序
生体材料(バイオマテリアル)という言葉が広く使われるようになった.本来は,生命を意味する接頭語と材料を意味する単語の合成語であるが,医療の目的でヒトの組織・器官の形態と機能を代替もしくは促進するために用いられる材料や,それらの診断,治療ならびに予防に用いられる材料をも含む.口腔顎顔面領城へ人工材料を使用した歴史は,紀元前の遥か以前にまでさかのぼる.その種類は多岐にわたり,その使用方法も多彩である.それだけに初めてそれらを学ぶ学生諸君にとっては難解な場合も少なくない.そこで歯科臨床を5つ,すなわち,欠損の回復,口腔診断と手術的療法,不正咬合の改善,小児の歯科臨床ならびに口腔衛生に大別し,それらの各場面で用いられる生体材料を順を追って説明し,容易に理解できるよう努めた.
本書のもうひとつの特徴は,ビジュアル化による歯科材料・器械ならびに器具の説明をめざした点である.文章によっては分かりにくい歯科臨床の諸場面も,目で見ることによって容易に理解できることも多いと考えた.したがって,文章はできるだけ簡略化した.すでに歯科理工学に関するテキストは数多くあり,それぞれに工夫がこらされている.また,歯科臨床の各学科にもそれぞれ体系づけられた各専門分野のテキストがある.本書によってさらに深く学びたいと感じた学生諸君は,それらの数あるテキストのなかから容易に目的の本を見いだせるものと信じる.本書がそのような橋渡しの役目を果たせることができればその主な目的は達せられたといえるし,また執筆した者として無上の喜びである.
本書を上梓するにあたっては多くの研究者の貴重な業績を参考にさせていただいた.ここに心から謝意を申し上げたい.このように多くの援助を得て発行に努めたが,なお至らない点については忌憚なくご叱正を願う次第である.
なお,原稿や文献の整理にご協力いただいた澤近典子氏に対して厚くお礼を申し上げます.最後に本書出版にあたっては,医歯薬出版株式会社編集部の皆様に多大のご尽力を願いました.厚く感謝の意を表します.
1992年3月1日 中村正明 武田昭二
われわれを教え導いてくださった恩師と,今日まで献身的に支えてくれた家族へ捧げる.
生体材料(バイオマテリアル)という言葉が広く使われるようになった.本来は,生命を意味する接頭語と材料を意味する単語の合成語であるが,医療の目的でヒトの組織・器官の形態と機能を代替もしくは促進するために用いられる材料や,それらの診断,治療ならびに予防に用いられる材料をも含む.口腔顎顔面領城へ人工材料を使用した歴史は,紀元前の遥か以前にまでさかのぼる.その種類は多岐にわたり,その使用方法も多彩である.それだけに初めてそれらを学ぶ学生諸君にとっては難解な場合も少なくない.そこで歯科臨床を5つ,すなわち,欠損の回復,口腔診断と手術的療法,不正咬合の改善,小児の歯科臨床ならびに口腔衛生に大別し,それらの各場面で用いられる生体材料を順を追って説明し,容易に理解できるよう努めた.
本書のもうひとつの特徴は,ビジュアル化による歯科材料・器械ならびに器具の説明をめざした点である.文章によっては分かりにくい歯科臨床の諸場面も,目で見ることによって容易に理解できることも多いと考えた.したがって,文章はできるだけ簡略化した.すでに歯科理工学に関するテキストは数多くあり,それぞれに工夫がこらされている.また,歯科臨床の各学科にもそれぞれ体系づけられた各専門分野のテキストがある.本書によってさらに深く学びたいと感じた学生諸君は,それらの数あるテキストのなかから容易に目的の本を見いだせるものと信じる.本書がそのような橋渡しの役目を果たせることができればその主な目的は達せられたといえるし,また執筆した者として無上の喜びである.
本書を上梓するにあたっては多くの研究者の貴重な業績を参考にさせていただいた.ここに心から謝意を申し上げたい.このように多くの援助を得て発行に努めたが,なお至らない点については忌憚なくご叱正を願う次第である.
なお,原稿や文献の整理にご協力いただいた澤近典子氏に対して厚くお礼を申し上げます.最後に本書出版にあたっては,医歯薬出版株式会社編集部の皆様に多大のご尽力を願いました.厚く感謝の意を表します.
1992年3月1日 中村正明 武田昭二
われわれを教え導いてくださった恩師と,今日まで献身的に支えてくれた家族へ捧げる.
1章 総 論 1
A 生体材料 1
A・1 歯科臨床と歯科材料 1
A・2 歯科理工学 1
A・3 生体材料応用例と応用研究例 2
A・4 歯科理工学の意義と目的 3
A・5 口腔環境 3
1 口腔の主な機能 3
2 咬合力,咀嚼力 4
3 発音 5
4 温度変化 5
5 pH変化 5
A・6 歯科臨床と歯科理工学 6
A・7 治療の流れ 8
A・8 2つの欠損回復方法の得失 9
1 臓器移植と人工臓器 9
2 口腔顎顔面領域における欠損回復方法の選択 9
3 歯科臨床における主な人工臓器 10
A・9 生体材料としての歯科材料 12
B 修復物・補綴物として重要な性質は? 13
B・1 生体安全性 13
1 刺激性,毒性,発癌性,アレルギー性 13
2 生体安全性の評価 14
B・2 機械的適合性 15
1 弾性係数(ヤング率,弾性率) 16
2 強さ 17
3 硬さ 23
B・3 物理的適合性 24
1 密度 24
2 熱的性質 25
3 電気的性質 28
4 光学的性質 28
5 X線透過性 30
B・4 化学的適合性 31
1 溶解性 31
2 耐食性 31
3 接着性 31
4 吸水性 33
B・5 その他の機械的性質 34
1 たわみ性 34
2 耐摩耗性 35
3 クリープ 35
C 修復物・補綴物を製作,あるいは治療目的で材料を使用する際の重要な性質は? 36
C・1 生体安全性 36
C・2 成形性 36
1 展延性 37
2 粘り強さ(靭性) 37
C・3 操作性 38
C・4 設計性 38
C・5 製造性 39
C・6 その他 40
1 耐消毒・滅菌性 40
2 熱膨張係数 40
3 比熱 40
4 吸水性 40
D 歯科治療とクォリティーオブライフ(QOL) 41
E 組織の老化と材料の劣化 42
E・1 組織の老化 42
E・2 材料の劣化 42
F 修復物・補綴物の寿命 43
G 歯科医療の将来と器材 44
G・1 WHOの Dr.Barmesの予測 44
G・2 スカンジナビア歯科材料研究所の Dr.Mjo¨rの予測 45
参考文献 46
2章 診査・診断 50
A 診査・診断と歯科理工学 50
B 診査・診断に用いられる器材 52
参考文献 52
3章 欠損の回復 53
A 硬組織疾患(齲蝕)ケースと欠損回復―1 53
A・1 罹患歯質の削除と歯質の形成 53
1 切削と切削器械・器具 53
2 切削効率に影響する因子 56
3 切削時の歯髄刺激 57
A・2 歯髄保護 59
1 歯髄刺激 59
2 歯髄保護材料 60
A・3 成形修復 63
1 成形修復材料の所要性質 63
2 アマルガム修復 64
3 コンポジットレジン修復 69
4 グラスアイオノマーセメント修復 76
5 修復材料の諸性質の比較 79
A・4 直接金修復 82
1 直接金修復材料の種類 82
2 金箔修復の術式 82
3 直接金修復の利点・欠点 83
参考文献(A) 84
B 歯髄組織疾患ケース 86
B・1 歯髄の処置に必要な器材 86
B・2 根管拡大・清掃 87
1 手用器具による方法 87
2 器械による方法 88
B・3 根管充填 88
1 目的 88
2 根管充填材料 89
3 根管充填に使用される主な器械・器具 90
B・4 仮封 92
C 歯周組織疾患ケース 93
C・1 歯周疾患治療の流れ 93
C・2 歯周組織の診査 94
1 X線診査 94
2 プローブ 94
3 コンタクトゲージ 94
4 動揺度の検査器具 94
C・3 歯周疾患の治療 95
C・4 歯周外科療法 96
C・5 歯周包填剤 97
1 所要性質 97
2 種類 97
C・6 その他 98
参考文献(B,C) 99
D 硬組織疾患ケースと欠損回復―2 100
D・1 歯冠修復(インレー修復) 101
1 窩洞形成 102
2 印象採得 103
3 模型製作 114
4 金属インレー 118
5 コンポジットレジンインレー 130
6 陶材インレー 132
7 インレー修復の比較 134
参考文献(D・1) 135
D・2 歯冠補綴および欠損補綴(クラウンおよびブリッジ) 136
1 補綴物製作の前段階 137
2 金属による補綴 140
3 セラミックスによる補綴 143
4 硬質レジンによる補綴 149
5 テンポラリークラウン 151
6 接合 152
D・3 研磨 156
1 目的 156
2 研磨法 156
3 研磨材の所要性質と能率に影響する因子 157
4 研磨材の種類 157
5 防塵 157
D・4 適合性・咬合関係の点検 158
1 適合性の点検 158
2 咬合関係の点検 158
3 隣接面の点検 158
D・5 仮着 159
D・6 合着 160
1 合着材 160
2 リン酸亜鉛セメント 161
3 カルボキシレートセメント 162
4 グラスアイオノマーセメント 162
5 EBAセメント 163
6 接着性レジンセメント 163
7 合着材の物性比較 164
参考文献(D・2〜D・6) 165
E 硬組織疾患ケースと欠損回復―3 167
E・1 欠損補綴 167
1 床義歯の製作過程 167
2 床義歯の製作 168
E・2 パーシャルデンチャー 169
1 印象採得 169
2 咬合採得 170
3 義歯床 171
4 維持装置 182
5 連結装置 186
6 人工歯 189
7 金属とレジンの接着 191
E・3 コンプリートデンチャー 192
1 製作過程 192
2 印象採得 193
3 咬合採得 195
4 義歯床の研磨 197
5 検査用材料 199
6 粘膜調整 200
7 改床法 201
8 軟質裏装材(弾性裏装材) 203
参考文献(E・1〜E・3) 205
F 人工歯根(インプラント) 207
1 人工歯根の有用性 207
2 人工歯根の望ましい性質 207
3 人工歯根の分類 208
4 人工歯根用材料の代表的な物性 209
5 臨床術式の概略 210
6 人工歯根と組織の界面 211
7 人工歯根の表面処理 211
8 今後の課題 212
G 顎顔面補綴(エピテーゼ) 213
1 顎顔面補綴材料の所要性質 213
2 顎顔面補綴材料の種類 213
3 顎補綴例 214
4 顎顔面補綴物の製作手順例 214
参考文献(F,G) 215
4章 手術的療法,不正咬合の改善,小児の歯科臨床,口腔衛生,その他 216
A 手術的療法 216
A・1 外科用器具 216
A・2 器具の組成 217
A・3 外科用器材の滅菌法・消毒法 218
B 不正咬合の改善 219
B・1 矯正力と矯正用材料 220
B・2 矯正と接着 222
B・3 スポット溶接 223
C 小児の歯科臨床 224
C・1 小児の咬合と乳歯 224
C・2 小児歯科用の器材 224
C・3 欠損回復 224
C・4 外科的処置 225
C・5 咬合誘導 225
D 口腔衛生(予防歯科) 226
E その他 228
E・1 スポーツ外傷の防護用具 228
E・2 義歯安定剤 229
E・3 義歯清掃剤 230
参考文献 231
索引……233
A 生体材料 1
A・1 歯科臨床と歯科材料 1
A・2 歯科理工学 1
A・3 生体材料応用例と応用研究例 2
A・4 歯科理工学の意義と目的 3
A・5 口腔環境 3
1 口腔の主な機能 3
2 咬合力,咀嚼力 4
3 発音 5
4 温度変化 5
5 pH変化 5
A・6 歯科臨床と歯科理工学 6
A・7 治療の流れ 8
A・8 2つの欠損回復方法の得失 9
1 臓器移植と人工臓器 9
2 口腔顎顔面領域における欠損回復方法の選択 9
3 歯科臨床における主な人工臓器 10
A・9 生体材料としての歯科材料 12
B 修復物・補綴物として重要な性質は? 13
B・1 生体安全性 13
1 刺激性,毒性,発癌性,アレルギー性 13
2 生体安全性の評価 14
B・2 機械的適合性 15
1 弾性係数(ヤング率,弾性率) 16
2 強さ 17
3 硬さ 23
B・3 物理的適合性 24
1 密度 24
2 熱的性質 25
3 電気的性質 28
4 光学的性質 28
5 X線透過性 30
B・4 化学的適合性 31
1 溶解性 31
2 耐食性 31
3 接着性 31
4 吸水性 33
B・5 その他の機械的性質 34
1 たわみ性 34
2 耐摩耗性 35
3 クリープ 35
C 修復物・補綴物を製作,あるいは治療目的で材料を使用する際の重要な性質は? 36
C・1 生体安全性 36
C・2 成形性 36
1 展延性 37
2 粘り強さ(靭性) 37
C・3 操作性 38
C・4 設計性 38
C・5 製造性 39
C・6 その他 40
1 耐消毒・滅菌性 40
2 熱膨張係数 40
3 比熱 40
4 吸水性 40
D 歯科治療とクォリティーオブライフ(QOL) 41
E 組織の老化と材料の劣化 42
E・1 組織の老化 42
E・2 材料の劣化 42
F 修復物・補綴物の寿命 43
G 歯科医療の将来と器材 44
G・1 WHOの Dr.Barmesの予測 44
G・2 スカンジナビア歯科材料研究所の Dr.Mjo¨rの予測 45
参考文献 46
2章 診査・診断 50
A 診査・診断と歯科理工学 50
B 診査・診断に用いられる器材 52
参考文献 52
3章 欠損の回復 53
A 硬組織疾患(齲蝕)ケースと欠損回復―1 53
A・1 罹患歯質の削除と歯質の形成 53
1 切削と切削器械・器具 53
2 切削効率に影響する因子 56
3 切削時の歯髄刺激 57
A・2 歯髄保護 59
1 歯髄刺激 59
2 歯髄保護材料 60
A・3 成形修復 63
1 成形修復材料の所要性質 63
2 アマルガム修復 64
3 コンポジットレジン修復 69
4 グラスアイオノマーセメント修復 76
5 修復材料の諸性質の比較 79
A・4 直接金修復 82
1 直接金修復材料の種類 82
2 金箔修復の術式 82
3 直接金修復の利点・欠点 83
参考文献(A) 84
B 歯髄組織疾患ケース 86
B・1 歯髄の処置に必要な器材 86
B・2 根管拡大・清掃 87
1 手用器具による方法 87
2 器械による方法 88
B・3 根管充填 88
1 目的 88
2 根管充填材料 89
3 根管充填に使用される主な器械・器具 90
B・4 仮封 92
C 歯周組織疾患ケース 93
C・1 歯周疾患治療の流れ 93
C・2 歯周組織の診査 94
1 X線診査 94
2 プローブ 94
3 コンタクトゲージ 94
4 動揺度の検査器具 94
C・3 歯周疾患の治療 95
C・4 歯周外科療法 96
C・5 歯周包填剤 97
1 所要性質 97
2 種類 97
C・6 その他 98
参考文献(B,C) 99
D 硬組織疾患ケースと欠損回復―2 100
D・1 歯冠修復(インレー修復) 101
1 窩洞形成 102
2 印象採得 103
3 模型製作 114
4 金属インレー 118
5 コンポジットレジンインレー 130
6 陶材インレー 132
7 インレー修復の比較 134
参考文献(D・1) 135
D・2 歯冠補綴および欠損補綴(クラウンおよびブリッジ) 136
1 補綴物製作の前段階 137
2 金属による補綴 140
3 セラミックスによる補綴 143
4 硬質レジンによる補綴 149
5 テンポラリークラウン 151
6 接合 152
D・3 研磨 156
1 目的 156
2 研磨法 156
3 研磨材の所要性質と能率に影響する因子 157
4 研磨材の種類 157
5 防塵 157
D・4 適合性・咬合関係の点検 158
1 適合性の点検 158
2 咬合関係の点検 158
3 隣接面の点検 158
D・5 仮着 159
D・6 合着 160
1 合着材 160
2 リン酸亜鉛セメント 161
3 カルボキシレートセメント 162
4 グラスアイオノマーセメント 162
5 EBAセメント 163
6 接着性レジンセメント 163
7 合着材の物性比較 164
参考文献(D・2〜D・6) 165
E 硬組織疾患ケースと欠損回復―3 167
E・1 欠損補綴 167
1 床義歯の製作過程 167
2 床義歯の製作 168
E・2 パーシャルデンチャー 169
1 印象採得 169
2 咬合採得 170
3 義歯床 171
4 維持装置 182
5 連結装置 186
6 人工歯 189
7 金属とレジンの接着 191
E・3 コンプリートデンチャー 192
1 製作過程 192
2 印象採得 193
3 咬合採得 195
4 義歯床の研磨 197
5 検査用材料 199
6 粘膜調整 200
7 改床法 201
8 軟質裏装材(弾性裏装材) 203
参考文献(E・1〜E・3) 205
F 人工歯根(インプラント) 207
1 人工歯根の有用性 207
2 人工歯根の望ましい性質 207
3 人工歯根の分類 208
4 人工歯根用材料の代表的な物性 209
5 臨床術式の概略 210
6 人工歯根と組織の界面 211
7 人工歯根の表面処理 211
8 今後の課題 212
G 顎顔面補綴(エピテーゼ) 213
1 顎顔面補綴材料の所要性質 213
2 顎顔面補綴材料の種類 213
3 顎補綴例 214
4 顎顔面補綴物の製作手順例 214
参考文献(F,G) 215
4章 手術的療法,不正咬合の改善,小児の歯科臨床,口腔衛生,その他 216
A 手術的療法 216
A・1 外科用器具 216
A・2 器具の組成 217
A・3 外科用器材の滅菌法・消毒法 218
B 不正咬合の改善 219
B・1 矯正力と矯正用材料 220
B・2 矯正と接着 222
B・3 スポット溶接 223
C 小児の歯科臨床 224
C・1 小児の咬合と乳歯 224
C・2 小児歯科用の器材 224
C・3 欠損回復 224
C・4 外科的処置 225
C・5 咬合誘導 225
D 口腔衛生(予防歯科) 226
E その他 228
E・1 スポーツ外傷の防護用具 228
E・2 義歯安定剤 229
E・3 義歯清掃剤 230
参考文献 231
索引……233