やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき

 小児の口腔内の疾病といえば,齲歯が原因である症例が多くを占めている.
 しかしながら,日ごろ臨床の場で多くの小児に接していると,口腔疾患が原因で継発した病変,あるいは感染症の前駆症状として,また全身的疾患,ときには心身症がかかわる異常など,口腔内ではさまざまな病態像がみられるが,なかでも全身性疾患にかかわりをもつ口腔内病変については留意すべき点が多い.
 通常歯科医は,口腔に限局した疾患に対する治療を依頼されることから,主訴の歯の付近だけをみることにとらわれ,口腔内全体の検査はもとより,全身的な観察という訓練,習慣がほとんどなされていない.
 その結果,患児が現在病んでいる全身的な疾患に付随した身体各部の変化,すなわち標徴を,あるいは潜在的な疾患のためにみられる標徴とのかかわりについて気をとめることもなく歯科治療を開始し,主訴とした口腔の疾病に対する治療のみを行い,保護者もごく当然のごとくそれをもって十分としていた.
 しかしながら,現代では,成人と同じように,小児にも心身ともに異常なストレスが加わり,そのことが因子となって,多くの小児が身体各所にさまざまな異常を招いている.ところが,歯科医師は,それらの異常が口腔内の病変とかかわりをもつものとしてとらえることなく日常診療にあたっているように思われる.
 一般に歯科医は,聴診器をはじめ全身疾患の診査のための医療機器を使用する機会もないが,近年一般医学の領域においては,医療機器の開発・改良や診断技術の進歩が確定診断を容易にしてきている.
 しかしながら,熟達した小児科医が診断を行うさいには,とくに情報が得にくい小児では視診を中心とした臨床症状の注意深い観察が重要な部分を占めている.
 その意味から本書では,小児の身体各部に表出される微症状と,そのときにおける小児の健康状態,さらには口腔疾患との関連について理解できるように解説を試みた.日常の歯科臨床の場で本書を参考にしていただければ幸いである.
 1992年1月1日 栗原洋一
1.はじめに……1
2.全身的診査……3
    基本的な考え方……3
 1 発育状態……3
   1.身長……3
   2.体重……4
   3.体型……4
 2 皮膚……6
   1.皮膚の診査……6
 3 発疹……12
   1.発疹の診査……12
   2.小児歯科臨床にさいし考慮する感染性発疹症……14
   3.小児歯科臨床にさいし考慮する非感染性発疹症……17
 4 爪……19
   1.爪の診査……19
   2.色調の異常……21
   3.形態の異常……22
   4.歯と関連する爪の異常を伴った疾患……24
   5.小児に特異的にみられ歯科医がもっとも注意しなければならない爪の異常……25
 5 手指・足指……26
   1.形状……26
 6 頭顔部……29
   1.頭部……29
   2.頭髪……30
   3.顔つき……32
   4.顔部の診査……32
 7 眼……38
 8 耳……40
 9 リンパ節……41
   1.リンパ節の診査……41
   2.診査項目……42
   3.口腔の診査……43
    基本的な考え方……43
    診査の留意点……43

I.口腔組織の診査……46
 1 口唇……46
   1.形……46
   2.大きさ……46
   3.色……47
   4.湿潤度……47
   5.浮腫……48
   6.潰 瘍……48
 2 舌……48
   1.形……48
   2.大きさ……49
   3.色……49
   4.舌乳頭……51
   5.湿潤……51
   6.裂 溝……52
 3 頬粘膜……52
   1.Koplick(コプリック斑)……52
   2.その他……52
 4 歯肉……55
   1.萌出性嚢胞……55
   2.上皮真珠……55
   3.萌出性歯肉炎……56
   4.歯肉腫……56
   5.咬合性外傷による歯周炎……56
   6.小帯の低位付着による歯肉退縮……57
   7.口呼吸による歯肉炎……57
   8.口腔不潔による歯肉・歯周炎……57
   9.悪習慣などによる咬合性外傷……58
   10.ブラッシング,揚枝,食片圧入などによる歯肉・歯周炎……58
   11.不適合装着物による歯肉・歯周炎……58
 5 小帯……59
 6 口蓋……61
 7 扁桃……61

II.歯の診査……62
 1 歯……62
   1.萌出……62
   2.歯の数……62
   3.歯の大きさ,形……63
   4.歯の色調……63
   5.構造の異常……64
   6.咬耗……64

索引……67