一粒の麦 序にかえて
老人保健法に関連するいろいろなことがらは,公衆衛生にかかわる私たちの身のまわりに急にはいりこんできました.しかしこのことは,多くの臨床家の方々にとっては,そんなに日常的に遭遇することでもあリませんし,一般にそれに精通しているわけでもないでしょう.そして,一対一の歯科医療を中心に積み上げてきたものとは考え方としてもかなり異質のものがあるので,いざとなると,とまどうことでしょう.つまり公衆衛生的な視野とか,福祉とかいう考え方がはいってくるからです.
実際にこれらに直面したときには,どうしてもまず概念から変えてとリかからなければなりませんし,一つ一つのことがらについて十分なものをもっていなければなりません.大変厄介なことで,そんなことは“物好き”に押しつけておきたいところですが,しだいに否応なしに私たちのまわりにそれが押し寄せてきます.
この本は,そういうことの入口のところから,一つ一つのことがらへの対処の know how までを教えてくれます.それでいて,決して際物的な底の浅いやリ方ではなく,それぞれのべースになっているものを踏まえたうえで,ていねいに説明がなされています.それは,著者がこの面のいろいろの実践を長年黙々と積み上げてきた賜物だろうと思います.考えながら実践し,実践しながら考える,ということをこういうフィールドで繰リ返しながら活動してきた果実だといってもよいかもしれません.
その意味では,このような活動の入門書としてももちろん適切なものではありますが,やはり読者の皆さんが,本書を「一粒の麦」として,第二,第三のこの本が書けるほどに,この本のいわんとすることがらの実践者となってくださることを願ってやみません.
1992年8月 愛知学院大学名誉教授 榊原悠紀田郎
老人保健法に関連するいろいろなことがらは,公衆衛生にかかわる私たちの身のまわりに急にはいりこんできました.しかしこのことは,多くの臨床家の方々にとっては,そんなに日常的に遭遇することでもあリませんし,一般にそれに精通しているわけでもないでしょう.そして,一対一の歯科医療を中心に積み上げてきたものとは考え方としてもかなり異質のものがあるので,いざとなると,とまどうことでしょう.つまり公衆衛生的な視野とか,福祉とかいう考え方がはいってくるからです.
実際にこれらに直面したときには,どうしてもまず概念から変えてとリかからなければなりませんし,一つ一つのことがらについて十分なものをもっていなければなりません.大変厄介なことで,そんなことは“物好き”に押しつけておきたいところですが,しだいに否応なしに私たちのまわりにそれが押し寄せてきます.
この本は,そういうことの入口のところから,一つ一つのことがらへの対処の know how までを教えてくれます.それでいて,決して際物的な底の浅いやリ方ではなく,それぞれのべースになっているものを踏まえたうえで,ていねいに説明がなされています.それは,著者がこの面のいろいろの実践を長年黙々と積み上げてきた賜物だろうと思います.考えながら実践し,実践しながら考える,ということをこういうフィールドで繰リ返しながら活動してきた果実だといってもよいかもしれません.
その意味では,このような活動の入門書としてももちろん適切なものではありますが,やはり読者の皆さんが,本書を「一粒の麦」として,第二,第三のこの本が書けるほどに,この本のいわんとすることがらの実践者となってくださることを願ってやみません.
1992年8月 愛知学院大学名誉教授 榊原悠紀田郎
序章 社会環境の変化と歯科医療の新しい目標
■歯科医療は QOLを与える医療である……2
■予防はもっとも質の高い医療である……4
■8020運動の鍵をにぎる歯科診療室の活動……6
■働けば働くほど苦しくなる歯科医院経営……8
■新しい卵だけが新しい鶏に育つ……10
■「悪くなればまたどうぞ」では歯科医療の改善はない……12
■善人なおもて往生を遂ぐ,いわんや悪人をや……14
■心臓が動くから人は走るのではない……16
1章 長寿社会における歯科医療の意義
■はじめに……20
■高齢者の歯科保健の実状……20
平均寿命よりも早い永久歯の喪失
低い高齢者の歯科受療
習慣病としての歯科疾患
■歯の欠損の健康への影響……22
高齢者の咀嚼と健康
歯の欠損の健康への影響
満足な食生活に必要な20本の歯
成人における歯の喪失と健康
歯科治療が寝たきりを起こす
好ましい食生活が寝たきりを防ぐ
骨折や貧血予防も食事から
がん予防につながる咀嚼の働き
■歯の寿命と歯科保健医療の目標……31
医療の新しい課題としてのQOL
咀嚼機能の評価を含む生命指標としての20歯の保有年齢
歯科医療と永久歯喪失の現状
保健指導と医療を結びつける老人保健事業
歯の喪失防止は歯科医療の需要を高くする
2章 老人保健法に基づく健康教育と健康相談
■老人保健法と歯科保健対策―疾病予防の各段階と歯科疾患……40
一次予防から三次予防まで
歯科疾患の予防対策
保健事業は医療の質を高める
■自らの意識と住民の態度の変容をうながす健康教育……42
動機づけと一次予防
健康教育の進め方
さまざまな機会をとらえて
■健康相談事業とは何か……53
重点項目としての歯科健康相談
健康相談の特性
歯科保健の特殊性に応じた相談事業
多様な内容を有する歯科健康相談事業
■歯科健康相談事業の活用……56
地域歯科保健の現状把握と,歯科疾患やそのリスクのスクリーニングの機会として
予防処置と個別指導
健康上の問題について自覚を有する者を対象とする指導や助言
3章 成人歯科健診の実施
■成人歯科健診の意義……62
成人保健対策の進展と成人歯科保健への課題
8020運動の一具体的対策としての成人歯科健診
歯科健診はなぜ老人保健事業に含められなかったのか
■新しい事業の開始には準備段階が先行する……64
成人病対策の流れ
保健事業として健診を進めるための条件
■成人歯科健診を実施するための条件……66
社会的な有効性
方法としての有用性
実施効果としての有効性
事業としての有効性
■成人歯科健診の方法……71
成人歯科健診の場の設定
成人歯科健診で何をみるのか
歯周疾患のスクリーニング
■判定区分の設定……85
診査結果と判定区分
診査のかたより
スクリーニング検査による偽陽性,偽陰性
地域の実情を考慮した判定区分
事後の対処における地域の歯科医療の役割
■成人歯科健診の実際……91
4章 成人における歯科保健指導の効果
■成人歯科健診を実施することによる効果……98
歯科健診と個別指導
個別指導の効果
歯科健診により確認される健康教育の効果
■歯科診療室における保健指導の効果……106
歯科受診の仕方で異なる歯の喪失数
年齢別のニーズに応じた歯科保健指導の重要性
地域の保健事業と診療室の保健指導の連携
5章 要援護老人の歯科保健対策
■はじめに……112
■訪問歯科診療,訪間指導の効果……112
潜在的な歯科需要
訪問歯科診療の課題
技術的な対処の範囲を拡大する
地域医療システムの確立
社会的な生活援護対策との連携
行政との共同作業としての保健事業
歯科医療が寝たきりを回復させる
歯科診療室における老人歯科医療の充実を
■在宅老人の現状と訪問診療,訪問指導……120
訪問指導の対象
「寝たきり老人」はつくられる
老人の健康確保における歯科医療の役割
■市町村と歯科医師会の協力による事業の基盤……125
厚生省の補助事業
市町村あるいは都道府県の単独事業
往診治療とそれにともなう保健指導
■老人保健法に基づく事業の基盤……126
訪問指導事業と訪問口腔衛生指導
老人健康相談
■訪問歯科診療を支える歯科衛生士の訪問指導……127
保健婦やホームヘルパーとの連携
老人保健事業としての訪問指導や機能
訓練との連携
歯科保健以外のサービス事業との連携
保健事業と保険診療との連携
継続的な訪問を続けるための基盤づくり
介護者,家族への配慮
訪問の記録と保持
社会サービスの活用
老人保健法に基づく事業との連携
■医療にたずさわる者の社会的責任の自覚……143
6章 地域歯科保健の拠点をつくる
■地域歯科保健の拠点をさぐる―保健活動を進める施設の役割……148
保健所を基盤とする老人歯科保健対策の推進(名古屋市昭和保健所,東京都杉並区保健所)
保健センター,公立歯科医療機関を基盤とする高齢者歯科保健対策(千葉県市川市保健センターと歯科係,北海道中標津町の保健センターと歯科診療所,岩手県沢内村歯科予防センター,宮城県大郷町立歯科診療所,長野県総合健康センター)
地域歯科保健対策の拠点としての歯科保健センター(南光町歯科保健センター)
■組織的な基盤をつくる……159
歯科保健対策を進める地域の組織的基盤
地域の諸機関の連携の場としての協議会(在宅老人歯科保健対策推進協議会,南光町歯科保健センター運営協議会,大洲喜多歯を守る運動を進める会,広島県歯科衛生連絡協議会,岐阜県口腔保健協議会,佐用郡歯科保健推進協議会)
「保健」と「保険」を統合する「地域」
■地域歯科保健サービスの実体……169
英国の歯科医療と地域歯科サービス
スウェーデンの地域歯科サービス
■社会サービスの基盤としての市町村……176
社会サービスの体制と歯科保健
市町村を裏盤とする事業の背景
高齢者保健福祉推進10ヶ年戦略と「寝たきり老人ゼロ作戦」
地域の特殊性とは,専門家の意欲の反映でもある
終章 「地域」の基盤と歯科医療の将来
■高齢化が進める医療現場の変化……182
■地域保健における「地域」の基盤……183
「老人問題」の祉会的背景
福祉国家の成立
地域ケアのネットワーク
■歯科医療の新しい目標とその任務……189
高齢社会における歯科医療と8020運動
歯科診療室の新しい役割
予防の価値と歯科医療の任務
おわりに……195
参考文献……196
さくいん……200
表紙デザイン/伊藤 守
表紙装飾(染色)/新庄幸子
■歯科医療は QOLを与える医療である……2
■予防はもっとも質の高い医療である……4
■8020運動の鍵をにぎる歯科診療室の活動……6
■働けば働くほど苦しくなる歯科医院経営……8
■新しい卵だけが新しい鶏に育つ……10
■「悪くなればまたどうぞ」では歯科医療の改善はない……12
■善人なおもて往生を遂ぐ,いわんや悪人をや……14
■心臓が動くから人は走るのではない……16
1章 長寿社会における歯科医療の意義
■はじめに……20
■高齢者の歯科保健の実状……20
平均寿命よりも早い永久歯の喪失
低い高齢者の歯科受療
習慣病としての歯科疾患
■歯の欠損の健康への影響……22
高齢者の咀嚼と健康
歯の欠損の健康への影響
満足な食生活に必要な20本の歯
成人における歯の喪失と健康
歯科治療が寝たきりを起こす
好ましい食生活が寝たきりを防ぐ
骨折や貧血予防も食事から
がん予防につながる咀嚼の働き
■歯の寿命と歯科保健医療の目標……31
医療の新しい課題としてのQOL
咀嚼機能の評価を含む生命指標としての20歯の保有年齢
歯科医療と永久歯喪失の現状
保健指導と医療を結びつける老人保健事業
歯の喪失防止は歯科医療の需要を高くする
2章 老人保健法に基づく健康教育と健康相談
■老人保健法と歯科保健対策―疾病予防の各段階と歯科疾患……40
一次予防から三次予防まで
歯科疾患の予防対策
保健事業は医療の質を高める
■自らの意識と住民の態度の変容をうながす健康教育……42
動機づけと一次予防
健康教育の進め方
さまざまな機会をとらえて
■健康相談事業とは何か……53
重点項目としての歯科健康相談
健康相談の特性
歯科保健の特殊性に応じた相談事業
多様な内容を有する歯科健康相談事業
■歯科健康相談事業の活用……56
地域歯科保健の現状把握と,歯科疾患やそのリスクのスクリーニングの機会として
予防処置と個別指導
健康上の問題について自覚を有する者を対象とする指導や助言
3章 成人歯科健診の実施
■成人歯科健診の意義……62
成人保健対策の進展と成人歯科保健への課題
8020運動の一具体的対策としての成人歯科健診
歯科健診はなぜ老人保健事業に含められなかったのか
■新しい事業の開始には準備段階が先行する……64
成人病対策の流れ
保健事業として健診を進めるための条件
■成人歯科健診を実施するための条件……66
社会的な有効性
方法としての有用性
実施効果としての有効性
事業としての有効性
■成人歯科健診の方法……71
成人歯科健診の場の設定
成人歯科健診で何をみるのか
歯周疾患のスクリーニング
■判定区分の設定……85
診査結果と判定区分
診査のかたより
スクリーニング検査による偽陽性,偽陰性
地域の実情を考慮した判定区分
事後の対処における地域の歯科医療の役割
■成人歯科健診の実際……91
4章 成人における歯科保健指導の効果
■成人歯科健診を実施することによる効果……98
歯科健診と個別指導
個別指導の効果
歯科健診により確認される健康教育の効果
■歯科診療室における保健指導の効果……106
歯科受診の仕方で異なる歯の喪失数
年齢別のニーズに応じた歯科保健指導の重要性
地域の保健事業と診療室の保健指導の連携
5章 要援護老人の歯科保健対策
■はじめに……112
■訪問歯科診療,訪間指導の効果……112
潜在的な歯科需要
訪問歯科診療の課題
技術的な対処の範囲を拡大する
地域医療システムの確立
社会的な生活援護対策との連携
行政との共同作業としての保健事業
歯科医療が寝たきりを回復させる
歯科診療室における老人歯科医療の充実を
■在宅老人の現状と訪問診療,訪問指導……120
訪問指導の対象
「寝たきり老人」はつくられる
老人の健康確保における歯科医療の役割
■市町村と歯科医師会の協力による事業の基盤……125
厚生省の補助事業
市町村あるいは都道府県の単独事業
往診治療とそれにともなう保健指導
■老人保健法に基づく事業の基盤……126
訪問指導事業と訪問口腔衛生指導
老人健康相談
■訪問歯科診療を支える歯科衛生士の訪問指導……127
保健婦やホームヘルパーとの連携
老人保健事業としての訪問指導や機能
訓練との連携
歯科保健以外のサービス事業との連携
保健事業と保険診療との連携
継続的な訪問を続けるための基盤づくり
介護者,家族への配慮
訪問の記録と保持
社会サービスの活用
老人保健法に基づく事業との連携
■医療にたずさわる者の社会的責任の自覚……143
6章 地域歯科保健の拠点をつくる
■地域歯科保健の拠点をさぐる―保健活動を進める施設の役割……148
保健所を基盤とする老人歯科保健対策の推進(名古屋市昭和保健所,東京都杉並区保健所)
保健センター,公立歯科医療機関を基盤とする高齢者歯科保健対策(千葉県市川市保健センターと歯科係,北海道中標津町の保健センターと歯科診療所,岩手県沢内村歯科予防センター,宮城県大郷町立歯科診療所,長野県総合健康センター)
地域歯科保健対策の拠点としての歯科保健センター(南光町歯科保健センター)
■組織的な基盤をつくる……159
歯科保健対策を進める地域の組織的基盤
地域の諸機関の連携の場としての協議会(在宅老人歯科保健対策推進協議会,南光町歯科保健センター運営協議会,大洲喜多歯を守る運動を進める会,広島県歯科衛生連絡協議会,岐阜県口腔保健協議会,佐用郡歯科保健推進協議会)
「保健」と「保険」を統合する「地域」
■地域歯科保健サービスの実体……169
英国の歯科医療と地域歯科サービス
スウェーデンの地域歯科サービス
■社会サービスの基盤としての市町村……176
社会サービスの体制と歯科保健
市町村を裏盤とする事業の背景
高齢者保健福祉推進10ヶ年戦略と「寝たきり老人ゼロ作戦」
地域の特殊性とは,専門家の意欲の反映でもある
終章 「地域」の基盤と歯科医療の将来
■高齢化が進める医療現場の変化……182
■地域保健における「地域」の基盤……183
「老人問題」の祉会的背景
福祉国家の成立
地域ケアのネットワーク
■歯科医療の新しい目標とその任務……189
高齢社会における歯科医療と8020運動
歯科診療室の新しい役割
予防の価値と歯科医療の任務
おわりに……195
参考文献……196
さくいん……200
表紙デザイン/伊藤 守
表紙装飾(染色)/新庄幸子