やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 あらゆる学校で,授業の方略としてのチュートリアル学習の導入はめざましい.医学部では講義形式の授業を大幅に減らして,チュートリアル学習を主体としているところもある.
 チュートリアル学習は今後,歯学教育の方略のひとつとして大いに取り入れられることは間違いない.生涯学習が求められる医療の世界では,自己学習の習慣を学生時代に身につけることが不可欠である.
 チュートリアル学習の主体は自己学習とはいえ,コミュニケーション能力が涵養され,加えてシナリオを通して臨床の現場をイメージ化する能力も自然に身についてくる.
 この手法はあくまでも到達目標の達成のために用いられるものであり,その意味からも全体的なカリキュラムを理解しておく必要がある.
 ここでのコース名は歯科麻酔であり,そのなかに学習ユニット(項目)をあげ,それぞれの一般目標(GIO),行動目標(SBOs)を示した.いわゆる学習のプロセスにおいて,目標とひとつの方略からなるシラバス形式となっている.また,チュートリアル学習に役立つように,課題,シナリオの例示を加えてみた.それぞれの行動目標への対応としては,各自が情報の収集や分析を行うことが前提となるが,ここではその参考となる一般的な内容を記載した.より深くは,さまざまなメディアを使って補完していただきたいが,全体を見失わない程度の内容を示している.
 これからの学習法の方向性を示すうえにおいても,本書の存在価値はたいへん高いものであると確信する.
 2007年4月
 編集代表 住友雅人
Unit1 医療事故と医療過誤
 シナリオ1「痛い出来事」(横澤 茂)
  問題点・学習課題と解説 医療事故と医療過誤/事前に説明をしたか?/説明の記録/迅速な対応
 SBOs(佐久間泰司)
  (1)医療危機管理(リスクマネジメント)の概念を説明する
  (2)医療事故,医療過誤に関連した法律の基本的事項を説明する
  (3)インフォームドコンセントの定義を説明する
  (4)インシデント・アクシデントレポートについて説明する
  症例「部位間違い」
Unit2 麻酔に必要な基礎知識
 シナリオ2「自律神経のいたずら」(横澤 茂)
  問題点・学習課題と解説 スパイロメトリ/自律神経
 SBOs(池本清海)
  (1)呼吸系の構造と機能について説明する
  (2)循環系の構造と機能について説明する
  (3)神経系の構造と機能について説明する
  (4)内分泌系の構造と機能について説明する
  文献
Unit3 精神鎮静法
 シナリオ3「お父さんにお話しできるかな……」(横澤 茂)
  問題点・学習課題と解説 障害者の歯科治療と不随意反射/全身麻酔と静脈内鎮静法/隣の県の大学病院から……/福祉施設の人/どう説明……?
 SBOs(渋谷 鉱)
  (1)鎮静法の目的を説明する
  (2)鎮静法の種類を説明する
  (3)笑気吸入鎮静法の概念を説明する
  (4)亜酸化窒素(笑気)の薬理作用を説明する
  (5)笑気吸入鎮静法による具体的管理方法を説明する
  (6)笑気吸入鎮静法の適応と禁忌を説明する
  (7)静脈内鎮静法の概念を説明する
  (8)静脈内鎮静法の使用薬剤および薬理作用を説明する
  (9)静脈内鎮静法による具体的管理方法を説明する
  (10)静脈内鎮静法の適応と禁忌を説明する
  (11)笑気吸入鎮静法と静脈内鎮静法の利点,欠点を比較する
  (12)鎮静法の合併症について説明する
  文献
  症例「静脈内鎮静法」
Unit4 局所麻酔
 シナリオ4-1〜3「麻酔が効かない!!」
  問題点・学習課題と解説1 高血圧症とは……/局所麻酔法の種類/下顎大臼歯部の局所解剖−局所麻酔を行う前に−/局所麻酔薬はなぜ効くのか?/局所麻酔薬製剤の選択
  問題点・学習課題と解説2 さまざまな浸潤麻酔/歯根膜内麻酔とは/局所麻酔の効きにくい患者さん/全身的偶発症の種類/バイタルサイン観察の重要さ
  問題点・学習課題と解説3 伝達麻酔とは/抜髄のための局所麻酔法/局所麻酔実施後の説明/常に麻酔を成功させるために/より快適な治療を行うために
 SBOs
  (1)局所麻酔薬の種類と特徴を説明する
  (2)局所麻酔薬の作用機序を説明する
  (3)局所麻酔薬の作用に影響する因子を列挙し,説明する
  (4)歯科領域の局所麻酔に必要な解剖を説明する
  (5)歯科用局所麻酔法の種類と特徴について説明する
  (6)小児および高齢者の歯科局所麻酔法の特徴について説明する
  (7)局所麻酔薬に血管収縮薬を添加する目的を列挙する
  (8)血管収縮薬の種類および全身作用について説明する
  (9)局所麻酔による局所的偶発症と対応を説明する
  (10)局所麻酔による全身的偶発症と対応を説明する
  文献
  症例「高血圧症患者」
Unit5 全身麻酔(1.術前管理)
 シナリオ5-1,2「はじめての経験」
  問題点・学習課題と解説1 全身麻酔とは/全身麻酔の適応/全身麻酔の禁忌/術前検査/歯科麻酔科医の業務
  問題点・学習課題と解説2 患者さんへの説明と同意の取得(インフォームドコンセント)/麻酔前投薬とは/術前評価と手術危険度/麻酔前の処置と指示/アスピリン喘息/麻酔とアレルギー
 SBOs
  (1)全身麻酔の目的を説明する
  (2)適応と禁忌を列挙する
  (3)術前検査を列挙し,意義について説明する
  (4)麻酔前投薬の意義と使用薬剤について説明する
  (5)手術危険度の評価を説明する
  (6)麻酔前指示と処置について説明する
  症例「エナメル上皮腫摘出術の麻酔」
Unit6 全身麻酔(2.術中・術後管理)
 シナリオ6-1,2「あれ?胸がちょっと赤くないか?」
  問題点・学習課題と解説1 高血圧症とは/降圧薬の種類/輸血の適応/輸血の目的と種類
  問題点・学習課題と解説2 全身麻酔の導入とは/気管挿管後の胸部の聴診の意義/全身麻酔中の合併症/経皮的動脈血酸素飽和度計(パルスオキシメータ)/この患者さんに起こったことは?
 SBOs
  (1)全身麻酔の導入方法を列挙する(吉田和市)
  (2)気管挿管の方法と特徴を説明する
  (3)麻酔回路を列挙し,特徴について説明する
  (4)麻酔器・器具を列挙する
  (5)吸入麻酔薬を列挙し,特徴について説明する
  (6)吸入麻酔の導入と覚醒に及ぼす因子について説明する
  (7)静脈麻酔薬を列挙し,特徴について説明する
  (8)筋弛緩薬を列挙し,薬理作用について説明する
  (9)術中の生体監視モニタリングについて説明する(城 茂治)
  (10)術中の循環系合併症を列挙し,対応について説明する
  (11)術中の呼吸系合併症を列挙し,対応について説明する
  (12)術中の輸液と輸血の意義と適応について説明する
  (13)全身麻酔後の術後合併症を列挙し,対応について説明する
  症例「挿管困難症例」(吉田和市)
Unit7 歯科外来全身麻酔(日帰り全身麻酔)
 シナリオ7「入院して歯の治療?」
  問題点・学習課題と解説 知的障害者/全身麻酔(気道確保の方法)/歯科外来全身麻酔(日帰り全身麻酔)/口腔保健センター/全身麻酔を含む治療費
 SBOs
  (1)歯科外来全身麻酔(日帰り全身麻酔)の定義と特徴を説明する
  (2)患者の選択条件(術前評価)について説明する
  (3)適応と禁忌を列挙する
  (4)術前管理,術中管理,術後の管理について説明する
  (5)帰宅条件を列挙する
  文献
  症例「障害者の全身麻酔」
Unit8 小児の麻酔管理
 シナリオ8-1,2「いつもと違うぞ……」
  問題点・学習課題と解説1 オトガイ挙上による気道確保/Pierre Robin症候群とは/Pierre Robin症候群と気道確保/口蓋形成術と気道確保/小顎症患児の術前診察(問診,視診,触診)
  問題点・学習課題と解説2 前投薬としての鎮静薬/小顎症患児の麻酔導入/Pierre Robin症候群患 児における気道確保/奇異呼吸/小顎症患児における気道管理
 SBOs
  (1)小児の解剖学的・生理学的特徴を説明する
  (2)小児の術前管理,術中管理,術後の管理について説明する
  文献
  症例「小児の周術期管理」
Unit9 高齢者の麻酔管理
 シナリオ9「手術をしても大丈夫でしょうか?」
  問題点・学習課題と解説 高齢者の疾患の特徴/歯科治療への影響/高齢者に対する薬剤投与上の注意/問題点・学習課題と解説 高齢者の心理的特性/その他
 SBOs
  (1)加齢に伴う生理的変化を説明する
  (2)高齢者の解剖学的・生理学的特徴を説明する
  (3)高齢者の術前管理,術中管理,術後の管理の特徴について説明する
  文献
  症例「高齢者の周術期管理」
Unit10 心身障害者の麻酔管理
 シナリオ10「問題がいっぱい……」
  問題点・学習課題と解説 複数の合併症の存在と多剤服用/全身麻酔のためのリスク評価(術前の全身状態評価)/バイタルサイン/麻酔法の選択と術中管理
 SBOs
  (1)心身障害者の解剖学的・生理学的特徴を説明する
  (2)心身障害者の術前管理,術中管理,術後の管理の特徴について説明する
  文献
  症例「Down症候群の全身麻酔」
Unit11 歯科臨床における救急時の対応
 シナリオ11「お願い,答えて!」(横澤 茂)
  問題点・学習課題と解説 息が苦しい・顔がほてる・頭が痛い/意識がなくなる
 SBOs(小谷順一郎)
  (1)バイタルサインを列挙し,説明する
  (2)意識障害の評価について説明する
  (3)ショックの定義と分類を説明する
  (4)おもなショックの特徴と治療法について説明する
  (5)歯科治療中の全身的偶発症を列挙し,成因,治療方法を説明する
  (6)代表的な救急薬品を列挙し,使用方法を説明する
  症例「過換気発作」
Unit12 心肺蘇生法(CPR)
 シナリオ12-1,2「せっかくの誕生日が……」
  問題点・学習課題と解説1 長期間の喫煙がもたらす影響/喫煙者呼吸症候群/喫煙指数(ブリンクマン指数:Brinkman index)/Hugh-Johnesの息切れの分類/禁煙の効果/胸痛を起こす疾患/血糖値とは/糖尿病とは/ヘモグロビンA1c:HbA1c/心電図とは/祖父の現在の全身状態
  問題点・学習課題と解説2 意識消失の原因/救急蘇生の手順/AED/祖父の病態/脳血管障害/虚血性心疾患/糖尿病に起因した意識障害
 SBOs
  (1)心肺蘇生法の手順について説明する
  (2)救命の連鎖を説明する
  (3)自動体外式除細動器(AED)について説明する
  (4)二次救命処置(ACLS)について列挙する
  (5)ACLSで用いる器具の使用目的を説明する
  (6)死の定義を説明する
  文献
Unit13 口腔領域の神経疾患と治療(ペインクリニック)
 シナリオ13-1「痛み止めが効かない痛み?」(福田謙一)
  問題点・学習課題と解説1 非歯原性歯痛/神経因性疼痛/一般的な鎮痛薬の作用/神経因性疼痛に対して除痛効果が期待できる薬剤/侵害受容性疼痛と神経因性疼痛の混合した痛み
 シナリオ13-2「おじいちゃん,突然若返ったみたいよ!」(染矢源治)
  問題点・学習課題と解説2 顎顔面口腔の機能と支配神経/顔面神経(第VII脳神経)の成分と走行/聴覚過敏や流涙障害と神経支配/口腔領域の神経疾患の診査・検査方法と治療法
 SBOs
  (1)顎顔面口腔痛の発症と機序について説明する(福田謙一)
  (2)侵害受容性疼痛,神経因性疼痛,心因性疼痛の違いについて説明する
  (3)口腔領域における疼痛性疾患の種類を列挙する
  (4)三叉神経痛の症状を列挙し,治療法について説明する
  (5)舌咽神経痛の症状を列挙し,治療法について説明する
  (6)非定型顔面(口腔)痛の特徴と治療法について説明する
  (7)舌痛症の特徴と治療法について説明する
  (8)帯状疱疹後神経痛の特徴と治療法について説明する
  (9)顔面神経麻痺の症状を列挙し,治療法につい説明する(染矢源治)
  (10)三叉神経麻痺(知覚,運動)の症状と治療法について説明する
  (11)東洋医学的治療法について説明する
  症例「帯状疱疹後神経痛」(福田謙一)

 索引