やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

日本語版への序

 本書「歯科公衆衛生入門(原題)」の日本語版が出版されるにあたり,日本の読者に向けて序文を書けることについては感慨深いものがある.私がはじめて日本を訪れたのは,約6年前であった.到着してすぐにわかったのは,日本では,国レベルにおいても地方レベルにおいても,口腔保健に対する関心がちょうど高まりつつあるときであり,歯科保健医療の従事者も意気に燃えている,ということであった.特に,従来の医師と患者の関係を通り越して,公衆衛生的な視野のもとに専門家と住民の結びつきが強まりつつあることを痛感した.
 公衆衛生においては・,ニーズを把握し・,それを評価することが不可欠であり・,それによってはじめて口腔保健に関する戦略的な計画を立てることができる.また近年,日本と同様に,他の国々においても,きたるべき21世紀に向けて,公衆衛生と予防に対する実践がきわめて熱心に取り組まれるようになってきている.われわれが本書を執筆するに至った動機も,英国およびその他の英語圏の国々に向けて,歯科公衆衛生的なアプローチが口腔保健の改善に資することに対する関心を喚起しようというところにあった.このたび,さらに日本語版が刊行されることになり,私はもちろんのこと,他の著者にとってもうれしいかぎりである.
 本書とその内容は,日本の読者,とりわけ歯科医師,歯科学生,歯科衛生士やその他の公衆衛生従事者に十分に理解されるものと信じている.ここに示されている公衆衛生の原則の多くは,歯科保健に限らず,あらゆる地域保健や公衆衛生全般にかかわる人々にとって関心の強いものであるに違いない.本書をできるだけコンパクトにして地域や公衆衛生の実践に焦点を絞ったのも,そのような読者の関心にこたえるためである.
 翻訳書の出版にあたっては,大阪大学の新庄文明氏に大変な尽力をいただいた.また,医歯薬出版にはより幅広い読者との接点をつくっていただくことになり,深く感謝している.読者が,本書の内容に関心をもたれ,そこから何かを学びとっていただければ大きな喜びである.
 Stanley Gelbier ロンドン 1997年2月

序 文

 それを読めば自然に現場の活動に取り組んでみたくなるという,そのような歯科公衆衛生に関する入門書があればいいと痛感していた.そうすれば歯科学生の教育や卒後研修を担当する場合でも,いきなり難解な専門書に取り組ませる必要もない.
 本書は10章から成り立っており,歯科医療や保健サービスの歴史から,歯科公衆衛生の現場における実際面で必要なあらゆる内容を含んでいる.しかし,決して完結したものではない.このような内容の本が完結するということはありえない.実際の政策に密接にかかわる内容を扱う以上,状況はたえず流動的であるからである.したがって,本書の最終章で今日の状況について解説を加えているが,それはあくまで,出版する時点における現状を反映しているにすぎない.
 入門書を書くにあたっては,その性格からして,おのずと内容を絞らなければならない.そこで,より詳しく知りたい人に役立つように,各章ごとに参考文献を記した.その他にも読むべきものはあるが,文献は最小限にとどめている.
 原稿の段階で各章に目を通し,助言や執筆への協力をしてくれたわれわれの同僚たちに感謝しなければならない.なかでも,北テームズ西地方保健局の歯科公衆衛生コンサルタントであるJane Rhodes女史には,草稿を子細にチェックしたうえ,用語集を作製していただいた.
 世界歯科連盟の専務理事Per A・● ・ke Zille´n博士には,本書を執筆するための大きな励みとなる助言をいただいた.FDI World Dental PressのStephen Hancocks編集部長をはじめとする編集部諸氏には,出版に至る作業をきわめて迅速に進めていただくなどの配慮を得た.Helen Worthington博士,John Bulman博士にも,格別の援助をいただいた.これらの方々に対して,ここに深甚の謝意を表したい.
 最後になるが,著者たちの秘書であるRuth Turton,Kay Reynolds,Marion
 Heatherが,われわれの原稿を完成させるまでの非常に骨の折れる作業を分担してくれたことに感謝しなければならない.
 ロンドン 1994年6月 M.S.D.C.Downer Gelbier E.Gibbons
第1部:歯科公衆衛生の概念
 1章 歯科公衆衛生とは何か
 2章 口腔保健の価値 口腔保健に関する政策を実行するための条件
 3章 健康はだれのものか? 歯科健康教育を成功させる方法
第2部:地域歯科保健の実践
 4章 健康を地域レベルでみる
 5章 不確実性の推理
 6章 事業の立案とその評価
 7章 新しい活動の展開−組織運営の心得
第3部:英国における歯科医療と公衆衛生
 8章 英国における歯科保健医療の歴史
 9章 英国における国民保健サービスと歯科医療
 10章 事業の評価−終焉か開始か?