やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

プロローグ
 歯周治療のみならず,ほとんど全てといって良い歯科臨床(総義歯を除く)は,歯周基本治療を完了したうえで行われるものであるはずです.
 歯科疾患実態調査によれば,20本以上の歯を有する人の割合は,平成5年から令和4年にかけて,45歳以上のどの年齢層でも着実に増えています(図はいずれも令和4年歯科疾患実態調査より引用).
 しかしその一方で,歯周病の指標といえる歯肉出血がある者は各年齢層で半数前後の値となっているし,4mm以上の歯周ポケットを有する者の比率は55歳以上の各年齢層においておおよそ半数以上となっています.
 歯を失う原因の第1位は歯周病といわれており,歯周病と全身疾患との関連も多く指摘されています.昨今,多くの先人の努力により歯科のメインテナンスの概念や習慣が多くの国民に浸透してきました.しかしながら,「定期的にメインテナンスを継続してきたのに,歯周病がなかなか良くならない」という患者さんにも多く出くわします.

 歯周病は,そんなに難しい疾患なのでしょうか?
 答えは否です.私たちの診療所を訪れる歯周病の患者さんの大半は,“質の高い歯周基本治療”で治癒に導くことができ,メインテナンスを継続することで良好な状態を維持・安定することができています.
 また,質の高い歯周基本治療によって,予定していた歯周外科手術の頻度が絞り込まれ,不要になることも少なくありません.歯周環境が十分に整えられたうえで行われる歯周外科手術は,最小限の範囲に抑えられるため侵襲が小さいことに加え,治り方もきれいです.
 質の高い歯周治療を行うためには,歯科医師・デンタルスタッフ・患者さんの3者が“治るイメージ”を共有することが大切です.「どうやって治るのか?」,その治癒を導くために「われわれは何ができるようになれば良いのか?」を知ることが,質の高い歯周治療の第一歩となります.
 本書ではそれらを明確にするために,歯周病の“治り方(治癒形態)“と“治し方(治療方法)”を整理しながら,できるだけ多くの実例を交えて“治癒に導く歯周治療”を解説していきます.

 2025年4月 牧野 明
 プロローグ
Chapter1 “治癒形態“から考えるペリオの“治し方”
 1 出血の停止・浮腫の消退>>>プラークコントロールの徹底
  治癒形態 出血の停止・浮腫の消退
   (1)歯周基本治療の最初の目標は「止血」
   (2)浮腫の消退〜“乾いた歯肉”への変化
  治し方 プラークコントロールの徹底
   (1)歯周組織(軟組織)の評価
   (2)プラークコントロール
   (3)超音波スケーラーを活用する
  Focus マスターしたい“技術”(1) 人を読む〜患者のモチベーションを継続させる
  Case 1 多量のプラークによる重症の歯肉炎
  Case 2 細菌検査でハイリスクとされた重症例の治療経過
 2 長い上皮性付着の獲得・歯肉の適合>>>SRP・組織付着療法
  治癒形態 長い上皮性付着の獲得・歯肉の適合
   (1)歯周外科手術後の治癒形態
   (2)長い上皮性付着は安定した治癒形態である
   (3)デブライドメントとルートプレーニングの違い・使い分け
  治し方 SRP・組織付着療法
   (1)質の高いルートプレーニング
   (2)組織付着療法(MWF・OFC等)
  Focus マスターしたい“技術”(2) 歯石をきれいに取る
  Case 3 確実なルートプレーニングが重要〜超音波スケーラーだけでは治せない
  Case 4 ターゲットは根面のみ
  Case 5 長い上皮性付着が結合組織性付着に変化
 3 ポケット底の底上げ・骨レベルの平坦化>>>自然移動・矯正的挺出
  治癒形態 ポケット底の底上げ・骨レベルの平坦化
   (1)歯は動く
   (2)固定の是非,時期を考えよう!
  治し方 自然移動・矯正的挺出
   (1)自然移動
   (2)矯正的挺出
  Case 6 自然移動で治す
 4 ポケット除去>>>APF・歯肉切除・ウェッジ手術
  治癒形態 ポケット除去
   (1)歯周外科手術による治り方
   (2)歯周外科手術に移行するとき
  治し方 APF・歯肉切除・ウェッジ手術
   (1)APF(歯肉弁根尖側移動術)
   (2)歯肉切除
   (3)ウェッジ手術
  Case 7 歯肉増殖に対する歯肉切除
  Case 8 最後方臼歯遠心のウェッジ手術
 5 再生>>>歯周組織再生療法・自家歯牙移植
  治癒形態 再生
   (1)創傷における治癒形態
   (2)歯周組織再生の条件
  治し方 歯周組織再生療法・自家歯牙移植
   (1)歯周組織再生療法
   (2)再生の指標は固有歯槽骨
   (3)自家歯牙移植による歯周組織再生
  Case 9 若年者の限局的な歯周炎に対する歯周組織再生療法
  Case 10 重度歯周病症例における自家歯牙移植による歯周組織再生
Chapter2 ペリオを“読む”
 1 歯肉を読む
   (1)浮腫性歯肉と線維性歯肉
   (2)薄い歯周組織と厚い歯周組織
   (3)付着歯肉から骨膜,歯槽骨の存在・欠損を読む
   (4)歯肉退縮の要因
  Case 11 矯正治療後に歯肉退縮の改善と悪化が混在
  Case 12 ブラッシング法の改善により歯肉退縮が回復
 2 X線写真を読む
   (1)骨欠損像>>>重篤度(過去)
   (2)歯槽骨頂線(歯槽頂部歯槽硬線)>>>進行度(現在)
   (3)歯槽硬線>>>歯根膜のありか
   (4)歯根膜腔の拡大,歯槽硬線の肥厚>>>咬合性外傷の指標
   (5)骨梁像>>>慢性炎症の臨床的な指標
   (6)歯槽骨の厚み>>>骨欠損像を“隠す”
   (7)グラデーション>>>頬側と舌側の骨レベルの違い
   (8)X線写真読影の応用と注意点
  Focus マスターしたい“技術”(3) 医院で行う技術向上の取り組み〜読む眼を養う
Chapter3 歯周治療に残された“課題”
 1 根分岐部病変の治療(1)下顎
   (1)歯肉の適合による封鎖を期待
   (2)アクセス(清掃性)の向上
   (3)骨レベルの平坦化
   (4)(自家歯牙移植で)歯を入れ替え根部岐部をなくす
   * リスクファクターの排除
  Case 13 2度の根分岐部病変:歯肉が閉鎖し28年経過
  Case 14 3度の下顎根分岐部病変の長期経過
 2 根分岐部病変の治療(2)上顎
   (1)歯根分割と上顎根分岐部病変の難しさ
   (2)歯根の複雑な解剖学的形態
   (3)上顎根分岐部病変の診断
   (4)治療方針・予後の推測
  Case 15 自然挺出とメインテナンス
  Case 16 根分岐部病変3度:自家歯牙移植で回避/自然挺出させてメインテナンス
  Case 17 根分岐部病変における歯周組織再生療法への期待
 3 過大な「力」のコントロール
   (1)過大な「力」とは
   (2)咬合性外傷の診断〜1歯単位にかかる過大な「力」
   (3)ブラキシズムの評価〜全顎単位にかかる過大な「力」
   (4)顎位と咬合性外傷
   (5)睡眠時ブラキシズム,日中のクレンチング,TCHへの対応
  Case 18 咬合性外傷の典型的症例
  Case 19 1歯単位の咬合性外傷にブラキシズムが加わり重篤化した症例
  Case 20 重度歯周病における咬合性外傷と全顎単位での過大な力のコントロール
  Case 21 顎位の不正:歯周補綴の長期経過
  Focus マスターしたい“技術”(4) 技術を伝承する

 エピローグ
 索引