はじめに
古代ギリシアでは「ロゴス」ということばをめぐって哲学者たちが長い間さまざまな論争をした。ロゴス=logos はギリシア語で“真理”“理法”の意味を持つが、東洋で同じ内容のものを求めれば「道」となろう。
「道」ということばは“人が歩く道”の意から天地運行の理法としての「原理原則」を指す。仏教では「道」のことを“菩提”(悟)という。儒教では「徳を以て怨みに報ゆ」ということばに代表されるように“徳”が人の歩く道の原理原則の一つになっている。
では、翻って「原理原則」とは何だろうか。かみくだいていえば「セオリー」だと考えればよい。さらにことばを変えれば将棋の定跡・囲碁の定石と同列のものである。
将棋界の巨星・大山康晴さんは、『勝負のこころ』と題する著作のなかで、定跡について次のように記している。
「定跡というのはひととおり決められた基本的な駒の配置のしかたをいう。少年時代 から私たちプロ棋士は、あらゆる定跡を暗記するまでにマスターしてきた。そうした定 跡を知りつくしたうえで、変則的な駒の配置をするが、それが理にかなっている。“名 人に定跡なし”とは、それをいうもので、臨機応変、それでも全体のバランスがとれて いる。」
さて、経営コンサルタントとして二十有余年、医業経営にも二〇年近く参加してきた。そのなかから、経営の「ロゴス」=「原理原則」=「セオリー」をわかりやすく一〇カ条にまとめ、読物風に、しかもどこを開いてみても役に立つものをまとめようと思い立ち、書き始めたが日頃の勉強不足が響いて、筆は遅々として進まず、ついに出版までに三年近い歳月を費やした。
この本では、院長と院長を志している人々に医業経営の原理原則について、「知ってもらいたいこと」「わかってもらいたいこと」「やらねばならないこと」をさまざまな書籍から引用・紹介しながら、とりまとめをした。とくに、昔は通用したが今は通用しない、というのでは原理原則の価値はない。いついかなる時代でも、また、いついかなる場所においても通用するのが原理原則というものであろうと枝葉末節をはぶき、基本重視の姿勢を貫いた。それだけに「知っている」「わかっている」ことも多いと思う。
しかしながら経営の要諦は、学んだことを実行に移す知恵と勇気と行動力がものをいう。つまり「知行一致」が経営のポイントであり眼目である。そういう意味で、この本を医業経営の安定化・充実化のための叩き台として参考に供していただければ、これに勝る喜びはない。
なお、本書出版に際しては、あれこれ格別の支援と助言をしてくださった医歯薬出版株式会杜の皆さんに心からお礼を申し上げたい。
学んで時に之を習う
亦(ま)た説(よろこ)ばしからずや
朋(とも)有り、遠方より来たる
亦(ま)た楽しからずや (論語)
一九九三年 早春 経営コンサルタント 大林茂夫
古代ギリシアでは「ロゴス」ということばをめぐって哲学者たちが長い間さまざまな論争をした。ロゴス=logos はギリシア語で“真理”“理法”の意味を持つが、東洋で同じ内容のものを求めれば「道」となろう。
「道」ということばは“人が歩く道”の意から天地運行の理法としての「原理原則」を指す。仏教では「道」のことを“菩提”(悟)という。儒教では「徳を以て怨みに報ゆ」ということばに代表されるように“徳”が人の歩く道の原理原則の一つになっている。
では、翻って「原理原則」とは何だろうか。かみくだいていえば「セオリー」だと考えればよい。さらにことばを変えれば将棋の定跡・囲碁の定石と同列のものである。
将棋界の巨星・大山康晴さんは、『勝負のこころ』と題する著作のなかで、定跡について次のように記している。
「定跡というのはひととおり決められた基本的な駒の配置のしかたをいう。少年時代 から私たちプロ棋士は、あらゆる定跡を暗記するまでにマスターしてきた。そうした定 跡を知りつくしたうえで、変則的な駒の配置をするが、それが理にかなっている。“名 人に定跡なし”とは、それをいうもので、臨機応変、それでも全体のバランスがとれて いる。」
さて、経営コンサルタントとして二十有余年、医業経営にも二〇年近く参加してきた。そのなかから、経営の「ロゴス」=「原理原則」=「セオリー」をわかりやすく一〇カ条にまとめ、読物風に、しかもどこを開いてみても役に立つものをまとめようと思い立ち、書き始めたが日頃の勉強不足が響いて、筆は遅々として進まず、ついに出版までに三年近い歳月を費やした。
この本では、院長と院長を志している人々に医業経営の原理原則について、「知ってもらいたいこと」「わかってもらいたいこと」「やらねばならないこと」をさまざまな書籍から引用・紹介しながら、とりまとめをした。とくに、昔は通用したが今は通用しない、というのでは原理原則の価値はない。いついかなる時代でも、また、いついかなる場所においても通用するのが原理原則というものであろうと枝葉末節をはぶき、基本重視の姿勢を貫いた。それだけに「知っている」「わかっている」ことも多いと思う。
しかしながら経営の要諦は、学んだことを実行に移す知恵と勇気と行動力がものをいう。つまり「知行一致」が経営のポイントであり眼目である。そういう意味で、この本を医業経営の安定化・充実化のための叩き台として参考に供していただければ、これに勝る喜びはない。
なお、本書出版に際しては、あれこれ格別の支援と助言をしてくださった医歯薬出版株式会杜の皆さんに心からお礼を申し上げたい。
学んで時に之を習う
亦(ま)た説(よろこ)ばしからずや
朋(とも)有り、遠方より来たる
亦(ま)た楽しからずや (論語)
一九九三年 早春 経営コンサルタント 大林茂夫
はじめに……III
第1章 第一ボタンをかけ違えるな……1
1 知らざるを知る……2
2 さわやかに・ひたむきに……6
3 「すべり込みセーフ」の行方……10
4 馬子にも衣装髪かたち……14
5 むずかしい職場慣行……18
6 礼儀は富足に生ず……23
7 タダ酒は飲むな……28
8 黙って三年は勤めよ……32
第2章 仕事へのチャレンジ……37
1 不易・流行……38
2 踏絵としての医療倫理……42
3 仕事への手がかり・足がため……47
4 課題は仕事術のマスター……51
5 時を味方に研鑽に励む……56
6 学者とは進む道が違う……60
7 トラブルに背を向けるな……64
8 スランプの克服……69
第3章 問題解決のための突破口……75
1 IEの系譜……76
2 Plan→ Do→ Check→ Action ……80
3 問題点とは何か……85
4 問題点発見チェックリスト……89
5 QCへの招待……93
6 ムリ・ムダ・ムラの追放……98
7 能率の六原理……103
8 動作経済の原則……108
第4章 院長へのステップ……113
1 凌雲の志を抱いて……114
2 使命観の重み……118
3 チャレンジに値するロマン……123
4 市場の将来予測……127
5 問われるマネジメント能力……132
6 資金調達とその返済……137
7 利益づくりのコツ……143
8 草廬三顧の教え……148
第5章 マネジメントの急所……153
1 経営理念がモノをいう……154
2 転ばぬ先の魅力づくり……158
3 経営組織化と運営のセオリー……162
4 職務権限とその委譲……167
5 均一レベルの仕事が課題……171
6 トップに必要なリーダーシップ……175
7 目標必達のチームワークづくり……180
8 会議を活かす……184
第6章 期待される院長像……189
1 哲学へのいざない……190
2 人間学への覚醒……194
3 己の欲せざるところを……198
4 医者の不養生といわれないために……203
5 マイナスをプラスに置き換える……207
6 大医は病を癒し人を治す……212
7 貪らざるを以て宝となす……216
8 オフ・ビジネスの顔……220
第7章 大局着眼・小局着手の経営……225
1 経営方針に齟齬はないか……226
2 プロセス重視の経営……231
3 情報の収集と活用……236
4 決断が展望を拓く……241
5 「先見・先手・先攻」の経営……245
6 沈黙は金・雄弁は銀……250
7 利益のコントロール……254
8 つまずき要因をつぶせ……259
第8章 人づかいの指針……265
1 人事・労務管理の方向……266
2 「新人類」の生活と意見……270
3 人を見抜く眼……275
4 働く人は「三つの顔」を持つ……279
5 「適応」と「創造」……283
6 ロイヤリティー……288
7 職場の活性化……292
8 泣いて馬謖を斬る……297
第9章 理財の知恵……301
1 始末・算用・才覚……302
2 数字に強くなる……306
3 開源節流・量人為出……310
4 継続は力なり……315
5 「活き金」づかいの心得……319
6 サム・マネー……324
7 トレンドはストック経済……328
8 節税のすすめ……332
第10章 さらなる充実を目指して……337
1 師との邂逅が人生を深める……338
2 問われる人間の「器」……343
3 座右に「六中観」をおく……348
4 複眼思考……352
5 たえざる革新が次代を創る……357
6 「大根」の話……361
7 豊かさとは何か―再考……365
8 晩節をけがすなかれ……369
(付)参考引用文献一覧……375
第1章 第一ボタンをかけ違えるな……1
1 知らざるを知る……2
2 さわやかに・ひたむきに……6
3 「すべり込みセーフ」の行方……10
4 馬子にも衣装髪かたち……14
5 むずかしい職場慣行……18
6 礼儀は富足に生ず……23
7 タダ酒は飲むな……28
8 黙って三年は勤めよ……32
第2章 仕事へのチャレンジ……37
1 不易・流行……38
2 踏絵としての医療倫理……42
3 仕事への手がかり・足がため……47
4 課題は仕事術のマスター……51
5 時を味方に研鑽に励む……56
6 学者とは進む道が違う……60
7 トラブルに背を向けるな……64
8 スランプの克服……69
第3章 問題解決のための突破口……75
1 IEの系譜……76
2 Plan→ Do→ Check→ Action ……80
3 問題点とは何か……85
4 問題点発見チェックリスト……89
5 QCへの招待……93
6 ムリ・ムダ・ムラの追放……98
7 能率の六原理……103
8 動作経済の原則……108
第4章 院長へのステップ……113
1 凌雲の志を抱いて……114
2 使命観の重み……118
3 チャレンジに値するロマン……123
4 市場の将来予測……127
5 問われるマネジメント能力……132
6 資金調達とその返済……137
7 利益づくりのコツ……143
8 草廬三顧の教え……148
第5章 マネジメントの急所……153
1 経営理念がモノをいう……154
2 転ばぬ先の魅力づくり……158
3 経営組織化と運営のセオリー……162
4 職務権限とその委譲……167
5 均一レベルの仕事が課題……171
6 トップに必要なリーダーシップ……175
7 目標必達のチームワークづくり……180
8 会議を活かす……184
第6章 期待される院長像……189
1 哲学へのいざない……190
2 人間学への覚醒……194
3 己の欲せざるところを……198
4 医者の不養生といわれないために……203
5 マイナスをプラスに置き換える……207
6 大医は病を癒し人を治す……212
7 貪らざるを以て宝となす……216
8 オフ・ビジネスの顔……220
第7章 大局着眼・小局着手の経営……225
1 経営方針に齟齬はないか……226
2 プロセス重視の経営……231
3 情報の収集と活用……236
4 決断が展望を拓く……241
5 「先見・先手・先攻」の経営……245
6 沈黙は金・雄弁は銀……250
7 利益のコントロール……254
8 つまずき要因をつぶせ……259
第8章 人づかいの指針……265
1 人事・労務管理の方向……266
2 「新人類」の生活と意見……270
3 人を見抜く眼……275
4 働く人は「三つの顔」を持つ……279
5 「適応」と「創造」……283
6 ロイヤリティー……288
7 職場の活性化……292
8 泣いて馬謖を斬る……297
第9章 理財の知恵……301
1 始末・算用・才覚……302
2 数字に強くなる……306
3 開源節流・量人為出……310
4 継続は力なり……315
5 「活き金」づかいの心得……319
6 サム・マネー……324
7 トレンドはストック経済……328
8 節税のすすめ……332
第10章 さらなる充実を目指して……337
1 師との邂逅が人生を深める……338
2 問われる人間の「器」……343
3 座右に「六中観」をおく……348
4 複眼思考……352
5 たえざる革新が次代を創る……357
6 「大根」の話……361
7 豊かさとは何か―再考……365
8 晩節をけがすなかれ……369
(付)参考引用文献一覧……375