やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき

 歯科医院や保険薬局で患者さんが薬を受け取るとき,薬の効能書きが一緒に手渡されるようになった.1997年に薬剤師法が改正され,薬剤師が患者に服薬指導をすることが義務付けられた.また医師,歯科医師も処方した薬についての説明文書を出すと服薬指導として健康保険などから“薬剤情報提供料”として診療報酬が出る制度が発足した.処方された薬が何であるのかを知るためには,自分で調べて初めて知ることができたこれまでと比べて,患者への情報提供は格段に前進したと言える.一方,患者自身も処方された薬の名前,効能,服薬方法,副作用,他の薬との相互作用,飲食物の影響などについての関心がますます高まってきている.
 よりよい医療がなされるには,医師,歯科医師,薬剤師と患者間におけるよりきめ細かい医療情報のやりとりが必要となっており,今後ますますそのような状況になっていくであろう.しかし,いかに薬の情報を提供するか,医療現場はまだ手探りの状態である.また,副作用の兆候はどのようなものか,どうして副作用がおこるのか,起こったときの対応は,など知りたいという欲求は知れば知るほどふくらむものである.患者に“なぜ?”と聞き返されたときに的確に答えることができるためには,薬についての基礎的知識も十分に理解しておく必要がある.
 本書は,歯科医院で処方される薬を中心に,その作用,副作用,相互作用などについての解説を基に薬を有効でかつ安全に作用させるための薬の安心マニュアルとして,活用できるようにまとめたものである.また,投薬の際,患者へ渡す説明文書も薬剤ごとにコピーして使用できるよう工夫した.現在,医療現場では情報公開やインフォームドコンセントが話題になり,患者や家族が納得できる説明や情報が求められているなかで本書がその一助となれば幸いである.
 1999年4月 土肥敏博 池田正弘 小島碩蔵
第1編 基礎知識編……1
I.知っておきたい薬の知識……2
 1.薬効に影響する因子……2
 2.特異体質……3
 3.薬物の吸収と食事の影響薬はいつ飲む?……4
 4.アルコール摂取,喫煙,低タンパク質薬は何で飲む?……6
II.副作用・有害作用はどうして起こる……8
 1.薬物アレルギー(免疫性過敏症)……8
 2.薬疹……10
 3.消炎・鎮痛薬の副作用プロスタグランジンって何?……12
III.歯科に関係の深い,発現部位別副作用……15
 1.消化管障害……15
 2.大腸炎……15
 3.肝障害……16
 4.腎障害……17
 5.歯肉肥大……17
 6.口腔乾燥症……18
 7.味覚障害……19
 8.口内炎,口唇炎,その他……20
 9.歯の形成不全と着色……20
 10.中枢神経障害……21
IV.重大な副作用……22
 1.皮膚粘膜眼症候群とは……22
 2.中毒性表皮壊死症とは……22
 3.紅皮症とは……23
 4.間質性肺炎とは……23
 5.好酸性球性肺炎(PIE症候群)とは……24
 6.うっ血性心不全とは……24
 7.間質性腎炎とは……25
 8.再生不良性貧血とは……25
 9.白血球系細胞の障害とは……26
 10.血小板減少症とは……26
 11.溶血性貧血とは……27
 12.偽膜性大腸炎とは……27
 13.遅発性ジスキネジアとは……28
 14.悪性症候群とは……29
V.薬物の併用による相互作用……30
 1.吸収,分布,代謝,排泄過程での薬物相互作用……30
 2.薬理作用上の相互作用……32
VI.急性薬物中毒の症状,診断,治療法……34
 1.初期治療……34
 2.ショックへの対応……35
 3.局所麻酔薬の急性中毒……36

第2編 歯科医院で処方される薬……37
 1.抗感染症薬(抗菌薬)……38
 2.非ステロイド系抗炎症薬……58
  解熱鎮痛薬……74
 3.ステロイド系抗炎症薬……76
 4.消炎酵素剤……82
 5.歯周疾患治療薬……84
 6.含嗽剤……88
 7.人工唾液……90
 8.トローチ剤……92
 9.止血薬……94
 10.抗不安薬……96
 11.抗ヒスタミン薬……98
 12.消化性潰瘍治療薬……100
 13.健胃・消化薬……102
 14.整腸薬……104
 15.ビタミン……106

第3編 有病者・高齢者と薬……109
  ・投薬されている可能性のある薬物
  ・歯科治療での注意点
  ・歯科で投薬する薬剤との相互作用
 1.糖尿病……110
 2.脳血管障害……112
 3.高血圧症……114
 4.狭心症・心筋梗塞・不整脈……116
 5.慢性関節リウマチ……118
 6.痛風……120
 7.気管支喘息……122
 8.てんかん……124
 9.パーキンソン病……126
 10.薬物アレルギー……128
 11.慢性腎不全……130
 12.肝障害―アルコール性肝炎,慢性肝炎,硬硬変症―……132
 13.高齢者と薬……134

第4編 小児と薬……139
 1.コンプライアンス……141
 2.投薬方法・剤形・投与時刻……142
 3.薬の飲ませ方……143
 4.小児における薬の用量……144
 5.薬剤の注意点と薬剤選択……145
 6.解熱・鎮痛・消炎剤……146

第5編 妊婦,お母さんの薬と母乳……149
 1.妊婦と薬物治療……150
 2.妊娠時期と薬の影響……152
 3.臨床薬理からみた妊婦の特殊性……153
 4.胎児における薬物動態……154
 5.妊婦に対する歯科治療と投薬……155
 6.投薬上の注意と比較的安全な薬……156
 7.母乳と薬……158

付録/160・161
参考図書/162
索引/163