まえがき
日本人の平均寿命は急速に延びて,わが国は世界でもっとも長寿の国となりました.しかし,すべての国民がその長い人生を身体的にも精神的にも健康な状態で過ごし,日々の生活に満足して一生を終えられるわけではありません.
国民の健康の質を高め,その状態を維持するために,歯と口の科学がどのように貢献しているかを解説したのが本書です.健康に関心のある方,歯や口に関心のある方,あるいは歯学部や歯学部附属病院に関心のある方々に広くお読みいただければ幸いです.
本書は,平成10年度四国地区放送公開講座*(テレビ科目)「歯と口と健康―生きるよろこびを支える口の科学―」のテキストとして編集されていますが,多くの方々にご活用いただきたく,一般書として出版することとしました.
テレビ講座は13回の構成となっており,本書の1章から13章がそれぞれに対応しています.
1章では,食べる,飲み込む,しゃべるなどの口の働きについて説明し,噛むことが脳や全身の機能とどのように関連しているかについて説明します.2章では,生涯心豊かに過ごせるよう,育ち盛りの時期に,健康でたくましい口腔を獲得するために知っておいてほしいことを述べています.3章では,口の構造とそのなりたちについて解説しますので,筋肉や神経が口の機能にどのような役割を果たしているかを理解していただきたいと思います.4章から6章では,口と細菌のかかわりについてとりあげ,とくに歯科の2大疾患であるむし歯と歯周病について詳しく説明します.7章から9章では,口にできるがんの紹介とその治療法,唾液の働き,口と目の難病であるシェーグレン症候群について解説するとともに,画像診断やこれらの疾患に関する研究の最先端についてもご紹介します.10章と11章では,診断と治療の最前線ということで,デンタルインプラント,磁石を利用した義歯,手術をして歯並びを治す,顎関節症(顎機能障害),外傷,そして痛くない歯の治療についてとりあげます.12章と13章では,一生自分の歯で食べ,健康に過ごすために,それぞれの人に心がけてほしいことを食生活と歯の健康法から解説しています.
以上の13章によって歯や口に対する理解を深め,健康で心豊かな生活を営むことにいささかでもお役に立てれば幸いです.
なお本書は,徳島大学歯学部,医学部,薬学部,工学部の先生方にご執筆いただきました.(執筆者一覧参照)
最後になりましたが,本書の出版を引き受けてくださった医歯薬出版株式会社に厚く御礼申し上げます.
平成10年7月15日 徳島大学歯学部 坂東永一
読みにくい専門用語
齲蝕(うしょく),顎関節(がくかんせつ),口腔(こうくう),骨粗鬆症(こつそしょうしょう),歯垢(しこう),補綴(ほてつ)
* 四国地区の放送局:徳島県は四国放送(JRT),香川県は西日本放送(RNC),愛媛県は南海放送(RNB),高知県は高知放送(RKC)です.
日本人の平均寿命は急速に延びて,わが国は世界でもっとも長寿の国となりました.しかし,すべての国民がその長い人生を身体的にも精神的にも健康な状態で過ごし,日々の生活に満足して一生を終えられるわけではありません.
国民の健康の質を高め,その状態を維持するために,歯と口の科学がどのように貢献しているかを解説したのが本書です.健康に関心のある方,歯や口に関心のある方,あるいは歯学部や歯学部附属病院に関心のある方々に広くお読みいただければ幸いです.
本書は,平成10年度四国地区放送公開講座*(テレビ科目)「歯と口と健康―生きるよろこびを支える口の科学―」のテキストとして編集されていますが,多くの方々にご活用いただきたく,一般書として出版することとしました.
テレビ講座は13回の構成となっており,本書の1章から13章がそれぞれに対応しています.
1章では,食べる,飲み込む,しゃべるなどの口の働きについて説明し,噛むことが脳や全身の機能とどのように関連しているかについて説明します.2章では,生涯心豊かに過ごせるよう,育ち盛りの時期に,健康でたくましい口腔を獲得するために知っておいてほしいことを述べています.3章では,口の構造とそのなりたちについて解説しますので,筋肉や神経が口の機能にどのような役割を果たしているかを理解していただきたいと思います.4章から6章では,口と細菌のかかわりについてとりあげ,とくに歯科の2大疾患であるむし歯と歯周病について詳しく説明します.7章から9章では,口にできるがんの紹介とその治療法,唾液の働き,口と目の難病であるシェーグレン症候群について解説するとともに,画像診断やこれらの疾患に関する研究の最先端についてもご紹介します.10章と11章では,診断と治療の最前線ということで,デンタルインプラント,磁石を利用した義歯,手術をして歯並びを治す,顎関節症(顎機能障害),外傷,そして痛くない歯の治療についてとりあげます.12章と13章では,一生自分の歯で食べ,健康に過ごすために,それぞれの人に心がけてほしいことを食生活と歯の健康法から解説しています.
以上の13章によって歯や口に対する理解を深め,健康で心豊かな生活を営むことにいささかでもお役に立てれば幸いです.
なお本書は,徳島大学歯学部,医学部,薬学部,工学部の先生方にご執筆いただきました.(執筆者一覧参照)
最後になりましたが,本書の出版を引き受けてくださった医歯薬出版株式会社に厚く御礼申し上げます.
平成10年7月15日 徳島大学歯学部 坂東永一
読みにくい専門用語
齲蝕(うしょく),顎関節(がくかんせつ),口腔(こうくう),骨粗鬆症(こつそしょうしょう),歯垢(しこう),補綴(ほてつ)
* 四国地区の放送局:徳島県は四国放送(JRT),香川県は西日本放送(RNC),愛媛県は南海放送(RNB),高知県は高知放送(RKC)です.
まえがき……坂東永一 iii
1章 口の働き……1
1 食べる……坂東永一……2
2 噛めば脳の働きもよくなる……坂東永一……3
3 噛めば細胞も元気になる……坂東永一……5
4 顎はどのように動いて噛むか……鈴木 温……8
5 飲み込む……寺田容子・市川哲雄……10
6 しゃべる……森川葉子・市川哲雄……12
7 口と鼻がつながると……久保吉廣……14
8 ほかにもある口の働き……坂東永一……17
2章 顎の成長と発達……19
1 健康とは……西野瑞穂……20
2 全身の成長発達……武田英二……22
3 成長発達を支える栄養……武田英二……24
4 咀嚼システムの成長と発達……西野瑞穂……26
5 軟食の問題点……西野瑞穂……28
6 健康意識……西野瑞穂……31
3章 口のしくみとなりたち……35
1 口の構造……北村清一郎……36
2 口の働きとしくみ……北村清一郎……38
3 顎や口を動かす筋肉……北村清一郎……40
4 歯の微細構造……石塚 寛……42
5 歯を支える組織……石塚 寛……44
6 歯の初期発生……石塚 寛……47
7 顎や口のなりたちと病気……北村清一郎……49
8 口の発生と遺伝子……野地澄晴……51
4章 口は病気の入口……55
1 なぜ口は病気の入口……三宅洋一郎……56
2 どんな病気が入ってくるのか……三宅洋一郎……58
3 口のなかは細菌だらけ……三宅洋一郎……60
4 口のなかの細菌で起こる病気……三宅洋一郎……62
5 ウイルスで起こる病気……由良義明……64
6 ヘルペスによる口の病気……由良義明……66
7 予防するには……三宅洋一郎……69
5章 むし歯は感染症……71
1 むし歯は感染症……松尾敬志……72
2 むし歯を放っておくと……松尾敬志……77
3 歯髄が死ぬと……松尾敬志……78
4 むし歯の治療とは……松尾敬志……79
5 修復物のつくりかた……淺岡憲三……80
6 修復物の性質……淺岡憲三……83
7 最近の話題から……吉山昌宏……84
8 将来への展望……桑原三千代……86
6章 骨がとける病気 歯周病……89
1 歯周組織の構造……永田俊彦……90
2 プラークは細菌のかたまり……三宅洋一郎……92
3 歯肉炎と歯周炎……永田俊彦……94
4 全身疾患と歯周病……永田俊彦……97
5 歯肉炎の治療……永田俊彦……98
6 歯周炎の治療……永田俊彦……100
7 現在の歯周治療の課題……永田俊彦……102
8 21世紀の歯周治療……永田俊彦……105
7章 口にできるがん……107
1 口にできる腫瘍の分類・種類・頻度……吉田秀夫……108
2 病期分類と治癒率……吉田秀夫……110
3 がんの画像診断……上村修三郎……112
4 口のがんの一般的な治療法……吉田秀夫……114
5 新しい治療法―免疫療法……佐藤光信……116
6 新しい治療法―分化・アポトーシス誘導療法……佐藤光信……118
7 術後の機能回復―顎顔面補綴……久保吉廣……120
8章 唾液と唾液腺の働き……125
1 唾液と入れ歯の関係……永尾 寛……126
2 唾液と唾液腺……細井和雄……128
3 唾液分泌の加齢変化……石川康子……130
4 薬による唾液分泌不全……石川康子……132
5 薬による味覚異常……石川康子……134
6 薬に対する感受性の性差・年齢差……石川康子……136
7 唾液分泌の細胞機構……細井和雄……138
8 唾液分泌の神経機構……細井和雄……139
9 唾液腺の生理活性成分……細井和雄……140
9章 口と目の難病 シェーグレン症候群……143
1 シェ-グレン症候群とは……林 良夫……144
2 外分泌腺臓器の障害……林 良夫……145
3 動物モデル……林 良夫……146
4 原因抗原の発見……林 良夫……147
5 診断法・治療法の開発へ向けて…… 林 良夫……149
6 おわりに……林 良夫……150
10章 診断と治療の最前線……151
1 新しい診断と治療法……中野雅徳……152
2 デンタル・インプラントとは……鈴木 温……152
3 インプラント治療の実際……鈴木 温……155
4 磁石を利用した義歯……松浦広興……157
5 手術をして歯並びを治す……住谷光治……160
6 手術をともなう歯科矯正治療の実際……住谷光治……160
7 顎関節症とは……中野雅徳……163
8 原因除去に主眼をおいた顎関節症の治療……中野雅徳……167
9 口・顎の外傷―顎骨骨折……林 英司……169
10 顎骨骨折の最新の診断と治療……林 英司……171
11 まとめ…… 長山 勝……174
11章 痛くない歯の治療……177
1 歯科治療って不愉快だ!……中條信義……178
2 どうして恐くなったり,不安になったりするの?……中條信義……180
3 なぜ歯の治療で気分が悪くなるの?……中條信義……185
4 まず痛みを取りましょう……中條信義……187
5 不愉快な治療の撃退法はあるの?……中條信義……189
6 局所麻酔は安全ですか?……中條信義……191
7 全身麻酔ってどんな方法?……中條信義……192
8 自分のなかにある鎮痛・鎮静機構と針治療……中條信義……193
12章 長寿のための食生活……195
1 長生きは食から……岸 恭一……196
2 高齢者の食欲と健康……山本 茂・宇山裕子……196
3 骨粗鬆症の予防とカルシウムおよびビタミンD,K……福澤健治……201
4 健康・栄養とビタミンE……福澤健治……203
5 賢い食べかた……岸 恭一……206
6 食品になにが含まれているか……岸 恭一……210
13章 歯と口の健康法……215
1 一生自分の歯で食べよう……中村 亮……216
2 8020運動……吉岡昌美……219
3 歯の病気は予防がとくにたいせつです……日野出大輔……221
4 むし歯と歯周病のこれからの予防法……中村 亮……223
5 セルフケアのたいせつさ……中村 亮……226
6 たかが歯磨き,されど歯磨き……中村 亮……228
あとがき……坂東永一……232
執筆者一覧(xi)
さらに歯と口に関心をもたれた読者のために(234)
索引(235)
中とびらのカット原案/村山弥生
1章 口の働き……1
1 食べる……坂東永一……2
2 噛めば脳の働きもよくなる……坂東永一……3
3 噛めば細胞も元気になる……坂東永一……5
4 顎はどのように動いて噛むか……鈴木 温……8
5 飲み込む……寺田容子・市川哲雄……10
6 しゃべる……森川葉子・市川哲雄……12
7 口と鼻がつながると……久保吉廣……14
8 ほかにもある口の働き……坂東永一……17
2章 顎の成長と発達……19
1 健康とは……西野瑞穂……20
2 全身の成長発達……武田英二……22
3 成長発達を支える栄養……武田英二……24
4 咀嚼システムの成長と発達……西野瑞穂……26
5 軟食の問題点……西野瑞穂……28
6 健康意識……西野瑞穂……31
3章 口のしくみとなりたち……35
1 口の構造……北村清一郎……36
2 口の働きとしくみ……北村清一郎……38
3 顎や口を動かす筋肉……北村清一郎……40
4 歯の微細構造……石塚 寛……42
5 歯を支える組織……石塚 寛……44
6 歯の初期発生……石塚 寛……47
7 顎や口のなりたちと病気……北村清一郎……49
8 口の発生と遺伝子……野地澄晴……51
4章 口は病気の入口……55
1 なぜ口は病気の入口……三宅洋一郎……56
2 どんな病気が入ってくるのか……三宅洋一郎……58
3 口のなかは細菌だらけ……三宅洋一郎……60
4 口のなかの細菌で起こる病気……三宅洋一郎……62
5 ウイルスで起こる病気……由良義明……64
6 ヘルペスによる口の病気……由良義明……66
7 予防するには……三宅洋一郎……69
5章 むし歯は感染症……71
1 むし歯は感染症……松尾敬志……72
2 むし歯を放っておくと……松尾敬志……77
3 歯髄が死ぬと……松尾敬志……78
4 むし歯の治療とは……松尾敬志……79
5 修復物のつくりかた……淺岡憲三……80
6 修復物の性質……淺岡憲三……83
7 最近の話題から……吉山昌宏……84
8 将来への展望……桑原三千代……86
6章 骨がとける病気 歯周病……89
1 歯周組織の構造……永田俊彦……90
2 プラークは細菌のかたまり……三宅洋一郎……92
3 歯肉炎と歯周炎……永田俊彦……94
4 全身疾患と歯周病……永田俊彦……97
5 歯肉炎の治療……永田俊彦……98
6 歯周炎の治療……永田俊彦……100
7 現在の歯周治療の課題……永田俊彦……102
8 21世紀の歯周治療……永田俊彦……105
7章 口にできるがん……107
1 口にできる腫瘍の分類・種類・頻度……吉田秀夫……108
2 病期分類と治癒率……吉田秀夫……110
3 がんの画像診断……上村修三郎……112
4 口のがんの一般的な治療法……吉田秀夫……114
5 新しい治療法―免疫療法……佐藤光信……116
6 新しい治療法―分化・アポトーシス誘導療法……佐藤光信……118
7 術後の機能回復―顎顔面補綴……久保吉廣……120
8章 唾液と唾液腺の働き……125
1 唾液と入れ歯の関係……永尾 寛……126
2 唾液と唾液腺……細井和雄……128
3 唾液分泌の加齢変化……石川康子……130
4 薬による唾液分泌不全……石川康子……132
5 薬による味覚異常……石川康子……134
6 薬に対する感受性の性差・年齢差……石川康子……136
7 唾液分泌の細胞機構……細井和雄……138
8 唾液分泌の神経機構……細井和雄……139
9 唾液腺の生理活性成分……細井和雄……140
9章 口と目の難病 シェーグレン症候群……143
1 シェ-グレン症候群とは……林 良夫……144
2 外分泌腺臓器の障害……林 良夫……145
3 動物モデル……林 良夫……146
4 原因抗原の発見……林 良夫……147
5 診断法・治療法の開発へ向けて…… 林 良夫……149
6 おわりに……林 良夫……150
10章 診断と治療の最前線……151
1 新しい診断と治療法……中野雅徳……152
2 デンタル・インプラントとは……鈴木 温……152
3 インプラント治療の実際……鈴木 温……155
4 磁石を利用した義歯……松浦広興……157
5 手術をして歯並びを治す……住谷光治……160
6 手術をともなう歯科矯正治療の実際……住谷光治……160
7 顎関節症とは……中野雅徳……163
8 原因除去に主眼をおいた顎関節症の治療……中野雅徳……167
9 口・顎の外傷―顎骨骨折……林 英司……169
10 顎骨骨折の最新の診断と治療……林 英司……171
11 まとめ…… 長山 勝……174
11章 痛くない歯の治療……177
1 歯科治療って不愉快だ!……中條信義……178
2 どうして恐くなったり,不安になったりするの?……中條信義……180
3 なぜ歯の治療で気分が悪くなるの?……中條信義……185
4 まず痛みを取りましょう……中條信義……187
5 不愉快な治療の撃退法はあるの?……中條信義……189
6 局所麻酔は安全ですか?……中條信義……191
7 全身麻酔ってどんな方法?……中條信義……192
8 自分のなかにある鎮痛・鎮静機構と針治療……中條信義……193
12章 長寿のための食生活……195
1 長生きは食から……岸 恭一……196
2 高齢者の食欲と健康……山本 茂・宇山裕子……196
3 骨粗鬆症の予防とカルシウムおよびビタミンD,K……福澤健治……201
4 健康・栄養とビタミンE……福澤健治……203
5 賢い食べかた……岸 恭一……206
6 食品になにが含まれているか……岸 恭一……210
13章 歯と口の健康法……215
1 一生自分の歯で食べよう……中村 亮……216
2 8020運動……吉岡昌美……219
3 歯の病気は予防がとくにたいせつです……日野出大輔……221
4 むし歯と歯周病のこれからの予防法……中村 亮……223
5 セルフケアのたいせつさ……中村 亮……226
6 たかが歯磨き,されど歯磨き……中村 亮……228
あとがき……坂東永一……232
執筆者一覧(xi)
さらに歯と口に関心をもたれた読者のために(234)
索引(235)
中とびらのカット原案/村山弥生