やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 私はアジアの歯科界に関係をもつようになって約二〇年になる.この二〇年間に,それぞれアジアの諸国は大きく変化を示し,実質的な向上を示してきている.びっくりするほどの変化である.
 もともと世界保健機関の仕事に関わりをもつようになってから,特に,アジア諸国は日本にとって非常に大事な関係をもっていると考えるようになった.それぞれの国は,もちろん歴史も文化も日本とは異なるのであるが,私を大きく引きつけていく何かがあったからだと思う.そして,これらの国々とともに歩んでいかなくてはならないとつくづく思うようになってきたのである.このようにして,少しずつアジア諸国との交流にのめり込んできたのが実情であると自覚している.
 そうしているうちに,いつかはアジアについて,アジアの歯科事情について書かなくてはならないと考えるようになり,折に触れて資料を集めるよう気をつけてきた.しかし,資料というのはなかなか集まるものではない.気がついたら自分自身の定年を迎えるところに来てしまい,いささかあわてることになった.これは仕方がない,不完全ではあるが,現在手元にある資料から一応まとめようと決心した.
 持っている資料には時間的ずれもあり,時代は速いスピードで動いているので資料が古くなっていたり,すでに誤りになっていたりすることが少なくないのではないかと心配している.しかし,アジアの歯科事情についてまとめられた文献はないので,ここに意を決して出版することにした.読者へのお願いであるが訂正すべき箇所を見つけられたら,是非,ご一報いただきたい.
 とはいいながら,ぼつぼつここまで資料を集めるには相当の時間と労力が必要であった.そして,多くの人びとの協力と支援があったからできたと感謝している.特に,世界を飛び歩きアジアの国々を訪ね歩きしたその間,家をあけっ放しにしてきたことは,妻や娘に相当の迷惑をかけたはずである.文句もいわずに勝手をさせてくれたことに対しては心から感謝している.あるとき,まだ娘が小さいころであったが「うちは家族旅行をしないのね」と何気なくいったことがある.この言葉は本当に胸にこたえた.でも,それ以後も家族旅行はしなかった.本当に仕事人間であり,家庭的には駄目な夫であり,父であったに違いない.誠に申し訳ないと思っている.自由にやりたいことをやらせてもらったことに対しては適切な言葉はなく,ただただ感謝している.
 同様に,私を助けてくれた多くの友人に対しても心から感謝したい.
 この期間に一生を通じて信頼し合える多くの友人がアジアの各国にできたことは大きな宝であり,これらの友人とともに日本とアジアの歯科保健医療を通じてのかけ橋となる覚悟だけはしっかりもっているつもりである.さらに関係を深め,歯科保健医療を大いに発展させていきたいと心から願っている.
 最後に,この出版を引き受けて下さった医歯薬出版株式会社と遅れがちの原稿のできを待ちながら必死に支援してくれた編集部の方々に衷心より感謝したい.
 一九九七年三月 著 者
はじめに

なぜ,いま,アジア歯科事情か
アジア諸国の歯科事情中国の歯科事情
香港の歯科事情
インドネシアの歯科事情
韓国の歯科事情
マレーシアの歯科事情
ミャンマーの歯科事情
フィリピンの歯科事情
シンガポールの歯科事情
スリランカの歯科事情
タイの歯科事情
台湾の歯科事情
ベトナムの歯科事情
その他の国々の歯科事情
 インド/
 バングラデシュ/
 カンボジア/
 パキスタン/
 モンゴル/
 ネパール/
日本の歯科界はアジアから何を学ぶか 香港大学歯学部での新しい試み
公衆衛生の学位をもった東南アジアの人びと
タマサト大学での歯科医学教育の新しい試み
日本の進むべき方向を考える

参考文献