やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

シリーズ刊行に寄せて
 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会は,摂食・嚥下リハビリテーションに関わる多職種が集まり,患者ニーズに対し協力的,効率的,合目的に対応を考えるというtrans disciplinaryな対応を可能とすべく,1996年9月に発足した.以来,本分野の研究,発展,普及に努めており,現在では会員数が6000名を超えている.また,2009年8月には一般社団法人となり,急速に高まる社会的ニーズに応えるべく法人格を取得し,アイデンティファイされることとなった.
 本学会は,この法人格取得と同時に認定士制度を設けた.その目的は,認定士制度規約の第1条に記されているが,「『日本摂食・嚥下リハビリテーション学会認定士』制度は,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会総則第2条『摂食・嚥下リハビリテーションの啓発と普及,その安全で効果的な実施のために貢献する』を積極的に具現化するために,摂食・嚥下リハビリテーションの基本的な事項と必要な技能を明確化し,それらの知識を習得した本学会の会員を認定することを目的とする」である.本領域の活動は,多職種が担う.そのため,摂食・嚥下リハビリテーションを行うに当たって,当該職種が知っておかなくてはならない共通の知識,そして各職種の適応と制限に関する知識を明確化しておくことは,学会の重要な責務であろう.また,そのような知識を有するものを学会が認定し,その知識レベルを保証することは大変意義深い.
 この知識は,われわれの活動の基礎になるものである.そして,その学習方法の一つが,本書の骨子となるeラーニングにあたる.この概要は,インターネット上で体系的に6分野78項目に分類された最重要事項を供覧することで,上記のような共通知識の整理をはかるものである.そして,この課程を修めることが,認定士受験資格の重要な要件の一つとなる.
 さらに,認定士の展開としては,認定を得たものがそれぞれの専門職種において,より専門的な知識や技能を修得できるような構造が望ましいと考えられる.例えば,この認定士資格をもつものが,高度な実習を要するセミナーに参加ができるなどである.また,関連する他の学会の学会員が,この認定士の水準を十分に備えていると認められるような場合は,申請により認定士の資格を与えるなど,関連学会と発展的な関係を築く基盤となる.
 今回,ここに上記のようなeラーニング各分野の学習内容をもとに,書籍を刊行することになった.それは,eラーニング受講者の学習の便をはかるとともに,より多くの人に必要最低限の共通知識を知ってもらい,本領域がいっそう伝播することを企図したことによる.
 そうして学習基盤を整理することで関係職種の多くの方が本学会へ参加できるようになり,それによって摂食・嚥下障害を有する患者の幸せに少しでも寄与することができれば,望外の喜びである.
 2010年8月
 一般社団法人日本摂食・嚥下リハビリテーション学会
 理事長 才藤栄一

緒言
 本書は,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会インターネット学習システム(eラーニング)の参考書である.eラーニングによる学習を支援することを目的とし,eラーニングコンテンツを踏襲した内容で構成されている.内容は豊富で網羅的なので,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会会員以外の方々にもおおいに参考にしていただけるものになっている.
 eラーニングは,2010年7月16日に開講した.その構想は2007年に認定制を計画することが決まり,認定士としてふさわしい知識をどのように会員に伝達するかを検討する過程で始まった.当初は研修会を日本各所で開催し,これらを受講した会員が認定士試験受験資格を得るという従来型の案もあったが,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会会員の職種は,非常に広範囲にわたるので,共通の基本的な医療関連知識を担保する必要があった.たとえば,医療の総論的な内容やリスク管理の知識は教育環境にいる人たちにはあまり馴染みがないかもしれないが,このような知識は学会認定士にとっては必須事項になるべきである.
 このような広い内容を含めると,およそ20時間に相当するセミナーが必要になる.これを研修会のスタイルで行うには,物理的,経済的に困難だった.また,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会会員は,少人数職場に従事しているため気軽に学会や研修会に参加しにくい環境にあることも多い.このような背景から,当時の資格制度準備委員会(現認定委員会)は,認定士試験受験資格としてのeラーニング構想を理事会に提案し,理事会において歓迎をもって受理され,学会の最重点課題の一つになった.
 2008年の第14回学術大会では,総会,シンポジウムでこの構想を発表し,理解をいただいた.その後,2年の歳月を経て,何とか準備が整い,2010年7月,開講に至った.
 コンテンツの作成は,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会認定士のうち資格制度準備委員会で推薦し,理事会で承認された各分野の専門家76名と認定委員20名が分業してあたった.内容に関しては,コンテンツの作成者と認定委員との間で調整を行った.この作業は困難なこともあったが,各コンテンツは工夫された.また,最初の構想では必要最低限の知識を中心に構成される予定だったが,この域を大きく超えて,非常に充実した内容になった.
 実際のeラーニングをご覧いただくとわかるが,1コンテンツ10から15枚程度のスライドに,解説文が付随し,それを読み進め,最後に確認問題をして1コンテンツが終了するという構成になっている.動画なども多用してあり非常にわかりやすい内容である.しかし,一度学習が終了したあとに,再度確認したいということもあるだろうし,もう少し詳しい解説がほしいということもあるだろう.
 本書はこのような要望に対応することを目的に出版された.より多くの方に,有効に活用していただけることを願っている.
 2010年8月
 一般社団法人日本摂食・嚥下リハビリテーション学会
 認定委員会委員長 馬場 尊
 シリーズ刊行に寄せて
 緒言
 本書をお読みになる前に
 eラーニング受講方法

§1 総論
 1 リハビリテーション医学総論(才藤栄一)
  1:はじめに
   Chapter1 はじめに
  2:リハビリテーション医学とは
   Chapter2 リハビリテーションという用語について
   Chapter3 リハビリテーション医学の特徴
   Chapter4 リハビリテーション医学の中心領域
   Chapter5 リハビリテーション医学の対象臓器系と関連科
   Chapter6 障害の階層
   Chapter7 International Classification of Functioning,Disability and Health;ICF
  3:システムとしての解決
   Chapter8 リハビリテーション医学はシステム的解決を目指す
   Chapter9 システムとしての解決とは
   Chapter10 システムとしての解決とは(その2)
   Chapter11 リハビリテーションチーム
   Chapter12 摂食・嚥下リハビリテーションチーム
  4:多面的対応
   Chapter13 障害者の医学的管理―生活に必要な臓器系の問題に対処する
   Chapter14 活動-機能-構造連関―機能,構造と活動性の強い関係性
   Chapter15 治療的学習―新行動を学ぶ
   Chapter16 支援システム―支援システムを活用する
   Chapter17 まとめ
 2 摂食・嚥下のリハビリテーション総論(椿原彰夫)
  Chapter1 摂食・嚥下,摂食・嚥下障害とは何か?
  Chapter2 摂食・嚥下障害と「正常」との境界は存在するのか?
  Chapter3 摂食・嚥下障害の治療目的
  Chapter4 急性期からのリハビリテーション
  Chapter5 回復期における摂食・嚥下リハビリテーションの体系
  Chapter6 直接訓練のみが摂食・嚥下リハビリテーションではない
  Chapter7 摂食・嚥下リハビリテーションにはチーム医療が重要!
  Chapter8 回復期における摂食・嚥下リハビリテーションの戦略
  Chapter9 摂食機能療法の効果に関する多施設共同研究
  Chapter10 生活期にある患者の状態は常に一定ではない!
§2 解剖・生理
 3 構造(解剖)(依田光正)
  Chapter1 摂食・嚥下に関係する器官の位置関係
  Chapter2 口腔
  Chapter3 補講・歯の構造について(下堂薗 恵)
  Chapter4 舌
  Chapter5 舌筋群
  Chapter6 咀嚼筋群
  Chapter7 唾液腺
  Chapter8 咽頭
  Chapter9 咽頭筋群
  Chapter10 咽頭筋内層と口蓋の筋群
  Chapter11 喉頭
  Chapter12 舌骨
  Chapter13 舌骨筋群
  Chapter14 食道
   参考 筋の起始と停止(馬場 尊)
 4 機能(生理)(下堂薗 恵)
  Chapter1 摂食・嚥下の過程
  Chapter2 先行期―摂食行動の誘因と行動発現
  Chapter3 口唇の運動―口唇によるとり込み
  Chapter4 顎運動―開口と閉口,咀嚼運動
  Chapter5 唾液の生理
  Chapter6 舌の感覚
  Chapter7 嚥下運動
  Chapter8 嚥下運動に関与するおもな咽頭,喉頭の筋肉
  Chapter9 嚥下に関係する運動神経とおもな筋の働き
  Chapter10 嚥下に関係する感覚神経の働き
  Chapter11 嚥下反射の中枢機構
  Chapter12 摂食・嚥下や関連運動の神経機構
 5 嚥下モデル:4期モデル・プロセスモデル(松尾浩一郎)
  Chapter1 4期モデルとプロセスモデルの違いについて
  Chapter2 4期モデルについて
  Chapter3 プロセスモデルについて
  Chapter4 プロセスモデルの各期について
  Chapter5 プロセスモデルと4期モデルの比較
  Chapter6 第2期移送(stage II transport)
  Chapter7 液体と固体同時摂取時の食物の咽頭への進入様式
   参考 5期モデルの各ステージについて
§3 原因と病態
 6 摂食・嚥下各期の障害(薛 克良)
  Chapter1 先行期の障害
  Chapter2 準備期の障害
  Chapter3 口腔期の障害
  Chapter4 咽頭期の障害
  Chapter5 食道期の障害
 7 原因疾患(脳卒中)(藤島一郎)
  Chapter1 摂食・嚥下障害の原因
  Chapter2 脳卒中(stroke)とは?
  Chapter3 脳卒中の症状
  Chapter4 脳卒中急性期の摂食・嚥下障害
  Chapter5 脳卒中の摂食・嚥下障害:頻度,タイプなど
  Chapter6 一側性大脳病変による摂食・嚥下障害 意識障害を伴う場合
  Chapter7 意識障害を伴わない一側性大脳病変
  Chapter8 仮性球麻痺と球麻痺の病変部位とおもな特徴
  Chapter9 延髄以外の脳幹病変
  Chapter10 仮性球麻痺のVE,VF
  Chapter11 Wallenberg(ワレンベルグ)症候群
  Chapter12 球麻痺のVE,VF
  Chapter13 延髄病変の型
 8 原因と病態:神経筋疾患(野ア園子)
  Chapter1 神経筋疾患の摂食・嚥下障害の出現様式による分類
  Chapter2 急速に進行するタイプのポイント
  Chapter3 緩徐に進行するタイプのポイント
  Chapter4 摂食・嚥下障害が変動するタイプのポイント
  Chapter5 筋萎縮性側索硬化症(ALS)とその摂食・嚥下障害
  Chapter6 呼吸不全と摂食・嚥下障害の経時的変化
  Chapter7 ALSの摂食・嚥下障害
  Chapter8 Parkinson病(PD)の摂食・嚥下障害
  Chapter9 Parkinson病の摂食・嚥下障害
  Chapter10 Parkinson病治療薬の副作用と摂食・嚥下障害
  Chapter11 Wearning offのある場合のL-dopa(レボドバ)食前服用と食後服用
  Chapter12 Duchenne型筋ジストロフィーとその摂食・嚥下障害
  Chapter13 Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)の摂食・嚥下障害
  Chapter14その他の主要な神経筋疾患の摂食・嚥下障害
 9 頭頸部癌による嚥下障害(藤本保志)
  Chapter1 頭頸部癌
  Chapter2 頭頸部癌による嚥下障害
  Chapter3 放射線治療による嚥下障害(その1)
  Chapter4 放射線治療による嚥下障害(その2)
  Chapter5 手術後の嚥下障害の特徴
  Chapter6 口腔癌の嚥下障害
  Chapter7 舌半切後の手術野
  Chapter8 遊離組織移植
  Chapter9 進行した舌癌の切除
  Chapter10 中咽頭癌の切除
  Chapter11 喉頭癌/下咽頭癌治療と嚥下障害(その1)
  Chapter12 喉頭癌/下咽頭癌治療と嚥下障害(その2)
  Chapter13 喉頭癌/下咽頭癌治療と嚥下障害(その3)
  Chapter14 手術後嚥下障害への対応
 10 加齢と摂食・嚥下機能(植松 宏)
  Chapter1 はじめに
  Chapter2 高齢者の食欲低下
  Chapter3 高齢者に多い窒息事故
  Chapter4 高齢者に多い誤嚥性肺炎
  Chapter5 生理的変化と病的変化
  Chapter6 加齢と味覚,加齢と嗅覚
  Chapter7 咀嚼機能と摂食・嚥下機能
  Chapter8 口腔の加齢変化
  Chapter9 加齢による喉頭の下降
  Chapter10 加齢の咽頭期への影響
  Chapter11 加齢による食道の変化
  Chapter12 加齢と呼吸パターン
 11 摂食・嚥下に影響する要因(小口和代)
  Chapter1 はじめに―摂食・嚥下に影響を及ぼすもの
  Chapter2 意識と嚥下
  Chapter3 意識レベルの評価(Japan Coma Scale)
  Chapter4 意識障害の原因(1)
  Chapter5 意識障害の原因(2)
  Chapter6 薬剤の副作用
  Chapter7 摂食・嚥下機能を改善する薬剤
  Chapter8 気管カニューレ
  Chapter9 気管カニューレの使用目的
  Chapter10 気管カニューレの種類
  Chapter11 気管カニューレの摂食・嚥下機能への影響
  Chapter12 経鼻経管栄養チューブの摂食・嚥下機能への影響
 12 合併症(誤嚥性肺炎・窒息・低栄養・脱水)(藤谷順子)
  Chapter1 誤嚥と肺炎
  Chapter2 肺炎を起こす誤嚥
  Chapter3 肺炎の症状と診断
   参考 誤嚥性肺炎と嚥下性肺炎
  Chapter4 参考:嚥下性肺疾患診断フローチャート
  Chapter5 発熱を認めた場合の鑑別診断
  Chapter6 誤嚥性肺炎の予防
  Chapter7 窒息を起こす食物・場面
  Chapter8 窒息時の処置
  Chapter9 窒息が疑われた際の対応
  Chapter10 栄養の重要性
  Chapter11 脱水の危険とその把握
  Chapter12 脱水の所見と対策

 索引