要となってきています.しかしながら,学問がますます複雑化する中での学術用語の選定と定義づけは難渋を極める作業であることもしかりです.この困難を乗り越えてこの度,『日本歯科医学会学術用語集』が歯科学術用語委員会の先生方のご尽力によって完成をみたことは,日本歯科医学会として誠に喜ばしい限りであり,編集にあたられた委員の先生方のご苦労に心より感謝申し上げます.
 我が国の歯科領域における本格的な学術用語集は,531語を収め,昭和50年6月に刊行された『学術用語集歯学編』が最初であります.その後,歯科医学の長足の進歩に応えるために,日本歯科医学会は,昭和57年9月に歯科学術用語委員会を設置して,昭和61年3月に,和英1,570語,英和1,653語を収録した『歯科学術用語集』を発刊しております.
 さらに,日本歯科医学会は歯科学術用語委員会を組織して,文部省学術審議会学術用語分科会と連携を取りつつ文部省の科学研究助成金特定研究「歯科用語標準化の調査研究」(昭和61年〜昭和63年)の助成を得て,歯科学術用語の拡充を強力に推進し,学術審議会の審議を経た後,16,016語を収めた『学術用語集歯学編(増訂版)』(文部省・日本歯科医学会編)を平成4年7月に刊行しております.
 そして平成9年より,再び『学術用語集歯学編(増訂版)』と『歯学用語補遺集』の見直し作業が開始されました.
 平成9年より11年度までの作業内容は削除用語136語,修正用語363語,追加用語729語,計1,228語を確定しております.学術用語集の用語の採択にあたっては,関連領域分野との調整が必要なことから,「医学編」との調整については,道 健一昭和大学名誉教授(医学用語専門委員会に歯学代表として出席)が担当されました.
 しかしながら,ほぼ見直し作業を終えた時点で省庁再編(平成13年1月6日)により,文部省は文部科学省と改変されました.従来は『文部省学術用語集歯学編(増訂版)』の改訂は,文部科学省学術情報課の担当であり,改訂原案は,文部省学術審議会学術用語分科会の議を経て,文部大臣に建議されるものでありましたが,省庁再編に伴い当課は,文部科学省研究振興局学術研究助成課となり,学術審議会は科学技術・学術審議会と名称が変わりました.ところが,学術用語分科会は未だに明確な形で設置されておりません.
 上記のような事情より文部科学省編とすることは,今回の改訂では困難であると判断して,『日本歯科医学会学術用語集』として発刊することになりました.
 おわりに,日本歯科医学会学術用語委員会委員長 道 健一先生をはじめ長年に渡り困難な作業を継続してくださいました委員の先生方に心より改めて感謝を申し上げます.

 平成20年10月
 日本歯科医学会
 会長 江藤 一洋

『日本歯科医学会学術用語集』の編集にあたって

 難産だった『日本歯科医学会学術用語集』がようやく世に出ることになりました.日本歯科医学会歯科学術用語委員会における編纂作業は平成9年から始まっていますので今回の発刊までに足かけ12年かかったことになります.
 その経緯を振り返ってみますと,『学術用語集歯学編(増訂版)』(文部省・日本歯科医学会編)が平成4年7月に,その「補遺集」が平成9年に発刊されていますが,その直後から見直し作業を開始しています.最初の委員会(森本俊文委員長)では平成9年から11年度の間に,頻回に委員会を開催して,逐語的に全用語の検討を行い,削除用語136語,修正用語363語,追加用語729語,計1,228語の用語の修正を決めて,一応の結論としています.
 平成12年度に引き継いだ委員会では,その結果をもとに,改訂版を出版することになっていました.ところが,その時期の省庁再編で,担当の部署が消えてしまうなどの事情から文部科学省に「改訂版」の発行を依頼することが困難になりました.委員会で検討した結果,『学術用語集歯学編(増訂版)』の「改訂版」ではなく,『日本歯科医学会学術用語集』を新たに発行する方向で検討するということになりました.そのときの結論は「学術用語は常に変化するものであり,一定の間隔で改訂作業が必要である.そのために日本歯科医学会には歯科学術用語委員会が常設されているのだから,単発的に「改訂版」を発刊するのではなく,継続的に用語を改訂して常に歯科医学の最先端に追随することができる体勢を整える必要がある」ということ,もう一点は「『学術用語集歯学編(増訂版)』(文部省・日本歯科医学会編)は本来,一般社会の人々を対象として編纂されたものであり,専門の歯学関係者のためには別の用語集が必要である」ということでした.
 平成16年度からの委員会では,この結論を受けて,日本歯科医学会学術用語編纂システムの開発と用語集発行に向けての作業を開始しました.まず,用語集の編纂システムとして前委員会でまとめた用語集案の電子データを口腔保健協会経由で凸版印刷から入手し,データベース化したソフトを開発しました.そのソフトを使って,各専門分科会および,当時,専門分科会に所属していなかった学会(「日本顎関節学会」,「日本歯科医学教育学会」,「口腔インプラント学会」,「日本顎顔面補綴学会」,「日本歯科心身医学会」,「日本顎咬合学会」,「法歯学」)に検討を依頼しました.その結果,平成12年度までの委員会での収集用語16,887語に対して,修正1244語,削除344語,追加3,773語となり,用語数は合計20,316語に達しました.
 こうした経過を経て平成18年3月には一応,用語の編纂を終え,斎藤 毅前学会長に報告書を提出しています.その後,江藤 一洋学会長の新執行部が発足してから平成19年4月に医歯薬出版との出版契約が成立し,出版に向けての編集作業を前の委員会が継続して行うことになり現在に至っています.
 編集方針としては,当初は,平成12年度までの委員会で慎重審議した検討結果を尊重することとし,変更は最低限にすることとしていましたが,平成18年度までに用語数が大幅に増加したことと,上記のような趣旨とに従って,方針を変更して,なるべく脱落の少ない用語集を目指すこととし,収集した用語を全て掲載することとしました.
 この方針に従いましたので,最終校正をお願いした段階で各学会から申し出のあった変更,追加用語も全て収載する方向で検討しました.また,共用試験実施機構,厚生労働省医政局医事課試験免許室にもご校閲をお願いして,共用試験あるいは国家試験に用いる用語との統一をはかりました.さらには,『日本医学会医学用語辞典(英和)第3版』(2007),『第十五改正日本薬局方』(2006),『文部科学省学術用語集医学編』(2003),『文部省学術用語集薬学編』(2000)などとの照合を行い,関連領域用語との整合をはかりました.これらによる変更も加わりましたため,結果として,用語数がさらに増加して,最終的に約23,000語を掲載することになりました.
 ここに至っても,検討不十分な用語もありますし,この間にも進行している専門分科会内での編纂作業によって変更,追加される用語も当然あるはずなのですが,流動している用語をー一定の期限を定めて集約することは不可能ですし,今後もほとんど不可能であると考えられます.従って,ひとまず,叩き台であっても,まとめた用語を公開することが必要であり,その上で,随時,修正することができる体勢を整えることが重要であると考えられます.そのため,今回の目標は完全な用語集を完成することではなく,今後,改訂を進めていくための基本となる用語を収載した第1版を発刊することとし,併せて,継続的な改訂が可能なシステムを構築することとして,一応の区切りとしました.
 具体的には,同義語,類義語については優劣を付けず,掲載されている用語はどちらの用語を使っても良いことにしました.また,和文が同じで英語が異なるもの,英語が同じで和文の異なるものはそのまま残すことにしました.これらの点については,今後の検討によって整理,統合が必要であると考えられます.
 継続的な改訂のためには,別途に,改訂作業が可能な編集ソフトを構築し,採用された用語をデータベースとして登録してCDに収め,学会本部に保存してあります.今後の委員会で活用されることを期待しています.
 最後に,ご協力いただいた各学会の学術用語委員の方々,共用試験実施機構,厚生労働省医政局医事課試験免許室の方々,学会本部の方々,さらには,凸版印刷,口腔保健協会,医歯薬出版の方々をはじめ関係各位に感謝申し上げます.

 平成20年10月
 日本歯科医学会
 学術用語委員会委員長
 道 健一