やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

◆第2版の序
 <口腔細菌学・免疫学>の初版が刊行されてから早くも5年が経過した.この間多くの方々から頂いたご指摘などを参考にしつつ,初版を全面的に見直し,ここに改訂第二版の刊行に至った.
 本書の基本方針は,初版の序文に具体的に示したとおりで,いささかの変更点もない.微生物学と免疫学の基本を押さえつつ,進歩が激しいこの分野の成果をできる限り平易な表現で取り入れるように努めた.また,菌種名(学名)の変更などにも目を配った.さらに,初版でやや手薄と感じた領域や章については,それらを質量ともに補強しつつ,全体としてのページ数の増加がないように気を配った.
 本書が歯科医学を学ぶ学生諸君の教科書として,また口腔細菌学に興味をもつ大学院生や非専門家の参考書として大いに役立つことを祈念し,期待する.
 本書が今後もさらなる進化をとげるために,読者諸氏のご支援とご鞭撻をお願いしたい.
 2005年6月
 浜田 茂幸
 東京・九段にて

◆序
 口腔内には多数かつ広範多彩な微生物が生息している.歯科医学が対象とする病気の多くは,その発生場所や原因はともかくとして,いずれも微生物フローラに彩られた口腔という環境で生じる.
 口腔の疾患のうち,今も昔も齲蝕と歯周病が罹患者の多さの点で一,二を占める点では変わりがない.
 齲蝕を口腔内の微生物と関連づけて科学的なメスを加えたのはW.D.Millerである.1890年頃のことであった.早くに開花した口腔細菌学ではあるが,20世紀に入って,結果として長い雌伏の期間を余儀なくされた.しかし,1960〜70年代に入ると齲蝕の病因に関する研究は実りの時期を迎え,その後も着実な進歩をとげ,今日に至っている.
 一方,歯周病の病因については,1970〜1980年代になって,嫌気性細菌学の技術の進歩とともに,独自の境地を開き,短年月の間にわれわれの共有する知識は飛躍的に増加し,深化した.
 換言すれば,歯科医学を学ぶ学生諸君が習得すべき「知」の量は,細菌学領域に限ってみても最近30年間に圧倒的に増大し,これを臨床の場で生かすべく,消化吸収することが求められている.そのためには断片的な知識を羅列するだけではなく,これらを相互に有機的に関連づけて考える必要がある.本書はこのような目的に役立つことを目指して執筆・編集したものである.
 執筆に際してはできる限り最新の知見をも視野に入れ,必要な事項は簡潔ながらも過不足なく取り入れたつもりである.その点では,大学院生諸氏にとっても,口腔感染症の病因とその予防についての復習や,研究面での参考書として利用できるはずである.また,臨床系の研究者や医師が最新の研究の動向や知見を概観するための効率的な情報源ともなるように想定して編纂されている.
 最初の二章では,「微生物学」および「免疫学」の全般にわたるアウトラインが記されており,これら二つの領域にわたる学問の幅と基礎的知見を学ぶ.ついで,医学的に重要とされる病原微生物の性状と,惹起される疾患の概略を知る.そのうえで,これらの感染症疾患の予防と治療についての今日の状況を理解する.
 このような広い意味の病原微生物学を習得したうえで,歯科医学に最も密接に関連する「口腔微生物学および免疫学」のエッセンスを学ぶ.まず口腔フローラとデンタルプラークについて最新の知見を理解する.ついで,齲蝕と歯周病の病像・病因・対策を多くの図表の助けを借りて学ぶ.
 最後に,齲蝕や歯周病以外の口腔内の代表的な感染性疾患を知る.この部分は口腔外科学,歯科保存学,歯科補綴学など,臨床各科で学ぶことがらの基本となる事項が説明されている.
 以上の各章は,多くの専門家がそれぞれ自分の得意とする分野を中心に執筆し,編者である私が全体的な統一を計りつつ,教科書としての形に整えたものである.事前に相当に考えつくしたつもりの目次も,編集を終えてみると,なお工夫の余地は少なくない.これについては近い将来の改訂に待ちたい.
 最後に分担執筆に快く応じていただいた先生方と,製作の労をとられた医歯薬出版株式会社編集部・牧野和彦氏に深謝いたします.
 2000年3月
 浜田 茂幸
 大阪・千里にて
 ・第二版の序
 ・序

1章 微生物学の基礎
 1.微生物学の発展(浜田茂幸)
   1.疫病の認識
   2.微生物の観察から自然発生説の否定へ
   3.微生物と病気
   4.純培養の重要性
   5.病原菌の発見ラッシュ
   6.ワクチンの開発から免疫学の誕生
   7.ウイルスの発見
   8.化学療法剤の発見
 2.微生物の世界
   1.微生物の位置づけ
   2.微生物の性状
   3.プリオン:タンパク性感染因子
 3.微生物の生育と構造(藤村節夫)
  I.細菌
   1.細菌の分類
   2.細菌の形態
   3.細菌の培養
   4.増殖
   5.細菌の生理と代謝
  II.ウイルス(五十嵐 武)
   1.ウイルスの性状
   2.ウイルスの分類
   3.ウイルスの形態と構造
   4.ウイルスの増殖
   5.ウイルス感染と細胞
   6.ウイルス干渉
   7.ウイルスの培養
 4.微生物の遺伝(菅井基行)
  I.染色体の構造
  II.染色体の複製
  III.細菌の遺伝子
  IV.転写
  V.転写の制御
  VI.翻訳
 5.微生物遺伝子の変化(中川一路)
  I.動く遺伝子
   1.プラスミド
   2.ファージ
   3.トランスポゾンと挿入配列
  II.遺伝子の伝達
  III.突然変異と相同組換え
 6.微生物遺伝子の応用(中山浩次)
  I.遺伝子工学の原理
   1.制限酵素と遺伝子クローニング
   2.ベクタープラスミドの開発
   3.遺伝子クローニング
   4.塩基配列の決定
   5.PCR法
  II.遺伝子解析の応用
   1.全ゲノム解析
   2.遺伝子診断
   3.遺伝子治療
2章 免疫学の基礎
 1.生体防御と免疫(菅原俊二,高田春比古)
  1.免疫とは
  2.自然免疫
  3.獲得免疫
 2.免疫担当細胞
  1.単球/マクロファージ
  2.B細胞
  3.T細胞
  4.NK細胞
 3.主要組織適合遺伝子複合体と抗原提示
  1.主要組織適合遺伝子複合体とは
  2.MHCの分布と構造
  3.抗原
  4.抗原の処理と提示
  5.リンパ球の活性化
 4.体液性免疫
  1.抗体
  2.補体
  3.抗原抗体反応とその応用
 5.細胞性免疫
  1.細胞内寄生性細菌に対する感染防御
  2.ウイルス感染細胞の排除
  3.移植と拒絶反応
  4.癌免疫
  5.遅延型過敏症
 6.サイトカイン
  1.サイトカインの特徴
  2.サイトカインレセプター
 7.過敏症
  1.I型:アナフィラキシー型過敏症
  2.II型:細胞傷害型過敏症
  3.III型:複合体型過敏症
  4.IV型:遅延型過敏症
 8.粘膜免疫(高橋一郎)
  1.粘膜免疫にかかわる細胞と分子群
  2.粘膜免疫のユニーク性
  3.粘膜系IgA産生の制御
  4.粘膜免疫の応用:粘膜ワクチンの開発の試み
3章 医学上重要な病原微生物と感染症
 1.グラム陽性球菌と感染症(浜田茂幸・川端重忠)
  I.レンサ球菌
   1.A群レンサ球菌
   2.B群レンサ球菌
   3.肺炎レンサ球菌
   4.腸球菌
  II.ブドウ球菌
   1.Staphylococcus aureus
   2.Staphylococcus epidermidisとStaphylococcus saprophyticus
 2.グラム陰性球菌と感染症
  I.ナイセリア属
   1.髄膜炎菌
   2.淋菌
  II.モラクセラ属
 3.グラム陽性桿菌と感染症
  I.ジフテリア菌
  II.リステリア菌
  III.バシラス属
   1.炭疽菌
   2.セレウス菌
  IV.クロストリジウム属
   1.破傷風菌
   2.ボツリヌス菌
   3.クロストリジウム・ディフィシル
   4.ガス壊疽菌
  V.抗酸菌
   1.結核菌
   2.らい菌
   3.非結核(菌)性抗酸菌
 4.グラム陰性桿菌と感染症(浜田茂幸・中川一路)
  I.腸内細菌科
   1.大腸菌
   2.赤痢菌
   3.チフス菌
   4.クレブシエラとセラチア属
   5.プロテウス属
   6.エルシニア属
  II.ビブリオ科
   1.コレラ菌
   2.腸炎ビブリオ
  III.らせん状桿菌
   1.カンピロバクター属
   2.ヘリコバクター属
  IV.シュードモナスと類縁菌
   1.緑膿菌
   2.類鼻疽菌
   3.Burkholderia cepacia
  V.百日咳菌と類縁菌
  VI.レジオネラ属
  VII.ブルセラ属
  VIII.パスツレラ科
   1.Haemophilus influenzae
   2.Haemophilus ducreyi
   3.その他のHaemophilus種
   4.Pasteurella multocida
  IX.その他の病原性グラム陰性桿菌
   1.野兎病菌
   2.鼠咬症スピリルム
 5.スピロヘータと感染症(浜田茂幸)
   1.梅毒トレポネーマ
   2.ライム病ボレリア
   3.回帰熱ボレリア
   4.黄疸出血性レプトスピラ
 6.マイコプラズマと感染症(柴田健一郎)
  I.マイコプラズマの性状
  II.マイコプラズマの感染
   1.Mycoplasma pneumoniae
   2.Ureaplasma urealyticum/Mycoplasma hominis/Mycoplasma genitalium
   3.口腔のマイコプラズマ
 7.クラミジアと感染症(柴田健一郎)
  I.クラミジアの構造と生活環
  II.クラミジアの病原性
   1.Chlamydia trachomatis
   2.Chlamydophila psittaci
   3.Chlamydophila pneumoniae
  III.治療
 8.リケッチアと感染症(柴田健一郎)
  I.リケッチアの分類
  II.リケッチアの性状と感染サイクル
  III.リケッチアの病原性
   1.発疹チフス群リケッチア
   2.紅斑熱群リケッチア
   3.恙虫病群リケッチア
   4.Q熱コクシエラ
   5.腺熱エールリヒア
 9.病原真菌と感染症(上西秀則)
  I.真菌の構造と性状
   1.真菌の形態と細胞構造
   2.真菌の生育
  II.真菌の分類・真菌感染
   1.真菌の分類
   2.病原真菌の生活環
   3.真菌の病原因子と生活防御
  III.主な真菌と真菌症
   1.カンジダ属の菌による感染
   2.アスペルギルス属の菌による感染
   3.クリプトコッカス属の菌による感染
   4.Pneumocystis cariniiによる感染
   5.真菌症の化学療法
 10.ウイルス
  I.DNAウイルスと感染症(向井 徹)
   1.ヘルペスウイルス
   2.パピローマウイルス
  II.RNAウイルスと感染症
   1.ピコルナウイルス
   2.パラミキソウイルス
   3.風疹ウイルス
   4.インフルエンザウイルス
   5.ロタウイルス
   6.肝炎ウイルス
  III.ウイルス性新興・再興感染症およびプリオン病
   1.ウイルス性新興・再興感染症
   2.プリオン病
  IV.レトロウイルスと感染症(川端重忠)
   1.分類
   2.構造と生活環
   3.ヒトのレトロウイルス
4章 感染症の予防と治療
 1.感染の成立(浜田茂幸)
  1.感染と発病
  2.宿主の抵抗
  3.病原微生物のビルレンス因子
 2.ワクチンによる感染症の予防(川端重忠)
  1.ワクチンの開発の歴史
  2.ワクチンの種類
  3.ワクチンの投与経路とアジュバント
  4.現行ワクチンの性状
  5.ワクチンの将来像
 3.感染症と化学療法(菅井基行)
  1.化学療法と化学療法剤
  2.化学療法剤の種類と作用機序
  3.薬剤耐性
  4.化学療法剤の臨床
5章 口腔微生物学および免疫学
 1.口腔微生物学の発展(浜田茂幸)
   1.齲蝕の病因論と細菌学
   2.歯周病の病因と細菌学の寄与
 2.人体の正常フローラ
   人体の各部位の主なフローラ
 3.口腔フローラ
   1.口腔の微生物生態系
   2.口腔フローラの成立と成熟
 4.口腔免疫学……(浜田茂幸・中川一路)
   1.口腔の免疫
   2.口腔関連リンパ系組織
   3.唾液による口腔免疫
   4.口腔と粘膜免疫
   5.粘膜感染と細菌のIgAプロテアーゼ
 5.口腔内の主な微生物(小川知彦)
  I.グラム陽性細菌
   1.口腔レンサ球菌
   2.Abiotrophia
   3.腸球菌
   4.PeptococcusとPeptostreptococcus
   5.乳酸桿菌
   6.Corynebacterium matruchotii
   7.Propionibacterium acnes
   8.Eubacterium
   9.放線菌
   10.Arachnia propionica
   11.Bifidobacterium
   12.Rothia dentocariosa
  II.グラム陰性細菌
   1.ナイセリア
   2.モラクセラあるいはブランハメラ
   3.ベイヨネラ
   4.黒色色素産生性嫌気性桿菌
   5.非黒色色素産生性Prevotella属
   6.Tannerella forsythensis(forsythia)
   7.Actinobacillus actinomycetemcomitans
   8.Fusobacterium nucleatum
   9.Leptotrichia buccalis
   10.Capnocytophaga属
   11.Eikenella corrodens
   12.運動性菌群
  III.口腔トレポネーマ
  IV.その他の微生物
   原虫
 6.デンタルプラーク(天野敦雄)
  I.プラークの定義
  II.ペリクルの形成
   1.ペリクルの構造と組成
   2.ペリクルの役割
  III.プラークの成立と成熟
   1.ペリクルへの細菌付着
   2.プラークの成熟
  IV.プラークの構造と機能
   1.プラークマトリックス
   2.成熟プラークの機能
   3.歯肉縁上プラーク
   4.歯肉縁下プラーク
  V.プラークの石灰化と歯石形成
   1.歯肉縁上歯石と歯肉縁下歯石
   2.歯石の組成
  VI.バイオフィルムとしてのプラーク
 7.齲蝕
  I.齲蝕の病像(木村重信)
   齲蝕の臨床像
  II.齲蝕の細菌学(福島和雄)
   1.ミュータンスレンサ球菌の分類と性状
   2.ミュータンスレンサ球菌の分離と同定
   3.ミュータンスレンサ球菌の抗原性物質
   4.ミュータンスレンサ球菌と齲蝕
   5.ミュータンスレンサ球菌のビルレンス因子
  III.齲蝕の免疫学(落合邦康)
   1.ヒトの齲蝕と抗体価との相関関係
   2.免疫による齲蝕予防
  IV.病因論に基づいた齲蝕の予防(浜田茂幸)
   1.プラークコントロール
   2.シュガーコントロール
   3.免疫学的齲蝕コントロール
   4.歯質の強化
 8.歯周病
  I.歯周病の病像(木村重信)
   1.歯肉炎から歯周炎へ
   2.歯周病の臨床像
  II.歯周病の細菌学(西原達次)
   1.プラークの病因的意義
   2.歯周病原性細菌の性状と分類
   3.主な歯周病原性細菌のビルレンス因子
  III.歯周病の免疫学(花澤重正)
   1.歯周病原性細菌に対する宿主の特異的免疫応答
   2.歯肉組織におけるT細胞応答
   3.歯周病原性細菌の刺激と宿主細胞の応答
   4.歯周組織における炎症性サイトカイン発現とその機能
   5.炎症と骨吸収
   6.歯周疾患の歯槽骨吸収
  IV.病因論に基づいた歯周病の予防と治療(西原達次)
   1.歯周病の検査と診断法
   2.病因論に基づいた歯周病治療法
   3.抗生物質による歯周病治療
   4.将来の展望
 9.その他の口腔関連微生物感染症(木村重信)
  I.歯内感染の細菌学
   1.歯髄炎の細菌学
   2.感染根管と根尖性歯周炎
  II.唾液腺の感染症
   1.ウイルス性唾液腺感染症
   2.細菌性唾液腺感染症
  III.顎骨骨髄炎の細菌学
   1.急性顎骨骨髄炎
   2.慢性顎骨骨髄炎
  IV.インプラントに付随する感染
  V.カンジダ症
  VI.顎顔面領域の放線菌症
  VII.菌血症と心内膜炎
  VIII.誤嚥性肺炎
 10.歯科診療における感染防止(小川知彦)
  I.消毒と滅菌の原理と実際
   1.消毒法および滅菌法の原理
   2.清毒・滅菌の実際
  II.歯科診療における感染リスクとその防止策
   1.直接接触による感染
   2.間接接触による感染
  III.高リスク患者の歯科診療
   1.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症
   2.結核
   3.梅毒
   4.緑膿菌感染症
   5.ウィルス性肝炎
   6.AIDS

 ・和文索引
 ・欧文索引