序
　生体にやさしく精度の高いクラスプデンチャーを“誰もが““よりハイレベルに”“より短時間で”製作できる歯科技工システムを，臨床の現場に即して具体的に示したのが本書である．パーシャルデンチャーによる最新の治療の流れの中で，ラボサイドにおける一連の技工操作の要点を，方法，材料，操作手順から実際の臨床に即して，できるだけビジュアルで具体的に伝えることを主眼とした．これまで多くの方々が抱いてきた歯科技工の問題点に，明日からでもすぐに取り入れることができる形でその解決策が明示されている．
　本書を通してパーシャルデンチャーによる最新の治療の流れが理解でき，小間切れではない，ラボサイドにおける一連の技工操作の要点が見えてきて具体的に熟知できる．また，チェアサイドで歯科医師が担当する診査・診断，設計，印象，咬合採得，装着の要点や注意点についても，歯科技工士が十分に認識していることにより，歯科医師との円滑な連携と協力体制がとれるので，あわせて簡潔に整理して示した．堅苦しくない，身近で気軽に開ける座右の書，しかも各執筆者が長年の臨床で培ってきた“理論に裏付けられた知恵”がふんだんに詰まっている．
　また，歯科技工士のパートナーである歯科医師にとっても，ラボサイドにおける最新の理論と技工操作の要点を臨床に即して理解していることは，円滑な連携と協力体制を作りあげていくうえで欠かせない．そのため，本書は歯科医師ももちろんのこととして対象としており，歯科医師と歯科技工士の望ましいパートナーシップの確立に役立てればと願っている．
　本書はパーシャルデンチャーの材料，技工操作，臨床術式を中心とした実践編であり，診査，診断，設計を中心としたパーシャルデンチャーの理論編である書籍『基本　クラスプデンチャーの設計』（2020年）と姉妹本である．理論編の“青本“，実践編の“赤本”として使っていただければありがたい．
　なお本書は，2004年12月に月刊『歯科技工』別冊として発刊され，以来20年間にわたり5刷まで改訂を重ねてきた．これまで多くの歯科医師，歯科技工士の方々に愛読していただいてきたことは，本当にありがたいことと心から感謝している．そしてこのたび，新たに書籍版『クリニカル・クラスプデンチャー』として出版されることになったことは，願ってもないことである．
　近年ではデジタルデンティストリーの発展が目覚ましく，パーシャルデンチャーによる治療においてもCAD/CAMや3Dプリンターなどによる製作技法の進歩が急速に進んでいる．その中にあっても，本書で示す「残存組織保全と機能回復率向上の両立を図る」ことによる生体との調和が治療の原則であり，パーシャルデンチャーによる治療を成功へ導き，患者さんに真に喜んでいただくlongevity達成への指標である．いよいよ人生100年時代を迎え，私達歯科医療者は歯科の果たす役割の大きさを自覚し，ともに現場の歯科医療に邁進していきたいものである．
　末筆ながら，本書の出版にあたり多大なるご尽力をいただきました医歯薬出版株式会社の矢吹陽子氏をはじめ編集部の皆様に深く感謝致します．
　2025年4月
　編者　小出　馨
　日本歯科大学名誉教授
　編集協力　星　久雄
　星デンタルラボラトリー代表