やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

これから歯科医院に勤務する歯科衛生士の方々へ
 歯科衛生士の皆さん,デンタルオフィスへようこそ! これから力を合わせて,患者さんに喜んでいただける歯科医院をいっしょに作っていきましょう.
 歯科衛生士は,1年,3年,5年……とキャリアを重ねていくにしたがって,患者さんや歯科医師からの信頼が深まり,仕事のおもしろさ,奥深さがわかってくることと思います.
 最初の1年は,社会人として振る舞うこと,歯科医院での仕事に慣れること,患者さんの名前を覚えることなど,毎日,必死の思いで頑張ってもらうことになるでしょう.
 けれども,3年目ともなれば,日常の仕事は十分理解ができて自信をもって行えるようになり,きっと患者さんとの距離も縮まって,ゆとりが生まれ,今後目指すべき「自分の分野」が見えはじめてくることと思います.後輩が入ってきて,指導をすることになるかもしれません.
 5年目ともなれば,歯科衛生士としての本当の喜びを感じることができるでしょう.それまでの間,真剣に臨床に臨んでいると,結果として自信が生まれ,それが患者さんに迫力として伝わります.患者さんもあなたに信頼を寄せ,患者さんにとって「なくてはならない存在」になります.
 10年続けることができれば,その経験と知識は,歯科衛生士が他のどんな職業と比較しても胸を張れる,すばらしい仕事であることが実感できるでしょう.それとともに,プロの歯科衛生士としての知識や技術ばかりでなく,社会人としての品格,教養も,求められるようになります.歯科医師や歯科技工士と対等な立場で臨床に携わり,その道のプロとして,充実感をもって生き生きとすごすことができるようになります.
 その間,結婚,出産など,仕事との両立について悩むことがあるかもしれません.けれども,なんとか歯科衛生士の仕事を辞めずに続けて,あるいはまた復職して仕事を再開することで,本当のすばらしさを味わえるところまで,歯科衛生士の仕事を極めてほしいと願っています.
 「この歯科医院に,あなたがいるから来ているのよ」と患者さんから言っていただけるようになったとき,あなたは患者さんにとっても院長にとっても,その歯科医院の「なくてはならない存在」になっているのです.
 もし,あなたが卒業したばかりであれば,3年先,5年先というのは,ずっと遠い日々に思えるかもしれませんが,勤務経験のある方には「あっという間なのだ」ということに,きっとうなずいていただけることと思います.ですから,スタートの日から目標を掲げ,あなたの歯科衛生士のライセンスを,多くの人から必要とされるゴールドライセンスに育て,ともに社会から信頼される歯科医療を育むパートナーとなってほしいと願っています.

歯科医師の方々へ
 意欲あふれる歯科衛生士になってもらうためには,院長である歯科医師の役割が大きいと考えています.歯科医師へのメッセージを11ページに書きましたので,お読みいただければと思います.
 また,この本には「院長からのメッセージ」を書き込むページを設けてあります.新しく採用した歯科衛生士に「My Book」としてプレゼントしていただいて,この本を媒体にしながらの望ましい医院作りのお役に立てば幸いです.
 資料作成および執筆に多大な協力をしてくれた,倉富 優歯科衛生士,そしていつもわがままなお願いをする院長を明るく,広い心で支えてくれるスタッフ一同に心から深謝いたします.
 2010年 初夏 田中 秀樹
第1章 歯科医院に勤務する
 (1)歯科衛生士の仕事
  歯科の仕事が好きですか?
  楽しく働くためにしなくてはならないこと
  歯科医師の方々へ・歯科衛生士が生き生きと働ける職場に
 (2)当院の方針とあなたへの期待
  当院の方針
  あなたへの期待
 (3)あなたの得意分野と苦手なことは?
  長所と短所
  歯科衛生士としての目標
第2章 勤務をする前に考えてほしいこと
 (1)医院の基本方針を理解してください
  勤務する歯科医院を選ぶ
  納得ができたら,よい医院にするための戦力になる
 (2)あなたの目標
  「意欲」が「好きな仕事」を見つけ,それが「よい結果」をもたらす
  得意なことを見つける
  具体的な目標を掲げる
 (3)よく見て,学んでください
  よい治療結果を出すには,スタッフ全員の研鑽が必要
  学ぶ態度で
第3章 最初の1週間
 (1)まずは挨拶
  挨拶は自分から
  気持を切り替えるトレーニング
 (2)静かに,注意深く
  音を立てないで行動することを身につける
  注意深く繊細な動作を心がける
 (3)清潔の維持
  きれいな状態を維持すること
  患者さんは清潔な医院を選ぶ
  患者さんへの感謝の気持を忘れずに
 (4)身だしなみ
  患者さんに与える印象
  こんなところに気を配ろう
 (5)患者さんへの対応
  外見だけでなく
  言葉遣いはていねいに
 (6)診療室は「舞台」
  見られることに慣れる
  共感をもって聴くことで,歯科医師との橋渡し役に
  素敵なあなたに
 (7)患者さんからいただく幸福
  挨拶するのが恥ずかしい
  はじめての担当
第4章 できる仕事を増やしていく
 (1)滅菌・消毒
  最初の1〜3ヵ月で医院のメンバーになる
  滅菌と消毒の定義
  高圧蒸気滅菌
  薬液消毒
  インプラント関連器材の滅菌と消毒
  滅菌パックの扱い方
  滅菌後の器材の管理
  作業手順の標準化
 (2)器具を大切に
  道具へのこだわりが名人を育てる
  器具の受け渡し方
 (3)患者さんと接する
  患者さんの誘導から
  チェアサイドアシスタント
 (4)治療についての理解
  治療への理解が必要な理由
  チェアサイドアシスタントで患者さんとのコミュニケーション力を磨く
  コミュニケーションスキルは,努力すれば向上する
第5章 1〜2年目の課題
 (1)一人前の歯科衛生士とは
  ポジティブシンキング
  クレームを成長の糧に
  一人で抱え込まないこと
 (2)資料の収集と管理
  きちんと作成され,保存された資料は診療の基本
  メインテナンスでも信頼のきづなに
  X線写真の活用
  デジタル化
  患者さんのアナログ情報としてのサブカルテの管理
 (3)患者さんへの対応
  患者さんの信頼から,プロ意識が芽生える
  工夫する歯科衛生士
  相互の常識を理解しあう
 (4)ブラッシング指導
  攻守を考える
  ブラッシング指導の事例
  私のブラッシング指導の変化
 (5)SRP
  SRPの定義
  ルートプレーニングの目的と意義
  SRP時の注意事項
 (6)症例を見る目
  ケースプレゼンテーションで,症例を見る目を深める
  私の財産は,正しい歯磨きと患者さんとの人間関係
 (7)2年目の目標
  判断力を磨こう
  後輩への指導
  後輩への指導項目
 (8)こんなことが喜びです
  「プロフェッショナルを目指してほしい」と言われて
  患者さんに助けられて
第6章 3年目・「得意」を磨く
 (1)プレゼンテーション上手になる
  プレゼンテーションスキルとは?
  上手なプレゼンテーションの条件
  PCに強くなる
 (2)医院への提案
  医院は変化し続けていくもの
  新鮮な視点を聞く
  こんなことも・来院が途絶えたとき
 (3)もっと広く,もっと深く
  新聞を読もう
  魅力の秘密を考えてみる
 (4)患者さんの要望を理解する
  患者さんの要望
  患者さんに信頼されるシステム作り
  医療者として必要な基本的態度
 (5)科学的に分析しよう・患者さんの心理
  患者さんを理解してグッドコミュニケーションを
  患者さんのタイプ
 (6)患者さんの心をつかむメインテナンス
  長いお付き合いができることが医院の実力
  メインテナンスとは
  ライフサイクルを考えたメインテナンスプログラム
 (7)私の3年
  歯科衛生士になって
  2年目・SRP,患者さんの評価,後輩の指導
  3年目・講演を頼まれる
第7章 これからの課題
 (1)クリニカルコーディネーター
  より詳細な対応が必要な時代・専門歯科衛生士の登場
  カウンセリング
  インプラント・審美歯科治療にあたって知っていてほしい基礎知識の説明
  問診表に照らし合わせて,患者さんの思いと希望を聞く
  院内での患者情報の共有
  治療費の説明と支払い方法の説明
  それぞれの治療の限界と耐用年数・保証年数についての説明
  確認事項と同意書
  治療経過の説明と結果の説明
 (2)よりよい診療室の要件
  作りあげることも,それを維持していくにも努力がいる
  清潔で整理された診療室
  待合室の快適な空間管理
  開放的でかつプライバシーに配慮した診療室
  快適な空間構成のための4要素
  清潔
  成功の鍵は女性に対する配慮